都賀川事故の続報

兵庫県神戸市・都賀川の突然の増水で、子どもたちが流された事故。今朝の「朝日新聞」には、そのときの様子が詳しく紹介されていました。

事故は、子どもたちを河川敷から避難させていた最中におきたようです。雨が降り出したときに、すぐに引き上げていればと悔やまれます。

濁流、逃げる子どもをのむ 神戸・都賀川の増水(朝日新聞)
「受け入れられない」悲しみ広がる…鉄砲水4人死亡(読売新聞)
夏休みの学童保育、頭悩ます 神戸の濁流死亡事故(朝日新聞)

同時に、考えさせられるのは、引率していたのが学童保育の指導員2人とボランティアの大学生だったということ。ここの学童保育所は民営でした。経営状態がどうなっていたか分かりませんが、多くの学童保育所はわずかな公的な補助金と親の負担でなんとか運営を続けている状態。指導員の地位もきわめて不安定です。ボランティアの協力も得ながら、なんとか運営していたのではないでしょうか。

もちろん、引率する側がきちんと安全配慮をすべきことは当然です。しかし他方で、そのすべての責任を2人の指導員とボランティアに追わせただけでは、おそらく全国の学童保育所は運営を続けられなくなるのではないでしょうか。

濁流、逃げる子どもをのむ 神戸・都賀川の増水
[朝日新聞 2008年7月28日]

 濁流が、夏休みの川遊びを楽しむ児童らを次々とのみ込んだ。28日に4人が死亡した神戸市灘区の都賀(とが)川の増水では、コンクリートで固めた「都市型河川」の怖さが浮き彫りになった。局地的大雨、落雷、突風――。大荒れの天候は近畿各地に深いつめ跡を残した。。

    ◇

 午後1時すぎ、日差しが照りつけ、都賀川の遊歩道では、家族連れなど数組がバーベキューを楽しんでいた。
 水深は子どもの向こうずねあたりだった。近くの「六甲学童保育所どんぐりクラブ」の子どもたちはカニを探したり、水の中を歩いたりしてはしゃいでいた。小学生18人と高校生1人の計19人を、女性指導員2人とボランティアの男子大学生1人が引率していた。この川辺がいつもの遊び場だった。
 午後2時半ごろ、小雨が降り出した。子どもたちは雨宿りをしようと、篠原橋の下に集まりだした。大学生と子ども3人は、川下へ歩いており、別行動だった。橋の下に集合したころ、激しい稲光が光った。雨脚が一気に強くなり、橋の下を強風が吹き抜けた。水位はまだ、ひざより下だった。
 「みんな川から上がろう」。危険を感じた指導員が大声で呼び掛け、橋のすぐ北側にあるスーパーマーケットに避難することにした。子どもたちは川の西岸の遊歩道を北に向かって走った。
 雨が激しく、目も開けていられない。前を走る子どもが、後ろに向かって「急げ」と叫んだ。高学年の子どもが低学年の子どもの手を引いた。亡くなった泉谷(いずたに・るきや)瑠希也さん(10)と河合玲緒(れお)さん(12)は後ろの方にいた。
 大半がスーパーすぐ横のスロープに着いたころ、濁流が突然、押し寄せた。指導員の一人が流れにのまれ、自力ではい上がった。だが、後ろにいた子どもが「れおが流された」と叫んだ。濁流がうねる。女児が「るー君も流された」と泣きじゃくった。
 事情を聴いたスーパーの従業員が110番通報した。指導員の一人は、店内で泣きながら頭を抱え込んでしゃがみ込んだ。
 篠原橋から南へ約80メートル。新都賀川橋南詰めにある神戸市立灘区民ホールの男性職員(60)が異変に気づいて外に出ると、川の下から親子3人が助けを求めて上がってきた。幼稚園くらいの女の子と小学校低学年くらいの男の子、若い父親だった。
 父親は裸足で両手足は擦り傷だらけで、「津波のような水が押し寄せてきた。自転車も流された。子どもを助けるのが精いっぱいだった」と語ったという。子ども2人もずぶぬれで「寒い、寒い」と震えていた。
 新都賀川橋で耐震補強の工事をしていた大阪府吹田市の建設業、能勢文夫さん(49)は濁流に押し流されまいと、橋脚にしがみついた。激しい流れに身動きがとれず、約20分後、橋の上からはしごが下ろされてようやく救助された。「いっきに水が増えた。本当に死ぬかと思った。水の恐ろしさを思い知った」とやつれきった表情で話した。
 灘区の会社員今野浩之さん(40)は午後2時半ごろ、都賀川河口の都賀川大橋付近で、少年2人の救助を手伝った。一緒に会社を飛び出した男性らが長さ約5メートルのロープ2本を川に投げ入れた。おぼれかけていた少年がロープの端をつかみ、5人がかりで引き上げた。ひざを擦りむくなど軽いけがをしていたが、意識はあった。自転車で塾から帰る途中、鉄砲水が正面から来て流されたという。

