名古屋高裁判決を読んでみた

イラクに派遣された航空自衛隊が武装した米兵を輸送しているのは憲法違反だとした名古屋高裁の判決を読んでみました。

判決は、↓自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会のホームページに掲載されています。

自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会/控訴審で違憲判決が出ました

同判決については、「判決主文の結論を導くのに関係のない傍論だ」という議論がありますが、判決を読むと、傍論どころか、判決主文を導くための本論として、イラクに派遣された自衛隊の活動が合憲か違憲かを論じていることが分かります。

すなわち判決は、原告らの訴え(違憲確認訴訟および差止請求)を「不適法」であるとして棄却していますが、その大前提として、違憲状態にあるのかどうか、原告らの訴えの根拠としている「平和的生存権」が認められるかどうかを論じ、原告らの「具体的な権利の侵害」があったかどうかを検討しているのです。すなわち、

  1. まず、イラクに派遣された自衛隊の活動が違憲かどうかを検討。
  2. 次に、原告が訴えの根拠とした「平和的生存権」それ自体について具体的権利性があるかどうか、を検討。
  3. その上で、1の点については、原告の訴えの通り、憲法違反であると認定。
  4. そこで2の検討に移り、「平和的生存権」は訴えの根拠になる具体的権利性をもっていると認定。
  5. それでも、なぜ原告の訴えを棄却するか、その理由の説明に移り、
  6. 違憲確認請求については、具体的な確認の利益を欠くので「不適法」
  7. 差し止め請求についても、民事訴訟では「不適法」だと認定。
  8. では、もし、差し止め請求が行政訴訟として提起されていたらどうか、という点を検討して、原告らの「具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない」として、

どの面から検討してみても、原告の訴えは認められない、という結論を下しているのです。

つまり、イラクでの自衛隊の活動は憲法に違反していなければ訴えが適法的かどうかを判断する必要はないし、「平和的生存権」が認められないのであれば訴えは根拠がないのだから適法かどうかを判断する必要はない、という立場から、検討をすすめ、その結果、イラクでの自衛隊の活動は憲法違反だし、「平和的生存権」は訴えの根拠になる、としたうえで、それでも、原告らの「具体的権利」が侵害されたわけではないので、訴えは棄却される、とした訳です。裁判中、国は、「何であれ訴えは不適法だから棄却せよ」という主張を繰り返したようですが、裁判長は、その国の主張は認めず、訴えに実態的な根拠があるのであれば具体的に審理する、という姿勢で臨んだと言えます。

また裁判で、国は、イラクでの自衛隊の活動が憲法違反であるかどうかについては争わなかったようです。

ですから、イラク派遣自衛隊の活動が合憲か違憲かという議論のは、判決主文の結論を導くための本論そのものであって、決して「傍論」ではないのです。

高村外務大臣は、そもそも、外務大臣を辞めて暇が出来たら判決を読んでみると言っているのだから、判決を読んでいないことを自分でも認めている訳です。そして、判決を読んでもいない人間に、違憲認定が本論か「傍論」か分かるはずがないことも自明なことです。判決を読みもしないで、「傍論」だと決めつけるような人物に、国務大臣を努める資格があるのかどうか。これもおのずと明らかなことではないでしょうか。

批判するなら、せめて判決を読んでからにしましょう。

「違憲判断、政策に影響せず」・外相、名古屋高裁判断で(NIKKEI NET)
自衛隊イラク派遣:違憲判決 「傍論に過ぎない」鳩山法相が発言(毎日新聞)

「違憲判断、政策に影響せず」・外相、名古屋高裁判断で
[NIKKEI NET 2008年4月18日 16:03]

 高村正彦外相は18日の閣議後の記者会見で、航空自衛隊のイラクでの空輸活動の一部に関する名古屋高裁の違憲判断について「あくまで(結論に直結しない)傍論だ。その判断が行政に影響することはない」と述べ、今後の空自の活動などに影響は及ぼさないとの認識を示した。
 同時に「裁判所の判断が行政の判断に優越するのは、主文と主文を導き出すのに必要な部分だ」と指摘した。町村信孝官房長官は「空自の活動継続にはなんら問題ない」と語った。

もっとバカなのが、↓鳩山邦夫法務大臣。まず第1に、司法行政をつかさどる法務大臣が、裁判所の判決について言及するという、三権分立、司法の独立の大原則が分かってないこと。第2に、違憲判決は「傍論」だと言っておきながら、理由を聞かれると「総理も官房長官も使っている」と他人に責任をなすりつけたこと。高村外務大臣も無責任ですが、それを二乗したようなこんな人物が法務大臣をやっていて、大丈夫なんでしょうか?

自衛隊イラク派遣:違憲判決 「傍論に過ぎない」鳩山法相が発言
[毎日新聞 2008年4月21日 西部朝刊]

 鳩山邦夫法相は20日、地元の福岡県久留米市であった陸上自衛隊幹部候補生学校の開校54周年記念式典で、名古屋高裁の自衛隊イラク派遣一部違憲判決について、「傍論に過ぎない」と述べた。
 来賓の祝辞の中で、鳩山法相は「一般論」としたうえで、「(判決は)国の完全勝訴であります。違憲うんぬんは(原告側の)請求を退ける判断とは別の、わきの傍論として述べられているに過ぎないというのが私の判断」と話した。発言後、鳩山法相は取材に対し「(傍論の表現は)総理も官房長官も使っている」と説明した。(以下略)

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

2件のコメント

  1. gakuさん、おはようございます。
    主文は国側勝訴なので、上告できず、確定すると言う説もあるようですが、どうなのでしょうか。

  2. nkさん
    たぶんそうなると思います。

    で、国は、その確定した判決をず???っと無視し続けることになるんでしょう。

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