明石一紀『古代・中世のイエと女性』

明石一紀著『古代・中世のイエと女性』(校倉書房、2006年9月刊)

9月に出たばかりの明石一紀『古代・中世のイエと女性』(校倉書房)。この間、三浦半島突端まで出かけたときから読み始め、ようやく半分ぐらいまで読み終わりました。

1986年の歴科協大会で、直接、ご本人の報告(本書第1部第1章に収録)を聞いて以来、明石氏の書かれるものには注目してきました。本書には、そのなかからエンゲルスの『家族・私有財産および国家の起源』批判や家族の「起源論」など、理論的な問題をとりあつかった論文が集められています。

歴科協大会のときは、明石氏の大胆な報告と、報告が終わるなり、私の真後ろに座っておられた静岡大学の原秀三郎氏が「報告者は、エンゲルスの『家族・私有財産および国家の起源』を粗雑だと言ったが、私に言わせれば、報告の方が粗雑だ」(←私の記憶による)と、大きな声で真っ向から反論されたのにあっけにとられて、報告をよく消化できないまま帰ってきたのを覚えています。(^^;)

その後、エンゲルスの『起源』についても歴史的に位置づけなければならないことが概ね共通理解となってきた時点で読み返してみると、明石氏の指摘にはうなずくところが多々あります。また僕自身、その後、いろいろと日本古代史の研究を調べるなかで、日本には厳格な族内婚排除をともなった「氏族」(クラン、ゲンス)は存在しなかった、家族の基本になったのは小家族で、しかも生産単位として非常に不安定であったというイメージを持つようになって、それらは明石氏の想定と重なる部分が多く(というか、僕がそうしたイメージを持つにあたっては明石氏の研究も参考にしたので)、氏の理論的な問題提起には非常に納得するところがあります。

しかし他方で、イエを経済的な単位として、家族概念と厳密に区別しようという気持ちはよく分かるものの、やっぱりイエと家族との関係をカテゴリーとしてももう少し整理してもらわないと、よく分からないところが残る、というのも率直な感想です。たとえば氏は、家族の中に経済単位としてのイエを含めるのは二元的だと相当厳しく批判されるのですが、氏が家族とイエとの関係をどう考えているのかよく分からないので、そういう明石氏の理解は家族とイエの二元論ではないかと思ってしまったりします。ご本人も、家族とイエとは密接に関連していると書かれているのですが、残念ながら、その密接な関連が何であるかは、あまり具体的に展開されていないように思われます。

あと、近世史をやってきた人間からすると、氏が「ヤシキ地居住集団」と括られているものをどのように理解されているのか、その点がもっと展開されないと、なかなか納得しがたいものがあります。

たとえば氏は、次のように述べておられます。

 『起源』の理論から、私有制の発達と関連した在地における(経済的な)イエの成立の解明が重要な課題として導き出される。このイエの家族形態は、私の『起源』の家族論に対する批判的検討から導くならば、(双方的村落の中から)「家共同体」が成立してきて「家父長制家族」に発展すると考えており、双方的な日本にあっては、前者は近世初頭にまで残るヤシキ地居住集団、後者は近世?近代の父系直系家族を理念型とする「家」、にそれぞれ相当する、と理解しているのである。(本書122ページ)

これなどを読むと、「ヤシキ地居住集団」は「家父長制家族」ではないという理解に立っておられるようなのですが、近世史では、こうした下人・名子・被官などの隷属民をかかえこんだものこそが家父長的奴隷制で、その体制的否定にこそ近世=幕藩体制の構成体史的な特徴があるとされてきました。しかも、こうした隷属民は非血縁者であり、そうした非血縁者(しばしば単婚小家族を形成)を「家」の中に包摂し、隷属させる論理は何なのか。それこそが、この時代の「家族論」の中心課題だと思うのですが、この点でも明石氏の考えがよく理解できません。

氏は、144ページで、こうした隷属民について、従来の議論への批判として、日本古代の家族の「家父長制」の論拠としてあげられてきたが、「富豪的農民にみられる家内隷属民なら、……前近代に広く見られる特殊な家父長制的奴隷制家族であり、社会規定とはまた別の問題であろう」とい書かれています。文意が読み取りにくいところもあるのですが、どうやら家内隷属民の存在は、前近代に広く見られる現象で、社会規定とは関係のない「特殊」問題だと考えられているようです。

しかし、社会構成体史的な体制規定にとって、一番根本的な問題は、直接的生産者がどのような支配・隷属関係のもとに置かれているかということにあり、その点で、こうした隷属民の存在こそが体制規定の中心問題だと思います。明石氏の家族論では、その点の位置づけがはっきりしないのではないでしょうか。歴史の具体的なイメージではあまり違いがないにもかかわらず、理論的には一番違和感を覚えるところです。

こうした点を氏がどう考えておられるのか注意しながら、さらに読んでゆきたいと思います。

【書誌情報】書名:古代・中世のイエと女性――家族の理論/著者:明石一紀/出版社:校倉書房/発行年:2006年9月刊/定価:3800円(税別)/ISBN4-7517-3770-8

Similar Articles:

Leave a Comment

NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">