「受け入れられない」悲しみ広がる…鉄砲水4人死亡
[2008年7月29日 読売新聞]

 集中豪雨による鉄砲水で子ども3人、女性1人の計4人が死亡した事故から一夜明けた29日、神戸市灘区の都賀(とが)川岸には4人の死を悼む花束やお菓子が供えられた。朝から雨模様となり、河川敷には水遊びを楽しむ子どもたちの姿は見られない。「まだ事実を受け入れられない」。亡くなった子どもたちが通っていた学童保育所、小学校、保育園に悲しみが広がった。

◆現場で

 子どもたちが濁流にのまれた同市灘区篠原南町の甲橋のたもとには、午前10時前、亡くなった市立六甲小4年、泉谷瑠希也(いずたにるきや)君(10)の友人2人が、保護者に付き添われてユリとバラの花束を手向け、無言のままそっと手を合わせた。
 近くの主婦龍田賀津子さん(64)は「普段なら浮輪を持った子どもたちでいっぱいになるのに……」とつらそうに話し、2歳の長女を連れた藤木恵美さん(32)は「子どもは水遊びをしたがるけど、あんな増水を見たら、私が一緒でも怖くて行けない」と漏らした。

◆保育園で

 「今は悲しみがいっぱい。この子のためにも、水難事故の悲惨さをきちんと伝えてほしい」。叔母の妻鹿(つましか)愛美(まなみ)さん(29)とともに巻き込まれたとみられる友地こころちゃん(5)の母親(31)はこの日朝、自宅前で涙ながらに訴えた。
 母親によると、こころちゃんは昨年7月の七夕、大石保育園で開かれたおまつりで浴衣を着てお姉ちゃんと一緒にジュースを飲んでご機嫌だった。保育園にこころちゃんをよく迎えに行っていたという愛美さんは、ほかの園児からも「まーちゃん」と親しまれていたという。
 同保育園にはこの日、園児が保護者に手を握られて登園。松岡千恵子園長(60)は「園児みんながショックを受けている。今はそっと見守るしかない」と語り、年長組の男児(6)の祖母(59)は「こころちゃんは孫にも『一緒に帰ろ』と声をかけてくれるやさしい子だった。孫は、こころちゃんが亡くなったことをまだ理解できていない。どう説明したらいいのか……」と言葉を詰まらせた。

◆学童保育所で

 市立六甲小6年、河合玲緒(れお)さん(12)と泉谷君が通っていた民営の「六甲学童保育所どんぐりクラブ」の入り口には「しばらくの間、お休みです」との張り紙がされた。安藤昭治・運営委員長(56)によると、川遊びを引率していた女性指導員は28日夜、「まだ事実を受け入れられない。亡くなった2人や遺族に申し訳ない」と疲れた様子で語ったという。
 六甲小はプール開放などを中止し、教諭14人が全児童335人の家庭訪問を始めた。神戸市教委もスクールカウンセラー1人を派遣するとともに、全学校園長に水難事故への注意を呼びかける通達を出した。

夏休みの学童保育、頭悩ます 神戸の濁流死亡事故
[asahi.com 2008年7月29日13時17分]

 今回の事故を受け、夏休み中に「街中での川遊び」を予定していた学童保育所は頭を悩ませている。
 神戸市東灘区の学童保育所「住吉ピノキオクラブ」は、夏休みに近所の住吉川で遊ぶのが恒例行事。しかし、実施について8月上旬の保護者会で議論することにした。引率には例年、保護者やアルバイトが加わるが、仕事や予算の問題で確保が難しい。指導員の木下幸代さん(34)は「子ども25人を大人5人くらいで見たい。川で遊ぶ子どもたちは生き生きと楽しそうで、遊びには行かせてあげたいのですが……」と話す。
 事故が起きた都賀川でよく遊んでいた神戸市灘区のNPO法人学童保育「むぎっ子」は夏休み中に数回実施していた川遊びと、8月下旬に予定していた都賀川での夕涼み会の中止を決めた。指導員の桜井由賀さん(45)は「都賀川が急に増水することは知られており、子どもたちには怖い川だよと教えていた。改めて危険性を思い知り、自粛することにした」と話す。
 学童保育所を管轄する神戸市の子育て支援部は29日、市内の公設、民間の学童保育所約180施設に、屋外活動時に天候の変化や気象警報に注意するよう、文書で呼びかける。京都市も同日、学童クラブのある児童館と学童保育所計126カ所に注意喚起の文書を流した。同市児童家庭課は「長期休暇には多くがキャンプや水泳、川遊びなどを予定しているため、完全に中止してしまうのは難しい。安全をお願いするしかない」と話す。
 兵庫県西宮市の市社会福祉協議会は今年から、市内に40ある学童保育施設「留守家庭児童育成センター」に、水難事故防止のため水辺で泳ぐことは控えるように指導している。市内には流量の増減が激しい川があり、気象条件次第で神戸と同様の事故が起こりうるという。小西一雄事業課長は「学童保育に携わるものとしてショックな事故。各施設の指導員に改めて事故防止を呼びかけたい」としている。

