改憲手続法案 強行採決で社説を読んでみた

改憲手続法案(いわゆる「国民投票法案」)の衆院強行通過について、新聞各紙の社説を眺めてみました。

一番はっきりしているのは、北海道新聞。「改憲を容易にする内容」、「憲法を改正する権限は国民にある」のに「発議する国会の言い分を後押しするもの」と批判しています。民主党の対応についても、「投票権者の年齢や投票対象など、与党案との相違を争点とすることで、法案そのものの持つ欠陥を見えにくくした」と厳しい指摘です。

こんな議論でいいのか 2つの重要法案
[中国新聞 2007/4/14]

 重要な二つの法案がきのう、衆院本会議で可決された。憲法改正の手続きを定める国民投票法案と、在日米軍基地移転などに協力する自治体への交付金支給を柱とする米軍再編推進法案である。いずれも安倍晋三首相の強い意向を受け、与党が委員会で審議を打ち切るなどして採決を強行した。
 国民投票法案は「大事な問題だから」と自民、公明、民主が議論を重ね、拙速を避けてきた。が、安倍首相が憲法改正を参院選の争点に掲げ、「今国会で法案成立」と述べて潮目は変わった。
 米軍再編法案は、安倍首相の初の訪米となる二十六日に間に合うよう成立を急いでいるとみられる。日米同盟を重視する首相の、米国へのアピールというわけだ。
 中身よりも、首相の示した「締め切り」を優先した印象が強い。国の進む道を左右する法案だけに、これでいいのかとの思いがぬぐえない。それなのに民主党の対応は腰が定まらなかった。
 憲法を改正する際の手続きを定めた法律がない現状は、政治の怠慢とされてきた。法的不備を解消するため、与党と民主党は政局を絡めないよう神経を配って一致点を見いだす作業を続けてきた。与党案にあった「メディア規制」の撤廃もその果実である。
 法案処理を急いだ結果、議論のあった最低投票率は定めなかった。投票率がどんなに低くても成立することになる。地方公聴会はわずか二回。それも大阪と新潟で同じ日に開いた。国民的議論があまり盛り上がらないように済ませたとも映る。
 米軍再編法案は「アメとムチ」を制度化したといえる。岩国市や沖縄県名護市などを対象に、(1)受け入れ表明(2)環境調査―など、協力度合いを四段階に分けて交付金を出す。財政難にあえぐ地方を、カネの力でねじ伏せるようなやり方には批判も多い。住民の意思はどうあれ、国の命令は聞け―ということか。
 沖縄に駐留する米海兵隊のグアム移転費用を負担する枠組みも盛り込む。日本分は約七千億円で両政府は合意している。そもそも日本が負担する根拠、金額の積算根拠や使途を政府は説明できなかったが、押し切った。
 安倍政権は数多くの批判を浴びながらも、改正教育基本法など重要法案を圧倒的多数を頼みに成立させている。週明けの参院が議論をおろそかにしては、存在意義を問われることになろう。

社説[国民投票法案採決]論議尽くしたとは言えぬ
[沖縄タイムス 2007年4月13日朝刊]

