ウィ・ギチョル『9歳の人生』

9泣??人生カバー

主人公の少年ペク・ヨミンは9歳の男の子。ソウル近郊の「山の町」と呼ばれる貧民街で暮らしています。「山の町」というのは、この町が急勾配の山の斜面にはりつくようにつくられているからで、町には水道もなく、雨が降れば雨漏りばかりするような家がびっしりと並んでいます。そんな町で、空想壁のあるキジョンや6年生のガキ大将・黒ツバメと遊んだり、けんかしたり、そんな少年のたくましい生活を「僕は…」という語り口でえがいています。
小学校では、ヨミンの隣にウリムという女の子が座っています。ところが、このユリムは…

「女の子がこんな重い鞄を持っているのにほっとくつもり?」などと平然と言ってのけるような気位の高い女の子なんですが、ヨミンは頭にくるのに、なぜか気になって気になって仕方がありません。そんなほほえましい話や、ヨミンの隣にたった1人ですんでいたお婆さんがひっそりなくなったり、黒ツバメが、酒におぼれた父親の急死で小学校も卒業せずに働き始めることになったり…。悲しいつらい出来事もおこります。

実際、韓国には「山の町(サントンネ)」とか「月の町(タルトンネ)」と呼ばれる貧民街がソウルや釜山などにはたくさんあったそうです。ソウルでは、1988年のソウルオリンピックの準備のなかで解体され、現在はほとんど残ってないということですが、この小説からは、急成長する韓国社会のなかの“貧しさ”にしっかり目を向けながら、それが悲劇、悲惨な出来事としてではなく、9歳の少年らしい生き生きとした姿を通して伝わってきます。

原作は1991年に出版され、それから長く読みつがれ、10年後には改訂版も出され、130万部も売れたというベストセラー。ことし3月には映画化もされたそうです。日本では、来年公開されるということで、楽しみです。

【書誌情報】著者:ウィ・ギチョル/訳者:清水由希子/河出書房新社/ISBN4-30920404-X/2004年9月刊/本体1400円

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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