坂田教授から学んだこと

ノーベル賞受賞で、益川さんも小林さんもあっちこっちの対談やインタビューに登場されていますが、そのなかでも、いろいろと大事なことを言っておられます。気のついたかぎりで、ピックアップしておきます。

1つめは、「日本経済新聞」の本日付朝刊にのった益川さんへのインタビュー。坂田昌一氏から学んだことについて、かなり立ち入って答えておられます。

(前略)
 ――坂田教授から学んだことは。
 「私は坂田先生の不肖の弟子なので、書かれた本を大事にして、いまでも時折眺めている。坂田先生は『凡人の科学』とよくおっしゃっていた。並みの人間でも方法論がしっかりしていれば、科学ができるということだ。坂田先生は凡人ではないが、そういう言い方で若手を励ました。私はそれにまんまと乗せられて科学者になった」
 「先生の自然観からも強い影響を受けた。(素粒子の振る舞いなど)自然の性質は神様が決めたのだから分からない、ということでは決してない,『それはなぜか』と問うことができ、自然界の構造の中に必ず答えが用意されている」
 「坂田先生は『階層性』という言葉で表現したが、タマネギの皮をむくような繰り返しの中に必ず異質なものがなければならない。そうした坂田思想が、理論を考えるときにも影響している」
 ――日本の科学研究は実利・実用を重視する傾向が強まっていますが、どう受け止めていますか。
 「東北のある湾でカキを養殖していたが、あるときから生産性が落ちてきた。調べてみると湾に流れ込む川の上流で開発が進み、栄養が流れ込まなくなっていたという。科学も同じで、上流(基礎研究)から栄養が流れ込まなくなると大変なことになる。そのことを為政者は注意してほしい」
 ――基礎的な研究への資金配分が少ないということですか。
 「お金の問題もあるが、それよりも精神構造が問題だ。大学でもベンチャービジネスばかりに目がいくような体制はよくない。基礎科学に十分関心がいく社会であってほしい」

同じ「日経新聞」の江崎玲於奈氏との対談で、小林誠さんは、次のようなことを指摘されています。

 ――理科離れも言われていますが、日本の実力を伸ばすには何が必要ですか。
 (中略)
 小林 科学には自然に対する人間の認識が進んでいく、ある種のヒストリー(歴史)がある。そういうヒストリーをもっと一般の人に伝え、理解していただくのがよい。1つ1つの事実よりも、サイエンスの営みのようなものが見えるようにした方が興味がわくと思う。
 (中略)
 ――実験などにはお金がかかりますが、一定の対価を払ってでも学問は進めるべきだと思いますか。
 小林 学問が進んでいくと限界がどんどん先に行き、それを確かめる実験の規模が大きくなる。それは学問の進展上、必然的なことだ。高エネルギー物理学では、一国でできる規模を超えて、国際協力が重要になる。
 どの分野の人でも自分の研究を進めたいと思うわけで、それをどこにどう投資し資源配分するかを決定するメカニズムが必要になる。そのうえで大型の実験を進めていかなければならない。
 日本では基礎研究はどちらかといえば、ないがしろにされていると思う。物理のように日本人が世界的に活躍している分野でも、応用に近いものが多い印象があり、考え直すべきではないか。
      □      □
 ――若い研究者に伝えたいことは。
 小林 新しいブレークスルーは多様な考え方の中から出てくる。どこにチャンスがあるか分からない。バラエティー(多様性)をつくるにはそれぞれの研究者が自分独自のものを持つことが必要。自分のアイデアを大切にして頑張っていただきたい。
 (中略)
 ――日本で独創性をはぐくむのに必要なことは何でしょうか。
 小林 どうすれば独創性が身につくかわかれば苦労はない。いかに広い可能性を用意するかに尽きると思う。

「毎日新聞」での、やはり江崎氏との対談で、小林さんは、こんなことも語っておられます。

――ここ十数年、理科離れが進んでいるといわれますが、実際にそう思いますか。もしそうならどんな対策が必要でしょうか。
 (中略)
 小林氏 高校の物理の教科書を最近見る機会がありますが、問題をとくことにウエートが置かれているのですね。物理は全体のストーリー、全体のロジック(論理)、意味とかいう部分があまり強調されていない。教科書は大変コンパクトになっていて、肝心なことが1行、2行で書いてあり、書いてあるからいいんだ、という感じがしますね。教科書はもっとぶ厚くてもいいから、読本というようなアプローチが必要ではないかと感じます。
 (中略)
 ――役に立つ研究、早く成果が出る研究が求められすぎだという声も聞かれますが。
 小林氏 我々は基礎物理の立場ですから、そういうこととは別の方向にいるわけで、もちろん、そういう傾向を感じます。危機感を感じています。

同じ「毎日新聞」のインタビューで、益川さんも、日本の教育のあり方については非常に厳しい認識を示しされています。

 ――「科学者も社会的な状況を考えなければいけない」が持論だとお聞きします。今の社会に言いたいことは。
 科学者ですから言えるのは教育のこと。大変危機的な状況にあります。考えない子供を一生懸命製造している。大学受験の厳しさが非常に大きな影響を与えています。日本福祉大の先生が「教育汚染」という言葉を使っていますが、私も今の教育は(筋道を立てて考える力を奪うという意味で)、子供を汚染していると思います。

小林・益川理論について、こんなページを発見しました。高エネ研のウェブサイトのなかのページです。

世界を変えた一つの論文 : KEK 高エネルギー加速器研究機構

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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