自民党憲法改正素案(続報)

自民党憲法調査会の改正素案についての続報。

いまただちに徴兵制にふれることは否定しているとはいえ、「国家の独立と安全を守る責務」をもりこむとしている。韓国では「国を愛する義務」にもとづいて徴兵制が敷かれていることからも分かるように、これが憲法にもりこまれれば、将来的には徴兵制も拒否できないことになる。

自民が憲法改正素案 「自衛軍」設置、女性天皇は容認(朝日新聞)
自民憲法調査会:草案大綱素案 集団的自衛権の行使を明記(毎日新聞)
「自衛軍」が秩序維持 女性天皇認める 自民が改憲大綱素案(産経新聞)
自民改憲素案 海外での武力行使容認/『自衛軍』設置を明記(東京新聞)

それから、読売新聞が、自民改憲素案は「新憲法へ一つのたたき台になる」と持ち上げる「社説」を掲載。

社説[自民改憲草案]「新憲法へ一つのたたき台になる」 (読売新聞)

自民が憲法改正素案 「自衛軍」設置、女性天皇は容認(朝日新聞)

 自民党憲法調査会(保岡興治会長)は17日、憲法改正草案大綱の素案をまとめ、同日の憲法改正案起草委員会に提示した。前文を含む現行憲法の全面改正を目指すもので、焦点の9条については「戦争放棄」をうたった1項は残すものの、「自衛軍」の設置と集団的自衛権の行使を明記した。象徴天皇制は維持するが、天皇を「元首」と明確に位置づけ、女性天皇も認めた。
 素案は前文に盛り込む「基本的考え方」と、「総則」から「改正」までの9章で構成。今年1月からの調査会の議論を踏まえ、調査会幹部がまとめた。年内に大綱をまとめ、結党50年の来年11月に党の憲法改正草案として正式決定する。
 安全保障に関する規定では、「個別的、集団的自衛権を行使するための必要最小限の戦力を保持する組織として、自衛軍を設置する」とし、現行の憲法解釈では認められていない集団的自衛権行使の容認に踏み込んだ。また、自衛軍の任務として、「国際貢献のための活動」を明記、海外での武力行使を伴う活動にも道を開いた。
 一方で、武力行使を伴う活動を行う場合、原則として事前の国会承認を義務づけるなど、一定の歯止めをかける規定も整備。「国民の責務」として「国家の独立と安全を守る責務」を挙げたが、徴兵制は否定している。非核3原則も憲法に盛り込むとした。
 天皇については「元首」としての位置づけを明確化。「皇位は世襲で男女を問わず皇統に属する者が継承する」として、女性天皇を容認した。「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌とすることも「総則」に盛り込む。
 基本的人権に関しては、「新しい権利」を追加するとして、具体的には(1)名誉権(2)プライバシー権(3)肖像権(4)知る権利(5)犯罪被害者の権利、を挙げた。青少年を保護するため、「出版及び映像に関する規制を法律で定める」との規定も創設する。
 国会は二院制を維持するが、衆院の優越性を強化する。地方自治では新たに道州制を導入し、自治体を道州、市町村、自治区(仮称)に分ける。
 憲法改正手続きを緩和し、国会が国民投票を提案できる条件を、現行の衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成から過半数の賛成に変えるほか、国民投票を実施しなくても、衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で改正案を成立させることができるとした。
(asahi.com 11/17 11:41)

自民憲法調査会:草案大綱素案 集団的自衛権の行使を明記(毎日新聞)

 自民党憲法調査会(保岡興治会長)は17日、憲法改正案起草委員会の初会合を開き、新憲法草案大綱の素案を提示した。天皇制に関し、象徴天皇を「元首」と明確に位置づけ、女性天皇を容認。海外での武力行使も可能とする「自衛軍」を創設し、集団的自衛権の行使を明記した。プライバシー権など新しい権利を盛り込む一方で、国民に対し、国防の責務を新たに課すとしている。
 素案は9章構成で、現行憲法の全面改正を前提にしている。自民党は12月に大綱を作成し、結党50周年の来年11月をめどに条文化した新憲法草案を策定する方針だ。
 焦点の安全保障分野では、「国民主権」「基本的人権の尊重」と並ぶ基本原則として、戦争放棄を堅持しながら、積極的に国際平和の実現に寄与する「新しい平和主義」を提唱。これに沿って個別的または集団的自衛権を行使するため、最小限の戦力を保持する「自衛軍」を創設。国防のほか、公共の秩序の維持、武力行使を含む国際貢献も任務とした。素案では現行憲法解釈で認められていない集団的自衛権の行使に踏み込んだのが特徴。
 基本的人権ではプライバシー権、犯罪被害者の権利、環境権など現行憲法が明示していない「新たな権利」を規定。国民の義務として「国民は国防の責務を有する」とし、武力攻撃を受けた際の協力を義務付けている。
 天皇制では象徴天皇を「元首」に位置付けたが、国政に関する権能は有しないとした。男女を問わずに皇統に属するものが世襲するとして、女性天皇を認めた。国会に関しては衆参両院制を維持するが、衆院の優越を強化する。
 改憲手続きでは(1)両院議員の過半数の賛成と国民投票で有効投票総数の過半数の賛成(2)両院の議員の3分の2の可決??の2通りを提示。両院議員の3分の2の賛成と、国民投票の過半数の賛成の双方を要件としている現行の手続きの簡素化を打ち出している。【松尾良】
■新憲法草案大綱素案の骨子■
▽憲法の3基本原理として国民主権、基本的人権の尊重、新たな平和主義を明記
▽天皇は日本国の元首。女性天皇を容認
▽プライバシー権、知る権利など「新しい人権」を明記。国民に「国防の責務」を課す。徴兵制は禁止。
▽「自衛軍」を創設。集団的自衛権の行使と国際貢献のための武力行使を容認
▽国会は二院制を維持。衆院の優越性を強化
▽改憲手続きを現行より簡素化
毎日新聞 2004年11月17日 20時03分

