立川自衛隊官舎ビラ配布事件(2)

昨日、無罪判決が出た立川の自衛隊官舎ビラ配布事件ですが、今日の新聞の談話を見ていると、憲法研究者などのコメントはいいのですが、刑事法研究者が否定的な談話を寄せているのが気になりました。

たとえば――

日本ではあまりにも政治的自由が主張され過ぎて私的領域の個人の自由への配慮が不足しており、改める必要があると思う。ミスを犯した判決だと思う。(渥美東洋・中央大大学院教授、「毎日」)

宿舎の管理者が立ち入りを拒否しているのは明白で、立ち入り禁止に(強い弱いの)程度はない。裁判所は立ち入り拒否の程度やプライバシー侵害の程度が低いと判断したが、住居侵入の違法性がゼロでない限り、居住者は保護されるべきであり、量刑で判断すべきだ。(土本武司・帝京大教授、「東京」)

しかし、僕にはこれらの主張が理解できません。刑事法の一般的な理解・立場って、こういうものなんでしょうか?

「プライバシーの侵害」についていえば、一般に配達員などが立ち入っている場所に、ビラを配るために立ち入り、ビラを配布し終わってすぐに退出するというのであれば、それが具体的に、どのようなプライバシーを侵害していると言えるのか、僕には分かりません。それにたいし、一般に外部の配達員などが自由に立ち入れないように仕切られた場所(たとえばロック式のドアの内側など)に立ち入るとか、一般に外部の配達員などが自由に立ち入れるアパートの共用部分などであっても、玄関先に居座る(たとえば何かの勧誘員が来て、断っているにもかかわらず、退去しない場合など)などすれば、「プライバシーの侵害」として具体的な被害があったと主張できるし、侵害から守るべき利益があると思いますが。

しかし今回の場合は、別に、敷地内でスローガンを叫んだり、各戸を回ってノックしたり呼び鈴を鳴らしたりして面会を求めた訳ではないのだから、それがどういう意味で「プライバシーを侵害した」ということになるのでしょうか?

それからもう1つ。「私的領域の個人の自由への配慮が不足している」ことを問題にするのであれば、個々の住民の意思とは無関係に、管理者が一律にビラ配布を拒否することこそ問題にすべきだと思うのですが、どうでしょうか。自衛隊員といえども、勤務時間以外は、一市民として、自衛隊の方針に反するものであれ何であれ、自由にビラを受け取る権利を持っています。まして、ビラというものは配られるまでは内容が分からないのですから、それを管理者の側であらかじめ一律に配布させないというのは、明らかに「私的領域の個人の自由」を侵害するものです(同じ理由で、マンションなどで一律にポストへのビラ配布を禁止するのも、たとえ管理組合の合意であっても、問題ありと思います)。また、仮に、公務員である自衛隊員についてはそうした規制が認められるとしても、官舎内には公務員でない人(家族)が住んでいるのだから、「公務員である」ことを理由にして、家族がビラを受け取ることを一律に規制することもできないはずです。どんなビラを受け取るかは、それこそ最大のプライバシーです。一律に配布を禁止することこそ、「個人の自由」を侵害するものではないのでしょうか?

もし仮にこのビラが自衛隊のイラク派遣賛成のビラだったら、同じように政治的なビラの配布であっても、罪に問われることはなかったでしょう。ということは、この事件は、「ビラをまくために敷地内に立ち入った」という行為を処罰しようとしたものでなく、特定内容のビラを配布するという行為を禁圧するという政治的意図に出たものだいえます。その意味でも、「表現の自由」という憲法原理にもとづいて、ビラ配布の権利を尊重すべきだとした判決は妥当なものだと思います。

刑法学界では、先に紹介したような議論が支配的なんでしょうか? 僕は理解に苦しむのですが。

参考ページ:(後日追加したものを含む)

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  1. M. H. Square. - trackback on 2005/01/03 at 02:33:24
  2. 初めまして。小倉秀夫弁護士のブログより参りました。
    私の意見を細かく書いている時間がないのですが、GAKUさんがほぼ代弁して下さったという感じです。お話も大変説得的だと思いました。
    こういう事件で、「それほど迷惑な行為の部類に入るだろうか?」という事と、「なぜあの事件が起訴までされたのか。他のチラシをまく業者に対してまでそこまでやるだろうか。」という様な現実的な感覚を忘れてしまうと、判断を誤ってしまうのだと思います。

  3. 205号室

    はじめまして、コメントを付けさせていただきます

    立場というかスタンスを明記しておくと、私は本件の無罪判決は妥当な判決であったと思っています。被告となった方々のビラの投函は、管理者サイドから禁止の旨を告げられていたようですが(これは実際の警告文章が見つからないのですが)実際に抑止行動はとられず、黙認されていたものを警告なしに逮捕に踏み切っているからです。

    しかしまあ、はっきり言って感情的には「ザマア見ろ」なのですが、私の父は自衛隊員でしたし官舎に住んでましたから。日常的に人が足を踏み入れてくることがある場所とはいえ、集合郵便受けでなくドア前まで、一応は禁止されているビラ配布をやりに来る感覚はやられる側からすれば嫌だろうと思うのですよ、幸い私は商業目的のビラくらいしか見たこと無いですが、配る側もおそらくはアルバイトを雇ってやっているであろうピンクチラシやらは別に深い目的がない分なんとも思わないのですが。

    後半乱文になっていると思いますが、ご容赦を、目に付くようであれば削除なさってください、失礼しました。

  4. >じろさん
    初めまして。個別の論点としては、共同住宅の共用部分への立ち入り問題というのは、いろいろ検討されてしかるべき問題だと思うのですが、こんどの事件に関しては、そこに問題の本質があるわけではないわけで、やっぱりそこははずせないと思った次第です。

    >205号室さん
    ていねいな書き込みありがとうございます。
    私は、自衛隊の海外派兵に反対ですが、だからといって自衛隊員の方を目の敵にしている訳ではありません。そこのところは、ご理解いただければと思います。

  5. 武蔵野市議 川名ゆうじの武蔵野blog - trackback on 2005/01/26 at 17:28:19
  6. はじめまして。

    上記刑法学者の「住居侵入の違法性がゼロでない限り」とありますが、じゃ、他のビラを配布した人を全部逮捕しないとおかしいですよね。

    立川では宅配ピザのチラシは問題になっていなそうです…

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