マルクスは彼が予言しなかったことを予言した?!

ロサンゼルス・タイムズ紙のインターネット版に、こんな記事が載っていました。

Karl Marx may have been prescient, but not that prescient | Los Angeles Times

見出しだけだと分かりにくいですが、世界的な経済危機が広がるなかで、マルクスの『資本論』から引用と称して、ある文章が、1カ月ほど前からインターネットを流れているのだそうです。

そのマルクスの文章なるものを、記事から翻訳すると、こんなふうになります。

 資本の所有者たちは、労働者階級に、家だとかテクノロジーだとか、もっとたくさん高価な財を買わせようとするだろう。そのために、彼らにもっと高価な信用を押しつけるだろう。彼らの債務が破綻するまで。支払われない負債は銀行を破綻に導くだろう。銀行は国有化され、国家は、最終的には共産主義に至る道をとらざるをえなくなるだろう。――カール・マルクス『資本論』1867年

もちろん、『資本論』にはこんな文章はありません。この記事でも「ブログの世界blogosphereでも、誰もこの文章を見つけていない。marxist.orgのサイトでも、この文章か、似たような文章は見つけられない」と書かれています。「あまりにぴったりしすぎていて、マルクスがCNNのスタジオで書いたようだ」という識者のコメントが紹介されていますが、本当にそのとおりです。

同紙は、この文章を、次のように言って紹介しています。なかなかいまのアメリカ人の心境を示していておもしろいです。

 もし、本当に彼がこう言っていたら、アメリカ人は、カール・マルクスにたいして、新しいまっとうな尊敬を――あるいはおそらく恐怖をいだくだろう。

そして、記事の最後では、「現在の経済・金融システムの混乱にぴったりの引用」として、先日の「カンブリア宮殿」でも共産党の志位和夫委員長が紹介していた、有名なフレーズが紹介されています。これは、正真正銘、『資本論』第1部、第8章「労働日」第5節に出てきます。(記事の英文から訳してみました)

どんな投機の場合も、いつかは破綻がやってこざるをえないことは、誰もが知っている。しかし、みんな、自分自身が黄金の雨を受けとって、それを安全な所に運んだあとで、隣人の頭に命中するように願っている。“わが亡き後に洪水よ来たれ!” これがすべての資本家とすべての資本家国家の標語である。だから、資本は、社会から強制されなければ、労働者の健康や寿命のことを少しも気にかけないのである。

ということで、記事のタイトルは、中味からすると、「マルクスは彼が予言しなかったことを予言した」といったところでしょうか。(^^;)

Karl Marx may have been prescient, but not that prescient

[Los Angeles Times 10:24 PM, February 11, 2009]

If only he had actually said it, Americans might have a healthy new respect for — or maybe fear of — Karl Marx.

This hoax quote has been going around the Internet for at least a month now, attributed to the man most associated with the rise of communism:

"Owners of capital will stimulate the working class to buy more and more of expensive goods, houses and technology, pushing them to take more and more expensive credits, until their debt becomes unbearable. The unpaid debt will lead to bankruptcy of banks, which will have to be nationalized, and the State will have to take the road which will eventually lead to communism." — Karl Marx, Das Kapital, 1867

In the blogosphere, no one who has looked into it has found any such actual quote from Marx. Can't find it, or anything remotely similar-sounding, on marxists.org, either.

As Megan McArdle at the Atlantic magazine wrote, the wording immediately sounded "a little too apropos, as if Marx were writing from the CNN green room."

Still, Marx did predict that communism would be the last stage in the evolution of human society, once the working class finally revolted against exploitation by the capitalist class. His vision, however, was one of utopian communism, not the authoritarian communism of the old Soviet Union.

As for genuine Marx quotes apropos of the current economic and financial-system mess, here's one:

"In every stockjobbing swindle every one knows that some time or other the crash must come, but every one hopes that it may fall on the head of his neighbour, after he himself has caught the shower of gold and placed it in safety. Après moi le de'luge! is the watchword of every capitalist and of every capitalist nation. Hence Capital is reckless of the health or length of life of the laborer, unless under compulsion from society."

— Tom Petruno

ごく大雑把なヘッポコ訳です。

カール・マルクスは予言をしたかもしれないが、それは彼が予言しなかったことである

[Los Angeles Times 10:24 PM, February 11, 2009]

 もし、本当に彼がこう言っていたら、アメリカ人は、カール・マルクスにたいして、新しいまっとうな尊敬を――あるいはおそらく恐怖をいだくだろう。
 次のような引用章句が、この1カ月というものインターネットの世界を駆け巡っていて、人々はそれを共産主義の隆盛に結びつけている。

 資本の所有者たちは、労働者階級に、家だとかテクノロジーだとか、もっとたくさん高価な財を買わせようとするだろう。そのために、彼らにもっと高価な信用を押しつけるだろう。彼らの債務が破綻するまで。支払われない負債は銀行を破綻に導くだろう。銀行は国有化され、国家は、最終的には共産主義に至る道をとらざるをえなくなるだろう。――カール・マルクス『資本論』1867年

 ブログの世界でも、誰もマルクスから実際にはこんな章句を見かけた人はいない。これ、あるいはそれにした章句は、marxist.orgでも見つからない。
 ミーガン・マッカードルはアトランティック・マガジンに、この文章は「あまりにぴったりしすぎていて、マルクスがCNNのグリーン・ルームで書いているようだ」と書いた。
 もちろん、マルクスは、ひとたび労働者階級が資本家階級による搾取にたいする最終的な革命に立ち上がれば、共産主義が人類社会の進化の最終段階になるだろうと予測した。しかしながら、彼の予見は、旧ソ連の権威主義的共産主義ではなかったが、空想的共産主義の1つだった。
 現在の経済・金融システムの混乱にぴったりの、本物のマルクスの引用章句はこうだ。

 どんな投機の場合も、いつかは破綻がやってこざるをえないことは、誰もが知っている。しかし、みんな、自分自身が黄金の雨を受けとって、それを安全な所に運んだあとで、隣人の頭に命中するように願っている。“わが亡き後に洪水よ来たれ!” これがすべての資本家とすべての資本家国家の標語である。だから、資本は、社会から強制されなければ、労働者の健康や寿命のことを少しも気にかけないのである。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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