公立高校の授業料滞納4億6000万円

毎日新聞の調査によって、全国の都道府県立高校だけで、2006年度の授業料・入学金の滞納額が4億6000万円にのぼることが判明。おりしも数日前に、入学金をまだ納めていなかったという理由で、入学式にでられなかった生徒がいたというニュースが流れましたが、毎日新聞の調査結果は、こうした問題がもはや一部の問題にとどまらなくなっていることを示しています。

問題は、個々のケースではなく、授業料・入学金の滞納・未納が全体として増えていること。そこにこそ、いま考えるべき課題があると思います。

授業料・入学金:都道府県立高校の滞納総額、4億6千万円(毎日新聞)
入学金未納 式から排除 千葉の高校 別室で2人待機(東京新聞)
入学金未納 式出られず 佐世保工定時制 納付約束で入学許可(西日本新聞)
入学金未払い・学費未納、悩む現場 退学勧告も(朝日新聞)

千葉のケースでは、入学料は5,650円ですが、授業料その他を含め9万円納める必要があります。長崎でも、入学手数料は2,050円、4月分の授業料2,680円だけでなく、もろもろ合わせて6万3000円を払わなければなりません。私立に比べれば安いかもしれませんが、経済的に苦しい家庭には、決して小さい額ではありません。

授業料・入学金:都道府県立高校の滞納総額、4億6千万円
[毎日新聞 2008年4月18日 2時30分(最終更新 4月18日 8時22分)]

 全国の都道府県立高校で、06年度の授業料・入学金の滞納が総額4億6000万円に上ることが毎日新聞の調査で分かった。督促強化や、条例・規則改正で出席停止・退学の措置をとれるようにするなど、対策強化に乗り出した自治体も多い。千葉県で入学金納付が遅れた生徒を入学式に出席させない事態が起きたが、専門家からは補助制度充実など国にも対策の強化を求める声が出ている。
 調査は47都道府県教委を対象にした。授業料の滞納額は大阪府が最も多く2億2611万円(滞納者数2768人)。▽北海道5072万円(同1060人)▽神奈川県4124万円(同775人)――が続いた。

 大阪府の滞納額は06年度、前年度比約1.7倍になった。府教委は「滞納者には分割払いでも対応できるようにしているが、原因は分からない」と話す。東京都は2300万円で生徒数の多さに比べ低水準。都は「督促の努力と授業料減免制度の周知徹底を図ってきた成果」と説明する。
 入学金の滞納額は計317万円。うち310万円(滞納者570人)は大阪府だった。授業料の滞納が原因の退学者は全国で429人に上り、うち大阪府が419人を占め、すべて授業料の滞納者だった。ただし、府教委は「きちんと出席する生徒は退学処分にはしていない」と説明している。

 ▽藤田英典・国際基督教大教授(教育社会学)の話 高校進学率は97.7%に達し、すでに準義務教育化している。公立学校を運営する自治体は、教育の機会を提供し保障する責任がある。経済的な理由で高校教育をあきらめる生徒がいるのは、好ましい事態ではない。自治体も減免制度を設けているが、奨学金や貸し付けなども含めて助成システムを国が整える時期に来ている。

都道府県立高校の授業料入学金滞納額(06年度)
授業料 入学金
北海道 50,722 0
青森 322 0
岩手 6,503 0
宮城 1,526 0
秋田 0 0
山形
福島 10,866 0
茨城 2,818 0
栃木 1,652 0
群馬 3,466 0
埼玉 7,895 17
千葉 3,982 0
東京 23,000 0
神奈川 41,236 0
新潟 2,540
富山 1,294 2
石川 0 0
福井 250 0
山梨 4,890 0
長野 5,972 0
岐阜 4,554 42
静岡 2,209 0
愛知 4,975 0
三重 8,068 0
滋賀 364 0
京都 0 0
大阪 226,109 3,102
兵庫 1,286 0
奈良 26,819 6
和歌山 314 0
鳥取 762 0
島根 1,510 0
岡山 19 0
広島 3,330 0
山口 3,523 0
徳島 1,562 0
香川 336 0
愛媛 0 0
高知 537 0
福岡 1,138 0
佐賀 29 0
長野 0 0
熊本 0 0
大分 0 0
宮崎 0
鹿児島 0
沖縄 0 0
合計 456,380 3,169

金額は千円単位、–は未集計・未回答

入学金未納 式から排除 千葉の高校 別室で2人待機
[東京新聞 2008年4月14日 夕刊]

