イラク空自違憲判決で地方紙の社説を読む

昨日の名古屋高裁のイラクへの空自派遣の違憲判決について、地方紙の社説を読んでみました。

それにしても、政府は高裁判決に従うつもりはさらさらないようですが、裁判所の判決を政府が先頭切って無視するようでは、とても国民に向かって法律を守れとは言えなくなります。

社説:イラク空自違憲判決 まだ派遣を継続するのか(北海道新聞)
社説:イラク派遣 「違憲」判断の重大さ(信濃毎日新聞)
社説:空自派遣「違憲」 司法判断の意味は重い(中国新聞)
社説:イラク派遣違憲判断/この重み受け止めなくては(河北新報)
社説:イラク空自違憲 「派兵」への歯止めだ(中日新聞)
社説:イラク空自違憲 高裁判断を無視するのか(新潟日報)
社説:イラク空輸違憲判断/国民に活動の全体像示せ(岐阜新聞)
社説:【イラク派遣】明快な違憲の判断だ(高知新聞)
社説:イラク違憲判決 空自部隊は直ちに撤収を(神奈川新聞)
社説:イラク派遣違憲 撤退を迫る画期的な判断(琉球新報)
社説:「違憲」は国民の不信映す イラク空自活動(西日本新聞)

社説:イラク空自違憲判決 まだ派遣を継続するのか
[北海道新聞 2008年4月18日]

 自衛隊の海外活動について、司法が初めて違憲判断を示した。
 イラクで航空自衛隊が行っている米軍の武装兵などの空輸活動は憲法9条に違反する。他国による武力行使と一体化しているからだ――。
 名古屋高裁の判決文は明快だ
 空自が活動するバグダッド周辺は「戦闘地域」だとも認定した。
 画期的ではあるが、きわめて常識的な判断ともいえる。
 国内の反対の声を押し切って派遣を進めてきた政府の主張には、やはり無理があったということだ。
 自衛隊の海外派遣には、慎重さが求められる。9条をないがしろにするような派遣は認められない。
 ここはいったん空自を撤退させ、自衛隊の海外活動のあり方を根本から論議し直すべきだ

*司法が疑問に答えた

 イラク復興支援特別措置法には、自衛隊の活動は「武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならない」と明記されている。
 活動地域についても「戦闘行為が行われていない」ところと限定している。
 だが、イラク国内でテロや宗派間抗争が絶えなければ、そこは戦闘地域ではないのか。米軍を中心とした他国の武装兵などを運ぶ後方支援は、武力行使の一環ではないのか。
 多くの国民が抱いてきた疑問だ。
 これに対し、政府はあくまで武力行使ではなく人道復興支援だといってきた。派遣を決めた小泉純一郎首相は「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」という粗雑な論理を振りかざした。
 判決は、そうした政府の言い分を真正面から否定している。
 判決はいう。
 イラクの現状は「泥沼化した戦争の状態」だ。自衛隊が活動する首都バグダッド周辺は「戦闘地域」に該当する。輸送などの補給活動も戦闘行為の重要な要素だ。
 こちらの方が、はるかにすっきりと納得できる説明ではないか。
 米国が主導して始めたイラク戦争には国際社会に強い反対の声があった。大量破壊兵器の存在など、米国が主張した「開戦の大義」が偽りだったことも明らかになっている。
 日本が自衛隊を派遣したのは、国際世論や国民の声より日米同盟の維持・強化を優先させたからだ。
 復興支援という派遣の名目も非戦闘地域の強引な定義も、結局はそのための理屈付けだったといわざるを得ない。

*厳格な基準が必要だ

 昨年1月の自衛隊法改正で、自衛隊の海外活動が本来任務に格上げされた。
 インド洋では、海上自衛隊が他国の艦船への給油活動を再開した。
 政府・与党は自衛隊の海外派遣の恒久法制定を目指している。
 いつの間にここまで来てしまったのだろう。
 イラクでの活動を政府は今後も継続する方針だ。司法判断を軽んじる態度といっていい。
 今回の名古屋高裁の判断が指し示しているのは、自衛隊の海外活動にはもっと厳格な基準と抑制が必要だということではないのか。
 この判決を待つまでもなく、憲法9条は自衛隊の海外での武力行使を禁じている。
 だから9条は変えるべきだ、という声も出てくるかもしれない。
 しかし、それは逆だろう。9条は日本が平和国家を目指すという宣言である。各種世論調査でも9条を守ろうという国民の意識は強い。
 9条の理念に立ち返って考える。政府はそこから再出発すべきだ

