「三すくみ」なのか?

日本経済新聞の春原剛・編集委員が、歴史認識問題での日中の対立にたいするアメリカ政府の態度をとりあげて、こんな論評を書いています。

NET EYE プロの視点:靖国巡る日米中の「三すくみ」関係(12/12)

米政府が日中関係の悪化に懸念を持っていること、そしてその背景に米の対中国政策の見直しがあることに着目したのはさすが。しかし、それが「三すくみ」だというのはどうだろうか。中国を重要な「ステークホルダー」として位置づけようという米政府にとって、日中関係が悪化して、どんな「漁夫の利」があるというのか。日米の同盟関係の強化を、対中圧力なんぞに使われたら、迷惑するのは米政府でしょう。だからこその懸念表明だと思うのだけれど、どうだろうか。

21世紀の米外交と国際情勢 春原剛・編集委員
靖国巡る日米中の「三すくみ」関係(12/12)

 11月半ばから下旬にかけて米国・ワシントンを訪れ、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授ら米外交サークル要人と旧交を温める機会に恵まれた。短い滞在の期間中、目に付いたのは米国のアジア政策関係者らが共通して小泉純一郎首相による靖国神社参拝を発端とする日中関係の悪化に強い懸念を抱いていることだった。これを執筆している12月9日にはバーンズ米国務次官(政治担当)が訪米中の前原誠司・民主党代表に「日中両国で歴史問題を乗り越えることが必要だ」と語ったという報道もワシントンから届いた。

「靖国」、中国にもデメリット

 ナイ教授が基調講演した米戦略国際問題研究所(CSIS)での研究会では、CSISのベーツ・ギル中国部長らが最新の論文「龍の泣き所?:中国のソフト・パワーを評価する(The Dragon’s Underbelly?:Assesing China’s Soft Power)」を発表。政治、経済、そして軍事などあらゆる面で隆盛著しい中国の新たな側面、すなわち「ソフト・パワー」の現状を多角的に分析し、その可能性を論じていた。
 軍事力に代表される「ハード・パワー」だけでなく、中国が「ソフト・パワー」の増強に目を転じれば、米国のアジア政策にも多大な影響を与える。そんな問題意識が随所に垣間見える論文だったが、議論の最後はやはり、「靖国」に収斂した。
 「ポケモン」に代表されるアニメや漫画など日本独自のソフト・パワーをかねて評価しているナイ教授。だが、一方で日本が第二次大戦に関する分析、自己反省を十二分にしていないことがとりわけアジアでの日本のソフト・パワーを著しく損ねているというのが持論でもあった。 その線に沿って、ナイ教授は小泉首相による靖国参拝についても「何か別の方法を考えるべきだ」との立場を取っていた。だが、この研究会では一転して、「中国があまりにも過去の問題を取り上げすぎると、かえって逆効果となり、中国の(日本における)ソフト・パワーを低下させる」と論じ、集まった中国専門家の耳目を集めていたのが印象的だった。

最終的には米国が何とかしてくれる?

 米ブルッキングス研究所の中国専門家、ジン・ファン主任研究員によれば、米国の東アジアにおける外交政策上の「究極の目標」は(1)政治的安定、およびバランサーとしての米国の役割継続(2)グローバリゼーションに基づく経済繁栄(3)日本、韓国との同盟に基づく軍事的優位性の確保―――の3点である。その上で、米国の対中政策が従来の「関与政策」を土台として、中国を国際社会における「ステークホルダー(Stakeholder=責任ある参加者)」として扱うフェーズに変わりつつあると分析する。
 だが、ブッシュ米大統領の京都での演説でもわかるように、米国の対中政策は依然として一貫性を欠いている感も否めない。中国政府に対して、台湾を引き合いに出しながら政治体制や人権状況の改善を求めた演説内容について、共和党のある外交重鎮は「誰が書いたスピーチか知らないが、とんでもない内容」と批判。別の中国専門家によれば、9月の演説で中国を「ステークホルダー」と呼んだ国務省のナンバー2、ゼーリック副長官もスピーチを聞いて激怒したという。
 その一方で、大統領訪中の直前に父・ブッシュ元大統領がスコウクロフト元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら共和党の「親中派」を引き連れて中国を訪問している点も見逃せない。米国内の保守派の目を気にして、対中政策ではコワモテの姿勢をとらざるを得ない大統領の「露払い役」を父親とその側近たちが演じることで、米中関係は「本音」と「建前」の二軸に支えられる構造を得ていると言ってもいい。
 日本との同盟関係を強化しつつ、一方では中国との関わり方をより安定したものへと変える。二つの政策目標を掲げる米国には日中間の仲介役となって「靖国」、あるいは「過去の問題」を解決できる余力も能力もない。ファン研究員はそう言い切る。にもかかわらず、日本も中国も靖国問題が双方の外交政策を「人質化」している現状をいたずらに維持し、「最終的には米国が何とかしてくれる」と思っている。そんな「日米中三すくみ」の事態をファン研究員は痛烈に批判している。

誰が得をして、誰が損をするのか

 結局、靖国問題では誰が得をして、誰が損をするのか―――。単純だが、おいそれとは答えを見出せない疑問に米国のアジア政策担当者らも頭をひねっている。ファン研究員は「緊張する日中関係は決して米国の国益にはならない」と断言する。しかし、日中両国がいがみ合っているからこそ、バランサーとしての米国が「漁夫の利」を得ているという構図もなお成り立つ。ナイ教授が喝破しているように、「靖国」でいがみ合う過程で、日中双方ともアジアにおけるソフト・パワーをそれぞれ減退させているとすれば、相対的にその影響力を向上させるのは米国にほかならないからだ。
 日米中、それぞれの事情と思惑、そして21世紀の未来予想図という「変数」を抱える連立多元方程式はますます解の見えない迷路に入り込もうとしているかのようだ。

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