感染者に「申し訳ない」と言わせる日本社会の異常

いまテレビのニュースでやっていましたが、新型インフルエンザに感染した高校生の通う学校の校長先生が記者会見し、高校生から「迷惑をかけて申し訳ない」と連絡があったと涙ながらに話していました。

しかし、病気になって入院している人に「申し訳ない」と言わせるとは、まったくもって日本社会は異常すぎます。

首都圏で初の感染者、その余波は : TBS News-i

そもそも、新型インフルエンザに感染したのは本人の責任でも落ち度でもありません。ニューヨークへ行ったから感染したのだ、ということもできません。なぜなら、ニューヨークへ行っても感染しなかった人はたくさんいるからです。

新型インフルエンザには、誰でも感染する可能性があるのであって、感染するかどうかは確率の問題。ようするに偶然です。

だから、感染したことに責任を感じる必要はまったくありません。むしろ、高校生には無事に早く治ってほしいと、みんなが願って当然なはず。にもかかわらず、感染した本人に「申し訳ない」と言わせるとは…。日本社会の狭量さを見せつけられ、薄ら寒い心地がしました。

首都圏で初の感染者、その余波は

[TBS News-i : 最終更新:2009年5月21日(木) 21時2分]

 首都圏で初めて確認された新型インフルエンザへの感染。女子高校生はニューヨークでイベントに参加していました。
 「八王子に入院した生徒から、本当に申し訳なかったと伝えてほしいという伝言がありました」(洗足学園高校 前田隆芳 校長)
 21日午前、涙ながらに会見を行った洗足学園高校の前田校長。2人の女子生徒の新型インフルエンザ感染が確認されてから一夜、学校は来週27日までの臨時休校を決めました。
 対象は幼稚園から大学院までの5000人あまりに及びます。
 「びっくりしました。今日は学校あると思ったので来たので」(登校した生徒)
 「(生徒や保護者が)動揺したり混乱したりすることがないよう、少し時間を空けたい。住民の方への学校の姿勢を示すという意味でも、休校にする必要があるだろうと」(洗足学園高校 前田隆芳 校長)
 首都圏での初めての感染確認。都内の駅では21日朝、マスク姿の人が急増しました。

【マスク姿の人は――】
 「今日からです。東京でニュースを見たので」
 「電車乗る時は大分怖いので、電車の中だけは必ずつける」
 JRや京王電鉄、東急電鉄など各鉄道でも駅員と乗務員がマスクを着用しました。また、ミニストップなどのコンビニ店は、女子生徒が住む八王子市と川崎市の店舗などで店員のマスク着用を義務づけました。さらに、一部の遊園地や映画館などでも従業員のマスク着用が始まりました。
 こうした一方で、東京都と神奈川県は冷静な対応を呼び掛けています。
 「県内での濃厚接触の可能性は極めて低い。関西のように一挙に感染が広がる可能性は高くない」(神奈川県 松沢成文 知事)
 2人は別々の病院に入院し、快方に向かっているということです。(21日17:07)

繰り返し指摘しておきますが、感染防止策としては、マスクはほとんど効果がありません。マスクは、感染した人が咳・くしゃみで飛沫を飛ばさないように使用するものです。

かえって、「マスクをしていれば安心だ」という誤解を与えかねないので、メディアは、マスク着用を推奨するかのような報道をただちに止めるべきです。

高校生の母親がネット中傷を恐れ、「感染疑い」の段階での公表をやめてほしいと市に申し入れていたというニュース↓。これまた異常な話。こういう輩がいるから、病人が「申し訳ない」と言わなければならなくなるのです。

新型インフル:「確定前の公表やめて」ネット中傷恐れ要望(毎日新聞)

新型インフル:「確定前の公表やめて」ネット中傷恐れ要望

[毎日新聞 2009年5月21日 21時27分(最終更新 5月21日 23時12分)]