*国会は実態の解明を

 国会の責任も重い。
 活動の実態をできるだけ詳しく国民の前に明らかにする。その上で憲法論議を具体的に積み上げていく。
 それこそが国会の使命だ。
 空自がイラクで輸送活動に従事して4年あまり。政府が実際の活動の一端を説明し始めたのは、ようやく昨年の通常国会からだった。
 詳細はいまだに明かされていない。にもかかわらずイラク特措法は昨年6月に2年間延長された。
 国会の監視機能が不十分なまま、文民統制は形骸(けいがい)化していた。
 すでに撤退したとはいえ、2年半にわたる陸上自衛隊の活動も検証が必要だ。
 年内には延長論議が始まる新テロ対策特別措置法に関しても、海自による給油活動の実態把握が論議の前提にならねばなるまい。
 もう一つ、判決が示した重要な判断がある。平和的生存権を「憲法上の法的権利」と認めたことだ
 自衛隊のイラク派遣によってこの権利が侵害されたとはいえないとしながらも、「基本的人権は平和の基盤なしには存立し得ない」と明言した。平和は何にもまして大切だという指摘だ。
 近年、この当たり前のことが置き去りにされてきた。
 政府・与党のみならず、すべての国民が、じっくりとかみしめてみる必要のある判決だ。

社説:イラク派遣 「違憲」判断の重大さ
[信濃毎日新聞 4月18日(金)]

 航空自衛隊の空輸活動は憲法に違反する?。名古屋高裁が明快な判断を下した。
 イラクへの自衛隊派遣をめぐる訴訟で、違憲判断は初めてだ。これまで全国10カ所余の裁判所で提訴されているものの、ことごとく退けられてきた。
 違憲判断は確定する見通しになっている。政府は重く受け止め、イラクからの撤収に向けた準備を急がなければならない
 イラクではいまも、武装勢力と米軍などとの戦闘が続いている。そのイラクに自衛隊が派遣されるのは、2003年7月に成立したイラク復興支援特措法が法的な根拠になっている。
 空自はクウェートを拠点にC130輸送機で、当初イラク南部サマワで活動していた陸上自衛隊員や物資を主に運んでいた。
 06年7月に陸上自衛隊が撤収してからは、首都バグダッドなどへも活動範囲を広げ、多国籍軍の兵士や国連の人員、物資などを輸送するようになった。
 とくに多国籍軍は、米軍を中心に武装勢力の掃討作戦などに当たっている。空自の活動も当然、軍事支援の色合いが濃くなる。集団的自衛権の行使の問題に触れるとされるのは、そのためだ。
 名古屋高裁は「多国籍軍の武装兵員を戦闘地域のバグダッドに空輸するものについては武力行使と一体化した行動」と言い切り、憲法9条に違反するとした。イラク特措法にも違反するとしている。
 訴訟は、天木直人元駐レバノン大使や市民らが、派遣の差し止めや精神的苦痛への慰謝料を求めて起こしていた。一審では原告側が全面敗訴した。
 2審の名古屋高裁も、派遣の差し止めなどは認めなかった。イラクに約2年半、人道復興支援として派遣された陸上自衛隊についての言及もなかった。
 形の上では原告の負けである。しかし実質的には、原告勝訴の判決といえる。
 政府は、空自の派遣を続行する方針だ。町村信孝官房長官は、商業用飛行機が出入りするバグダッド飛行場を挙げ「非戦闘地域の要件を満たす。武力行使と一体化していない」と反論した。
 政府が対米協力を重視し、自衛隊派遣ありきの姿勢を続けることにどこまで理解が得られるか、疑問はますます募る。
 政府や自民党を中心に、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法(一般法)制定に向けた動きがある。いったん立ち止まって慎重に対処するよう求める。