たまたまでしょうが、今日の「朝日新聞」では、東大阪市で、学童保育所の運営費を流用して校長室や職員室のクーラーを設置していた小学校があったと報じられています。学童保育所の不安定な立場を象徴するような事件です。

学童保育の運営費流用、職員室や校長室にクーラー 大阪(朝日新聞)

学童保育の運営費流用、職員室や校長室にクーラー 大阪
[asahi.com 2008年7月29日19時15分]

 大阪府東大阪市の市立加納小学校が、共働き家庭の児童らが放課後などに過ごす学童保育クラブから預かった運営費約570万円を流用し、体育倉庫の建て替えなど学校施設の整備に使っていたことがわかり、市教委が調査を始めた。職員室や校長室へのクーラー設置にも流用されており、校長(59)は学童保育と関係のない不適切な支出だったと認めている。
 同小や市教委によると、クーラーは06年6月に職員室、07年9月に校長室に計3台設置。その際、校区内の自治会長やPTA会長らでつくる学童保育クラブの運営委員会からの預かり金を流用した。
 同小の学童保育クラブは全校児童約660人のうち、1?3年の約60人が利用。クラブ室は校庭の一角にあり、年約400万円ある市の助成金や、児童1人あたり月額5千円の保護者負担金などで、指導員4人の人件費や施設補修費をまかなっている。
 校長によると、02年春に教頭として赴任し、クラブの会計担当を引き継いだ際、正規の通帳と別に、これまでの余剰金を裏金としてプールした通帳を渡された。余った助成金は本来はその都度返還する必要があるが、内々に使い切って処理しようと判断。05年秋、当時の校長や運営委員長と相談し、老朽化していた体育倉庫の建て替えに340万円を流用し、06年春に校長になった後もホタル池の整備などに約120万円、職員室や校長室へのクーラー設置に約110万円を使った。いずれも市教委には報告しなかったという。
 校長は朝日新聞の取材に、「裏金で問題はあったが、子どもたちのために使うならいいと考え、体育倉庫の建て替えに使ったのが最初。私的流用は一切ない」と説明。校長室などへのクーラーの設置については子どもに直接関係がなく、不適切な支出だったと認め、費用は個人で市へ返還する意向を示した。
 この問題は、今春にメンバーがほぼ一新されたクラブの運営委員会が、通帳や領収書を調べて発覚。一時600万円を超えた裏金口座の残高は学校設備への流用で現在は約50万円に減っているという。
 市教委は校長らの処分を近く府教委と相談するとともに、クラブの運営以外に使われた助成金について精査し、現在の運営委員会に対して返還を求める方針だ。運営委員会は、流用にかかわった校長ら関係者に、その弁済を求めるという。
 同市の小学校では、校長室にはクーラーが設置されているが、職員室には認められていない。加納小の校長室にはもともと93年に設置されているが、市教委に無断で付け替えられていたという。
 同市では、市立石切東小学校の学童保育クラブでも06年秋にずさんな口座管理が問題化。01?04年度に使途不明金約400万円があり、市教委は適切に支出されていなかった助成金約90万円の返還を求めたほか、07年度分以降の収支決算書には1万円以上の領収書を添付するよう義務づけた。しかし今回の加納小のケースは指摘されるまでチェックできなかったという。

この東大阪の学童保育所は、市の助成金400万円+児童1人あたり月5000円の保護者負担金で運営されているということですが、利用児童は60人ということですから、年間予算は760万円。これで指導員4人の人件費や施設の補修費用を賄っているとありますが、補修費用がゼロだとしても、指導員1人あたり払える人件費は年間最大190万円にしかなりません。

