米国防総省、4年ごとの国防計画見直しを発表

米国防総省が、4年ごとに公表している「国防計画見直し」を発表。対テロに限定せず、「長期戦争」を想定。海軍の比重を太平洋にシフトさせることを明らかにしています。

米国防報告、対テロは「長期戦争」 海軍、太平洋に比重(朝日新聞)
国防計画見直し/米、太平洋の戦力増強(日経新聞 2/4夕刊)

米国防報告、対テロは「長期戦争」 海軍、太平洋に比重
[朝日新聞 2006年02月04日夕刊]

 米国防総省は3日、米軍戦略の今後20年間の基本的な指針を示す「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)の報告書を発表した。01年9月の同時多発テロ以来、米国がイスラム過激主義に対して続けている戦いは、冷戦並みの労力と時間を要する「長期戦争」だと位置づけた。対テロなど、従来通りの戦力では十分に対応できない「非正規」な分野に軍事力の比重を移すことをうたっている。

 台頭する中国は脅威ではないが「戦略的岐路にある国家」として、軍事的な敵対の道を選ばないよう導く戦略が必要だと指摘した。中国を意識するだけでなく、国際テロ組織の攻撃などによる混乱に備える必要性もあるため、世界全体で11群を配置する方針の空母攻撃群のうち6個群を太平洋に置き、潜水艦も6割の隻数を太平洋に集中させる。経済活動や通商ルートとして太平洋地域の重要性が高まっていることが、この地域での海軍力の増強の背景にある。
 今回のQDRは、この種の作業としては初めて「戦時下」でまとめられた。5年目に入った対テロ戦争、イラク戦争の教訓を踏まえ、米軍全体のあり方を総括し、今後の方向性を打ち出している。
 イスラム過激主義との「長期戦争」は、アフガニスタンやイラクでの対テロ戦争にとどまらず、不確実で予測ができない形で今後何年間も続くと予想した。かつて冷戦時は「国家対国家」の対立が軸だったが、こうした従来型の思考から脱し、より機敏になってテロなど不確実性への備えを保つことが不可欠とした。
 米軍が能力を傾注すべき分野として<1>イスラム過激テロの撲滅<2>大量破壊兵器(WMD)の拡散防止と使用の阻止<3>国土防衛<4>中国やロシアなど「戦略的岐路にある国家群」に敵対的な道を選ばないよう促しながら万一の事態にも備える、の4本柱を挙げた。
 イスラム過激テロに対しては、陸軍のグリーンベレーに代表されるような特殊作戦部隊の要員を15%増やすほか、無人機飛行大隊の新設、心理作戦と民政・復興部門に携わる要員の33%増などを盛り込んだ。また、大量破壊兵器の捜索と確保に専念する特殊作戦部隊の創設も提案した。
 米軍の組織論としては、これまでの陸海空軍の縦割りを前提とした構造を変え、戦略的な必要に応じて実力を臨機応変に配分できるような「水平型」への全面的な改革の必要性をうたった。
 「米国だけではこの戦争は勝てない」として、同盟国や友邦との協力を増す重要さも強調した。日本を「米国の力のよりどころの一つである同盟国」として、北大西洋条約機構(NATO)、豪州、韓国と並ぶ形で挙げており、ミサイル防衛分野での共同開発にも触れる形で協力関係に言及した。
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【キーワード】4年ごとの国防政策見直し(QDR:Quadrennial Defense Review) 米国防総省の中長期的な戦略文書。国家安全保障戦略(NSS)を受けた形で、兵力の構成、兵器計画などの米軍全体のあり方について、約20年後を視野に入れた青写真としてまとめる。法律で4年ごとの議会への提出が定められている。97年と01年に続く3回目で、イラク問題やテロとの戦いが長期化するなか、05年秋の提出期限を過ぎても編成作業を続けていた。