空自派遣「違憲」 司法判断の意味は重い
[中国新聞 ’08/4/18]

 いつの間にか一線を越える事態になっていたのではないか。そんな疑問をあらためて突き付けられたようだ。名古屋高裁はきのう、イラクに派遣された航空自衛隊による兵士の輸送について憲法違反との判断を示した。市民らが派遣差し止めなどを国に求めた訴訟の控訴審判決である。
 同じような訴訟は、岡山や大阪などの地裁でも起こされている。これまではすべて原告の訴えが退けられてきた。違憲判断は初めてである。
 差し止めや慰謝料の請求は、今回も認められなかった。原告側が敗れた形ではあるが、実質的には勝訴と言っていいだろう。勝った国側は上告できないため、違憲判断を含んだ高裁判決が確定することになる。
 判決は、バグダッドの現状についてイラク復興支援特別措置法が自衛隊の活動を認めていない「戦闘地域」に当たると認定。そのバグダッドに多国籍軍の武装兵士を空輸することは、他国の武力行使と一体化した行動で、自らも武力行使したとの評価を受けざるを得ない、と指摘した
 それは、派遣の根拠となっているイラク特措法に違反しており、武力による威嚇や行使を永久に放棄するとした憲法9条1項違反でもある、との判断である。
 輸送目的で派遣したのなら何を運んでも同じで、兵士だけは駄目だというのは現実的ではない。そう批判する専門家もいるが、憲法をないがしろにしていいはずがない。政府が、特措法でその場をしのぎ、憲法で許されている自衛隊の海外派遣の限界はどこまでか、論議を受け流しながら進めてきた結果ではないか。
 日本は、2001年の「9・11米中枢同時テロ」を受け、アフガニスタンやイラク政策で米国に歩調を合わせてきた。しかし、開戦から五年が過ぎた今もなお、混乱は収まっていない。イラクには米英が主張していた大量破壊兵器はなかった。国際テロ組織のアルカイダとも関係ないことが確認されている。
 「テロとの戦い」の名の下で、日本は、憲法の枠組みを逸脱してきたのではないか、国際貢献の方法はほかになかったのか、冷静に見つめ直す時期を迎えているのだろう。
 与党は今、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の成立を目指している。ただ、今回の司法判断で、今まで以上の慎重さが不可欠になった。国会でしっかり論議を深めなければならない。
 空自は、06年7月に陸上自衛隊が南部のサマワから撤収して以降は、クウェートを拠点にバグダッドや北部アルビルなどで多国籍軍と国連の要員や物資の輸送などを続けている。情報公開が不十分なこともあって実態が見えにくく、国民の関心は薄らいでいる。
 今回の判決は、イラクでの自衛隊の活動に再び注目し、絶えず検証するよう迫る警鐘のようでもある。それにどう答えるか、政治も国民も問われている。

社説:イラク派遣違憲判断/この重み受け止めなくては
[河北新報 2008年04月17日木曜日]

