小野善康『景気と経済政策』

小野善康『景気と経済政?』

伊東出張のときに読んだ『貨幣経済の動学理論』がおもしろくて、同じ著者の岩波新書『景気と経済政策』(1998年)を読み始めました。

こっちは、景気と経済政策の関係をどう考えるかというもっと具体的な話なので、経済理論そのものについての展開は少ないが、その分、難しい理屈よりも、基本になる考え方みたいなものが分かりやすく展開されている。

著者の強調することは、突き詰めていえば、たった1つ。同じ経済政策でも、景気の局面との関係で、政策の影響、効果は違ってくる、ということ。著者は、「供給側の経済学」と「需要側の経済学」という2つの角度から、その問題に迫っていくのだが、注意が必要なのは、著者がこの本でいうところの「供給側の経済学」「需要側の経済学」というのは、いわゆるサプライサイド・エコノミクスとかケインズ経済学とかをさすものではないということ。もっと広い意味で、1つの経済現象を2つの視点から取り上げている。

たとえば競争と企業淘汰の問題について。著者は、こう述べている。

 有効需要が不足して経済全体としての購買意欲が萎えているときには、企業同士は不足した需要を取り合うことになる。したがって、この競争は椅子取りゲームと同じであり、必ず敗者が出る。これに対して、多くのマスコミや評論家、さらに多くの経済学者も、彼らはまじめに働かなかったから、見通しを誤ったから、経営能力が欠けていたから、などの理由で敗者になったのであり、そのような企業は淘汰された方が世のためだと主張する。(8ページ)

しかし、そうではない、と著者はいう。

 実際、椅子取りゲームにおいても、音楽の止まる瞬間に反応が遅いから敗者になる。そのため、そのような人が負けるのは、いわば能力がないからだという論理には、一応の真理はある。しかし、それだからその企業は淘汰されてしかるべきであるかというと、話が違ってくる。すなわち、必ず敗者が出るという条件(需要不足)のもとでうみだされる敗者と、すべての人数分の椅子が用意されている(好況)のに、それでも一時的に座り損ねた人とでは、雲泥の差があるのである。
 購買意欲が盛んで物を作れば売れる状況では、企業家は、敗者になってもすぐに他の企業に雇用されたり、新たな事業機会があったりして、すぐに新たなチャンスを得て、社会的に有効に使われる。ところが購買意欲が萎えている状況では、敗者は敗者のまま将来の不安を抱えて、社会に滞留するのである。(9ページ)

「供給側の経済学」は、このような問題に目を向けない。失業も、摩擦的失業を除けば、つまるところ「働く気がない」から失業している、というのが、その考え方。もっと安い賃金なら仕事があるのに働こうとしない、という訳だ。だから、失業をなくすためには、失業者に働く気を起こさせること、つまり、失業保険を引き下げるなどして、働かなければ生活に困るように仕向ければよい、ということになる。

しかし、そもそも需要が不足して仕事がなく、失業が生まれているようなときには、いくらこのように仕向けてみても、もともと物を作っても売れないのだから、少しも失業の解消には役立たない。

そこで、需要不足を補う投資が必要になる。このときも、投資は、資金調達するときの利子率にも依存するが、「それとともに、すでにどれぐらいの資本が蓄積されているか、あるいは将来生産した物がどれぐらい売れるか、ということにも依存する」(17ページ)。したがって、消費の伸びが見込まれないと、投資も増えない、ということになる。

「供給側の経済学」では、景気についての考え方も、次のようになる。

 たとえば、新たな技術革新が起これば資本の蓄積が起こり、それとともに生産価値が増大していく。これが景気の上昇局面である。ところがその技術がある程度浸透し、その技術を使った新規の機械設備が各工場に設置されてしまえば、そこで景気の上昇局面は終了する。しかし、これが失業を生み出すことはなく、単に経済成長が止まるというものにすぎない。また新たな技術革新が起これば、経済の生産能力=経済活動規模が拡大を始める。……
 このような〈供給側〉の考え方には、需要不足や失業といった発送はまったくなく、単に生産能力や生産効率の増加・減少が、景気の上昇局面と停滞局面を生み出すと考えている。したがって、景気の後退自体は、問題にすることでもないのである。

このような考え方からは、企業が経営を誤ったとき、どうしたらよいと考えられるか。

 ……たとえば、企業が将来の収益見通しを誤り、間違った投資をすることもあるかもしれない。そのときには、経済効率が下がり、国民所得が低下するであろう。このような理由で景気が後退するならば、それを回復させるためには、誤りを犯したものには罰を加え、整理し排除して、経済全体の効率がよくなるように改革する。これが構造改革の考え方である。現在、声高に叫ばれている構造改革や各企業のリストラの嵐は、このような考え方に立てば、当然必要なこととなる。(30?31ページ)

しかし、それで本当によいのか? 著者はずばりこう書いている。

 しかし、景気の後退が供給側の理由ではなく、需要不足によって起こっているならば、リストラはかえって失業を増加させ、景気を悪化させてしまうであろう。(31ページ)

ということで、ここらあたりまでは僕でも理解可能。そのあとになると、すぐには理解しかねるところもいろいろあって、こういう基本の考え方を書いただけの本ではよく分からない。もう少し勉強してみる必要がありそう。

【書誌情報】著者:小野善康/書名:景気と経済政策(岩波新書 新赤版576)/出版社:岩波書店/出版年:1998年/定価:本体700円+税/ISBN4-00-430576-4

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  1. 読書の記念碑 - trackback on 2005/11/27 at 20:27:07

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