「自衛軍」が秩序維持 女性天皇認める 自民が改憲大綱素案(産経新聞)

 自民党憲法調査会(保岡興治会長)の憲法改正案起草委員会は17日までに、同党が来年11月の結党50年をめどに取りまとめる憲法改正草案大綱の素案をまとめた。
 現憲法九条に関して自衛隊を集団的自衛権も行使できる「自衛軍」と位置付けた上で、武力行使を伴う国際貢献に参加できるとしたのが特徴。
 徴兵制は認めていないが国民には「国家の独立と安全を守る責務」を課す。首相は(1)防衛(2)治安(3)災害?の3つの緊急事態を公布でき、その際には自衛軍が秩序維持に当たる。緊急事態が布告された場合には憲法に規定された基本的な権利、自由を制限できる。
 天皇制については「日本国の元首」とし、女性天皇も容認した。
 起草委員会はこの素案を基に議論を進め、年内に改憲草案の大綱を決定する方針。ただ自民党内にも集団的自衛権行使など海外での武力行使には慎重な意見もあり、大綱取りまとめまでには曲折がありそうだ。
 自衛軍に関しては「個別的または集団的自衛権を行使するための必要最小限の戦力を保持する組織」と規定。九条一項の「戦争放棄」は残している。唯一の被爆国として非核三原則も盛り込む。
 憲法改正要件は現行規定を緩和。(1)衆参両院でそれぞれ総議員の過半数で国民投票に付す(2)総議員の3分の2以上の賛成がある場合は国民投票をしない?とした。
 衆参両院の2院制は維持するが、衆院の優越性を強化。参院議員は閣僚になれないとの規定も盛り込んだ。
 新たな人権としてプライバシー権や肖像権、知る権利(情報アクセス権)を列記。生命倫理への配慮規定も設けた。道州制導入や「憲法裁判所」新設も盛り込んだ。
              ◇
 自民党憲法調査会が17日までにまとめた改憲草案大綱の素案要旨は次の通り。
 【はじめに】国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの基本的原理は今後も維持。
 【第1章】天皇を象徴とする自由で民主的な国▽戦争放棄思想堅持、積極的に国際平和実現に寄与▽国旗は日の丸、国歌は君が代。
 【第2章】天皇は日本国の元首▽皇位は男女問わず継承。
 【第3章】(基本的権利・自由)名誉権、プライバシー権及び肖像権を保障▽知る権利を保有。
 (国民の責務)国民に国家の独立と安全を守る責務。国家緊急事態には国および地方自治体などの実施する措置に協力▽徴兵制は認めず。
 (社会目的としての権利・責務)教育はわが国の歴史、伝統、文化を尊重、郷土と国を愛し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を涵養(かんよう)▽良好な環境の下に生活する権利、保護する責務▽生殖医学、遺伝子技術の乱用から保護。
 【第4章】(平和主義)国際平和への寄与▽侵略戦争の放棄▽自衛、国際貢献のために武力行使を行う場合でも、武力行使は究極、最終の手段。必要かつ最小限の範囲を自覚▽武力行使は事前の国会承認必要▽非核三原則を明示。
 【第5章】(国会)国会は唯一の立法機関。司法、憲法両裁判所を統制▽両院制は維持▽国政調査権の充実▽国会の行政監視活動を補佐する議員オンブズマン設置▽衆院の優越条項強化。
 (首相、行政)首相のリーダーシップ明確化。
 (国会と内閣)首相は衆院議員の中から衆院の議決で指名▽閣僚はすべて衆院議員。そうでない場合は衆院の承認か次期衆院選立候補の宣言が必要。
 (司法裁判所)専門裁判所設置を明文化▽裁判員制度を認める▽憲法判断は憲法裁判所に移送。
 (憲法裁判所)法令の憲法適合性を決定する一審の裁判所。
 【第6章】(財政)1年を超えた期間を1会計年度として予算編成できる。
 【第7章】(地方自治)地方自治体は道州および市町村、自治区(仮称)。
 【第8章】(国家緊急事態、自衛軍)首相は(1)防衛緊急事態(2)治安緊急事態(3)災害緊急事態?の発生を認めた場合、布告▽国家緊急事態が布告された場合、基本的な権利・自由は制限できる▽国会緊急事態において国会の措置を待つ暇がないとき首相は法律で定める事項に関し政令を制定できる。その措置は国会の事後承認を得なければならない▽個別的、集団的自衛権行使のための必要最小限の戦力として自衛軍設置▽自衛軍の任務は、防衛、治安、災害の緊急事態での秩序維持、国際貢献のための活動(武力行使を含む)。
 【第9章】(改正)各議院の総員の過半数の賛成で改正案可決、国民投票の過半数で承認か総議員の3分の2以上で改正案可決。
(産経新聞 11/17 14:29)

