サンクトペテルブルグ響 ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 “バビ・ヤール”他

サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団/ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 “バビ・ヤール”他

金曜日(24日)、サントリーホールでサンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団(かつてのレニングラード・フィル)のショスタコーヴィチ交響曲第13番「バビ・ヤール」を聴いてきました。指揮は、ムラヴィンスキーの後、同楽団の音楽監督・主席指揮者をつとめるユーリー・テルミカーノフ氏。

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「バビ・ヤール」は、ウクライナのキエフ近郊にある谷の名前。1941年9月に、ドイツ軍によってユダヤ人およそ34,000人が虐殺された場所です。ショスタコーヴィチは、この事件を題材にしたエフトゥシェンコの詩「バビ・ヤール」(1961年発表)に感銘し、それを声楽付きの交響詩にまとめた後、同じ詩人の詩から第2楽章以下を作曲し、全5楽章の交響曲が完成したものです。

第1楽章「バビ・ヤール」は、ユダヤ人虐殺を描いた暗く、重い楽章で、冒頭の鐘の音と、「バビ・ヤールには記念碑はない…」という歌い出しが印象的です。内容的にはドイツ軍にとどまらず、“ロシア”の反ユダヤ主義を告発するものになっています。

第2楽章は、支配者が「ユーモア」を捕まえようとして失敗するという風刺的な歌詞で、音楽もそれに合わせて、どこか調子っ外れになっています。第3楽章は、「商店で」というタイトル。ソ連の女性たちが、買い物のために長い行列をつくらなければならない様子を描いています。フルシチョフが「共産主義への前進」を掲げていたことを思うと、これも非常に強烈な皮肉です。「恐怖」と題する第4楽章は、「恐怖がロシアで死んでいく」として、スターリン時代の「誰かの密告」にたいする恐怖、「ドアを叩く音」にたいする恐怖は「いま思い出すのもおかしいほどだ」と歌っています。しかし、曲調はちっとも明るくなく、「国家に対して不誠実である恐怖」、「真実である思想をおとしめる恐怖」「他人の文句を繰り返す恐怖」など、新たな恐怖が歌われます。第5楽章「出世」。体制に迎合して立身出世をとげていく人物にたいする批判が込められています。

当日は、2階のLA席。つまり、舞台の下手(舞台に向かって左手)、ほとんど真横の位置だったので、音的にはちょっとつらいものがあったかもしれません。しかし、セルゲイ・レイフェルクス氏の声はよく響いていました。芯のあるしっかりしたバリトンが、東京オペラシンガーズの力強い歌声とマッチして、非常によかったと思います。オケの方は、正直言って、緊張感が緩んでいたんじゃないかと思うようなところがあって、これがかつてのレニングラード・フィル?といささかがっかりしましたが、それでもナマでは滅多に聴く機会のない大作を堪能させていただきました。

【演奏会情報】
指揮:ユーリー・テルミカーノフ/演奏:サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団/ヴァイオリン:ワディム・レーピン/バリトン:セルゲイ・レイフェルクス/合唱:東京オペラシンガーズ/会場:サントリーホール大ホール/開演:2006年11月24日(金)午後7時?

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作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

5件のコメント

  1. はじめまして
    リンク及びTBありがとうございます。
    こちらからもTBさせていただきます。

  2. ピンバック: まっしゅ★たわごと
  3. トラックバックありがとうございます。
    初トラックバックです!
    日記はじめてまだ2日なもので更新ボタンもよくわかりませんが、よろしくお願いします。

    ぼくは辛口な感想になってしまいました。
    ショスタコーヴィチの曲はもっとすばらしいものだと思っているので・・・

    でも13番の様な、なかなか演奏しにくい曲を、よくやってくれたなあとは思います。
    新しく魅力に気付かれた方も多いんじゃないでしょうか??

  4. トラバありがとうございます。クラシック音楽には完全に素人なのにリンクしていただいて恐縮です。

    生で初めて聴く演目なので、感慨はひとしおでした。ショスタコーヴィッチ・イヤーを過ぎても、演奏して欲しい演目ですね。

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