最上敏樹氏の指摘

イラク「主権移譲」問題について、ICU教授の最上敏樹氏が「東京新聞」7/7夕刊で論文を書かれています。曰く、

国際法の知識を持つ者なら、この言葉に多少とも違和感を覚えずにはいられないだろう。戦争が合法だった時代ならばともかく、今やそれが違法になり、他国の軍事占領も原則としてありえなくなった。だから、いままで主権を奪っていたと言い、それを移譲すると言っても、それが法的にどう説明できるのか、専門家であればあるほど、よく分からなくなるからである。

最上氏は、1700人以上にのぼる職員を抱えた米国大使館が米英占領当局(CPA)にとって替わり、占領軍が多国籍軍と名前を変えるだけで、「形式的に『占領』は終わるかもしれないが、実質的には何も変わらない」と指摘されています。

では、「主権が移譲されて、なおかつ占領が実質的に終わらないのだとすれば、いったい主権とは何なのだろうか」と問われ、次のように“20世紀の主権論”を展開されています。すなわち……

問題は、しかし、主権をもっと重く扱うべきだとか、その絶対性を回復すべきだということではない。主権が国際法の規制に従わねばならないという思想は、20世紀中にほぼ確定した。国家主権は、自国の横暴を他国に押しつけるための口実に使われてはならないのである。
 にもかかわらず、国々が他国の主権を停止したり、奪ったりすることもまた、安易には許されない。とりわけ、国際社会の権威ある決定(例えば国連安保理決議)なしに他国の主権を停止するようなことはできない、というのが国連憲章下の国際法の原則なのだ。

最上氏の言われていることはこうです。主権というのは大事なものだ、しかしだからといって、かつて戦争が主権国家の合法的な権利として認められた時代のように、国家主権を絶対的なものとして扱うべきではない。国家の主権は国際法の規制に従わなければならない――これが20世紀の国際法の考え方だ、同時に、だからといって、どこかある国が他国の主権を簡単に停止したり奪ったりするようなことはあってはならない。国連決議のような国際社会の権威ある決定によらない限り、他国の主権を停止させる(つまり、他国を侵略・占領する)ことは許されないというのが、国連憲章の明らかにした国際法の原則だと言うことです。

そういうふうに考えるならば、イラク「主権移譲」といわれる事態は、じつは米英による一方的なイラク攻撃・占領という最初のところから「ボタンのかけ違い」があったのであり、それをそのままにして「今さら『主権移譲』と言われても当惑する」だけだというのです。そうして、最上氏は次のように結論づけられています。

この尋常でない言葉を、ボタンを掛け違えたまま受け取るべきではない。むしろ「これまでの違法状態を徹底的にただす」という意味を込めてこそ、その言葉は、はじめ定義を持ちうるのではないか。

もちろん、日本政府も、国連憲章に代表される国際法の原則を大切にするのであれば、そういう立場でイラク「主権移譲」という事態に臨むべきです。「こんどは国連安保理決議があるから」と、アメリカの違法・不法をそのまま追認するようなことはやるべきでないし、自衛隊を多国籍軍に参加させ、実質的な占領体制の継続に手を貸すというようなことは絶対に許されてはなりません。

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