山家悠紀夫『景気とは何だろうか』

山家悠紀夫『景気とは何だろうか』

ここ最近の日本経済の動きを知りたいと思って、山家悠紀夫さんの新著『景気とは何だろうか』(岩波新書、2月刊)を読んでみました。序章+第1章?第6章+終章の8章立て。前半の第1章?第3章は、「景気とは何か」「景気循環とは何か」「景気はなぜ循環するのか」という、どちらかといえば一般論的な内容。それにたいし、第4章以降の後半は、1997年以降の日本の景気の動き方が、実は少し変わってきたのではないか、というお話になっています。

後半では、1997年はほんとは景気上昇期だったのに、いわゆる橋本内閣の9兆円国民負担増(消費税の3%→5%への引き上げ、医療費の本人負担1割→2割など)という政策によって意図せざる景気後退が引き起こされた、と指摘。そのため、次の小渕内閣では、財政再建が棚上げされ、公共事業拡大、政策減税(こんど打ち切られた定率減税もこのときのもの)などがおこなわれ、1999年、2000年と短い景気拡張を迎えたが、2002年にアメリカの景気後退と小泉内閣の「構造改革」政策によって激しく落ち込んだこと。その後、輸出に導かれてゆっくりと回復に向かったこと(というより、日本の景気が輸出の伸びに左右されるようになったこと)などが明らかにされています。

で、大事なことは、この7年間を通して「家計部門の需要が一度として低迷を脱しえなかった」こと。ここに「景気構造の変化」があると指摘します(124ページ)。そして、こうした「景気構造の変化」の源流は、小泉内閣の「構造改革」策であり、それによって企業収益が増加しても家計所得は増加しなくなり、景気の自律的拡張のメカニズムが破壊された。そこから、2004年後半からのいわゆる景気の「踊り場」状態が、はたして景気拡張の“中弛み”に終わるのか、はたまた新たな景気後退への転機となるのか、と問いかけています。

ということで、90年代以降、日本経済の構造に何か変化が起こっていることは明らかになったのですが、その構造変化の正体が何かというところは、必ずしも明らかではありません(そのへんが僕の一番知りたかったことなのですが)。ということでちょっと欲求不満は残りますが、従来の「景気構造」が崩れた以上、GDP伸び率などで景気回復を云々せず、もっと国民の暮らしの視点から「景気」を捕らえるべきだという山家氏の主張は説得力があります。

【書誌情報】著者:山家悠紀夫/書名:景気とは何だろうか/出版社:岩波書店/発行:2005年2月18日/岩波新書・新赤933/定価:本体700円+税/ISBN4-00-430933-6

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

6件のコメント

  1. さすがに2004年に入ってからの動きについては景気動向調査とかシンクタンクのレポートとかしかないのではないでしょうか。長期停滞の原因については専門書ですが,http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532132711/qid%3D1112337019/250-3143906-5378605 で論争が行われています。山家先生も執筆されています。

    何が「構造」変化かというのは難しいですが,需要面と供給面を分けて考えないといけないと思っています。数字だけ見ると

    1.90年代を通じて労働分配率が上昇していること。最近はそれが下がってきていること。
    2.90年代以降,ジニ係数が上昇し,所得分配が悪化していること。

    が分かります。個人的には

    1.個々の企業にとってはリストラは収益改善の要因になるが,すべての企業でリストラを行った場合,消費低迷で自明のごとく不況になるが,それが一段落したこと。
    2.世代間の賃金格差が縮小してきていること。

    がここ数年で顕著になってきていると思います。常用労働者の比率が下がり,パートなどの比率があがってきていることも関連していると思います。

  2. >tamachanさん
    私の疑問にお付き合いいただき、ありがとうございます。
    『論争 日本の経済危機―長期停滞の真因を解明する』は、本屋でぱらぱらと眺めてみたんですが、内容的にはどうなんでしょう? 内閣府のシンクタンクだというのでちょっと様子見してるんですけど…。
    それから、西村清彦『日本経済 見えざる構造転換』
    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532351138/qid=1112342916/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/250-6252295-4136238
    なんてのも出てますが、こっちはどうなんでしょう? Amazonのレビューだと毀誉褒貶相半ばという感じですが。

  3. 『論争・・・・』は読みづらいかもしれません。内閣府の出版物ですが,山家先生を入れているあたり私はバランスがとれていると思いました。西村先生のは立ち読みすれば(失礼!>西村先生)GAKU さんにとって読むに値するかどうかが分かると思います。90年代に入っての日本企業の行動の変化やリストラの意味を探るには岩井先生の http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582829775/qid=1112347958/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/249-6432717-7926708 が分かりよいと思います。著者名だけみて躊躇されるかもしれませんが,読むに値する本だと思います。

  4. 西村清彦氏の本は、お薦めのとおり、少していねいに立ち読みしてみることにします。(^^;)

    岩井克人氏の『会社はこれからどうなるのか』は、出た直後に買った記憶はあるんですが、はて読んだ記憶がない…。探してみることにします。

    >著者名だけみて躊躇されるかもしれませんが

    そんなことありませんよ。『貨幣論』『ヴェニスの商人の資本論』などしっかり読ませてもらっています。マルクスの理解の仕方は違いますが、経済のリアルな問題を理論的どうつかむかという岩井氏の問題意識には関心を持っています。でも、さすがに『不均衡動学の理論』は歯が立ちませんでした…。

  5.  この点については、『国民生活白書』2003年版(これはインターネットでアクセスできます)。今NHKでやっている内橋克人『「共生経済」が始まる』でも指摘しています。
     平和の危機とグローバリズムの進展、国民生活の不安定化は連動していると、私は話しています。

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