 千葉県八千代市の県立八千代西高校(大迫太校長)が、入学金未納の新入生男女2人を8日の入学式に出席させなかったことが分かった。2人は式後に入学金を納め、入学は許可された。
 同校の須藤信夫教頭は「入学金を納めないと入学を許可しないという県条例に従わざるを得ない。苦渋の判断だった」と話している。
 同校によると、新入生159人は入学式当日に入学金や授業料など計9万円を持参することになっていた。未納だった2人は入学式が行われた体育館に入れず、教室などで待機。男子生徒は式直後に全額納入、女子生徒は一度帰宅して当日夕に一部を納入し、校長室でそれぞれ入学を許可された。
 同校は3月の合格発表や入学者説明会で入学式当日に入学金などの納入を要請。全額納入が難しい場合は事前に相談するよう求めていたという。
 県教委は「入学金が未納では入学の意思を確認できない。事前に説明しており、条例上、学校の判断はやむを得ない」としている。

入学金未納 式出られず 佐世保工定時制 納付約束で入学許可
[2008年4月18日 00:10 西日本新聞]

 長崎県佐世保市の県立佐世保工業高定時制の入学式で、入学金を納めなかった15歳の男子生徒2人が式典に参加できなかったことが17日分かった。それぞれの保護者が式典後、月内に全額納付を約束したため同校は入学を許可し、2人は当日の入学生オリエンテーションには参加した。
 同校は3月31日に新入生43人の保護者を対象に説明会を開き、県立高等学校等条例に基づき、8日の入学式当日までに入学手数料(2050円)や4月分の授業料(2680円)を含む入学金6万3000円を納めなければ入学できないと説明。2人の保護者も出席したが猶予などの申し出はなかったという。
 しかし式当日、2人の保護者が「入学金を支払えない」と申し出たため、同校は入学を許可できないとして、保護者と生徒に応接室での待機を求めた。式後に保護者と協議し、3000‐1万3000円をその場で納め、月内に全額納付することで合意し、入学を認めたという。
 松山秀則校長は「子どもにはつらい思いをさせたが、社会のルールは守らなければならないことを伝えるのも教育者の責任として私が最終判断した」と話している。

入学金未払い・学費未納、悩む現場 退学勧告も
[asahi.com 2008年04月16日03時02分]

 千葉県立八千代西高校(八千代市)で入学金を払っていない生徒2人が入学式に出られなかった。入学金未納や授業料滞納の増加は全国的な現象で、退学など厳しい処分を決めた教育委員会も少なくない。同じ問題に悩む全国の公立高校からは、「やむを得ない」「それでいいのか」という賛否両論が上がる。

千葉県立高校の授業料滞納額

◆総出で家庭訪問

 千葉県西部の県立高校の校長は「条例がある以上同様の対応を取るだろう」と八千代西に理解を示す。
 この校長は、前任の高校で授業料の滞納が相次ぎ、担任や事務職員総出で電話や家庭訪問を繰り返した。「卒業後になっても分割で頑張って払ってくれる家庭もある。払わずじまいでは不公平だ」
 別の県立高校の教頭も「まず入学して、その後に入学金を納めるというのはあり得ない。勝手に条例を変えてしまうことになる」という。
 未納は千葉だけの悩みではない。例えば、北海道教委は今春、資力があるのに道立高校の授業料や寄宿舎費を支払わない場合、生徒を出席停止や退学にすることにした。すぐに払えないなら5年以内に納付する計画書の提出を求める。
 山梨県も4月、授業料を6カ月分未納で出席停止、さらに2カ月で退学を勧告できるようにした。
 県立甲府工業高校は、経済的な事情を抱える生徒に許可制でアルバイトを認めている。ガソリンスタンドやコンビニで働き、授業料を自分で出す生徒もいる。戸田泰明校長は「将来は社会に出て働く子たちなので、その体験が生きてくる。そう指導する方法もあると思う」と話す。
 一方で、県立富士北稜高校の山田泰男校長は「決まりがある以上、八千代西は間違ってはいないと思う」としつつも、「入学式はスタートなので、本校ならとりあえず出させるかもしれない。矛盾するかもしれないが……」と悩む。
 茨城県では3月から実施した要綱で、7カ月以上滞納し、支払う意思も見せない滞納者に対しては簡易裁判所に申し立てることを決めた。
 県立竜ケ崎第二高校でこの制度を説明すると、33カ月分を滞納した卒業生が、毎月5千円ずつ支払うことを決めたという。仲澤進校長は「滞納者の家には私も何度も家庭訪問した。取り立て屋になったようでつらい」と話す。
 入学金(全日制5500円)を払っていない生徒や卒業生が06年度で850人を数えたのは大阪府立高だ。府教委は翌年度、入学を取り消せる規定を設け、滞納はゼロになった。
 しかし、「たとえ滞納しても入学式や卒業式に出席させないことはあり得ない。生徒に罪はないんだから」とある府立高校長(58)は言う。
 この高校では常に20?30人が滞納。担任たちは電話や手紙、家庭訪問などで納付を説得。生活保護費に含まれた授業料を使い込む親もいるため、支給日には担任が市役所に付き添うことも。授業料の一部を担任が立て替えたこともあるという。

