「大連立」の舞台裏

読む政治:検証・大連立構想(その2) 第2幕のカギ、消費税
[毎日新聞 2007年12月12日 東京朝刊]

<右面からつづく>

 小沢は後の会見で、新テロ特措法案の成立にはこだわらないことでも合意したと語り、与党側は反発した。同法案の扱いは互いに党内に説明できるよう、きっちり詰められなかった。両者とも大連立になれば、いかようにも処理できると思ったのだろう。
 最後に、小沢は「総理、あなたから連立をもちかけたことにしてもらえませんか」と切り出したようだ。福田は「その方が都合がいいのなら、それで結構ですよ」と即答した小沢は「党内を説得してくる。決めてきます」と常任委員長室を後にしたという

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 連立を呼びかけたのはどちらか。福田は後に、どちらともなくという「あうんの呼吸だった」と語った。互いに傷つかないようにと、福田が知人と練った表現だ。
 ただ、大連立への小沢の熱心さは福田や森も驚くほどだった。
 それは、小沢自身が後の会見などで、大連立の必要性を強調していることでも容易に想像できる。

■第4場 挫折

◇11月2日 「総理から(大連立を)もちかけたことに…」「結構ですよ」

◇11月5日 党首の辞意――鳩山・菅氏必死の慰留

 11月2日の民主党役員会では、「大政翼賛会だ」など大連立に対する反対論が噴出した。小沢は自分の選んだ役員の反発に悔しさを隠しきれなかった。小沢は根回しをせず、党首の一言ではまとまらないサークル的な党体質を過小評価し過ぎたようだ。

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 11月3日、小沢は側近の樋高剛(前衆院議員)に、鳩山に辞表を提出するよう指示した。樋高は4日午前5時半にJR名古屋駅前の「名古屋マリオットアソシアホテル」に宿泊していた鳩山を訪ね、小沢からの辞表を手渡した。
 鳩山は「受理しない」と言い残し、午前6時過ぎの名古屋発特急で、集会予定のあった岐阜県高山市に向かった。
 同乗していた副代表・石井一や岡田に小沢の辞意を伝えると、2人は「早く東京へ戻った方がいい」と帰京を強く促した。鳩山は岐阜駅で途中下車して東京に向かった。
 しかし、4日の辞意表明会見を食い止めることはできなかった。

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 小沢が辞意を表明すると、党内では各グループが一斉に走り出した。小沢と距離を置く中堅・若手グループは、小沢が離党する場合も想定し「参院で最低9人、最高なら20人」という数字をはじき出した。「小沢留任、大連立続行」なら「こっち(若手)が党を割る」という主戦論も一部で出始めた。
 こうした動きを押しとどめたのは、代表代行の菅直人だった。菅は5日午前、小沢と会談し「連立にはこだわらない」という言質を引き出す。
 その時点まで党内では小沢は大連立構想に固執し、(1)民主党が大連立を受け入れるか(2)小沢が離党するか――の二者択一を求めるという見方が大勢だった。

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 小沢は5日夜、慰留に訪れた菅、鳩山らに対して目を潤ませ「時間がほしい」と漏らした。辞意は身内の小沢グループからも、小選挙区で戦う若手の衆院議員を中心に「大連立」へ強い反発が出たことも影響したようだ。
 小沢支持の若手でつくる「一新会」の衆院議員は、「出馬前からお世話になったが、今回は小沢さんの間違い。一新会からでもついていく人は2、3人だ」と言い切った。

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 参院からも大連立への悲観論が相次いだ。自民、民主双方から「確実に離党する」と見られた参院議員も「言葉としては最後までついて行くと言うが、実際の離党は厳しい」と語った。5日には、ねじれ解消に必要な「参院議員17人」の離党は、不可能という見方が定着した。小沢は党の大勢に従うしかなくなっていた。

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 小沢が大連立を目指した最大の理由は「衆院選での勝利は厳しく、それなら政権の一翼を担い、参院選の公約を果たすことが政権への近道だ」というものだ。
 なぜ小沢は勝てないと思ったのか。
 「自民党は毎日、一生懸命、冠婚葬祭から入学だ、就職だ、あらゆることについて世話焼きをやっている。勝つのは難しい」(11月18日のテレビ番組)
 選挙区が都道府県単位の参院選に比べ、衆院選の小選挙区は日常活動の比重が大きく、参院選のようにはいかない、というのが小沢の主張だ。
 先の大阪市長選で民主党が推薦する候補が勝利した時も、小沢はこう言った。
 「首長選挙とか参院選では人間関係が衆院ほど厚くないから良識的な意見が票数にも表れる。衆院は日常活動を通じて、人間関係が非常に密なので勝てるとはいかない」(11月20日の記者会見)
 かつて自民党の中枢にいた小沢には、地べたをはいずり回るような保守型選挙への信仰があるようだ。