米国防政策 「不確実」事態に柔軟対応

 【ワシントン=梅原季哉】米国防総省が3日発表した「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)は、テロとの戦いに代表される「長期戦争」(LONGWAR)に取り組む米軍が、予測もつかない「不確実」な環境に柔軟に対応しなければならない、という思想で貫かれている。=1面参照
 ラムズフェルド国防長官は2日、ナショナル・プレス・クラブでの講演で、冷戦は終わるまでに約45年かかったが、現在米国が直面している「長期戦争」は、いつ終わりを告げるのか誰にも予測できない、との見通しを示した。
 「長期戦争」という言縦割り組織、変化求める葉は、これまで慣用句だった「地球規模の対テロ戦」という用語よりも、さらに広い概念として使われている。イスラム過激主義に対抗し、民主主義を定着させるといった思想面も含むものだ。
 テロや、メディアを通じた心理戦、場合によっては大量破壊兵器を使うなど、従来の国家間戦争や抑止論の枠組みにおさまらない形で、不規則な攻撃を仕掛けられる。それがいつなのかは、不確実にしか分からない。米国が直面しているのは、そんな敵なのだという認識が前提にある。
 対抗するには、時間をかけて戦車や空母といった大がかりな軍備を動かすような戦略から脱却しなければならない、という考えが鮮明だ。情報技術(IT)化を進め、縦割り組織の弊害を排して水平型の統合をはかり、どんな攻撃にも迅速に対応できる米軍像が浮かび上がってくる。
 アフガニスタンやイラクで、軍事的には短期間で圧勝をおさめながら、その後の反米攻撃に手を焼き、復興が進まない現状から学んだ「教訓」もある。紛争後の処理や平和を根付かせる活動を強化するため、心理作戦と民政・復興部門に携わる要員増をうたった。米軍の組織文化を大きく変えうるものだ。
 ただし、伝統的な脅威、に対抗する従来の任務が大きく後退するわけではない。台頭する中国を意識し、脅威というレッテルは避けつつも、間接的に軍事の影響力を行使する対象として「戦略的な岐路にある国家」と位置づけた。太平洋への海軍力の集中は、中国も視野に入れているが、インド洋・中東まで含めた「不安定の弧」をにらみ、不確実な事態へ機敏に対応するねらいも大きい。
 全体として、二つの大規模な地域戦争をほぼ同時に戦うのに必要な戦力は維持するが、「2正面戦略」という表現自体は使われていない。<1>国土防衛<2>対テロ・非正規戦闘<3>通常の戦闘作戦について、それぞれ平時と有事の2種類のシナリオを想定し、兵力計画を立てる方針が示されている。
 QDRの責任者の一人ヘンリー筆頭国防副次官は3日、「アフガニスタンやイラクの例のように、長期継続する非正規な戦闘作戦もある。2正面といっても、そうした作戦と、もう1つの通常作戦の組み合わせもありうる」とも指摘した。

日本の重要性評価 再編協議の行方、焦点に

 【ワシントン目渡辺勉】「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)は、イラクへの自衛隊派遣に象徴される日米同盟の進展を反映し、同盟国としての日本の重要性を高く評価している。日本やオーストラリア、韓国との二国間同盟は、北大西洋条約機構(NATO)と並んで国際社会の安全を維持するものと位置づけた。日米関係では、在日米軍の再編協議への期待心がさらに高まりそうだ。
 QDRは太平洋における同盟国として、「日本、オーストラリア、韓国」の順に挙げた。「共通の安全保障上の脅威」に取り組むため、2国間か多国間の同盟を結んで協調的な行動をとっていることを評価している。
 対テロ戦に力を入れる米国は、朝鮮半島から東南アジア、中東、北アフリカに至る地域を「不安定の弧」とみて、軍事力を大西洋から太平洋に移動しつつある。弧の東端に接する日本は、戦略拠点として重みを増している。
 日本に対する認識の向上は、QDRに盛り込まれた記述の増加にも表れている。日米同盟について97年のQDRはーカ所、01年はまったく触れられなかったが、今回は4カ所。過去4年の日本の積極的な対テロ戦への関与を反映したものだ。
 日米同盟を含む同盟について「自由で民主的な国々の戦略的な団結を明白にさせ、価値の共有を促し、世界中で軍と安全保障の負担の分担を容易にする」と改めて位置づけ、米軍再編協議の中で合意した「任務と役割」を先取りした形になっている。まだ具体的な肉付けが終わっていない段階で、日本側には米国の期待に応えられるかどうか不安視する向きもある。

