東郷和彦氏の意見

8月12日の「朝日新聞」私の視点欄で、東条内閣の外相でA級戦犯として禁固20年の判決を受け、服役中に死亡し、靖国神社に合祀された東郷茂徳・元外相の孫にあたる東郷和彦氏(元オランダ大使)が、「分祀」論について、「戦争責任の議論こそ必要」と題して、次のような意見を書かれている。

 和彦氏は、合祀について「遺族には事前の相談はなかった」が、「祖父の霊をまつって下さることには感謝している」としながら、「その一方で、そうした遺族としての感情を優先させる余り国益を損なってはならないと考える」として、次のように指摘されている。

 小泉首相の靖国参拝は、日中の首脳間の対話が途絶えるという深刻な事態を招いた。その打開のためには日中双方の譲歩が不可欠だ。日本がその最初の一歩を踏み出すべく後継の首相に対し、靖国参拝についてのモラトリアム、つまり、しばらくの間の参拝停止を提言したい。

で、「モラトリアムの期間中に、中国との関係ではなく日本自身の課題としてやるべきことが3つある」として、次のように指摘されている。

 まず第一に、靖国神社を国のために命をささげた人を純粋に慰霊する場にするこである。現在は遊就館の展示などで独自の歴史観を発信しているが、そうした機能は分離することが適切ではないか。
 第二は、戦争責任の問題を国民的に議論することである。政府は95年の「村山談話」以来、アジア諸国などに与えた損害と苦痛に対し「痛切なる反省とおわび」を表明してきたが、だれにその責任があるのかには踏み込んでいない。元来、東京裁判は戦勝国による処断であり、日本自身で改めて戦争責任を問い直すべきではなかったか。国会の場やマスメディアも含めた国民的議論の末、最終的には政府としての見解が必要であろう。それはA級戦犯合祀の適否の判断にも直結する。
 三つ目は、太平洋戦争の記憶を後世に伝えるため、国立の歴史博物館をつくることである。そこには遊就館の展示を引き継ぐ、戦争に至る当時の日本の論理も示されるが、同時に、中国などで実際に起きたことを客観的に示す。また、原爆投下などで日本民族が抹殺される危機に瀕したことを示すのも必要だ。戦争の記憶を総合的に示すことによって、日本自身、戦争の問題を乗り越える縁(よすが)になろう。

氏の主張には、全部賛成という訳ではない。日本社会のために生命を犠牲にした人たちを追悼する場が必要だとは思うが、それを特定の宗教法人にゆだねることには賛成できないし、太平洋戦争の歴史博物館をつくったさいの展示のあり方についても、当時の日本の「論理」も提示しなければならないだろうが、その「論理」も「客観的に示す」ことが必要なのであって、そうした客観化の手続きなしには、戦争責任の問題と向き合う博物館にはならないと思う。

しかし、遊就館の展示などに示された「独自の歴史観」は公的な戦争犠牲者追悼の場から切り離されるべきものであること、戦争責任の問題について国民的議論が必要であること(そのためには、当然、あの戦争がどういう性格を持ったのかについての国民的な議論も必要になるであろうが)、そして日本が与えた侵略戦争の被害の実相についても、われわれはきちんと記憶し、後世に伝えていかなければならないということ、などはまったく賛成である。

A級戦犯の遺族でもある同氏が、このように提起されていることを、私は大切なことと受けとめたい。

さて、氏はさらに続けて、次のように述べている。

 ところで、A級戦犯合祀の適否を再検討するにあたって、「政教分離の原則があるので政府は宗教法人である靖国神社には意見を言えない」という議論がある。だが、靖国神社における全戦犯の合祀は厚生省が出した名簿に基いて行われており、その経緯からして、政府には合祀についての責任が今もあるし、同時にそれについての見解を提示する権利もあると考える。
 靖国神社には宗教法人のまま伝統的祭祀を守って欲しいが、仮に政府が「あの名簿は適切でなかった」と宣言しても神社側が対応しない場合には、非常に難しい事態が起きる。非宗教法人課は、その際の一案になるかもしれない。

私は、靖国神社に守るべきほどの「伝統的祭祀」があるとも思わないし、ましてや近代になってつくられた靖国の「伝統」を守って欲しいとも思わない。しかし、前に私が指摘したように、一方で、国に頼って合祀をすすめながら、国の介入を「宗教弾圧」などといいつのる議論が、いかに身勝手なものであるかは、氏の指摘からも浮かび上がってくるだろう。

最後に氏は、あらためて戦争責任の問題こそが問題の中心であることを強調されている。立場や考え方は異なるが、戦争責任の問題について国民的な議論が必要だとの提起は同感である。靖国問題については、せめてこれぐらいの冷静な議論をのぞみたい。

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