 自民、公明両党は、衆院憲法調査特別委員会で審議していた国民投票法案の与党修正案を採決し可決した。
 十三日の衆院本会議でも可決する方針を打ち出しており、同法案は今国会中に成立する見通しだ。
 特別委における自民党理事と民主党理事の修正協議が決裂した結果だが、国民にとっては「双方の修正案そのものに十分な説明がない」のは言うまでもない。
 つまり、与党案も民主党案も国民の間に浸透していないのである。なぜもっと時間をかけて理解を得ようとしないのか、疑問と言うしかない。
 採決は、安倍晋三首相が強調した「憲法記念日(五月三日)までの成立」を目指す動きと軌を一にしている。
 だが、共同通信社やNHKが行った世論調査では「今国会での成立にこだわる必要はない」「今国会にこだわらずに時間をかけて議論すべき」という声が七割を超えている。
 であれば、修正案を双方がきちんと詰め、国民に説明していくことだ。
 手続き法とはいえ、憲法改正にかかわる法案は国民への周知徹底が大前提になる。国民の理解を得ぬまま単独採決したのでは、将来に禍根を残す。
 衆院を通過し成立しても、与党への不信が募れば議会制民主主義の理念を損ねる恐れも懸念される。
 ここはいま一度原点に立ち返り、審議に時間をかける必要があろう。
 与党修正案は(1)国民投票の対象は憲法改正に限定(2)投票年齢を「二十歳以上」から「原則十八歳以上(当面は二十歳)」に変更(3)公務員や教育者の、便益を利用した運動禁止(4)改憲案審議は三年間凍結―などが主な内容だ。
 民主党案の一部もこれまでの協議で盛り込んでいる。
 だが、憲法第九六条は「この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」と記している。
 そして「この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とある。
 自公案、民主党案には憲法改正手続き法案の成立に必要な最低投票率の制度が記されていない。憲法学者が懸念する理由の一つであり、論議を深めていく必要がある。
 憲法にかかわる問題である。審議し過ぎるということはない。会期中の成立にこだわらず、徹底的に論議し国民の疑問を払拭することだ。それが国会の責務だということを肝に銘じてもらいたい。

社説:投票法案衆院通過 拙速かつ強引に過ぎる
[秋田魁新報 2007/04/14 10:56 更新]

 拙速かつ強引。そう指摘せざるを得ない。「国民投票法案」のことである。自民、公明両党は野党の強い反対を押し切り、衆院通過を強行、今国会での成立が確実となったのだ。
 国民投票法は憲法改正の手続きを定める法律。手続き法とはいえ、重要性はどんなに強調しても過ぎることはない。国の根幹をなす憲法の改正に道を開く法律だからである。
 その分、慎重にも慎重を期した議論が欠かせない。憲法の改正に賛成にしろ反対にしろ、国民の意思を正確に反映する手続き法が必要であり、広範な合意が得られた投票法でなければならないからだ。
 衆参両院に憲法調査会が設置されて7年余り。与野党、中でも自民、公明、民主の3党は協調して論議を重ねてきた。投票法案の内容もかなり歩み寄っていた。しかし、今回の自公の強硬姿勢により、広範な合意形成は葬り去られたといえよう。
 何より投票の当事者である国民の理解が深まったとは言い難い。投票法案がどんなものなのかという最低限のことでさえ、心もとないのではないか。
 今後、論戦の場となる参院は「良識の府」だ。投票法制定の是非や中身の審議はもちろん、国民の関心を高め、理解を促す工夫も怠れない。
 自民、公明両党が法案成立を急ぐ理由にも首をかしげざるを得ない。「日程ありき」の側面が極めて強いのである。
 憲法改正を掲げる安倍晋三首相は、憲法記念日である5月3日までの成立に意欲を示した。確かに一つの節目ではある。しかし、憲法改正につながる法案の重さと比べれば、いささか矮小(わいしょう)な動機だ。
 夏の参院選対策も絡む。安倍首相は憲法改正を争点にする考えで、投票法成立をその「地ならし」にしようという思惑が透けて見えるのである。
 民主党も似たり寄ったりだ。水面下でぎりぎりまで続けられた自民と民主の法案修正協議。民主は結局、福島、沖縄の参院補選を控え、野党共闘を崩したくないといった選挙対策を優先させたきらいがある。
 憲法改正が絡む投票法案をどうするかより、目先の政局を重視したとすれば、政党・政治不信は一層強まるばかりだ。
 法案自体にも問題点が少なくない。憲法改正を承認する「過半数」の母数が、有権者総数や投票総数ではなく、最もハードルの低い「有効投票総数」とされたのである。
 もっと問題なのは国民投票を有効とする「最低投票率」の規定がないことだ。仮に投票率を40%とすれば、有権者の20%余りの賛成で憲法改正が成立することになる。
 投票日14日前からテレビやラジオの有料広告を禁止したことも、「表現の自由」との関係から容認できない。
 与野党協議で修正された点があるとはいえ、改憲を目指す自民側に有利な形で決められたとも受け取れるのである。
 憲法改正には賛否両論が渦巻いている。それだけに手続きを定める投票法には、何らの不公平さもあってはならない。参院では今度こそ徹底論議を尽くさなければならない。

