岩国住民投票についての地方紙の社説から

すこし遅くなりましたが、3月12日の山口県岩国市(旧)の、米空母艦載機の岩国基地移転受け入れについての住民投票の結果をめぐる全国各地の新聞の社説を眺めてみました。

岩国住民投票・国内移転の無理が分かった
[琉球新報 2006-3-13 9:53:00]

 米海兵隊岩国基地の地元・山口県岩国市で12日、米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機受け入れの是非を問う住民投票が行われ、反対が多数を占めた。住民の生命と暮らしを脅かしかねない日米合意に、過半数の意思として「ノー」を突き付けた形だ。
 「米軍再編案は国が決めることとあきらめないでほしい」と訴えてきた井原勝介岩国市長は、投票結果を受け、移転計画の撤回を求めていく考えをあらためて表明した。政府は、住民の選択と市長の方針を重く受け止め、計画を白紙に戻すべきだ。
 岩国市民の選択は、沖縄や神奈川など米軍基地を抱える自治体の動向にも影響を及ぼすだろう。これらの自治体に提起中の移転計画についても、政府は「民意尊重」という政治の原点に立ち返り、見直してもらいたい。
 岩国市の動きは、在日米軍再編をめぐる初の住民投票として注目された。岩国市議会は昨年6月、艦載機移転反対を全会一致で決議したが、その後、一部の議員から「地域振興策で条件闘争をすべきだ」との容認論が浮上。市長が周辺7市町村との合併を前に「市の意向を国に届けたい」として住民投票を発議していた。
 投票結果に法的拘束力はない。安倍晋三官房長官が「投票結果は市長や市議会が尊重すべきだが、安全保障にかかわる問題なので、国としては米国との合意内容に沿ってしっかりと住民に説明していきたい」としてきたのも、そのことが念頭にあったとみられる。
 しかし、政府が「国防優先」を大義に民意を無視して“見切り発車”すれば、新たな混乱を招く可能性がある。それは政府にとっても得策ではないだろう。そもそも国民を守るのが国防であって、地元の意思を無視して日米同盟も、安全保障もあるまい。
 米軍再編中間報告によれば、岩国基地には、厚木基地の空母艦載ジェット機とE2C飛行隊が移駐する。影響を緩和するため、岩国の海上自衛隊飛行隊の一部を厚木に移すなどの措置が取られるが、艦載機の離着陸に伴う騒音のすさまじさ、墜落の危険性などを考えれば明らかに負担増である。
 再編協議で日本側は当初、沖縄を柱に「負担軽減」を主張していたはずだ。それがいつの間にか、米側の狙いである「東アジアでの抑止力維持」に押され、パズルのような配置換えの結果、基地を抱える地元にツケが回された。
 今回の岩国の選択は、基地機能の国内移転には無理があることを知らしめた、という点でも意味がある。負担軽減を考えるなら、もはや移転先は海外しかない。計画を根本的に練り直す姿勢が日米両政府に求められている。

[岩国住民投票]「民意」を重く受け止めよ
[沖縄タイムス 2006年3月13日朝刊]