 とかく憲法判断を避けがちな今の裁判所にしては、かなり踏み込んだメッセージだ。イラクでの航空自衛隊の空輸活動について名古屋高裁がきのう、憲法9条に違反するとの初めての違憲判断を示した。
 高裁判決は、バグダッドをイラク復興支援特別措置法(イラク特措法)上の「戦闘地域」に当たるとも認定した。政府はまず、この指摘に対して実情をしっかり説明する責任がある
 小泉純一郎政権による憲法の限りない拡張解釈によって、イラク派遣は実現した。既に陸上自衛隊は撤収を終えているが、自衛隊の海外派遣の当否、国際貢献はどうあるべきかという根本的な議論は、依然として整理されていない。
 憲法論議自体も、政権の移行と国会のねじれ構造によって熱が冷めた状態になっている。そんな中、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定の動きは進む。それでいいか。司法のメッセージの重みを、はぐらかすことなく、きちんと受け止めて、今後の道筋を考えたい。
 原告団は自衛隊派遣の差し止めや慰謝料を国に求めていた。1審は原告の全面敗訴。高裁判決も原告の控訴は棄却した。仙台地裁など全国11カ所で同様の提訴があったが、仙台をはじめこれまではいずれも原告敗訴に終わっている。
 今回の高裁判決は、判断の前提としてイラクの状況に具体的に踏み入った。宗派対立、武装勢力と多国籍軍との抗争が複雑に絡み合った現状を「泥沼化した戦争状態」と呼び、特にバグダッドはもはや「非戦闘地域」に当たらないと認定した。
 空自の輸送活動についても、それ自体を武力行使と決めつけたわけではない。多国籍軍武装兵員のバグダッドへの空輸。高裁はその点に着目して、「他国による武力行使と一体化した行動。自らも武力を行使したとの評価を受けざるを得ない」と結論付けた
 町村信孝官房長官は判決後の会見で「納得できない」と述べ、バグダッド空港周辺が「非戦闘地域」であるとの認識を重ねて強調した。判決に即して、国会審議の中であらためてその概念を検証する必要がある。
 高裁判決でもう1つぜひ注目したいのは、「平和的生存権」の位置付けである。
 「平和的生存権はすべての基本的人権の基礎にある。単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまらず、憲法上の法的な権利として認められるべきだ」「その保護・救済を求め、裁判所に違憲行為の差し止めなど法的強制措置の発動を請求できる場合がある」
 政府に向けてのみならず、司法もまた憲法判断にかかわる自らの役割をきちんと認識し直そうとする宣言と受け止めよう。
 原告の請求は退けられたという結論の外形や、空自に限定した点だけを見れば、今回の判決の意味はそう大きくないとみなすこともできる。しかし、憲法と国際貢献の望ましい形を考えていく上で、耳をふさいではならない重いメッセージが込められている。

【社説】イラク空自違憲 「派兵」への歯止めだ
[中日新聞 2008年4月18日]

 航空自衛隊のイラク派遣は憲法9条に違反している。名古屋高裁が示した司法判断は、空自の早期撤退を促すもので、さらには自衛隊の海外「派兵」への歯止めとして受け止めることができる。
 高裁の違憲判断はわかりやすい論理になっている。
 イラク特措法は、人道復興支援のため「非戦闘地域」での活動を規定している。空自のC130輸送機は、武装した米兵らをバグダッドなどに空輸している。ところが、バグダッドは戦闘地域、すなわち戦場である。
 戦場に兵士を送るのは軍事上の後方支援となる。これは非戦闘地域に活動を限定したイラク特措法から逸脱し、武力行使を禁じた憲法九条に違反するとした。
 イラク戦争開戦から5年余。大量破壊兵器の保有、国際テロの支援を理由に米英両国は攻撃に踏み切った。「事前に悪をたたく」という米ブッシュ政権の先制攻撃論が理論的支柱となった。
 いずれも見込み違いの「大義なき開戦」だったことは明らかだ。この5年は、イラク人にとり苦難と混乱の日々であった。世界保健機関(WHO)によると、15万人以上のイラク人が死亡した。
 米兵死者が4000人を超す米国も、厭戦(えんせん)気分が満ちている。秋の大統領選ではイラク問題が最大争点となりそうだ。
 では、小泉政権の「開戦支持」は正しかったか。この支持の延長に自衛隊の派遣があった。イラク南部サマワに派遣された陸上自衛隊は、インフラ整備など復興支援の活動を展開したが、空自は情報開示に乏しく、活動実態は伝わっていない。
 高裁が違憲とした以上、空自の輸送活動をこのまま継続することは難しく、撤退も視野に入れた検討が必要ではないか。福田政権にとっては、道路財源や高齢者医療の内政問題に加え、日米同盟にかかわる安全保障上の外交課題を背負うことになった。
 もう1つ、今回の違憲判決が明確にしたのは、自衛隊海外派遣と憲法9条の関係である。与党の中には、自衛隊の海外派遣を恒久法化しようという動きがある。しかし、9条が派遣でなく「派兵」への歯止めとなることを憲法判断は教えた。
 イラク派遣に限らず、司法は自衛隊に関する憲法判断を避けてきた。今回の踏み込んだ判決を受け止め、平和憲法の重さとともに、世界の中にある日本の役割を考える機会としたい。

