筑摩版『資本論』

筑摩書房から新しく出た『資本論 第1巻』を読み始めました。

とりあえずぱらぱら読み始めた印象では、細かい訳注などがいっさいない(簡単なものは割り注で入っているが)ので、意外と読みやすいというのが一番。あと、強調(ゴチック)がたくさんあるのも特徴です。後者は、邦訳「マルクス・エンゲルス全集」などの底本となっているDietz社のWerke版ではいっさい省略されているものを、同じDietz社の普及版(1953年)を参考に復活させたとのこと。従来の邦訳資本論にはなかったもので、結構たくさん出てきます。

ところで、これまで読んだところで、誤訳(もしくは誤植)と思われるのは――

(1)上巻68ページ13行目、および、同72ページ8行目の「人間労働の支出」のところは、独文はArbeitskraftなので、「人間労働力の支出」と訳されるべき部分です。同じ68ページの15?16行目では、「人間の労働」と「人間の労働力」がきちんと訳し分けられているので、たんなるミスか、それとも誤植なんでしょうか。しかし、2カ所もというのはちょっと解せません。

(2)上巻171ページ、注73の3行目と4行目の「資本制生産様式」。原文はProduktionsprozesses(「生産過程」)なので、ここも訳が違っています。そのあとに出てくる「生産様式」はProduktionsweiseなので、正しい翻訳になっています。

こなれた日本語にするために、いろいろ努力されていますが、上記2点は誤訳もしくは誤植と言わざるをえません。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

4件のコメント

  1. その通り、でした…。
    誤訳or誤植の指摘をするのに、typoしていてどうなるんでしょうねえ。m(_’_)m

  2. はじめまして、『バッド・エデュケーション』でTBしていただいた者です。
    不図、サブタイトルの「科学的社会主義とマルクス経済学の学習」に気がつき、少々驚きました。近頃マルクスが読まれていると聞きましたが、本当だったのですね。当時の社会構造を考えると、マルクスの資本論は生まれるべくして、登場したとは思いましたが、これは経済学でなく哲学だと感じて途中で放り投げました。(あくまでも挫折とは言いたくない^^!)筑摩書房の新版は読みやすいのでしょうかね。

  3. >樹衣子さん、コメントありがとうございます。

    僕自身は、「近頃」マルクスを読み始めた訳ではありませんが、最近マルクスが読まれているのは事実のようです(まあ、読まれているといっても、売れっ子小説家のようにはゆかないでしょうが)。

    ご指摘の通り、マルクスの資本論は哲学ですね。狭い意味での経済学に限定されず、資本主義社会というものを、あるいは資本主義的人間というものをどう見たらよいのか、という感じです。僕自身、25年以上前に資本論を初めて読んだとき、経済学の理屈はよく分かりませんでしたが、労働日のところや本源的蓄積のところの生々しい叙述に強烈な印象を受けました。

    ところで筑摩書房版の「資本論」ですが、記事にも書いたように、注はマルクス、エンゲルスがつけた原注のみで、訳注らしい訳注がなく、その分すっきりしていることと、いかにも直訳という感じの生硬い文章という部分が少ないので、読みやすいことは読みやすいと思います。ただ、「労働力」と「労働」を間違えるとか、翻訳に脱文があるとか、まあウッカリといえばウッカリなのかも知れませんが、ミスが散見されます。だから、なかなかお薦めとは言いにくいというのが正直なところです。

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