関係自治体にも弾み

 日米両政府が決めた米空母艦載機の山口県・岩国基地への移転計画に対し、岩国市民は明確に「ノー」の判断を下した。
 在日米軍再編の最終報告に「地元の意向を反映させよう」と、井原勝介市長が発議した住民投票が12日行われ、反対票が圧倒的多数を占めた。投票率は58.68%だった。
 この結果は、今月末に予定されている日米両政府の最終報告に向け、沖縄や神奈川、鹿児島県など米軍再編対象の自治体の反対運動に弾みをつけるなど、波紋を広げるのは必至だ。
 岩国市の場合、空母艦載機部隊の受け入れを頭越しに決めた日本政府に対する、いわば「宣戦布告」のようなもので、反対多数の結果は市長を力強くバックアップすることになる。
 逆に、今回の住民投票を勝ち取り、米軍再編最大の焦点である普天間飛行場の移設問題を抱える沖縄など関係自治体との協議を加速したい政府にとっては大きな打撃と言える。
 無論、投票結果に法的拘束力はないが、条例には「市民、市議会、市長は結果を尊重する」との規定がある。政府も厳粛な「民意」として重く受け止めるべきだ。
 日米両政府は、昨年10月に合意した米軍再編の中間報告に、厚木基地(神奈川県)の空母艦載機57機を岩国基地に移す計画を盛り込んだ。
 岩国移転は「空母艦載機部隊の長期にわたる前方展開の能力確保」が狙いとされている。
 米海軍は昨年10月、横須賀基地(同)に2008年から新たに原子力空母を配備し、太平洋に「最低6隻」の原子力空母を展開すると発表した。
 中国の軍事的台頭をにらんだもので、横須賀と佐世保基地(長崎県)への空母の入出港が増え、岩国基地での艦載機のNLP(夜間離着陸訓練)や低空飛行訓練なども増加するのは必至である。
 「今より騒音や危険が増すのは避けられない」と、井原市長は艦載機部隊の移転計画に一貫して「白紙撤回」を主張してきた。反対が多数を占めたことで、政府にあらためて移転計画の撤回を求める。

政府は予定通り実施へ

 今回の住民投票では、岩国市が今月20日に周辺7町村と合併し、4月には新市長選が行われるという事情も絡んだ。
 桑原敏幸市議会議長や住民投票に異議を唱える市民グループは、投票の棄権を呼び掛けた。
 受け入れ容認の見返りとして振興策を期待する人たちも「反対多数になると、国からの地域振興策が得られない」と訴えた。
 山口県は、岩国基地が軍民共用化した時のターミナルビル建設などの事業費を「移設容認と引き換えに国に持ってもらいたい」と、受け入れに傾いたが、基地機能の強化には危惧を表明していた。
 今回の住民投票について、額賀福志郎防衛庁長官は「やらなければならないことはやらないといけない」と述べ、投票結果にかかわらず、空母艦載機の岩国移転を実施する姿勢を示している。
 安倍晋三官房長官は「住民投票の結果を現在の市議会は尊重することになっているが、20日に(周辺七町村と合併し)新しい市に移行する」と述べ、合併間近い中での効力に疑問を投げ掛けた。
 その上で「予定通り最終報告を取りまとめる方針に変わりなく、地元自治体を含め国民の理解を得るべく努力したい」と述べた。

再検討急ぎ対米交渉を

 これではまるで地元の意思を無視してでも、日米合意に沿って突き進むということではないか。
 日米両政府が今月末までに最終報告をまとめるとしても、ほとんどの自治体は反対あるいは拒否という厳しい姿勢であることを真摯に受け止めるべきだ。
 全国の受け入れ自治体から同意を得る作業は、現状では至難というほかはない。
 政府は、関係自治体の同意取り付けを断念し、見切り発車することも示唆している。しかし、それも地元の人たちの気持ちを逆なでするだけだろう。
 米側は「最終報告は実施計画についての合意」との認識だそうだが、これも到底受け入れられるものではない。
 日本政府は、関係自治体の意見に真剣に耳を傾け、再検討を急ぎ対米交渉を仕切り直すべきだ。

岩国基地住民投票 民意を重く受け止めよ
[中国新聞 ’06/3/13]

