短いけれど、ちゃんとした解説だぞ、こりゃ

2007年1月17日 (水) at 21:43:00 Posted in 経済学, 読書

木暮太一『世界一簡単なマルクス経済学の本 マルクスる?』(マトマ商事)

駅を出ると小雨が降っていたので、雨宿りをかねて駅前の本屋に。すると、なにやら怪しげな本が…。『世界一簡単なマルクス経済学の本』。帯を見ると、「3時間で見るマルクス経済学の基礎が身につく超入門本!」

うむむ…、同じ著者&イラストで、『落ちこぼれでもわかるマクロ経済学の本』『落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本』が出ているのは知っていたけど、この手の本は中身がマユツバなことが多いので、とりあえず買ってきて、ぱらぱらと読んでみました。

そうしたら、短いので、細かいところはいろいろ省略されているけれども、中身はちゃんとした解説になっています。へんてこりんなマルクス解釈など登場せず、むしろ真っ当なマルクス理解だと思いました。(^_^;)

それより面白いと思ったのは、実は、「はじめに」の部分。木暮さんは、こんなふうに書いています。

 「落ちこぼれでもわかるマクロ経済学の本」と「落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本」。そしてこれが3作目のマルクス経済学の本です。出版するのが最後になってしまいましたが、実はマルクス経済学編を一番最初に書きました。それは単純に、「一番面白かったから」。

で、どう面白いかというと、

 マルクス経済学は経済の原理、原則であるとぼくは考えています。なぜお金がなきゃいけないのか、なぜ商品は商品となりえるのか、資本家はどうやって利益を得ているのか、労働者の給料はどうやって決まっているのか、など。そのようなことが体系的に説明してあります。
 確かに小難しい表記が多いですが、言っている事は資本主義経済、とくに日本経済にはよく当てはまりますので、現実におきかえて考えてみると意外に分かりやすいですよ。

「経済の原理、原則」というのは、より正確に言えば、「資本主義経済」の原理、原則。そして、その原理、原則を理解すると、現実の資本主義経済、あるいは日本経済がもっとよく分かる! ということです。

続く「概要」では、木暮さんなりのマルクス経済学の「重要部分」が紹介されています。そこでは、資本家の利益の源泉は何かという「搾取の仕組み」論(剰余価値論)だけでなく、「特別剰余価値」をめぐる企業間の競争、資本の有機的構成の高度化利潤率の傾向的低下、さらに消費の制限と生産の拡大との矛盾による恐慌(過剰生産恐慌)まで、なんとわずか3ページで紹介されています。利潤率の傾向的低下法則で資本主義の矛盾を説明する、というあたりは、正統派顔負けです。(^_^;)

価値形態論の展開などは簡略化されていますが、物神的性格の説明もちゃんと出てきます。第1部の最後にあたる部分では、「史的唯物論」という見出しで、資本家が自分の利益を増やそうとして労働者に悪条件を押しつけ、最後は労働者が怒って社会主義革命を起こす、という説明も登場しています(あくまで、マルクスの歴史観の紹介としてですが)。

続けて、第2部の解説部分では、再生産表式の説明も出てくるし、拡大再生産における不均衡の拡大と恐慌というところまで取り上げられています。

第3部の解説部分では、「利子生み資本」の部分までしか解説されていませんが、「平均利潤率」の説明のところなんて、部門内平均利潤率、部門間平均利潤率という順番でていねいに説明されています。さらに、利潤率の傾向的低下とその反対要因まで論じたうえで、資本主義の「矛盾」とは何か、という話まで出てきます。ここらあたりは、マルクスの説明の紹介というよりも、木暮さん自身が「これは確かに資本主義の矛盾だ」という感じの展開になっています。「経済の原理、原則」が分かる、と、御本人が強調されるゆえんのところでしょう。

ぱらぱらと流し読みをしただけですが、なるほど資本主義経済、日本経済の現実がよく分かるマルクス経済学の解説です。参考文献には、いわゆる正統派、協会派、宇野派とごちゃ混ぜに並んでいますが…。

プロフィールによれば、著者は、1977年生まれ(げっ、オイラが大学入学の年に生まれたのか…)。2001年に慶応大学経済学部を卒業、大手メーカー、広告代理店に勤務。学生のときから、「気軽に始まる経済学シリーズ」(マクロ経済学、ミクロ経済学、マルクス経済学)を自主制作し、大学生協や書店で累計5万部を売ったそうです。実際、本書を読む限りでは、要点を的確にまとめ、しかもわかりやすく紹介する才能はなかなかのもの、といっていいと思います。

【追記】
著者の木暮太一氏とはどんな人かと思ってGoogleしたら、こんなページを発見しました。
慶應ジャーナル・探偵慶応スクープ!T.K論作者に迫る!!