使い込まれた余剰金は裏金ということになりますが、こんな限られた財政基盤しかないところでは、余ったお金を積み立てておこうと思うのは、ある意味、やむを得なかったことではないでしょうか。

いずれにせよ、このような不安定な状態でしっかりした学童保育ができるのか? そこを考える必要があるのではないでしょうか。

【追記】

避難寸前幼い命のむ 神戸・都賀川4人死亡(神戸新聞)

避難寸前幼い命のむ 神戸・都賀川4人死亡
[神戸新聞 7/29 09:34]

 瞬く間に勢いを増した濁流が、夏休み中の子どもたちを次々と襲った。28日、神戸市灘区の都賀川(とががわ)で起きた水難死亡事故。集中豪雨で一気に水かさを増した流れが水遊びなどに訪れていた児童、園児らをのみ込み、計4人が亡くなった。普段は水深が浅く、住民らの憩いの場だった水辺。しかし、雨天時には急な増水の危険性も指摘されていた。幼い子どもらが犠牲になった事故に、関係者らは「子どもたちが楽しみにしていた夏休みなのに…」と声を震わせた。
 突然襲いかかった濁流は、瞬く間に子どもたちの背丈にまで迫った。岸辺へ逃れようと女児(9つ)と手をつないでいた男児は、流れにのまれて姿が見えなくなった。最後まで男児の手を懸命に握っていた女児は「重たくなって、手を離してしまった」と、取り乱しながら父親(36)に話した。
 現場は、六甲学童保育所「どんぐりクラブ」=神戸市灘区篠原中町1=から歩いて15分ほど。川幅は約15メートル、道路までの高さは6-7メートルの親水空間で、西岸の道路から階段で河川敷に下りられる。この日は午後1時半ごろ、職員ら3人が子ども19人を連れて水遊びに訪れ、3時すぎのおやつの時間に帰る直前の事故だった。
 同クラブは午後8時から緊急保護者会を開き、約25人の保護者に事情を説明。10時前には、どんぐりクラブ運営委員会の安藤昭治委員長(56)が会見し「責任を痛感している。申し訳ない」と頭を下げ、遺族には「守りきれなかったことをおわびしたい」と語った。
 引率していたのは40代の保育士資格を持つ女性と60代の女性職員と大学生のボランティアで、職員が橋の下に避難させて間もなく雷雨がひどくなったため、川から上がろうとしたところへ、水かさが一気に増したという。
 一方、河合玲緒さん(12)と泉谷瑠希也君(10)の2人が通っていた神戸市立六甲小学校=同市灘区八幡町4=では藤野英一校長(55)が会見し、「こんなことが起き、悔しさでいっぱい」と目に涙を浮かべた。
 藤野校長は「河合さんは笑顔がかわいく、泉谷君は給食の後片付けなどを頑張っていた。夏休みは水の事故に気をつけるよう注意していたのに」と肩を落とした。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

2件のコメント

  1. ピンバック: 札幌生活
  2. もう何年も経ってしまったし、今更こんなコメントをしても見てもらえないと思います。

    私は、どんぐりクラブに通っていて、当時は1年生でした。

    れおちゃんとは仲が良く、その日も川で一緒に遊んでいました。

    濁流の中、皆がバラバラに歩いていて、私は一人でした。

    後ろを振り返ると、遠いところにれおちゃんがいて、2度目に振り返るといなくなっていました。

    歩くのに疲れて流されようとしましたが、膝がすったので諦めて登り続けたした。

    階段につくと、1段目はもう完全に埋まっていて、2段目も半分まで水がきていました。

    れおちゃんと同い年の男の子が階段で引っ張り上げてくれて、スーパーで泣きじゃくっていた私の頭を、3つ上の男の子が撫でてくれました。

    あの日の雷が1番怖かったことを覚えています。

    どんぐりに着くと1度停電になりました。

    私と同い年の男の子のお父さんが持ってきてくれたお餅が、ショックと不味さで食べきれませんでした。

    大学生と一緒に避難した子たちを皆心配していて、でもちゃんと帰ってきてくれたので、れおちゃんとるーくんもきっと帰って来てくれると思っていました。

    緊急保護者会が行われている夜も、すごく不安だったけどそれを信じていたので、亡くなったと聞いた時のショックは大きかったです。

    母が車で迎えに来てくれましたが、マスコミがどんぐり前で待ち構えていて、母は私を先に車に乗せ、マスコミに対応していました。

    マスコミがとてもウザく思えたことを覚えています。

    卒業するまで、最後の語り部として、どんぐりっ子にこの話を聞かせていました。

    2年生の時、1つ下の心友が入って来て、友達になった後に、階段でこの話をしたのを覚えています。

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