 示された民意は「受け入れ反対」だった。米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転案について、受け入れの賛否を問う岩国市の住民投票がきのう実施された。注目された投票率は58.68%。規定の50%を上回って投票が成立。投票者の90%近くが日米両政府の中間報告の合意案に「ノー」を突きつけた。法的な拘束力がないとはいえ、政府は市民の選択を重く受け止める必要がある。
 今回の在日米軍再編問題で、地元住民の思いが投票を通じて示されたのは初めてである。普天間飛行場の移設問題で揺れる沖縄県をはじめ、全国の関係自治体や住民、国民も投票結果に目を凝らしていたはずだ。
 再編協議が難航する中で明確になった岩国の「判断」が、各地に及ぼす影響は決して小さくなかろう。国の安全保障政策に民意をどう反映させるか。投票を発議した井原勝介市長は重い責務を負う。
 昨秋の合意案を貫く方針を固めたとされる日本政府にとっても、厳しい判断を迫られる局面を迎えたといえる。「国防は国の専権」として、これまで「頭越し合意」をしたように、強硬な姿勢を押し通すか。それとも柔軟路線への転換も視野に入れるのか。かじの取り方によっては、関係自治体や住民の反発が増し、日米安保そのものを揺るがす事態を招きかねない。
 投票は新市への移行直前に行われた。このため、「民意を正しく反映しない」などとして、投票への反発や棄権を呼び掛ける動きも広がった。安倍晋三官房長官は投票に疑問を投げかける発言を繰り返した。それでも投票が成立したのはなぜか。移転容認の見返りに地域の振興策を求めるべきだとする声よりも、基地機能の拡大・強化への不安や負担増の懸念が勝ったからではないか。
 中間報告によると、岩国基地には米海軍厚木基地(神奈川県)から戦闘攻撃機など57機と約1600人の要員の移転が計画されている。現在、配備されている57機と合わせると、極東最大の米空軍嘉手納基地(沖縄県)の所属機数を上回る。
 こうした事情に加え、政府側の説明不足が住民たちの不安に拍車をかけた。移転案公表後、政府側から示された騒音予測図には、約10年前の飛行経路が使われ、最新のデータに基づく踏み込んだ資料の提示もなかった。誠実な対応とは、とてもいえまい。
 嘉手納基地周辺では、「運用上の都合」を理由に、深夜から早朝の飛行自粛を取り決めた日米の騒音防止協定がほとんど効力を失っている実態もある。沖縄の現状を見るにつけ、岩国基地に隣接する広島県西部地域をはじめ、中国山地での低空飛行訓練の増加を心配する県北や島根県などで、移転反対の声が強まるのも容易にうなずける。
 今回の再編案では、負担軽減の恩恵を受けるとされる沖縄県でも、国への不信が消えていない。地元の修正要求を拒否する防衛庁などの強硬方針が反発に拍車をかけている。
 米国の世界戦略を具現化するとされる今回の在日米軍再編案に対し、専門家の間でも疑問の声は多い。将来に禍根を残さないためにも、拙速は厳に慎むべきである。

岩国住民投票 政府は地元との協議を尽くせ
[愛媛新聞 2006/03/14(火)付]

 在日米軍再編で米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機を米海兵隊岩国基地に受け入れるか否かを問う山口県岩国市の住民投票が行われ、受け入れ反対が有効投票の89%を占めた。
 これに基づき岩国市長は今週内にも国に艦載機移転の撤回を求める方針だ。さらに、沖縄など全国の自治体でも再編案に反対の動きが強まりそうだ。再編問題で初めて住民の意思が直接示された影響は大きい。
 これに対し政府は「安全保障は国の責任」として住民投票自体の妥当性を疑問視した上、岩国移転は「生活・自然環境をできるだけ保全する案だ」として見直しは行わない方針だ。
 さらに再編案全体についても昨年10月の日米合意内容を優先し、予定通り3月中にも最終報告をまとめる意向だ。地元の事前同意がない「見切り発車」では、反発は一層強まろう。
 政府は今後、各地で地域振興策という見返りを提示して反対派を切り崩す一方、沖縄では海の埋め立て権限を知事から国に移す特措法制定も検討しているという。このままだと問題がこじれる一方だ。ここは期限にこだわらず、誠意をもって地元と協議する姿勢が必要だ。
 岩国の圧倒的な反対票の背景には、2008年度完成予定の岩国基地滑走路の沖合移設が艦載機移転の「呼び水」になったという不信感がある。騒音と墜落の危険を減らすため沖合移設を認めたにもかかわらず、逆に基地機能が強化されるからだ。
 空母艦載機57機が移転すれば、米軍機は計114機となり、沖縄の嘉手納基地を上回る極東最大級の米軍基地となる。米側はさらに沖縄の普天間飛行場の空中給油機の移駐先を岩国基地へ変更するよう求めている。このままでは基地機能強化への不安は増幅するばかりだ。
 岩国基地の増強には、愛媛県側も関心を持たざるを得ない。岩国基地などの戦闘機が四国山地で低空飛行訓練をしており、新居浜市や西条市などの山中で騒音被害が長年続いている。
 また、同基地の戦闘機が1989年に旧野村町に墜落、その前年にも同基地から沖縄に向かう大型ヘリが伊方原発近くに墜落した。松山空港の進入管制権を岩国基地が持つ問題もある。
 県では低空飛行訓練中止と管制権返還を全国知事会などを通じて政府に要望し続けているが、基地増強となれば解決は難しくなることが予想される。
 再編案では、厚木から移転する早期警戒機4機の夜間離着陸訓練(NLP)を岩国で行う。NLPは騒音がひどく、事故の危険も増える。低騒音機とはいえ、一部容認は艦載機全体のNLP容認につながりかねない。
 再編案は艦載機のNLPの実施場所に硫黄島を指定するが、これも「恒常的な訓練施設特定までの間」としている。硫黄島までの距離が遠いためだ。03年に広島県の小島が浮上したように、岩国周辺での恒常的施設の立地が将来ないとはいえない。そうなれば本県側に影響が及ぶ恐れもある。岩国基地増強は対岸の問題ではない。