社説 国民投票法案可決*改憲への「危うい一歩」だ
[北海道新聞 2007年4月13日]

 改憲手続きを定める与党提出の国民投票法案が衆院憲法調査特別委員会で野党の反対を押し切って可決され、きょう衆院を通過する見通しとなった。
 戦後体制の見直しを掲げる安倍晋三首相は、教育基本法改正や防衛庁の省昇格など憲法の足元を揺るがすタカ派的な課題を、数の力で通してきた。
 国民投票法案の可決は、こうした流れの中、現憲法の平和主義に対する改憲勢力の攻勢が新たな段階に踏み出したことを意味する。
 強権的と言える手法を貫いているのは、主権者である国民に対する政治のおごりではないか。幅広い政治的合意が必要な課題に対しても、強引に押し通せば、既成事実となり、やがては批判も絶える、と考えているならとんでもないことだ。
 法案はなお多くの欠陥を含んでいる。審議を引き継ぐ参院が良識の府なら、いったん廃案にすべきだろう。

*「中立的法案」ではない

 国民投票法案を推進する勢力は「改憲をするかしないかに関係なく手続き法は必要なもの。中立的法案だ」と説明してきた。だが実際は、単なる手続きの印象を与えながら、改憲を容易にする内容でまとめられた。
 改憲手続きは、国民の改憲機運が高まり、国会が発議に至る具体的な状況が生まれて初めて必要になる。
 国民の意思を確認するための制度の設計はそれまでに、時間をかけて慎重に行われるべきものだ。
 法案審議の過程では、多くの基本的な問題点が指摘された。それらは解消されずに残っている。
 中央、地方での公聴会でも、なお審議が必要との意見が多かった。
 憲法学者を中心とする法律専門家らも、法案の根本的不備を批判する緊急声明を発表している。
 与党はこれらの指摘に目をつぶり、採決を急いだ。結局は、改憲を争点とする参院選への影響を意識し、今国会での成立へ強引にこまを進めた。

*出発点にはき違えがある

 憲法を改正する権限は国民にある。その判断に際し、偏った情報の提供があってならないのは当然だ。
 ところが可決された法案は、原案の段階から発議する国会の言い分を後押しするものだった。
 憲法の基本は、国会を含む公権力を、主権者である国民が制御する国民主権にある。
 国会は改憲について提案する立場であり、決して中立的な機関ではない。
 なのに憲法改正案広報協議会を国会内に置き、その委員は国会の議員比率に応じて割り当てる形だ。いわば改憲の提案者が広報も担う形となり、情報提供の公正さ確保に疑問が残る。
 賛否を主張する政党による無料意見広告の量や回数についても、当初は議員数に応じた配分とするなど、出発点から根本的なはき違えがあった。
 投票成立のための最低投票率を定めず、少数の賛成で容易に承認となる基本的な欠陥も、すでに指摘した。
 投票までの周知期間も最長で百八十日とするのは短すぎるとの声がある。
 公務員の国民投票運動の制限や、資金のある側の主張が有利になる有料放送CMついても、問題点への根本的な対応が放置されている。
 また、内容が関連する事項(条文)についてまとめて投票する規定では、各事項について判断が異なる場合、意思が投票に的確に反映されない問題がある。まぎれをなくすには、個別に投票する方式を採用すべきだろう。
 全体に国民に情報を公平に提供し、いかに正確にその意思を確認するかという基本に照らし、不十分な内容だ。
 法案は国会法の改正案も含み、改憲案の議案提出権を持つ常設の憲法審査会を設置するが、すぐに改憲論議が始まることになろう。
 独自修正案を提出した民主党は、投票権者の年齢や投票対象など、与党案との相違を争点とすることで、法案そのものの持つ欠陥を見えにくくした。

