アラ還のオッサンがマルクスの勉強やらコンサートの感想やらを書き込んでいます

映画「エレニの旅」

2005年5月15日 at 23:41:00

エレニの旅

午後、突然雨が降り出しましたが、それがやんだあと、日比谷シャンテでギリシャ映画「エレニの旅」を見てきました。長回しで、静かに時間が流れていく…そんな感じの不思議な映画でした。

1919年、ロシア革命に追われて、オデッサから一群のギリシャ人たちが引き上げてくる。「お前たちは何者だ?」との誰何に、彼らの長らしき男性が「入国の許可を1カ月待った。許可がおりて、東へすすめと言われた」と答える。そこには、オデッサの街で助けた少女エレニがいる。それからおよそ10年後、エレニが養母ダナエに連れられて、〈ニューオデッサ〉に帰ってくる。叔母カッサンドラはダナエに「すべて済んだ?」「生まれた双子は?」と問う…。

ゆったりとした長回しのカメラアングルで映画はすすんでいきます。ストーリーも克明に描くというより、象徴的なスタイルで、不思議な雰囲気を醸し出してゆきます。哀調を帯びたアコーデオンの音楽も印象的です。そして、やがて水没するニューオデッサの街。〈白布の丘〉の狭い住民の集落のあいだを通っていく蒸気機関車、それに廃墟となったニューオデッサの街と、それをおおう“河”と“水”が、くり返しくり返し登場し、その間に、少しずつギリシャの〈歴史〉が動いていきます。そんな不思議な時間と空間をたっぷり堪能してください。

で、主題になっているのはギリシャの現代史。簡単に年表風にまとめてみました。

  • 1919年 エレニたちがオデッサから引き上げてくる。
  • 1919〜1922年 ギリシャ・トルコ戦争で敗北。東トラキアを失い、200万人のギリシャ人が帰還させられる。
  • 1924年 総選挙で共和派が勝利。王政を廃止。
  • 1935年 コンディリス将軍が政権をとり、国民投票により王政を復活(ゲオルギオス2世復位)。
  • 1936年 メタクサス将軍・首相、戒厳令を発し国会を停止し独裁体制をしく。
  • 1940年10月 イタリア軍の侵入に対し、連合軍側について第2次世界大戦に参戦。
  • 1941年4〜5月 ドイツ軍によってギリシア全土が占領される。
  • 1944年11月 ギリシア解放。
  • 1946年9月 ゲオルギオス2世の帰国をきっかけに、王統派と左派との間で内戦に。(〜1949年10月)

そもそもギリシャは、19世紀初めに独立するまでは、オスマントルコ領。ということで、もともとギリシャ民族自体が「難民」の宿命を背負わされていた、ともいえます。

本作品は、アンゲロプロス監督が母親にささげたもの。監督の母は、20世紀の始まりに生まれ20世紀の終わりに亡くなったそうで、エレニが経験するギリシャの“悲劇”を、身をもって体験してきた世代。ギリシャはその後、60年代末〜70年代初めにかけて再び軍事独裁政権を経験します。そういう度重なる歴史をへて、今日のギリシャがある訳で、そういう歴史にささげられた作品と言えます。

【作品情報】
監督・脚本:テオ・アンゲロプロス/出演:アレクサンドラ・アイディニ(エレニ)、ニコス・プルサニディス(アレクシス)、ヨルゴス・アルメニス(ニコス)、ヴァシリス・コロヴォス(スピロス=アレクシスの父)/2004年 ギリシャ・フランス・イタリア・ドイツ合作

Similar Articles:

Tags:

Print This Post Print This Post

人気ブログランキングに参加しています。よかったらクリックしてください。

22 Responses to “映画「エレニの旅」”

  1. CAC映画評:エレニの旅(4/29公開)

     ギリシャを代表するテオ・アンゲロプロス監督の映画において、物語は緩やかに開かれ、そして、象徴的な映像で溢れている。悪く言えば、眠気を誘う、そして、どの作品でも…

  2. エレニの旅

    倒錯の舞踏  ひとつの、ただひとつのことを何十年も変わらずやり続けている人がいます。同じことを何度も何度も反復する。何度も何度も同じ線をなぞり、同じ曲を…

  3. エレニの旅

     映像の美しい作品でした。”まったりとした”という表現がピッタリの書法で、本当に二十世紀初頭の風景を

  4. トラックバックありがとうございます。

    わたくしの稚拙な感想文とは異なり
    観てない方にも『エレニの旅』の物語の世界が
    分かり易く書かれており、面白く読ませていただきました。

    静かな作品でしたが、良い作品ですよね。

  5. エレニの旅

    “Trilogy:The Weeping Meadow”
    待ちに待った、6年ぶりのテオ・アンゲロプロス監督の新作。鑑賞する前から今年の私のベスト3入りが確…