【岩国住民投票】民意を重く受け止めよ
[南日本新聞 2006年3月14日朝刊]

 米海兵隊岩国基地(山口県)への空母艦載機の移転受け入れの是非を問う住民投票で「反対」が89%を占めた。地元の頭越しに進められた在日米軍再編協議への反発であり、政府は結果を重く受け取るべきだ。
 今回の再編問題で住民投票が実施されたのは初めてだ。岩国市長は近く国に計画の撤回を求める方針だが、政府は昨年秋の日米両政府合意案を貫き、移転計画を変更しない方針を明確にした。
 政府は安全保障政策や防衛は国の専権事項として、住民投票にはなじまないとの立場をとっている。今回の投票には法的拘束力もない。それでも明確に示された民意を汲(く)むことなく、見切り発車すれば、事態をこじらせるだけだ。
 投票率が50%を割れば、開票されない決まりだったので注目された。移転受け入れに伴う地域振興策を重視する容認派は棄権を呼びかけたにもかかわらず、58.68%が投票した。しかも有権者の過半数が反対を表明した意味は重い。
 日米両政府間の協議は大詰めを迎えており、今月末にも最終合意内容が発表される。だが、再編の象徴とされる沖縄の米軍普天間飛行場移設など、地元の同意が得られた地域はない。海上自衛隊鹿屋基地には普天間からの空中給油機部隊の移駐が検討されているが、市民アンケートでは反対派が74%を占めた。
 再編は各地の米軍部隊の移駐と撤退、受け入れがセットになっているだけに、政府は岩国市民の異議が飛び火することを恐れる。だからといって政府間合意を急ぎ、そのまま押し付けるようなことは避けるべきだ。再編計画を原点に戻って検討し直す必要があり、将来に禍根を残すようなことがあってはならない。
 日米安保条約に基づき、日本は米軍に基地・施設を供与している。国民の生命と財産を守るためにはやむを得ないだろうが、沖縄では戦後60年を経過しても基地の重圧は解消していない。
 小泉純一郎政権では、自衛隊のイラク派遣に象徴されるように、米軍と自衛隊の一体化が進んだ。再編案も基地負担軽減より、抑止力の維持、向上に力点がありそうだ。米国の世界戦略を具現化したものと疑問視する専門家は多い。
 地元自治体は、基地機能の強化がなし崩し的に進むことへの危惧(きぐ)をぬぐいきれない。狭くて人口過密の国内で基地をたらい回しすることにも限界がある。新たな安全保障環境を考えるなら、もっと大幅な海外移転こそ検討すべきだ。

岩国の住民投票
[神奈川新聞 2006/03/14 10:28:46]

