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JR西207系はなぜ転覆脱線したか

2005年5月25日 at 23:43:54

神戸新聞の特集が、メカニカルな面から、JR宝塚線脱線事故がなぜ起きたのか、つっこんだ分析を提供しています。

尼崎JR脱線  事故はなぜ起きた(神戸新聞)

尼崎JR脱線  事故はなぜ起きた

 乗客乗員107人が犠牲となった尼崎JR脱線事故の発生から25日で1カ月。兵庫県警尼崎東署捜査本部や国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、現場カーブでの速度超過が事故の主因との見方を強めている。車体が大きく傾き、ほぼ横倒しになった「転倒脱線」。現場までの運行状況や車両の特性などに基づき、脱線に至る経緯を探った。

「転倒脱線」の複合要因

 神戸工業高専 (元鉄道総研)橋本教授分析

 はしもと・しょういち 東京大学大学院工学系研究科修了。財団法人鉄道総合技術研究所で在来線や浮上式鉄道の技術開発に携わる。2000年から現職。神戸市の建設事業外部評価委員などを務める。神戸市出身。

 「転倒脱線」のメカニズムを解明する上で、「カギを握るのは快速電車の『速度と重心位置』」。元鉄道総合技術研究所の研究主幹で、神戸市立工業高等専門学校の橋本渉一教授(交通工学)はそう指摘する。脱線はどのように起きたのか。同教授に分析してもらった。

▼転倒脱線 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、車両が傾きながら脱線する事故の状態を「転倒脱線」と呼んでいる。鉄道工学では脱線が起こる形態を、車輪とレール間に横方向の力が加わり、摩擦力で車輪がレールにせり上がる「乗り上がり脱線」▽車輪とレールの接合面がかみ合わず車輪が滑って外れる「滑り上がり脱線」 ▽地震など急激な力で車輪がレールに上がる「飛び上がり脱線」――の3つに大別。今回の事故がどのタイプかは確定されていないが、カーブでのスピード超過で遠心力が増して転倒したとみられる。

カーブで巨大な遠心力

 これまでの調べで、今回の事故は、強い遠心力で電車の片側車輪が浮き、車両が傾いて転倒脱線したとみられている。
 橋本教授によると、カーブに差し掛かる際、車両に働く遠心力は速度の2乗に比例。制限速度70キロの現場カーブに時速100キロで進入した場合、遠心力は2倍になる。
 先頭車両(26トン)にいた乗客が100人で平均体重60キロと想定すると、同教授の計算では、転倒の可能性がある速度は、「重心位置を可能な限り高く設定したぎりぎりの数値」110キロ以上と考えられるという。
 これより速度が遅ければ、「速度超過以外の要因もあったと推測できる」と同教授は説明する。

   ■   ■   

重心位置が外側に移動

 一般にカーブの制限速度やレールの外側と内側の高低差(カント)は、車両の転覆を避けるため、遠心力と重力の釣り合う力が左右レールの間に向かうように決められている。ただ、車両の重心が高くなったり、外側に移動すると不安定な状態になりやすくなる。
 事故車両の207系のように、軽量化が進んだ車両では特に乗客の人数が重心位置を左右。調べや乗客の証言などでは事故直前、先頭車両は座席が埋まり、立っている乗客もいたという。同教授は「カーブで強い遠心力がかかり、重心位置が外側に移動した」とみる。
 さらには、強い遠心力を受けたために車体と台車の間にある空気バネが伸びて、「車体だけが外側に振られ、重心が移動した可能性もある」と話す。

   ■   ■   

100キロ超 バランス崩す?

 現場のカーブは車体が大きく傾いた半径約300メートル(R300)の急カーブと、これと直線区間を結ぶ緩和曲線(60メートル)からなる。カントは緩和曲線起点のゼロ(内外のレールの高さが同じ)から次第にきつくなり、R300に入った時点で、外側レールが内側より97ミリ高くなる。
 「時速100キロを超える高速で、こうした緩和曲線に入ると、それぞれの車輪にかかる輪重に違いが生じ、車両のバランスが崩れることがある」と同教授。つまり、事故車両には緩和曲線進入直後、脱線の兆候が表れていたと考えられるという。
 一方、緩和曲線の起点約30メートル手前で作動したとみられる非常ブレーキについて、同教授は「ブレーキをかけた状態で曲線に進入しても車両を外側へ揺らす力は働くものの、車両への影響は小さい」と、脱線には直接結びつかないとの見方を示している。

