検証しうる予測を出さない「超ひも理論」は科学でさえない?

リー・スモーリン『迷走する物理学』(ランダムハウス講談社)ピーター・ウォイト『ストリング理論は科学か』(青土社)
左=リー・スモーリン『迷走する物理学』(ランダムハウス講談社)、右=ピーター・ウォイト『ストリング理論は科学か』(青土社)

「超ひも理論」について、疑問を投げかける本を2冊読みました。

理論的な中身を僕が紹介することはできませんが、両書に共通しているのは、「超ひも理論は、検証しうる予測を何も示さない」ということ。およそ、理論が正しいかどうかを論じるためには、その理論に基づいて何らかの予測をおこない、それが実験的に検証される(もしくは検証されない)ことが必要です。ところが…

「超ひも理論」は、そうした予測を何も示さない。それは、現在の観測水準では観測できない、という問題ではなくて、「超ひも理論」にもとづいて意味のある予測をするために、決めるべき定数の数が多すぎて、その定数を適当にとればどんな予測も可能である、ということ(のよう)です。また、「超ひも理論」は、重力を含む4つの力を統一するという触れ込みですが、他方で、現在までに確認されている粒子の他に様々な粒子の存在を予測します。しかし、そうした粒子について、定数を適当に選びさえすれば、「そうした粒子が存在するにもかかわらず、なぜ観測されないか」を説明することができるようになっている、というのです。

こういう理論は、はたして科学なのか? それが根本的に問われれる――というのが両書共通の立場です。

もう1つ、これらの本を読んで初めて知ったのは、アインシュタインの一般相対性理論が時空について「背景非依存」であるのにたいして、超ひも理論は「背景依存」であるということ。ある意味、超ひも理論は、一般相対性理論の水準にさえ達していない(?)、ということ(のようです)。ほかにも、「無限大の繰り込み」の問題が論証されないにもかかわらず、大多数の「超ひも理論」研究者たちはそれがすでに解決されているかのように振る舞っている、など、致命的な問題が指摘されています。

にもかかわらず、アメリカでは、大多数の物理学者が「超ひも理論」を研究し、院生は「超ひも理論」をやってないと就職もできない、という状況になっています。そして、それだけ多数の研究者が研究しているにもかかわらず、この分野では1980年代以降、新しい発見がない、というのです(実際、『理科年表』をみると、1983年の「W、Z粒子の発見」からあと、この分野での発見は何も出てきません)。どうして、こんなことになってしまったのか? 両書には、そうした危機感も共通しています。

ということで、「超ひも理論」というのがあるらしい、なんかすごいらしい、と思っている方には、ぜひ一読をお薦めします。

【書誌情報】

  • 著者:リー・スモーリン/訳者:松浦俊輔/書名:迷走する物理学/出版社:ランダムハウス講談社/発行:2007年12月/原題:The Trouble with Physics/原著発行:2006年/定価:本体2600円+税/ISBN978-4-270-00292-6
  • 著書:ピーター・ウォイト/訳者:松浦俊輔/書名:ストリング理論は科学か――現代物理学と数学/出版社:青土社/発行:2007年11月/原著:Not Even Wrong/原著発行:2006年/定価:本体2800円+税/ISBN978-4-7917-6369-6

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