 在日米海軍厚木基地(大和、綾瀬市)の空母艦載機受け入れの是非を問う山口県・岩国市の住民投票は、反対が有権者の過半数を占めるという結果になった。今回の在日米軍再編をめぐる関係自治体の住民投票は初めて。国は今月末を目標に米軍再編の最終報告を取りまとめる方針を示しているが、地元の意向を無視した形での拙速な対応は避けるべきである。
 岩国基地では、地元住民や自治体による長年の要望を受けて、国が1997年から滑走路を約1キロ沖合に移設する事業を進めている。2008年の完成を目指している沖合滑走路は68年、九州大校内に墜落したものと同種の戦闘機が岩国基地に配備されていたことから、墜落の危険性や騒音を軽減するのが目的だった。
 ところが、政府は基地負担の軽減を図るための沖合滑走路を米艦載機の受け皿とした。地元住民は「だましうち」と強く反発した。地元の肉声が伝わらず、日米両政府間の交渉だけで一方的に中身が決まっていく。在日米軍の再編計画で多くの自治体が指摘している「国の誠意のなさと説明不足」がここでもうかがえる。
 住民投票の結果を受け、井原勝介岩国市長は移転案撤回を国に求めることを表明している。これに対し、政府は「日米協議に大きな影響を与えない」(安倍晋三官房長官)として、地元の同意が得られなくても今月中に最終報告をまとめる意向を示している。
 住民投票に法的な拘束力はないとはいえ、このまま政府が地元の意向を無視して突っ走ればさらに対立は深まるばかりである。今後、神奈川や沖縄など基地を抱える他自治体でも「再編計画反対」の動きが活発化することも予想される。そこまでして、早急に最終報告をまとめる必要があるのか。
 確かに、国の安全保障は国の責任で行うものだろう。しかし、地元自治体や住民の合意がないままの「ごり押し」は、国の安全保障政策自体に対する国民の反発や疑念を強めかねない。まず国がなすべきことは、地元の意見に耳を傾け、新たな打開策を探ることではないか。神奈川の松沢成文知事も、国の責任で艦載機による騒音問題を抜本的に解決するよう求めている。
 井原岩国市長は移転案の撤回とともに、厚木基地の負担分散も主張してきた。厚木基地周辺自治体も「岩国市民の思いは当然」と理解を示し、沖縄県民も「不合理を押し付けられている全国の自治体を勇気づける結果」とたたえ、基地被害に悩む住民の連帯が広がっている。
 基地再編をめぐるこれまでの動きは、国任せでは基地負担軽減の実現は難しいことを示している。基地を抱える自治体同士がこれまで以上に力を合わせて、国に向き合う必要がある。

岩国住民投票*「ノー」の民意は明確だ
[北海道新聞 2006年3月14日]

 米空母艦載機の受け入れに、山口県岩国市の市民は明確な「ノー」の意思を示した。在日米軍再編に伴う負担増について直接民意を問う住民投票の結果だ。
 投票率は住民投票成立に必要な50%を超え、受け入れ反対票は9割近くに上った。全投票資格者に占める数でみても過半数に達する。投票結果に法的拘束力はないが、政府はこの民意の重みを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 井原勝介市長は投票の結果を踏まえて近く、政府に艦載機移転計画の白紙撤回を要請する。政府は計画を変更するつもりがないようだが、今後、米国との協議に臨む際には仕切り直しするくらいの覚悟を求めたい。
 そもそもは昨年10月、地元をないがしろにして米軍再編の中間報告を取りまとめた政府自身の判断ミスが招いた反発であり、不信感なのだから。
 安全保障にかかわる問題は国の専管事項で、住民投票にはなじまないという意見があった。そうだろうか。
 自民党の片山虎之助参院幹事長は投票結果について「一種の地域エゴイズムだ」と批判した。思い違いもはなはだしい。
 安全保障は国の専管事項であると同時に、市民の安心・安全に直接かかわる事項でもある。市民一人一人が意思表示できる機会を設けることは、政策決定過程の意義ある選択肢の一つではないか。市民にはその権利があるし、それが民主主義というものだろう。
 中間報告では、米軍岩国基地の沖合に建設中の新滑走路が完成する2008年に、厚木基地(神奈川県)から空母艦載機57機と兵員約1600人を移す計画が示された。
 これにより岩国の米軍機は計110機を超え、極東最大の嘉手納基地(沖縄県)を上回る規模になる。
 騒音対策や安全の確保という負担軽減が目的だった新滑走路建設が、いつの間にか負担増につながっているという状況の大きな変化に住民が物申すのは当然ではないか。
 地元には新たな負担を受け入れる見返りとして、地域振興施策を期待する声が少なくない。しかし、それは負担の増大・固定化がもたらすマイナスを本当に補えるものなのだろうか。
 基地との「共存」が「依存」になってしまわないようにしてほしい。
 岩国市は20日に周辺7町村と合併し、井原市長も失職する。こうした状況の中で住民投票を発議した市長への批判もある。
 井原市長は4月の新岩国市長選へ出馬を表明している。選挙戦で、新しい市民に投票結果への理解をどう求めていくのか。地域の声など聞く耳を持たぬふうの政府と、どう渡り合っていくのか。
 住民投票によって井原市長が背負った責任もまた大きい。