社説:イラク空自違憲 高裁判断を無視するのか
[新潟日報 4月18日(金)]

 「イラクでの航空自衛隊の活動は憲法9条に違反する」。自衛隊のイラク派遣に初めて裁判所が違憲の判断を下した。
 自衛隊のイラク派遣差し止めなどを求めた訴訟の控訴審で17日、名古屋高裁が空自の活動を「多国籍軍の武装兵員を戦闘地域に空輸することは、武力行使と一体化した行動」と断じたのだ。
 この判断は憲法9条第1項に定めた「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久に放棄する」を、厳格に当てはめたものだ。憲法順守を明快に打ち出しており、極めて画期的だ
 一方、政府は「自衛隊活動には影響を与えるものではない。航空機の活動は引き続きやっていく」(町村信孝官房長官)と無視する構えだ。
 憲法は国の根幹を支える大原則だ。空自活動が違憲と判断されたからには、イラクからの撤退が筋である
 今回のイラク派遣差し止め訴訟は、天木直人元駐レバノン大使や市民らが2004年2月、名古屋地裁に提訴した。1審は憲法判断には触れず訴えを退けた。原告側は控訴していた。
 イラクへの自衛隊派遣は、03年7月に成立したイラク復興支援特別措置法に基づく。陸上自衛隊は04年からイラク南部のサマワを拠点に、周辺の医療指導や学校、道路などの修復活動を行い、06年7月に撤収した。
 空自はクウェートから陸自拠点へ人員、物資を空輸する任に当たっていた。当初は陸自部隊への空輸が主だったが、陸自撤収後も活動を続け、多国籍軍への輸送を任務としていた。
 名古屋高裁は、この「多国籍軍への輸送協力」を違憲とした。
 同様の訴訟は全国で起こされている。しかし、憲法判断がなされたことはなかった。そこに踏み込んだ名古屋高裁の判断に司法の意気込みを感じる。憲法の空洞化への警鐘といえよう。
 判決自体は、控訴理由のイラク派遣差し止めと慰謝料請求を一審同様に認めなかった。
 形の上では原告敗訴だが、「違憲」の判断を引き出した。実質的には原告の完勝といっていい。原告は上告しない。勝訴した国は上告できず、名古屋高裁の判決は確定することになる。
 空自は現在も首都バグダッドなどへの空輸活動を続けている。名古屋高裁はそこを「戦闘地域」と認定した。特措法にも抵触していることになる。
 自衛隊の海外派遣をめぐっては、自民党がプロジェクトチームを発足させるなど、恒久法制定に向けた動きが活発化している。
 名古屋高裁の判断は、そうした流れを厳しく戒めた格好だ。政府と国会の真摯(しんし)な対応を求めたい。

社説:イラク空輸違憲判断/国民に活動の全体像示せ
[岐阜新聞 2008年 4月18日(金)]

