アラ還のオッサンがマルクスの勉強やらコンサートの感想やらを書き込んでいます

仮面のショスタコーヴィチ

2005年10月4日 at 01:00:11

日曜日、友人から譲ってもらったチケットで、上野の文化会館へ。都響のコンサート《森の響き》第19回。「赤い森にて?仮面のショスタコーヴィチ」というテーマで、もちろんオール・ショスタコーヴィチ・プログラム。

  • 祝典序曲 作品96
  • 音楽喜劇「モスクワ=チェリョームシキ」作品105より 管弦楽組曲(A.コナール編)
  •     ≪休憩≫
  • オラトリオ「森の歌」 作品81

この日の関心の1つは、指揮の岩城宏之さん。8月に肺の腫瘍摘出手術を受けられたばかり。72歳という年齢もあり、果たしてどれほどお元気になられたのか心配でもあり、また岩城さんの指揮ぶりをもう一度見たいという期待もあって、出かけてきました。

「祝典序曲」は1954年、第37回のロシア革命記念日の演奏会のために、ソ連共産党中央委員会の委嘱で作曲された作品。

2曲目は、1957年に、モスクワ・オペレッタ劇場の依頼で作られた新作オペレッタ。新興住宅地「チェリョームシキ」(日本風に言えば「桜ヶ丘」ということになるらしい=プログラムによる)を舞台にした庶民と小役人との喜劇。旧ソ連の住宅事情の大変さは、先日読んだ『ムラヴィンスキーと私』(河島みどり著、草思社)にも登場します。第1曲の「モスクワをひとっ走り」は、いかにもオペレッタという感じのコミカルな曲。2曲目の「ワルツ」は、哀調を帯びたサックスの音色が印象的。プログラムによれば、知人宅に居候する夫婦がマイホームをあこがれる曲だそうな。こんな調子で、いかにもおかしげな曲が続く。

休憩をはさんで、本日のメイン、オラトリオ「森の歌」。これは1949年の作品。ショスタコーヴィチは、前年の1948年、共産党中央委員会から「曲が難しく一般大衆には分からない」との批判を受ける。そのため、ソ連の自然を復興させるための大植林計画を鼓舞するためのこのオラトリオでは、わざと誰にも分かりやすい作風がとられている。また、バス、テノール、男声、女声、それに少年合唱まで登場し、ドイツの侵略から祖国を守った偉大な大祖国戦争を回顧しつつ、偉大なロシアの自然を歌い上げるととともに、共産党やスターリンを賛美する歌が、それこそ朗々と歌われる。舞台とは別に、客席後方(当日は、左右の2階席)にトランペットとトロンボーンが配置され、音楽が会場と聴衆をつつみ込み、いやが上にも盛り上がるようにできている訳です。(^_^;)

ということで、3曲とも明るく、分かりやすく、快活な作品ばかりで、なぜこういうプログラムを組んだか。その意図は、「赤い森にて?仮面のショスタコーヴィッチ」というタイトルに明らかです。たんに作品を委嘱されたという意味ではなく、作風という作家の領分にまで立ち入った党の「要請」にこたえざるをえなかったという、ショスタコーヴィチの境遇に、没後30年の機会にあらためて思いをいたそうということです。だからこそ、「森の歌」の歌詞も、ラストは1962年版から「叡智あふるる党に栄光あれ!」と最初の歌詞に戻して、歌われたのでしょう。それだけに、演奏が終わったあとの、ブラボーの声と溢れる拍手に、僕は、ある種の複雑な感慨を持たずにはいられませんでした。

もちろん、作品としては非常にすばらしい楽曲だと思います。大衆に分かりやすい作風を強制されたときにおいてさえ、けっして「通俗」に流れないとことは、さすがショスタコーヴィチ。交響曲15曲を聴いたぐらいでは、とてもじゃないけれども「分かった」とはいえない奥深さを、あらためて思い知らされました。

ところで岩城宏之さんですが、難しい現代曲や初演の作品であっても、モーツァルトやベートーヴェンのお馴染みの曲と同じように、易々と(と見えるだけなんでしょうが)振られるお姿は、少しも変わっていません。すこし痩せられたように見えたのが気がかりでしたが、体を大切にされてこれからも活躍していただきたいと思います。

【演奏会情報】指揮:岩城宏之/テノール:伊達英二/バス・バリトン:久保和範/合唱:晋友会合唱団(合唱指揮:清水敬一)/児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団(合唱指導:太刀川悦代、米屋恵子)/管弦楽:東京都交響楽団/東京文化会館、午後3時開演

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One Response to “仮面のショスタコーヴィチ”

  1. お久しぶりです。
    今、ゆっくりブログを読ませていただいております。

    いいですねぇ。
    岩城宏之さんの「森の歌」。
    私は大学の頃、吹奏楽の指揮者をしていたとき、
    岩城宏之さんの「森のうた」という本を読んで感銘を覚えた
    記憶があります。岩城さんの青春コメディなんですが
    山本直純さんと学響をつくり、
    森の歌を演奏するまでを描いた本でした。

    私もショスタコ大好きです。でも森の歌は聴いたことないです。
    交響曲全集はコンドラシンのを持っていて、
    バラでロストロポービッチとムラビンスキーその他をもっています。

    長いこときいてないので、うわ?聴きたい!って思ってしまいました。

    生で聴かれたなんてうらやましいです。
    N響アワーでやってくれないかな。

    長々とコメント失礼いたしました。

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