岩国・住民投票/「反対」の意味を重く考えて
[河北新報 2006年03月13日月曜日]

 在日米軍再編による空母艦載機移転受け入れの賛否が問われた山口県岩国市の住民投票で「反対」が約9割という圧倒的多数を占めた。
 この結果に対し小泉純一郎首相は、移転計画を変更しないことを明言し、日米両政府による今月中の最終報告取りまとめ方針も変わりがないことを強調している。
 しかし、住民投票でなぜこのように明確な反対の意思表示がされたのか、政府は重く受け止め、考える必要がある。
 中間報告で岩国に直接かかわるのは、米海軍厚木基地(神奈川県)の艦載機57機と要員約1600人を米海兵隊岩国基地に移転することだ。岩国の負担軽減策としては、海上自衛隊機17機と要員約700人を厚木に移転させることにしている。
 この計画に岩国市は「基地機能の強化は容認できない」「移転は厚木の騒音被害の転嫁にすぎない」と反発。市議会は昨年、移転反対決議をした。
 だが「反対しても計画変更は望めない」として、受け入れを前提に地域振興策などを求める条件闘争に切り替えるべきだとする意見がこのところ、市議会や市民の間に高まっていた。
 このため、計画の白紙撤回を求める井原勝介市長が、市民の意思を直接確認することが必要として、住民投票条例に基づいて住民投票に踏み切った。
 最大の焦点は、投票率が50%を超えて投票が成立するかどうかだった。
 「国防政策は国の専管事項で住民投票はなじまない」とする反対意見は地元でも少なくない。条例でも住民投票の適用除外に「市の権限に属さない事項」を挙げており、条例違反だとして棄権を呼びかける市民団体も結成された。
 20日に周辺町村との合併で新岩国市が発足することも投票実施への批判を呼んだ。
 それでも投票が成立し、反対票は全有権者の過半数に達した。政府による頭越しの再編計画の進め方や基地問題への対応に対する市民の不満、不信感の強さを示したとみるべきだ。
 小泉首相は「どこでも基地に賛成か反対かと言えば、反対だろう。そこが安全保障の難しいところだ」とも言う。
 世界情勢、特に東アジアの状況を考えれば、在日米軍基地の完全撤廃が現実的でないことは確かだ。基地のある自治体に負担を求めざるを得ないのが現実だろう。
 だからこそ政府は在日米軍再編、自衛隊の役割分担見直しについても国民にもっと説明し、理解を求めることが必要だ。
 昨年10月に日米両政府が合意した中間報告には関係自治体のほとんどが反対姿勢を示し、政府の調整は難航を極めている。「国が決めることだ」という強権的な姿勢が先に立っていたからではないか。
 政府は地元調整に全力を挙げる方針だが、ただ「アメ」と「ムチ」に頼るようでは基地問題の解決は程遠い。
 政府が岩国市に今後どう対処し、岩国市側がどう対応していくかも注目したい。

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