東京新聞の社説

憲法記念日を前に、東京新聞が「問題の因は憲法理念を実現する政治がされていないから」「新権利をうたう改憲、いいね、と軽やかに考えて、実は九条が主眼の改憲が成る時、どんな危険が後世を覆い、他者・近隣国に痛みとなるか、思いをはせたい」との「社説」を掲載しています。ご一読あれ。

社説:『活憲』が先だろうに いま 憲法を考える(東京新聞)

社説:『活憲』が先だろうに いま 憲法を考える(東京新聞)

 憲法古着説が言います。現実に合わないから改憲を、と。ちと妙です。憲法をもっと活(い)かす、いうなれば「活憲」で現実を改めるのが先決の日本社会なのでは。
 本紙に連載中の「逐条点検・日本国憲法」が好評です。
 政界の「論憲」のさまが報道されてきたのに合わせ、連載は毎回一条ずつ条文を紹介し、論点も含めてわかりやすく解説しています。
 「条文をきちんと読んだことないから勉強になる」という反響が多いと聞いて、人々の、憲法を読む機会の少なさを思います。学校でも詳しくは教わらなかったでしょうし。

■「自己ちゅう」の果てに

 この憲法を持つ国でどうしてこんなことが…と考え込まされる出来事が続きます。
 「自己ちゅう」のはやり言葉を聞いて久しいですね。自分中心。で、周りが見えない。他者の痛みを考えない。察しようともしない。
 それを物語る姿や事件、失政を挙げればキリがないでしょう。
 殺人、心中、詐欺、虐待、暴行、いじめ、獣欲犯罪…。凶悪犯の低年齢化と治安悪化を嘆く声が増え続けています。人命を軽んじ、他人の権利や自由、幸せを尊重しない独善が社会に増殖しています。
 政界もです。関心と思考が己の、せいぜい身辺に縮んで大局を見ず理念を語れず、政治家が小粒化して次の首相候補も見当たらない。
 自己ちゅうに徹するのは、生き方として面倒少なく安易でしょう。外交だって、対米追随を国策・国是にしておけば気楽なもの。かくて、米国の期待要請に応え、自衛隊をイラクへ。さらには自衛隊を軍と改称し海外での戦闘も可能にしよう、と改憲をめざす自民党です。
 日米同盟が過大に超基軸化、自己ちゅう化するほど、ほかが軽んじられ、中国、韓国との間柄がまずくなる一途です。対中・韓の外交手抜き、両国が寄せる要望の軽視でさまざまな摩擦が生じています。
 首相の靖国参拝は、首相の頑固、自己ちゅうの表れか。中韓の痛みを思うなら、この参拝問題はいかようにも処理できるはずです、歴代首相のように。靖国や歴史教科書への近隣国の批判は、加害と被害の歴史の延長上にあります。その被害側の心情にはよくよく心しないと。内政干渉と反発するだけでは、これまた自己ちゅうとしかみなされますまい。

■政治の怠慢、責任逃れ

 生命や自由、人権をたっとぶ憲法に背いて今、社会、政治にこうも問題が多いのは、戦後日本人の生き方に因を求めることができましょう。
 憲法をたな上げしがちな政治の下で、とにかく自分と家族の飢えを満たし物を求める、いわば私欲の充足が国の復興と成長の原動力になりました。まず自分が豊かに、と励むうちに、自分さえ豊かならよしとして他人が見えなくなったようです。
 自分中心は視野を狭くし、物質的豊かさを追って心貧しく、せつなの安楽に流れ、理想理念を嫌う。大局観をなくし、情報洪水に遭えば情緒的、断片的材料に頼って判断力は落ち、幼児化して…。
 大判断を米国に委ねて経済大国・政治小国化した図もこの写し絵か。
 国会の論憲では、憲法の三原則、平和主義・国民主権・基本的人権尊重が「定着した」と結論しましたがウソでしょう。定着までしていないから問題が多発しているのです。
 ならば、どうしたらいいか。
 憲法を定着させること、活かすことです。「憲法の理念に現実を一歩ずつでも近づけるのが政治だ」と作家の小田実さんが言っていますが、全く同感です。
 念を押します。諸問題の因は憲法理念を実現する政治がされていないからです。政治家は怠慢の責任逃れをしてはいけません。
 憲法と一体の教育基本法の前文にある「個人の尊厳を重んじ」の言葉。これをやり玉に「だから身勝手な個人主義がはびこり他人も傷つけるのだ。法改正して愛国心、日本の伝統、道徳重視をうたおう」と主張する面々は、個々人すべての意義、価値を認める個人主義を、利己主義と取り違えています。教基法が「自他の敬愛と協力」を教育方針に掲げているのも見落としている。憲法の理想実現は「根本において教育の力にまつべきもの」と述べる教基法もまた妨げどころか、活かし切らなくてはならない法律のはずです。

■他者の痛みに思いを

 プライバシー権、環境権、知る権利といった「新しい権利」を盛る改憲・加憲・創憲論がありますが、これら権利は現行一三、二五、二一条などの適用で保障されるという判例が活着ずみなのです。憲法の時代遅れはありません。
 新権利をうたう改憲、いいね、と軽やかに考えて、実は九条が主眼の改憲が成る時、どんな危険が後世を覆い、他者・近隣国に痛みとなるか、思いをはせたいものです。
 憲法とともに、近現代史を学び直す必要もありましょう。「学校では時間切れで教わらなかった」という人が少なくありません。ゆゆしい問題ですね、それも。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

2件のコメント

  1. ピンバック: かわうそ実記
  2. ピンバック: シンの生きる道

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