米国防政策見直しの要旨

 「4年ごとの国防政策見直し」 (QDR)の要旨は次の通り。
 ■長期戦争 01年以来、米軍は戦時状態にある。過去の戦争とは著しく異なる。この戦いは軍事力のみでは勝利できず、何年にもわたって続くこともありうる。テロネットワークに対する長期戦争は、イラクやアフガニスタンの国境をはるかに超えた戦いになっている。多くの作戦は、国家の正規軍ではない敵に対する「非正規戦争」として特徴づけられる。
 ■国家防衛戦略の作戦運用 敵は、変則型、破滅型、混乱型の攻撃を含む非対称的な脅威を引き起こす可能性が高い。国家防衛戦略を作戦運用する上での四つの優先事項は、テロネットワークの破壊▽米国本土の防衛▽戦略的岐路にある国家群に対する選択肢の提供▽敵対国家や(テロ組織など)非国家による大量破壊兵器(WMD)の保有と使用だ。WMDの捜索と確保をする特殊作戦部隊が必要である。
 インド、ロシア、中国を含む台頭する大国がどのような選択肢をとるかは、国際安全保障環境を決定づける主要な要因。中国は米国と軍事的に競争する潜在能力が最も高い。中国は国境を越えて戦力を投影する能力を高める目的で、武器や能力に対する投資を続けている。96年以来、03年を除いて軍事費を実質10%以上増加させている。
 ■能力と戦力の再配置 貿易と交通量の地球規模の変化に対応するため、太平洋での艦隊のプレゼンスを増やす。海軍はその部隊構成を調整し、作戦行動が可能な空母群を最低6個群と、潜水艦の60%を太平洋に展開。地球規模の「非正規戦争」を戦うため、特殊部隊をさらに増やす必要があり、無人機による部隊をっくる。先進的な軍事力を持つ競争相手、地域的な核保有国、非国家のテロネットワークなどに適切に対応するため、抑止力を臨機応変に発揮できるようにする。
 ■同盟国との協力 国防総省だけでは今日の複雑な課題に対応することはできない。海外の同盟国や友好国と緊密に協力する必要がある。太平洋では、日本、豪州、韓国などとの同盟関係が、2国間および多国間の関与を深め、共通の安全保障上の脅威に対する協調的な行動を促進させている。インドも大国として台頭しつつあり、戦略的に重要なパートナーである。これらのパートナーと緊密に協力し、同盟関係の維持と能力を上げることが引き続き必要だ。
 ■21世紀の総合戦力構築に向けて 21世紀は平和と戦争の区別があいまいだ。現役と予備役などから成る国防総省の総合戦力は異なった環境に適応しなければならない。大統領が予備役を招集できる期間を無間270日から365日に増やす。

国防計画見直し/米、太平洋の戦力増強
「中国、軍事的競争相手に」 対テロ、特殊部隊15%増
[日経新聞 2006年2月4日夕刊]

 【ワシントン=秋田浩之】米国防総省は3日、4年ごとの国防計画見直し(QDR)を発表した。中国とインド、ロシアの動向が安全保障情勢のカギを握るとして海軍力の重点を太平洋に移し、少なくとも6隻の空母を常時、配備する。中国が米国の「軍事的競争相手」になる可能性が最も高いとも警告した。2001年の同時テロを踏まえた見直しは事実上、今回が初めてで、対テロ戦に対応するために特殊部隊を15%増員することなどを打ち出した。

米空母、太平洋に常時6隻以上――国防計画見直しの骨子

  • テロ組織打倒、国土防衛、大量破壊兵器拡散阻止が最優先課題
  • 中印ロなどが国際安保環境を決定
  • 中国に軍事的競争国の可能性
  • 対テロで特殊部隊の兵力を15%増強
  • 海軍力を太平洋にシフトし、少なくとも6隻の空母と潜水艦の60%を展開

 米が直面する脅威としてはテロ・ゲリラ攻撃などの「不規則型」、大量破壊兵器による「壊滅型」、米軍の任務遂行を阻止する「妨害型」、敵国からの攻撃である「伝統型」――の4つを挙げた。そのうえで、テロ組織の打倒と本土防衛、大量破壊兵器の拡散阻止、中国など「戦略的岐路にある国家」への対応などを最優先任務に挙げた。
 太平洋に海軍力をシフトするのは、中国などに加えて、中東から北東アジアに至る「不安定の弧」と呼ばれる地域への抑止力を強めるため。潜水艦も全体の60%を太平洋に振り向ける。
 現在12隻ある空母は太平洋と大西洋にそれぞれ6隻ずつ母港を置いている。QDRでは全体数を11隻に減らすとしており「常時6隻以上を太平洋に配備することは相当な太平洋シフトを意味する」(軍事専門家)。さらに中印ロを「21世紀の国際安全保障を決定づけるカギとなる」と分析。特に中国は地域の軍事バランスを危険にさらしていると指摘した。北朝鮮とイランの核・ミサイル開発にも触れ、軍事的選択肢も排除しない原則を示した。
 対テロ戦をにらんだ措置としては<1>無人機の導入を加速し、空軍の偵察能力を2倍に引き上げる<2>海兵隊特殊作戦司令部を創設する<3>今後5年間で15億ドルを投じ、生物兵器のテロ攻撃などに備える――ことを盛り込んだ。米軍の機動力を増すため、海上を移動できる「水上前方基地」を活用していく。
 新たな脅威に即応するために同盟国との協力を推進すると強調。太平洋の同盟国として日本と韓国、オーストラリアの国名を挙げ、インドも「カギを握る戦略的パートナー」に位置づけた。

▼4年ごとの国防計画見直し(QDR=Quadrennial Defense Review) 中長期にわたる兵力の構成・配備などを定めた文書で4年に1度、米国防総省が議会に報告する。米国防戦略を方向付け、日米の安保協力にとっても重要な指針になる。ソ連崩壊や東欧民主化など冷戦構造の転換を受け1997年に初めて策定。前回は2001年10月にまとまったが、同時テロ直後のため本格的なテロ対策は盛り込まれていなかった。

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