◆「県条例で仕方なく」

 「学校としても出席させたかった。しかし、県条例で入学金を納めないまま入学を許可することができず、仕方がなかった。苦渋の選択だった」。千葉県立八千代西高の須藤信夫教頭は、そう話す。
 県施設の使用料や手数料についての条例に従い、県立高校の入学金は、手続きをする入学式当日に納付する。
 八千代西は、入学予定者に合格証明書を送付する際、費用や納付法を説明する文書を同封した。3月には保護者向けに説明会を開き、「当日に全額納付が難しければ分割もできる。授業料減免制度もあるので、事務室に相談に来てほしい」と伝えた。2人の保護者は説明会に出席。8日の入学式には一方の保護者だけ出席した。
 県教委によると、県立高校の授業料滞納は99年度まで全くなかったが、00?04年度に急増。その後、減少に転じたが、これは出席停止処分にできるなどとする要綱を定めたためではないかという。

数日前、共産党が、「『世界一高い学費』を軽減し、経済的理由で学業をあきらめる若者をなくすために」という提言を発表しました。これは、国立・公立の高校・大学の授業料減免枠を拡大するだけでなく、私立の高校・大学についても、国の制度として、授業料の全額または一部を直接助成する制度をつくろうというもので、そこがユニークでもあり、また非常に時宜にかなった提案だと思います。

それにしても、毎日の調査では、授業料の滞納も入学金の滞納も、ともかく大阪だけがべらぼうに多いのは、どうしてなんでしょうねぇ…。

【追記】
20日付「東京新聞」にも、独自に取材した同趣旨の記事が載っていました。

都道府県立高の授業料など 滞納8000人、4億3887万円(東京新聞)

都道府県立高の授業料など 滞納8000人、4億3887万円
[東京新聞 2008年4月20日 朝刊]

 都道府県立高校の授業料と入学金の滞納額は2006年度だけで計約4億3,887万円(一部累計も含む)に上り、滞納した生徒は延べ8,048人だったことが19日、共同通信の全国調査で分かった。
 今月、千葉県と長崎県の県立高校で入学金の未納で生徒を入学式に出席させない事態が明らかになったばかり。各教育委員会は停学や退学につながりかねない滞納を減らそうと、督促などに懸命だ。経済的な事情が主な理由とみられるが、親のモラル低下を指摘する声もある。
 都道府県教委に06年度の決算などを聞き、金額や人数をまとめた。
 授業料の滞納額がトップだったのは大阪府で、2億5,178万円(滞納者3,519人)だった。次いで北海道5,072万円(同1,060人)、東京都2,300万円(人数未集計)の順だった。
 大阪は入学金の滞納額も最も多く、386万円(滞納者858人)。
 秋田や石川、京都など九府県では、授業料の滞納はなかった。
 滞納の一因に、親の納付意識の低下を挙げる担当者も多く、各教委とも対策に苦慮しているのが実情だ。
 茨城県教委は昨年11月、支払い能力があるのに納付しない場合は法的措置を取ると発表。その後、滞納額が減ったといい、3月には、実際に簡裁に支払い督促を申し立てた。
 埼玉県教委は学校職員による家庭訪問を行い、納付を促している。愛知県教委は電話や文書で督促し、支払い能力がない家庭には授業料減免制度や奨学金制度を紹介するなどしている。兵庫県教委は経済的に納付が困難な場合、学費免除の措置も取っている。
 大阪府教委は06年度、全日制の長期未納者419人を退学処分にした。今後は悪質な滞納に対し、法的措置も検討するとしている。

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