賃上げの余地は十分ある

「日経新聞」3/26付で、富士通総研専務の根津利三郎氏が、「十分ある賃上げ余地」という論説を書かれています(「経済教室」欄)。

日米欧の賃金と生産性、ユニット・レーバー・コスト(ULC、企業が一定量のモノを作り出すのに必要な労働コスト)の動きを比較して、日本のULCは低く、「生産性上昇率に見合った2%程度の賃上げの余地は十分ある」と指摘されています。

図1 生産性、賃金、ユニット・レーバー・コスト

生産性、賃金、ユニット・レーバー・コスト(根津利三郎、日経新聞2007/03/26)

まず第1に、日本のULCの動きについて。

  • 2002年2月から始まった今回の景気回復過程の広範で、生産性の上昇は加速しており、最近時点では前年同期比2%程度の伸びになっている。
  • それに対し、賃金は、2004年まで下落し続け、その後ようやくプラスに転じたが、最近時点でも前年同期比1%程度である。
  • その結果、今回の景気回復期間を通じて、ULCはつねにマイナスになっている(つまり、「単位労働コスト」は下がり続けている)。

次に、同じ時期の欧米と比較してどうか。

  • 欧米諸国では、賃金は緩やかながら上昇しているのにたいし、日本の賃金は低迷を続けている。
  • ULCは、アメリカもユーロ圏もプラス1?2%であるのにたいし、日本のみマイナスになっている。

以上のことから、根津氏は、次のように主張している。

 わが国のデフレ脱却には、賃金上昇を生産性の上昇率と同等水準に引き上げることを考えるべきで、金融政策に頼るべきではない……。
 デフレは今日まで続いたままで、企業収益は改善し、不良債権は償却され、株価は持ち直した。その鍵は大幅に舞いますのULCで、賃金は上がったが、生産性も伸びているため最新時点までマイナスのままである。その当然の帰結として、雇用者所得が犠牲にされ、消費が伸びないため、今後の景気拡大を支えるシナリオが描けず、先行き不安感が漂うというリスクが顕在化する。

氏はまた、円安との関連で、次のように主張している。

ULCが低下すると、普通はその国の通貨は高くなるはずであるのに、日本はULCがマイナスであるにもかかわらず、円安である。その結果、日本商品のコスト競争力は30%近く向上しており、これはOECD30カ国の中でも、かけ離れて強い。この状態は異常であり、早めに修正しなければ、外為市場で急激な円高が起こる可能性がある。

ここでも、氏は、「国際競争力を考えても、全体としては2%程度の賃上げの余地はある」と指摘。そして、次のように結論を結んでいます。

円安、賃金安、金利安の三重安に支えられた現在のやり方ではそろそろ限界だ。もう少し勤労者所得を増やし、消費を中心とした内需主導の成長を目指すべきである。このところの株価や為替レートの乱高下はこうした政策転換をすべきだという警鐘であると考えるべきであろう。

ちょうど同じ26日の1面の景気動向分析記事で、日経新聞は、「景気、なお安定軌道」「消費、持ち直す兆し」と言いつつ、次のように指摘していました。

もちろん消費が力強さを取り戻したとまでは言い切れない。1人あたり賃金が伸び悩んでいるのが主因で、競争力を意識する企業は賃上げに慎重姿勢を続ける。日本経済研究センターの試算では生み出した付加価値から人件費に回した比率を示す「労働分配率」は昨年10?12月期の全業種平均で62.1%、製造業では下げ止まっていない。
 大企業製造業はこれまで賃金を抑えてきただけに、人件費を増やす余力があるともいえる。……家計所得の水位が上がっていけば消費は「低空飛行」から脱しやすくなる。

これを裏づけるような分析でした。

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