吉岡吉典さんの最期の2冊

吉岡吉典『「韓国併合」100年と日本』(新日本出版社)吉岡吉典『ILOの創設と日本の労働行政』(大月書店)

昨年、亡くなられた吉岡吉典・日本共産党元参議院議員の遺著が2冊発売されました。左が新日本出版社から出た『「韓国併合」100年と日本』、右が大月書店から出た『ILOの創設と日本の労働行政』です。

吉岡さんは、これまでも『侵略の歴史と日本政治の戦後』『日本の侵略と膨張』『日清戦争から盧溝橋事件』『史実が示す日本の侵略と「歴史教科書」』『総点検日本の戦争はなんだったか』(いずれも新日本出版社)など、数多くの歴史書を書かれています。テーマの1つは日本の侵略戦争であり、もう1つが「韓国併合」と日本の植民地支配です。

日本政府は、韓国・朝鮮の植民地支配については、一定の反省を表明していますが、しかし、「韓国併合条約」については「合法的に結ばれた」との立場をとり続けています。吉岡さんは、国会議員時代には、内閣が交代するたびに、この問題での歴史認識を歴代首相に正してきたほど、この問題にはこだわり続けてきました。来年2010年は、この「韓国併合」からちょうど100年目の節目の年であり、植民地支配の誤りを反省するだけでなく、「併合条約」そのものの違法性を明確に認識する必要がある――そのことに、最期までこだわり続けたのが、吉岡さんでした。

吉岡さんは、国会議員となるまえは、共産党の「しんぶん赤旗」の記者を長くやっておられました。それだけに、吉岡さんの歴史書は、いわゆる学者風の研究書ではなく、関連する資料や文献をこれでもかというぐらいに徹底的に調べ上げながら、よい意味でジャーナリスティックに、問題の焦点にずばり切り込んでいるのが特徴です。その分、専門研究書よりも、分かりやすく、面白く読めるかも知れません。

本書の章立ては、以下のとおり。

 序章 日本の朝鮮侵略にかかわる各地の記念施設を巡って(『季論21』第4号、第5号掲載、2009年)
 第1章 「韓国併合」とはなんだったか
 第2章 戦後日本と「併合条約」(『前衛』2009年10月号、11月号掲載)
 第3章 法的にも明確にし、100年来の課題に決着を
 おわりに 私と朝鮮研究
 3・1運動90周年に思う(2009年3月1日、韓国ソウルでの講演)

中塚明・奈良女子大名誉教授が解題で書かれているように、本来であれば、第1章「『韓国併合』とはなんだったのか」と、第2章「戦後日本と『併合条約』」のあいだに、韓国を「併合」する過程についての具体的な歴史叙述が入るはずでしたが、吉岡さんが急逝されたために、それはかないませんでした。

もちそん、「韓国併合」のプロセスについて、吉岡さんは、これまでにも何度か書かれたことがあります。本書では、それを自分でも納得の行くところまで突きとめ、まとめられたかったのだろうと想像しますが、かえすがえす残念でなりません。

2冊目は、実物を手にとって、初めて、吉岡さんがこんな問題にも関心をもって追及されていたんだと思った著作です。有名な話ですが、1日8時間労働の原則をうたったILO第1号条約(1919年)を、日本はいまだに批准していません。それだけでなく、ILOの183条約のなかで日本が批准しているのはわずか44、4分の1にもなりません。よく日本の資本主義は「ルールなき資本主義」だといわれますが、ILOなどが中心となって、つくられてきた労働のルールが、日本ではこれほど軽視され、ないがしろにされ、しかもそのことがあまり広く知られていないために、そのまままかり通っているのです。

刊行委員会の「本書の刊行にあたって」によれば、原稿は2001年の初めには大要が書き上げられていたとのこと。しかし、本書をパラパラとめくってみると、多くの人に広く読んでもらうために吉岡さん自身、もっともっと文章的にも練り上げていかなければならないと思っておられたことは間違いありません。見出しや若干のコメントをはさみながら、膨大な資料の引用が何ページも続くところなどもあって、一冊の本の形にするために、刊行委員会のみなさんのご苦労も多かったことだろうと推測します。

しかし、その膨大な資料の間から、吉岡さんの強烈な問題意識が浮かび上がってきます。ILO条約の問題は、専門書はいろいろあっても、なかなか広く一般の読者が手に取れるような本がなかったこともあわせ考えると、実に貴重な仕事をされていたのだとあらためて感心させられました。

私もまだようやく手に取ったばかり。これから、じっくり、真剣に吉岡さんの最期の2冊を学びたいと思います。

【書誌情報】

  1. 著者:吉岡吉典(よしおか・よしのり)/書名:「韓国併合」100年と日本/出版社:新日本出版社/刊行:2009年11月/ISBN978-4-406-05291-7/定価:本体2000円+税
  2. 著者:吉岡吉典(よしおか・よしのり)/書名:ILOの創設と日本の労働行政/出版社:大月書店/刊行:2009年12月ISBN978-4-272-31047-0/定価:本体3000円+税/

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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