  6. 『エレニの旅』絶賛記事

    MSN-Mainichi INTERACTIVE 映画 甘口辛口新作ガイド「『エレニの旅』 荘厳な美をたたえた映像叙事詩」
     
    いつもちょっと辛口…

  7. 『エレニの旅』(2005年・41本目)

     どえらいくらいに退屈な170分じゃったそうな.って他人事かい(笑) 
     しかしまぁ,3時間超えにならなかったのが唯一の救いだったかなぁ,というくらいに,本当に…

  8. エレニの旅@シャンテシネ

    アンゲロプロスの描くギリシャは陰鬱で曇天模様。色彩のミニマリズムがその時代背景を映している。常に不安と隣り合わせで、恐怖も近くに潜んでいる。

    20世…

  9. 「エレニの旅」を観る

    さて、アンゲロプロス御大の待ちに待った新作が このほど封切られましたので、行って参りましたシャンテシネ。 物語は1919年の赤軍占領下のオデッサから脱出し、 難…

  10. 涙の流れつく先は何処なりしや /「エレニの旅」評

    『エレニの旅』(2004 / ギリシャ・仏・伊・独 / テオ・アンゲロプロス) Text By 仙道 勇人  もう十年くらい前のことになるだろうか、今でも筆者の…

  11. 『エレニの旅』における絶望について

    『エレニの旅』
    原題:TRILOGY: THE WEEPING MEADOW – ELENI
    2004年ギリシャ・フランス・イタリア・ドイツ合作、ギリシ…

  12. エレニの旅 [映画史に残る映像美の目撃証人となれ!!]

    「いつか君と河のはじまりを探しに行こう」
    と語るアレクシス。河のはじまりは涙に濡れた草原であったという・・・
    「真夜中の弥次さん、喜多さん」をちょっと思い起こす…

  13. エレニの旅

     98年度カンヌパルムドールを受賞した「永遠と一日」のギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロス監督の6年ぶりの最新作。 休日にサークルの友人たちと銀座の映画館で見たの…

  14. 「エレニの旅」を観る

    さて、アンゲロプロス御大の待ちに待った新作が このほど封切られましたので、行って参りましたシャンテシネ。 物語は1919年の赤軍占領下のオデッサから脱出し、 難…

  15. エレニの旅・ギリシャは今日も雨だった

    ★監督 テオ・アンゲロブロス(2004年 フランス・ギリシャ・イタリア作品)

    京都シネマにて。京都も今日は雨でした・・・

    ★あらすじ

    舞台は1…

  16. 『エレニの旅』

    『エレニの旅』公式サイト

    監督・脚本:テオ・アンゲロプロス

    脚本協力:トニーノ・グエッラ、ペトロス・マルカリス
         ジョルジオ・ジルヴァ…

  17. 20世紀を描くテオ・アンゲロプロスの『エレニの旅』

    エレニの旅 公式サイト
    http://www.bowjapan.com/eleni/

    もう今週で終わってしまいますが、やはり紹介しておかねばね。

    最近ヨーロ…

  18. 『エレニの旅』〜そこに音楽があるかぎり〜

    『エレニの旅』
     
    『エレニの旅』公式サイト サウンドトラック
     
    監督:テオ・アンゲロプロス出演:アレクサンドラ・アイディニ ニコ…

  19. トラックバックありがとうございました

    改めて拝見させていただきましたが、
    オスマン・トルコからの独立以降の歴史について
    全く知らなかったことを実感しました。
    世界史の授業で習うギリシャといえば古代だけですし。

    ギリシャの近くにある旧ユーゴやキプロスも
    民族・宗教が関わる紛争が多い地域ですね・・・

    次作を見る前に、歴史を勉強してみようと
    思いました。

  20. TBありがとうございました。
    ご指摘のとおり象徴的な映画でした。
    いろいろなことを見終わって受け止めることが
    できた映画で、沢山のことを考えさせられました。
    ギリシャ映画には魅力を感じました。

  21. 楽しく読ませていただきました。
    当方、アグネス・バルツァの歌を楽しんでおります。
    URL「@年金」にギリシャ旅行記掲載しています。
    お暇な折にお出かけいただけたら幸いです。
    ではまた。

  22. トニーノ・グエッラ – Ravenna 4

     マルコの奥さんに招かれマルコが来るのをソッジョルノと呼ばれる居間で待っていると

Trackback This Post

http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2005/05/15234100/trackback/

Leave a Reply