自民改憲素案 海外での武力行使容認/『自衛軍』設置を明記(東京新聞)

 自民党憲法調査会は17日午前の起草委員会に、憲法改正草案大綱の素案を提示した。現行憲法9条1項の「戦争放棄」は維持する一方で、集団的自衛権の行使や、国際貢献のための武力行使を容認。必要最小限の戦力として「自衛軍」設置を盛り込んだ。
 素案は現憲法にはない「総則」で、国民主権、基本的人権の尊重とともに「新たな平和主義」をうたっている。日の丸、君が代を国旗、国歌として規定している。
 自衛や国際貢献のための武力行使については、「究極、最終の手段」「必要かつ最小限の範囲を自覚」とし、一定の歯止めをかけた。非核3原則も明示。徴兵制は認めない一方、国民には「国家の独立と安全を守る責務」を課している。
 新たな基本的人権として、現行憲法には明記されていない名誉権やプライバシー権、肖像権、知る権利を加えた。道州制導入や、憲法裁判所の新設も盛り込んだ。
 天皇制では、天皇を「元首」と位置付け、「皇位は男女問わず継承」として女性天皇を認めた。
 現行憲法では内閣に属する行政権を首相に属するとするなど首相のリーダーシップも明確化。2院制を維持するものの、衆院の優越性を強化し、閣僚は原則として衆院議員に限定している。
 憲法改正手続きでは(1)衆参両院でそれぞれ総議員の過半数の賛成で国民投票に付し、有効投票総数の過半数で承認(2)国民投票に付さずに、衆参両院の総議員の3分の2以上で可決――の2通りを示し、手続きを緩和する。
 自民党は年内に大綱を正式決定した上で、来年11月の結党50年をめどに憲法改正草案をとりまとめる方針だ。

[東京新聞2004.11.17]

11月18日付・読売社説(1)
[自民改憲草案]「新憲法へ一つのたたき台になる」

 論議にとどまっていた段階から、具体的な新憲法策定の局面に入ったということだろう。
 自民党憲法調査会の起草委員会が、憲法改正草案の策定に着手した。政党では初めてだ。来年十一月十五日の結党五十年の党大会で改正草案を決定する、という。
 民主党は「創憲」を掲げ、公明党は「加憲」を主張している。両党も、憲法改正への論議を前進させる時だ。二十一世紀の国家像、社会像を体現する新憲法制定へ論議を活発化させ、加速し、大きな流れとすべきである。
 読売新聞は、一九九四年以来、三次にわたって憲法改正試案を提言してきた。起草委の初会合で示された自民党の憲法改正草案大綱案は、大要で共通する。
 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という現憲法の基本原理を維持・発展させる、という。その上で、憲法制定後の内外情勢の劇的な変化を踏まえ、日本が進む指針となる国家像を提示する、という基本的な考え方を示している。
 焦点の九条は、第一項の「戦争放棄」を継承しつつ、「自衛軍」の設置を定めている。国際平和の維持・創出などのために「武力の行使」を認め、集団的自衛権の行使の容認も明確にしている。
 憲法制定時には想像もつかなかった国際情勢と安全保障環境の変化を考えれば当然である。
 基本的人権についても、名誉権・プライバシー権、知る権利、犯罪被害者の権利など「新たな人権」を明示した。規範順守や生命の尊重、歴史・文化・伝統の尊重、家庭の保護、環境保全の責務、生命倫理への配慮もうたっている。
 戦後の社会の激変が生んだ多様な問題に対処する上で、いずれも十分検討すべき課題である。
 自民党の改正草案大綱案には、無論、多くの批判や疑問もあり得る。だが、自民党のみならず、各政党、国民各層の間での憲法改正をめぐる幅広い論議の素材として、十分生かせるものだ。
 来年五月には、衆参両院の憲法調査会が最終報告書をまとめる。自民党に続いて、民主党は憲法公布六十年の再来年に憲法改正案を策定する。いよいよ憲法改正を政治日程に乗せるべき時である。
 その前に、なすべき課題は多い。
 憲法九六条に改正の規定はあるが、実際の改正に不可欠な国民投票法がない。自民党や民主党など超党派の衆参両院議員が既に法案をまとめている。次期通常国会で成立を図るべきではないか。
 衆参の憲法調査会が役割を終えた後、憲法改正常任委員会に衣替えし、改正案を審議する場を整えてはどうか。

(2004/11/18/01:29 読売新聞)

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