それから、こっちは本書で作者自身が公開しているブログのアドレス
落ちこぼれでもわかる経済学のブログ ー 初心者のための入門の入門

【書誌情報】著者:木暮太一/書名:マルクスる? 世界一簡単なマルクス経済学の本/出版社:マトマ商事/発行年:2007年1月/定価:1000円+税/ISBN987-4-434-10185-4

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6 Responses to “短いけれど、ちゃんとした解説だぞ、こりゃ”

  1. nohalf Says:

    紹介ありがとうございます。興味があるので早速購入します。ヂュメール教授の本は自分は買っていないのですが、サブゼミで出ているI先生が詳しそうです。自分も勉強してみます。

  2. Says:

    面白そうですね。ぜひ買って読んでみたいと思いました。著者が、私よりも若いというのもビックリです。

    「利潤率の傾向的低下」についてですが、代々木のゼミナールで疑問点が提示されたことが、なんとなくひっかかっています。GAKUさんが紹介されているグラフをみても、実証的に「傾向的低下」は説明できるような気がするのですが・・・資本主義の矛盾を、「傾向的低下」から見るという見方の有効性も、いろいろ考えさせられています。

  3. GAKU Says:

    nohalfさん
    興味を持っていただいてありがとうございます。

    洋さん
    >著者が、私よりも若いというのもビックリです。
    そうなんですよ。僕も、それがショックでした…。(^_^;)

    「利潤率の傾向的低下」については、代々木ゼミナールの講師御本人は、あくまで「私論」「私見」だと断っておられますので、各々が、自分なりに考えていけばいいと思います。

    デュメニルが紹介しているグラフにしても、傾向的に下がっているように見える時期もあるし、逆に上昇している時期もあって、自動的にいつも傾向的に低下する、ということではないことだけは確かなようです。それを、傾向的には低下しているのだが、反対要因のために表面には現れ出ないのだ、と解釈するのかどうかです。

    で、デュメニルの本では、もう1つ資本?労働比率(c/v)のグラフも紹介されていますが、要するに、マルクスは、資本家が利潤率を高めるために生産力を高めたときには必ず有機的構成が高度化すると考えたのにたいして、現実の資本主義経済では、資本家は有機的構成を高度化しないような形での新しい生産技術の導入というものができたのかどうか、ということです。これは、理論の問題であると同時に、実証の問題でもある訳で、その点で、デュメニルの本はおもしろいところを突いていると思います。

    なお、マルクスの「資本論」での理論構成を前提にする限り、利潤率は傾向的に低下することになる、というのは、代々木ゼミナールの講師も認めていると思います。だから、論点は、「資本論」の解釈としてどちらが正しいかではなくて、現実の資本主義が、マルクスの理論的な想定通りだったのかどうか、というところにあるとと思います。

  4. 木暮 Says:

    こんにちは。木暮です。

    コメント&本のご紹介ありがとうございます!

    本の中に書いたとおり、
    ぼくはマルクス経済学が一番好きですが、
    特に、資格試験の科目にあるわけでもなく、
    授業で採用する大学がどんどん減っている現状の中で、
    読者の皆さんに反響をもらえることに
    非常に驚くと同時にうれしく感じています。

    紀伊国屋書店の担当の方に話を聞きましたら、
    マクロの本、ミクロの本よりも売り上げペースが速いらしく、
    これまたびっくりしています。

    プロフィールをご覧になってお分かりのとおり、
    ぼくはマルクス経済学の専門家ではなく、単なるサラリーマンに
    過ぎませんので、これからもいろいろと勉強させていただきながら、
    信念である「難しいことを分かりやすく解説する」ということに
    力を入れていきたいと思います。

  5. GAKU Says:

    木暮さん、初めまして。

    著者ご本人からわざわざコメントをいただき、恐悦至極です。m(_’_)m

    本当に分かりやすかったです。でも、決して通俗に流れたり、平板な解説だったりするのでないので、とても面白く読みました。

    私も若い人たち相手に『資本論』の超初級入門編を喋ったりすることがあるので、ぜひとも参考にさせていただきます。

    追伸>
    知り合いに話して、少なくとも3人は買ってくれたと思います。
    ミクロ、マクロも買って読みますので。(^_^;)

  6. かわうそ実記 Says:

    四角い頭をマルクスる?…

    …って何かどこかの進学塾の宣伝みたいですね。半月ほど前、いつもよく拝見させてい (more…)

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