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一時的に無制動状態  「省エネ車両の盲点」

 急ブレーキをかけた際、一時的にブレーキが利かななる「オーバーロード」(OL)も、脱線の一因になった可能性がある。
 脱線した207系をはじめ新型車両のブレーキは、高速時に使われる「回生ブレーキ」と、低速時に使われる「空気ブレーキ」を併用している。乗用車のエンジンブレーキに当たる「回生」は、モーターで発生した電気を架線に戻して他の電車が利用するため、「省エネ車両」と呼ばれる。
 だが、急ブレーキによって還流する電気が架線電圧を急激に上昇させると、ショートするのを防ぐため、自動的に回路が遮断される。
 その後で回生から空気ブレーキに切り替わる瞬間、一時的にブレーキの利かない無制動状態が生まれる。専門家は「省エネ車両の盲点」と指摘している。
 JR宝塚線の複数の運転士も「10回運転すると3回はOLが起きる」と証言する。国土交通省の幹部は「事故の背景の1つと捉えている」としている。
 事故車両の運転士がかけた非常ブレーキと、転倒脱線との関連性にも注目が集まっている。
 運転士は120キロを超える高速で現場のカーブに近づき、通常ブレーキを強くかけたが十分減速できず、続けざまに非常ブレーキを作動させたとみられる。
 車輪がロックされて線路を滑走した痕跡などは確認されていないが、ブレーキのタイミングが遅れ、右側の車輪が浮く前後に非常ブレーキが作動、車両を左側に傾ける力が発生した可能性が指摘されている。
 「関連性は薄い」とする専門家もいるが、神戸大学工学部の神吉博教授(機械工学)は「大幅な速度超過や片輪走行の状態で非常ブレーキが作動すればかなり危険。脱線原因のポイントとなる可能性がある」とする。

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車両構造が危険増幅

ばねの伸縮 限界超す?

 転倒脱線を引き起こした主要な原因は、制限速度を30キロ以上超えるスピードで急カーブに入った「速度超過」にあるとされるが、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会や兵庫県警尼崎東署捜査本部は「速度以外の要因も複合的にかかわっている」とみている。専門家や関係者は、脱線したJR西日本の「207系」車両の構造的な欠点も脱線の要因になったと指摘している。
 207系は1991年に導入された軽量ステンレス製の通勤型車両で、車幅が2.95メートルと最大規模。現在、京阪神近郊路線で約480両が使われている。JRの技術関係者によると、車両は重心が高くなるほど脱線する危険性が高まるが、207系は従来の鋼鉄製車両に比べ重心が高い。
 また、車両が従来車両より軽いうえ、乗客の定員が増えたため、乗客の位置によって重心の位置が高くなったり、横方向にずれたりする可能性が高いという。
 車両のばねが引き金になったとする指摘もある。車両には、車体と台車のクッションの空気ばねと、台車と車輪をつなぐ軸ばねが取り付けられ、車両が受ける揺れや衝撃を、伸縮して吸収する。
 今回の事故では、猛スピードでカーブに入ったため大きな遠心力が働き、左側のばねが最大限縮む一方、右側のばねが伸びることで、車体が傾く一因になったという。
 また、207系は軽量化を図るため、カーブの走行を滑らかにするボルスターという回転板を省いた構造になっており、カーブでの安定性に欠ける、とされている。
 新潟大学工学部の谷藤克也教授(車両力学)は「通常の速度では問題にならない車両の問題点が、大幅な速度超過という条件下で増幅され、脱線の引き金になった可能性がある」と指摘。「さまざまな要因が重なってローリング(横方向に回転する力)が生じたのではないか」とみている。

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ブレーキ遅らせた編成

 モーターのない車両を先頭にした車両の配列の問題点を挙げる関係者もいる。
 事故車両の1両目は、トレーラー車というモーターの付いていないタイプで、重さ26トン。床下にモーターや制御装置などが取り付けられているモーター車に比べ9トン軽く、重心も高いという。事故車両では、1、4、6、7両目がトレーラー車だった。
 一方、この電車の通常ブレーキは、車のエンジンブレーキにあたる回生ブレーキが最初に作動し、空気ブレーキが遅れて利くしくみ。モーターのない先頭車両は回生ブレーキが作動しないため、ブレーキのタイミングが遅れることになる。
 JR西の技術関係者は「車両の配列によって脱線の危険性が増す可能性は否定できない。今後、研究する必要もあるのでは」と話している。

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■脱線の経緯

 これまで明らかになった事故までの経緯(兵庫県警尼崎東署捜査本部の調べなど)

宝塚駅 非常ブレーキ
 4月25日午前8時31分、高見隆二郎運転士(23)=死亡=は7両編成の207系車両に乗務し、回送電車として尼崎駅を出発。宝塚駅に向かったが、場内信号が赤表示だった同駅の手前で列車自動停止装置(ATS)が作動、非常ブレーキがかかった。

伊丹駅 オーバーラン
 宝塚駅ホームに入った後、乗客が乗り込み同志社前行き快速電車として定刻の同9時三分に出発。ところが、3つ目の停車駅の伊丹駅に約30秒遅れで入った上、60?80メートルオーバーランし、再度、非常ブレーキを作動させた。
 同駅を1分半以上遅れて出発した後、同運転士は車内電話で車掌(42)に「(オーバーランの距離を)まけてほしい」などと依頼。車掌は新大阪総合指令所に伊丹駅でのオーバーランを「8メートル」、遅れを「1分30秒」と報告した。

現場 十分減速せず
 同駅から続く直線区間の後半でも制限速度の時速120キロ程度で走行していたとみられ、現場カーブ(緩和曲線、制限速度70キロ)の起点約30メートル手前で3回目となる非常ブレーキを作動させた。だが、十分減速せずにそのままカーブに進入。R300のカーブで車体が左に大きく傾き片輪走行が始まり、ほぼ横倒しになった1両目が線路脇のマンション1階駐車場に突っ込み、2両目が壁に激突するなど5両目まで脱線した。
[神戸新聞 2005/05/24]

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