労働生産性をめぐる2つの記事

たまたまでしょうが、今日の新聞に、日本の労働生産性をめぐる2つの、対照的な記事が出ていました。

1つは、「日経新聞」の「労働生産性、米の7割」という記事。内閣府の分析で、2005年時点の日本の労働生産性がアメリカの7割(71%)しかなく、主要国で最低水準になっていることが明らかになった、とくに、卸・小売業、運輸などサービス分野で低迷が目立つ、としています。

もう1つは、「欧州統合 岐路に」と題した「朝日新聞」の記事。こちらは、直接、日本の労働生産性を問題にしたものではありませんが、「生産性の伸びと賃金上昇の関係を示す『単位労働費用』」の変化で、2000年を100とした場合に、2006年にドイツ90.5、フランス94.9と低下していて、「生産性の向上に賃金が追いついていない」のが問題だという記事です。

で、そこに出ているグラフを見ると、アメリカが96ぐらいと、ほとんど下がっていないのにたいし、日本は82ぐらいまで低下しています。つまり、賃金あたりでみた生産性でいうと、アメリカはほとんど伸びていないのにたいし、日本は大きく伸びている、ということです。

はたして、日本の労働生産性は伸びているのか、伸びていないのか? どちらも典拠はOECDの統計なのですが、どうしてこんなことになるのか、どなたか詳しい方、解説をお願いします。m(_’_)m

↓これが、「朝日新聞」(2007年4月11日付朝刊)に載っていた「単位労働費用の推移」というグラフです。

単位労働費用の推移(朝日新聞2007年4月11日付)

日本の単位労働費用が低迷していることについては、「日経新聞」2007年3月26日付の根津利三郎「十分ある賃上げ余地」でも指摘されていたことです(ただし、グラフの形状は大きく異なっています)。

日本の労働生産性がアメリカの7割しかないという日経新聞の記事のニュースソースは、4月7日の経済財政諮問会議に提出された内閣府の資料です。→日本の生産性の現状(内閣府)PDF:474KB

で、内閣府のこの資料では、労働生産性は、GDP(付加価値)÷労働投入量(就業者数×労働時間)で求めたもの。

「朝日新聞」に載った単位労働費用の方は、1単位の製品をつくるのにどれだけの労働費用(賃金)がかかったかというものだと思われます。そうだとすると、単位労働費用が100から80になったというのは、賃金が同じままで生産性が1.25倍になったとも考えられるし、生産性が同じまま賃金が8割にダウンしたということもあり得ます。もちろん、賃金が1.6倍に伸びたけれど生産性は2倍になった、という可能性もあります。

それにたいして、内閣府資料の方には、賃金は式に入ってきません。だから、「労働生産性」という言葉の本来の意味から言えば、内閣府の資料の方が正確なんだろうと思います[1]。しかし、企業が実際に問題にするのは単位労働費用の方でしょう(それが資本主義というものです)。

そういうことでいえば、日本は、単位労働費用は大幅に低下していて、企業はそれだけ、安いコストで生産できるようになっている訳です。90.5のドイツや94.9のフランスでさえ、朝日新聞の言うように「生産性の向上に賃金が追いついていない」のが問題だとしたら、82あたりまで下がった日本は、もっと大問題なわけです[2]

にもかかわらず、経済政策の総元締めである経済財政審議会に内閣府が、賃金コストの低下をあえて無視して、物量的な労働生産性だけを比較して、「日本はまだアメリカの7割だ。もっと生産性を上げないとダメだ」といえば、結局は、賃金引き上げよりも賃金抑制に向かっていくことは明らかでしょう。

はたしてそれでいいのか、そこが、いま一番問題なのではないかと思うのですが…。

※日経の記事を引用し忘れていました。 すんません f^_^;)

日本の労働生産性、米の7割・05年内閣府が分析
[4月11日/NIKKEI NET]

 日本の労働生産性が2005年時点で米国の7割程度と、主要国で最低水準にとどまっていることが内閣府の分析で明らかになった。就業者の多い卸・小売業、運輸などサービス分野で低迷が目立ち、米国との同分野での格差は2000年以降広がっている。IT(情報技術)の活用や規制緩和で差がついた可能性があり、日本経済の成長力強化へサービス分野の効率化が必要になりそうだ。
 内閣府は06年の経済協力開発機構(OECD)などのデータから05年の主要国の労働生産性を比較。米国を100とすると、日本は71で主要国で最低の水準。ユーロ圏(87)や英国(83)のほか、OECD加盟国の平均(75)も下回った。 (07:00)

  1. といっても、内閣府資料でいう労働生産性の分子は「付加価値」、つまり価格表示なので、物価が下落するデフレ状況で、は当然分子は小さくなってゆくはずです。そう考えれば、90年代以降、日本の労働生産性がアメリカの7割で推移しているというのは、それだけデフレ状況が続いてきたということであって、その間、日本の労働生産性が伸びなかったということにはならないと思うのですが。 []
  2. 根津利三郎氏が、日経の記事で、賃上げの余地は十分ある、というのもそういう意味です。ただし、朝日の記事によれば、根津氏がいうような2%程度ではなくて、もっと大幅に賃上げする余地があるということになりそうですが。 []

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  1. マーケティングの品格 - trackback on 2007/04/12 at 18:18:56

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