 名古屋高裁が、イラクで航空自衛隊が続けている空輸活動について憲法違反の判断を示した。市民らがイラクでの自衛隊の活動は違憲として、派遣差し止めや慰謝料を求めた訴訟の控訴審判決で、請求はいずれも退けられた。現地の活動にすぐ影響が出るわけではないが、自衛隊派遣をめぐる初の違憲判断は重い。
 2001年9月11日に米中枢同時テロが起きて以降、小泉政権が対米支援のために成立させたテロ対策特別措置法やイラク復興支援特別措置法について国会の論戦は十分ではなかった。どさくさの中で政府がアクロバティックな答弁を押し通したとの印象が強い。
 さらにイラクの空自と陸上自衛隊やインド洋の海上自衛隊の活動について公開される情報も乏しく、不透明感がぬぐえない。自衛隊派遣恒久法の早期成立を目指す前に、特措法に基づく自衛隊の一連の活動を検証し、その全体像を国民の前に明らかにすべきだ。
 空自はイラク特措法に基づき04年3月からクウェートの空軍基地を拠点にイラクへの人員と物資の輸送を始めた。当初は、イラク南部のサマワで活動していた陸自の支援が中心だったが、06年7月に陸自が撤収して以降は国連や多国籍軍関係の空輸を手掛けた。
 名古屋高裁判決は06年7月以降の任務について、米軍と調整して週4?5回、クウェート内の空港から「戦闘地域」にあるバグダッド空港に武装した多国籍軍の兵員を輸送していると認定。他国の武力行使と一体化し、自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ないと指摘した。
 その上で、こうした空輸が自衛隊の活動地域を「非戦闘地域」に限定したイラク特措法に違反し、憲法9条に違反する活動を含んでいると認められると結論づけた。
 戦闘地域なのか、あるいは非戦闘地域かの線引きはもともとあいまいだった。現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる一定の地域―というのが、政府による非戦闘地域の定義だった。
 思い出されるのが、04年11月の党首討論だ。岡田克也民主党代表から、陸自が活動中のサマワを非戦闘地域とする根拠をただされ、小泉純一郎首相は「将来戦闘が行われるかどうか、100パーセント断言はできない。しかし、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域、これが、イラク特措法の趣旨だ」と述べた。
 実際には、サマワ郊外にあった陸自の宿営地内や周辺にロケット弾などがたびたび撃ち込まれ、そのうち1発は荷物用のコンテナを貫通。陸自の車列近くで爆弾が爆発したこともあった。
 野党の追及不足もあったが、これまで政府は説明責任を果たしてこなかった。名古屋高裁判決には「依然として、非戦闘地域の要件を満たしている。武力行使と一体化するものではない」と反論し「自衛隊活動に何ら影響を与えるものでない。活動は引き続きやっていく」としている。
 そうであるなら、今回の判決では言及のなかった陸自と海自も含め、3自衛隊による一連の海外活動について(1)武力行使との一体化(2)戦闘地域か非戦闘地域か(3)国際的な戦闘か否か―など判決に示された判断基準に沿って説得力のある説明が必要だろう。

【イラク派遣】明快な違憲の判断だ
[高知新聞 2008年04月18日08時20分]

 自衛隊のイラク派遣は憲法に違反するとして、市民ら約1100人が、派遣の差し止めや慰謝料を国に求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は航空自衛隊のイラクでの活動は違憲との判断を示した。自衛隊のイラク派遣に対する初めての違憲判断である。
 高裁は、空自が多国籍軍の武装兵士をバグダッドへ空輸する任務は、他国による武力行使と一体化した行動であり、憲法9条に違反すると断じた。派遣の憲法判断を避け、原告の訴えを門前払いにした名古屋地裁判決と比べても、明快さが際立つ。
 一方で、派遣差し止めや慰謝料請求など原告側の控訴は棄却した。これにより、国側は上告できない。判決は確定する見通しだ。高裁レベルであっても「違憲確定」の影響は大きい。
 空自の派遣は2003年に成立したイラク復興支援特別措置法に基づいて行われている。C130輸送機がクウェートを拠点に、当初は主に、イラク南部サマワで活動していた陸上自衛隊に支援輸送していた。
 しかし06年7月に陸自が撤退して以降、活動は治安が不安定なバグダッドなどにも拡大。政府が国会などで明らかにしたところによると、空自の輸送活動の8割は多国籍軍の安全保障活動になっているという。
 高裁は、米軍と武装勢力の間で激しい紛争が続くバグダッドを「戦闘地域」と位置づけた。イラク特措法の要件で、政府が主張する「非戦闘地域」とは異なる。特措法にも違反するとの認定であり、こちらも明快だ
 これまでのイラクが戦闘地域に当たり、空自の活動に違憲の疑いがあることは、この欄でも再三指摘してきた。だが疑念にこたえるための、政府の情報開示は極めて不十分だ。野党もこうした点からイラク特措法を廃止し、派遣部隊を撤収する法案を何度も国会に提出している。しかし、参院では可決されても与党が多数の衆院では論議すらされていない。
 空自のイラク派遣は来年7月末に期限を迎える。一方、インド洋での海上自衛隊の給油活動を衆院再議決で再開させた政府は、国際協力での自衛隊の海外派遣を随時可能にする「恒久法」の準備を進めている。
 高裁判決は国際協力の名の下に行われたイラク派遣が、違憲であると断じた。今後の自衛隊活動をめぐる論議に与える影響も大きい。