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 小選挙区で民主党の勝利は03年の105議席が最高だ。小沢は10月5日、党本部であった全国幹事長・選対責任者会議で「300(小選挙区)のうちの150議席以上、過半数は何としてもとる」との目標を示した。
 民主党にとって小選挙区150議席は高いハードルだが、小選挙区150議席を獲得しても必ずしも過半数(241議席)につながらない。
 例えば03年衆院選挙では、自民党は小選挙区で168議席を獲得したが比例代表は69議席で、議席数は237議席にとどまった。
 選挙に精通する小沢が、150議席という目標を掲げた真意は、この時点で次期衆院選では、民主党単独での過半数獲得が困難だと見切っていたことにあるのではないか。

■第5場 未練

◇11月22日 政策協議拒んだ小沢氏、その本音は…

 「長妻昭(民主党「次の内閣」年金担当)が厚生労働相になれば国民の目が変わる。その方が選挙に勝てるのに……」
 11月7日、辞意撤回会見の党内打ち合わせでも、小沢は大連立への未練を漏らした。
 「(大連立は)手法として間違っていないと思う。みんながやめろと言うのでやらないだけだ」(11月29日のテレビ番組)
 自分の判断は間違っていなかったとの小沢の発言が続いている。

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 11月22日、福田の「米国、シンガポール歴訪報告」を名目にした党首会談があった。
 政策協議を迫る福田に対し、小沢は「国会で審議すればいい」と拒否した。
 しかし、会談の最後に小沢の本音が吐露されたという。
 「天下国家のため、お国のためということを言われると弱いものがある」
 自民党も小沢の気持ちを見逃していない。福田はこの党首会談で、恒久法とともに年金問題を挙げた。28日、福田は民主党の支持団体である連合会長・高木剛と会談した。
 「社会保障で国民会議のようなものを作りたい。党首会談で民主党は断ったが、入るよう頼んでくれないか」
 福田が大連立を意識した政策提言を続けるのは、「衆院選後」を意識しているからだ。衆院選で民主党が過半数に届かず、一方で与党が衆院の3分の2の議席を失えば、与野党対決のままの国会では、政府・与党提案の重要法案が成立しなくなる。
 福田、小沢ともその一点を見据えている。

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 問題は、加藤が口にした「for what」だ。
 渡辺は、社会保障制度の財源となる消費税の税率引き上げ問題を、大連立によって政治決着させるべきだとの考えを持っている。そのために、ドイツの大連立の例が教材になる。
 2大政党がぶつかり合う時に、選挙で負ける可能性が高い消費税アップの公約は掲げにくい。平時に大連立で、解決しようというものだ。福田が社会保障をテーマとして挙げるのも、消費税を意識してのことだ
 渡辺の考えには、増税路線が悲願の財務省も呼応していたという。
 細川政権下で小沢と組んで国民福祉税を導入しようとしたのが元大蔵事務次官、斎藤次郎(東京金融先物取引所社長)。斎藤は取材に対して否定したが、斎藤が大連立協議に関与したという説があるのも、大連立=消費税ととらえられているからだ。

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 今回、ねじれを解消して新テロ特措法案を成立させたいという与党側の国会対策的側面が前面に出た。小沢は自衛隊の海外派遣は、国連決議が前提という国連中心主義にこだわった。そのために、消費税問題は陰に隠れた。ただ、消費税は憲法改正などよりも差し迫った課題だ。
 中川は「成長路線」の信奉者であり、増税路線を強く批判している。中川は周辺に「税の大連立にするわけにはいかない」と述べ、税率アップ阻止のために大連立構想に加わったことも示唆する。

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 中川と、増税派の与謝野は、大連立サークルに同居するが、同床異夢だ。一方、衆院選後に小沢が大連立を目指せば、岡田らは反発し、民主党は分裂含みになるかもしれない。
 中曽根は次の衆院選の公約に、選挙後の大連立について書き込めと主張している。
 自民、民主両党の候補は激しく過半数を争う。一方で「ねじれ国会」が続くことを想定し、大連立に対する見解が問われる――。次期衆院選はそういう複雑な選挙になる。

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 なお、小沢一郎氏と渡辺恒雄氏にはインタビューなどを申し込みましたが、応諾の回答はありませんでした。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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