この間読んだもの 賃金論と富塚恐慌論

1つめは、60年代末に出た『講座 現代賃金論』(青木書店)の第1巻「賃金の理論」。いまさら、40年近く前の本をなぜと思われるかも知れませんが、前にも書いたように、賃金論そのものを勉強したことがないので、とりあえず昔の講座あたりをということで、選んでみました。

もう1つは、これも古い本ですが、富塚良三氏の『増補 恐慌論研究』(未来社、初版1962年、増補版1975年)。こっちも前に書いたことがありますが、富塚氏の均衡拡大再生産軌道を勉強し直すためです。

賃金論の方で分かったことは、

  • 賃金=労働力の価値、というとき、まず大事なことは、労働力の価値をストレートに賃金に結びつけるのではなく、まず労働者の「必要生活手段の総量」(使用価値の総量)とイコールであるとおく必要がある、ということ。商品の価値は、一般に、x量の商品A=y量の商品Bという価値形態にあって、商品Aの価値は商品Bの使用価値によって表現される。だから、賃金=労働力の価値についても、まずは「生活必要手段の総量」という使用価値と等置する必要がある。
  • そのうえで、その使用価値総量を価格で表わしたものが、実際の賃金ということになる。使用価値総量が変わらなくても、生産力が高くなって、それら使用価値総量を生産するのに必要な社会的労働時間が短くなれば、使用価値総量が表わす価値も小さくなる。その結果、賃金も低落する(=貨幣賃金率の低下)。逆に、もし賃金が低落しなければ、労働者はよりたくさんの使用価値を手に入れることができる(=実質賃金率の上昇)。
  • また、社会的文化的な発展に対応して、「必要生活手段の総量」が拡大したときは、労働力の価値も上昇する。もちろん、社会的文化的な発展は一般に生産力の上昇をともなっているから、同時に、生産力の上昇と同じ比率で、労働力の価値は低下する。だから、生産力の上昇と同じ比率で貨幣賃金率が下落すれば、事実上、実質賃金率は低下する。

こういうふうに、まず労働力の価値を、「必要生活手段の総量」という使用価値総量とおきかえた上で、実質賃金率・貨幣賃金率を考える必要がある、ということがよく分かりました。

これまで、若い人たちとの学習会で、労働力の価値=賃金=たとえば1日1万2000円というふうに簡単に一定の貨幣額と等置して説明していましたが、こうやると、「オレはそんなにもらってない」とか「年俸制はどうなるの」とか、疑問百出。そうなるのは、こっちの説明が悪いからで、やっぱりまずきちんと「必要生活手段の総量」とおきかえる必要があるということがよく分かりました。

しかし、それ以外の議論は、よく分かりませんでした。(^_^;) とくに、マルクスのプランのなかでの賃金論の占める位置といった議論は、それこそ細かい詮索話にしか思えませんでした。(まあ、現行『資本論』が、マルクスのプランの「資本一般」にあたる、という話自体が古い、としか言いようがないのですが…)

他方、富塚さんの本は、ともかく書き方が、なんというか時代がかりで、難しいので、手こずってます。しかし、均衡拡大再生産軌道だけじゃなくて、富塚氏の恐慌論の考え方が、実は、非常に新鮮で今日的だということが分かってきました。とくに、レーニンの市場理論=再生産理解にたいして、富塚氏が1959年の段階で、非常に慎重な言い回しながら、その限界を論じていることは注目されます。それが、氏の均衡拡大再生産軌道という理解と表裏一体になっているということが初めて分かりました。それから、山田盛太郎『再生産過程様式分析序論』の理論的な誤りにたいする批判、という点でも、単純に、山田盛太郎氏が再生産表式の枠組みの中で恐慌を引き起こそうとしていたのだ、というだけではないことも初めて知りました。う?、オレって不勉強だったなぁ…。

ところで、富塚氏は、同書本論第4章「産業循環」で、氏の景気循環の概要を描かれています。そこでは、(実質)賃金率の急激な上昇によって、資本が絶対的過剰となり、蓄積(=新規投資)が停滞・停止する、という格好で基本が描かれていますが、しかし、単純に景気の加熱とともに賃金率が上昇する、というような説明はせず、拡大局面では必要生活手段の価格上昇が起こり、したがって実質賃金率が低下する可能性をもつことについても、細かく検討を加えられています。まあ、その検討が、最終的には実質賃金率が急上昇する、という結論と、あまり具体的に結びついていないのですが。しかし、富塚氏が、資本論の再生産表式論や恐慌論を、現実の景気循環過程と結びつけながら検討し、発展させようとされていたことがよく分かります。

こういう研究成果をきちんと学ぶことがあらためて重要だと、自分の不勉強を棚上げにして、あらためて実感しました。

【書誌情報】※いずれも古本で入手。
編者:高橋洸、高木督夫、金子ハルオ/書名:講座 現代賃金論<1>賃金の理論/出版社:青木書店/刊行年:1968年
著者:富塚良三/書名:増補 恐慌論研究/出版社:未来社/刊行年:初版1962年、増補版1975年

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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