イラク違憲判決/空自部隊は直ちに撤収を
[神奈川新聞 2008/04/18]

 憲法前文と9条についての歴史的な判決が出た。
 自衛隊のイラク派遣は憲法違反だとして、市民ら約1100人が派遣差し止めや慰謝料を国に求めた名古屋訴訟で、2審の名古屋高裁は航空自衛隊がクウェート?バグダッド間で行っている武装米兵らの空輸を「他国による武力行使と一体化した行動」だとして違憲と認定した。
 また、憲法の前文で「平和のうちに生存する権利」と明記されている「平和的生存権」についても「具体的権利性が肯定される場合がある」とし、戦争への加担・協力を強制されるような場合などで「違憲行為の差止請求や損害賠償請求等で救済を求めることができる」としている。いずれも過去にない判断であり、前文と9条の法的意義、現代的意義を明らかにし、その射程をしっかりと示した。判決は「憲政史上、最も優れた、画期的な判決」(原告側声明)と言えるだろう。
 イラク戦争が国際法違反の侵略行為であることは戦争開始当時も現在も明白である。それにもかかわらず日本政府は米国を支持し、さらにはイラク特措法を制定して戦闘の続くイラクに自衛隊を派遣してきた。2004年の党首討論で同法の「非戦闘地域」の定義を聞かれた小泉純一郎首相(当時)は、「自衛隊が活動している所は非戦闘地域」と答弁。詭弁(きべん)にもならない“暴言”で「海外派兵」を押し通した。
 今回の判決は、そうした政府の逸脱を明確に断罪した。イラクの現状からバグダッドを「戦闘地域」と認定。「多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域であるバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」とし、空輸活動はイラク特措法にも憲法九条にも違反すると認定した。国際常識からしても、武装兵の輸送や補給活動が軍事行動とみられるのは当然ではないか
 原告が上告しないため、判決は確定する。政府は「バグダッド飛行場は非戦闘地域」などとして、判決を無視する構えだが、そのような態度が許されるべきことだろうか。政府は、この違憲判決を真剣に受け止め、空自部隊の撤収を進めるべきである。輸送活動の実態解明も含めて、国会での野党の追及にも期待したい。
 平和憲法を持つ日本が、侵略戦争に加担することなどは許せない。まして、自衛隊を海外派兵してそれを支援することなどは論外ではないか。自衛隊派遣違憲訴訟は、そのような素朴な国民感情から全国各地で起こされた。この訴訟と判決は、そうした国民の声の正当性と平和憲法の意義を国内のみならず世界にも示している。憲法を生かすのは、国民の努力にあることをあらためて強調したい。

社説:イラク派遣違憲 撤退を迫る画期的な判断
[琉球新報 2008年4月18日]

