アラ還のオッサンがマルクスの勉強やらコンサートの感想やらを書き込んでいます

難しい作品… 映画「マンダレイ」

2006年4月9日 at 12:16:33

マンダレイ(プログラム表紙)

デンマークの監督ラース・フォン・トリアーが撮った最新作。ニコール・キッドマンの主演で話題になった「ドッグヴィル」(2003年)の続編です。(ことし3本目の映画)

ドッグヴィルを父とともに脱出したグレースは、アメリカ南部アラバマ州で、農園「マンダレイ」の前を通りかかる。そこでは、黒人たちが、白人の一家族によって奴隷として支配されていた。時代は1933年、すでに奴隷解放から70年たっているにもかかわらず。ドッグヴィルで「力の行使」を学んだグレースは、父の手下たちの「力」を使って、黒人たちを解放する。グレースの発案で、農園は黒人たちの「共同体」とされ、白人家族はそこで雇われて働くことになった。しかし、黒人たちは、グレースの行いに困惑の表情を見せる……。

前作同様、セットはほとんど簡略化され、屋敷の門構えやポイントになる窓、室内のベッドやテーブルを除くと、建物も農園も、みな舞台の上に引かれた線で示されるだけ。それでも、ドアをノックする音や開け閉めする音がおぎなわれているのと、ナレーションが多くなっているので、前作より少しは分かりやすくなっているかも知れません。

ところでその内容ですが、もっか公開中なので詳しく紹介できませんが、なかなか複雑な仕掛けになっています。アメリカの黒人差別を批判しているのは間違いないのですが、黒人を「哀れな存在」と見なすグレースの行いを“偽善”として告発するだけでは話を終わらせておらず、あたかもヘーゲルの「<主>と<奴>の弁証法」を見ているようです。(^_^;)

しかし、じゃあアメリカのやってきたことはみんな偽善だったのかというと、やっぱりそれも違うと思うので、なかなかすっきりしません。何にせよ、エンドロールの背景に登場する写真を最後まで見て考えさせられる作品です。

主役グレースを演じるのは、映画監督ロン・ハワードの娘ブライス・ダラス・ハワード。前作の印象が強かっただけに、主演交代はなかなか難しいところですが、見事にニコール・キッドマンとは違う、もう少し人間味あるグレースを演じていました。他方、「まだ準備ができていないんです」という台詞をくり返す黒人たちの頭役ウィレルムを演じるのは、「リーサル・ウェポン」シリーズでメル・ギブソンの相棒役をつとめたダニー・クローヴァー。彼が渋いところを演じています。さらに、イザーク・ド・バンコレが、この作品のキーとなる“誇り高き黒人”ティモシー役も見応えあります。

全編が、手持ちカメラ(というか、実際には、でかい安定装置付きのカメラを肩に担いでいるのですが)で撮影されていて、クローズアップを多様する画面構成が、いやでも観客たちを主観的なかたちで作品世界にまきこんでゆきます。モーツァルトのレクイエムを思わせる弦楽による陰鬱な音楽も、不思議な作品空間をつくりあげています。

『マンダレイ』オフィシャルサイト

【関連ブログ】
「ドッグヴィル」についての僕の感想はこちら
映画鑑賞日記: マンダレイ
the diary of lucy:マンダレイ
平気の平左:パワー不足は否めない 「マンダレイ」
微動電信: グレースの試練その2
日々 是 変化ナリ ? DAYS OF STRUGGLE ?:やっと観た!アメリカをえぐる問題作、「マンダレイ」。
映画子の映画日記: 『マンダレイ』
或る日の出来事 「マンダレイ」
ラムの大通り:『マンダレイ』
シャーロットの涙:マンダレイ
シネマぶー ドッグ・ヴィルの続編!「マンダレイ」
マンダレイ|映画まみれ

あれこれブログの記事を見てみると、ブライス・ダラス・ハワードの評判はいまいちのようです。「影が薄い」とか、インパクトがないとか…。でも、こんどのグレースは、前作のような審判するキャラではなく、予想外の事態に困惑するキャラなので、ニコール・キッドマンのような個性の強い女優よりも、彼女の方が適役だと思うのですが、どんなもんでしょうねぇ。

要は、「マンダレイ」を「ドッグヴィル」の延長線上で見るか、それとも独立した作品として考えるかで、ブライス・ダラス・ハワードにたいする評価も、この作品全体にたいする評価も違ってくるように思います。僕は、独立した別の作品として見るべきだろうと思うのですが。じゃあなぜ主人公が同じグレースなんだ?という疑問には、うまく答えらませんが…。(^_^;)