 新型インフルエンザに感染した川崎市の女子高校生(16)について、川崎市は21日、インターネットで中傷されることを恐れた母親の希望を受け、感染疑い例として厚生労働省に届け出た時点では公表しなかったことを明らかにした。通常は公表する情報で、坂元昇・市医務監は「年齢や性別など個人が特定できる情報を省き公表することもできた」と釈明したが、感染者を差別するネットの書き込みが公表にまで悪影響を及ぼしている。
 川崎市によると、女子生徒は20日午後3時ごろ、市内の感染症指定医療機関の簡易検査で、インフルエンザA型陽性と判明した。動揺した母親が「公表すれば、疑い例でも兵庫や大阪と同じようにインターネット上で批判される。娘がショックを受け自殺するかもしれない」と訴えた。市幹部らは協議の末「本当に感染していた場合、聞き取り調査などで女子生徒の協力は不可欠」と判断し、母親の意向を尊重して感染確定まで公表しないことを決めた。
 感染症法は、新型インフルエンザ感染の疑いが強い患者に対し、遺伝子検査で確定する前でも、感染症指定医療機関などへの入院措置を取れると定める。このため厚労省は自治体に「疑い例」が出た段階で、速やかに報告するよう通知している。【川端智子、清水健二】

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ところで、今日の「毎日新聞」に載っている押谷仁・東北大教授のコメントは大事なところを突いていると思います。

新型インフルエンザ:「患者の大半、入院不要」 感染研など、神戸の症例分析(毎日新聞)

「季節性」と同じ被害ではない

[毎日新聞 2009/05/21]

 厚生労働省新型インフルエンザ専門家会議委員の押谷仁・東北大教授(ウイルス学)の話 新型インフルエンザは軽症が多く、季節性と同じ程度と国内で関心が薄れつつあるが、決して季節性と同じ被害を及ぼすウイルスではない。死因が全く違う。季節性は高齢者が最近の2次感染などで関連死する例が多いが、新型の多くは子どもと20?50代の成人で、ウイルス性肺炎による呼吸不全で亡くなっている。
 国内では、医療の効率化や医師不足で集中治療室(ICU)のベッドや人工呼吸器が削減されている。妊婦が感染した場合、重症化する恐れがあるが、産科医も不足している。このままでは、日本の医療の弱点が突かれて被害が拡大する恐れがある
 感染者は国内で200人を超えたが、少なくとも10倍はいるだろう。今後、数週間から1カ月でかなり大きな感染拡大が起きることは避けられず、数十万単位にのぼる可能性がある。米国は初感染から1カ月後に初めての死者が出た。日本はニューヨークとほぼ同じ状況だ。今後、ある一定の割合で重症者、死者が出ることも覚悟しなければならない。【構成・関東普慈】

「症状が軽いから」といって油断するのではなく、これから蔓延していくときに重症者・死亡者を出さないようにするためにどうしたらよいか。ここに努力を集中する必要があると思います。

それにしても、政府の「水際作戦」は完全に破綻したうえ、初期の封じ込めにも失敗しています。感染者200人の段階で、すでに医療関係者からは「このままでは医療機関はもたない」との“悲鳴”も上がっています。もしこれが強毒性の鳥インフルエンザだったら、いったいどうなったか? 日本の医療そのもののあり方を根本的に考え直す必要があるようです。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

1件のコメント

  1. 本当、日本社会って怖いです。イラクで殺された香田さんの時もそうだったし、めちゃめちゃ全体主義的ですよね。インフルなんて遅かれ早かれいずれ上陸したに決まってるのに。江戸時代じゃないんですよ?毎日毎日世界中の人や物をのせた船舶や飛行機が出入りしているというのに。偶然日本での最初の感染者になってしまった人がお気の毒です。理不尽な批判にさらされ、自分が悪いことをしたのだと思わされ、一生のトラウマになってしまうのではないでしょうか?もうちょっと心を広く持たないと、日本社会は人間らしい人間の住めない社会になってしまい衰退していくのではないでしょうか。

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