 航空自衛隊のイラク派遣は「違憲」との判断が17日、名古屋高裁で示された。イラクでの空自の活動が、憲法九条が禁じる武力の行使に当たるとの判断である。判決が出た以上、政府は空自をイラクから撤退すべきである
 違憲判断は、自衛隊のイラク派遣が憲法違反として、約1100人の市民が派遣の差し止めや慰謝料を国に求めていた訴訟である。
 訴訟は派遣後の2004年から全国11の地裁で12の集団訴訟が提訴された。だが、判決で原告側の訴えはいずれも退けられてきた。
 しかし、名古屋高裁の青山邦夫裁判長は「航空自衛隊の空輸活動は憲法9条に違反する。多国籍軍の武装兵員を戦闘地域に空輸するものについては武力行使と一体化した行動」と認め、違憲と判断した。
 原告団の1人で、レバノン大使も務めた天木直人さんは、自らのブログで「憲法を少しでも学んだ者ならば自衛隊のイラク派遣が違憲であることは分かるはずだ」と訴えてきた。
 しかし、12の訴訟は「訴えの利益がない」との紋切り型の判断で、門前払いされてきた。
 「裁判官は正面から違憲審査をしようとはしない」「この国の司法はどうなっているのか。これほどまでに政治に屈していいのだろうか」「裁判官は出世に目がくらんだ官僚に成り下がっている」。そんな批判と司法への不信感が募っていた。
 「違憲訴訟は続けよう。裁判官が権力を裁く事ができなくても、我々が彼らを裁くのだ」。そんな原告団の気概が、画期的な判断を引き出している。
 国はイラク特措法で、自衛隊の活動場所を「非戦闘地域」に限定している。だが、イラクの首都バグダッドでは多くの市民が、いまも戦闘の犠牲になっている。
 高裁判決は、バグダッドなどへの多国籍軍の兵士や国連の人員、物資輸送などを行っている航空自衛隊の活動が「イラク特措法にも違反する」と判断した。
 自衛隊派遣では「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」と、木で鼻をくくる国会答弁を繰り返した当時の小泉純一郎首相にも反省を促す判断である。
 一方で、憲法違反の自衛隊のイラク派遣で「平和的生存権を侵害された」とする原告団の訴えについては「具体的な権利や義務に関する紛争ではなく、訴えは不適格」と却下。慰謝料についても棄却している。
 法治国家の徹底と護憲の訴えを認める高裁判決が下された。今回の司法判断を重く受け止め、国はイラクから自衛隊を撤退させるべきである。

「違憲」は国民の不信映す イラク空自活動
[西日本新聞 2008/04/18付]

 イラクに派遣された航空自衛隊の空輸活動について、名古屋高裁が「憲法9条に違反する」との判断を示した。
 バグダッドを「戦闘地域」と認定し、そこに多国籍軍の兵員を運ぶのは、9条が禁じる「武力行使」に当たるとした。
 イラク派遣をめぐる訴訟は各地で起きているが、「違憲性」に踏み込んだ判断は初めてだ。自衛隊のあり方に一石を投じる判決として、重く受け止めたい。
 自衛隊のイラク派遣は、2003年7月に成立したイラク復興支援特別措置法に基づいている。当初4年間の時限立法で、07年に2年間延長された。
 市民グループなどは、イラク派遣が違憲であり、平和的に暮らす権利を侵害されたとして、派遣差し止めと損害賠償を求めていた。高裁は「派遣は防衛相の権限」などとして訴え自体は棄却した。
 私たちはこれまで、イラク派遣は平和主義を掲げた憲法から逸脱する恐れはないか、と問い掛けてきた。
 政府は「バグダッド飛行場などは非戦闘地域」との見解を変えず、空輸の継続を表明している。だが、多くの人が抱く疑問に答えるためにも、今回の判決を踏まえ、自衛隊の海外派遣について国民が納得できる説明をする責任がある。
 2つの問題点を指摘したい。
 イラク開戦の根拠とされた大量破壊兵器は見つからず、フセイン政権と国際テロ組織との関係も証明されていない。
 戦争の「大義」が崩れた以上、開戦を支持した当時の政府の判断を検証すべきだ。その上で、派遣継続の是非を論議するのが筋ではないか。
 しかし、昨年の特措法延長では、米国への配慮を優先して正当性の検証はなされず、いつイラクから撤収するかという「出口戦略」も示されなかった。
 もう1つは、自衛隊が現地でどのような活動をしているのか、よく分からないという点だ。
 政府は「作戦上、支障がある」「隊員の安全のため」などとして、詳しい情報を開示しようとしない。
 これでは、憲法が定める活動のルールが守られているのか、文民統制が機能しているのか、国民には判断できない。
 アフガニスタン復興支援を名目に、インド洋上で海上自衛隊が行っている給油活動では、油がイラク戦争に転用されたのではないかという疑惑が浮上し、給油量記載ミスやそれを隠ぺいする行為も明らかになった。
 自衛隊の海外活動に対する不信感は高まっている。国会などの監視機能を強化する必要がある。同時に、防衛省は活動内容を積極的に開示するなど、透明性を高める一層の努力を求めたい。
 政府・与党は、自衛隊を随時海外に派遣できるよう特措法を恒久法に改めようという動きを強めている。
 その前に、国民の信頼回復が先だ。すべきことはたくさんある。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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