【作品情報】監督・脚本:ラース・フォン・トリアー/撮影:アンソニー・ドッド・マントル/美術監督:ピーター・グラント/出演:ブライス・ダラス・ハワード(グレース)、ダニー・グローヴァー(ウィレルム)、イザーク・ド・バンコレ(ティモシー)、ウィレム・デフォー(グレースの父)、ローレン・バコール(女主人)/2005年、デンマーク、139分

Similar Articles:

Tags: ,

Print This Post Print This Post

人気ブログランキングに参加しています。よかったらクリックしてください。

14 Responses to “難しい作品… 映画「マンダレイ」”

  1. 文中リンクありでのTB、ありがとうございます。
    ブライス・ダラス・ハワード、よかったですよね!
    次の3作目、ラストでは誰がグレースを演じるのか、楽しみです。
    また遊びにきます!

  2. 『マンダレイ』

    2005年/デンマーク/カラー/139分 配給・提供:ギャガ・コミュニケーションズ G シネマ 原題:MANDERLAY 字幕翻訳:松浦美奈(はじめ手書き…

  3. パワー不足は否めない 「マンダレイ」

    評価:70点

    マンダレイ

    個人的には結構好きです。

    が、嫌いだと言うのもよくわかります。

    長くて若干退屈な部分もありますし。

    色々と伏線が張ら…

  4. マンダレイ

    ラース・フォン・トリアーが描く「アメリカ三部作」第2弾

    最初に一言。
    私は「ドックヴィル」を見ていない。
    前作がどんなに衝撃だったかはわからないけど、ま…

  5. はじめまして。文中リンク&TBありがとうございます。
    ブライス・ダラス・ハワードは確かに色々と意見が分かれてますね。あの状況に困惑し迷っている様は、確かに二コールより感情移入し易かったかもしれませんね。
    次回作のタイトルは『ワシントン』っていうそうですね。
    いよいよ本丸に到達するトリアーがどんなシメを持ってくるか今から楽しみです。

  6. マンダレイ

    『マンダレイ』 (‘05/デンマーク・スウェーデン・オランダ・フランス・ドイツ・アメリカ)
    監督: ラース・フォン・トリアー

    前作…

  7. グレースの試練その2

    マンダレイ ラース・フォン・トリアー ★★★☆☆ 観る人の感情に切り込むインパクトとしては前作に足らない。鬼気迫るやりきれなさ、どんな不幸が主人公に振…

  8. 『マンダレイ』

    鬼才トリアーの冷笑世界を堪能。
    豊饒の地マンダレイに実る味わい深い皮肉たち。

    1933年春。グレースと父親とギャングたちは、アメリカ南部アラバマ州…

  9. 映画鑑賞感想文『マンダレイ』

    さるおです。 『MANDERLAY/マンダレイ』を劇場で観たよ。 監督はラース・フォン・トリアー(Lars von Trier)。 出演は『THE VIL…

  10. マンダレイ

    今日は仕事が…と言うよりもオレがダメな日でした。こまごまとミスをしちゃいましたね〜。ダメな日はダメな日なりに何とかしようとするのだけれど、ダメな日はやっぱ…

  11. こんにちは、TBありがとうございます。
    あの繰り返し流れている曲、ヴィヴァルディの詩篇第126番の第4曲らしいです。原曲を聴いてみたいので、少し探しましたけどみつかりませんでした。
    専門店を一度のぞいてこようと思います。(^-^)

  12. マンダレイ

    とにかく徹底的にやり切るという意思表示なのだろう。「ドッグヴィル」の続編を、ぶれることなく、「ドッグヴィル」と同じようなつくりで撮りきる。ラース・フォン…

  13. マンダレイ/ぬるま湯が好き?

    最も好きな映画作家の一人、ラース・フォン・トリアーの、「アメリカ」3部作の2作目。
     フェミニズムの視点で批評してみよう。
    マンダレイ
    マンダレイという…

  14. NO.167「マンダレイ」(デンマーク/ラース・フォン・トリ…

    ドグマ95と「純潔の誓い」。
    トリアー監督は、ますますラディカルになっていく。

    トリアー監督は、1956年生まれ。僕より3歳下だが、極めて、戦闘的で挑発的だ。とても、 (more…)

Trackback This Post

http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2006/04/09121633/trackback/

Leave a Reply