*平和主義が切り崩される

 論点は多岐にわたる。にもかかわらず、数を背景に強行すれば何でも通るという状況は憂うべきことだ。
 これが、安倍政権の下で加速されている。
 国会の現状は、確かに改憲推進派が多数を占める。国民も世論調査で賛否を広く問えば、改憲賛成が多数となるが、平和主義の象徴である九条については慎重論がなお多く、政治との乖離(かいり)が見られる。
 国民投票法案についても、そのずれが示されたと言えよう。
 世論は今国会の優先課題として、この法案を重視していなかった。与党はそれに構わず突破を図った。
 ただ国民の側の関心も十分には広がらなかった。政治にまかせ切り、単なる手続き法案との宣伝に、思考を停止してきた側面はなかっただろうか。
 それが与党の独走を許すことになったとすれば国民の責任も問われよう。
 法案は、自民党の新憲法草案が言う、自衛隊を「自衛軍」として明確に位置づける九条改定に結びつく。
 それは平和主義の足元を切り崩す一里塚の役割を果たすことになろう。
 アジア各国に不安を抱かせるものともなる。
 この法案は、こうした懸念がぬぐえない。成立には反対せざるを得ない。

与党案になお疑問あり 国民投票法案
[2007/04/13付 西日本新聞朝刊 2007年04月13日00時04分]

 憲法改正に関する国民投票法の与党修正案が、衆院憲法調査特別委員会で可決された。きょう本会議でも可決され、参院へ送付される見通しだ。
 「審議は尽くされていない」とする野党の抵抗を押し切って委員会採決を強行した与党は、このまま今国会中の法成立へ突っ走るつもりのようだ。
 しかし、法案の中身にはなお釈然としない部分が残っている。
 昨年末、与党と民主党の間で法案修正に関する大筋合意が成立していたにもかかわらず、結局は双方がそれぞれが修正案を提出し、全面対決する形になったことも不自然だ。
 憲法改正という重大事を問う国民投票のルールがこのまま決まってしまうことには、強い懸念を表明せざるを得ない。
 与党の修正案は、当初案に盛り込まれていたメディア規制がほぼ全廃されるなど、一定の改善がみられることは認めていいだろう。だが、論議が尽くされたとは言い難い。
 与党修正案は、公務員の政治活動の制限を、国民投票についても原則適用することを盛り込んだ。
 一方、否決された民主党の修正案は、賛否の呼びかけなどの自由を優先する立場から、適用除外とした。
 公選法に基づく選挙なら公務員の運動に制限は必要だろう。だが、国民投票にまで規制を適用すべきかとなると、議論の余地があるはずだ。
 衆院憲法調査特別委が都合4回開いた公聴会では、国民投票が一定の投票率に達しない場合、投票自体を不成立とする「最低投票率制度」の導入を求める意見も目立った。
 与党案にも民主党案にもないアイデアだが、憲法改正の可否に関する国民多数の意思をより厳密に反映させる意味で、検討に値するのではないか。
 こうした疑問を残したまま、与党が数の力で押し切ることは許されない。
 当初、民主党との共同修正を目指していた与党が単独修正に踏み切った背景に、安倍晋三首相の意向があることは間違いない。
 憲法改正を参院選の争点に掲げる考えを表明した首相としては、今国会中に国民投票法を成立させ、改憲ムードを高めたいのだろう。
 首相の争点づくりに乗りたくない、とばかりに修正協議拒否に転じた民主党にも、参院選へ向けて自民党との対決姿勢を演出する計算があるようだ。
 選挙をにらんだ与党と野党第一党の政治的駆け引きのあおりで、結果的に与党だけで憲法改正手続きのルールを決める事態は異常だ。
 今からでも遅くはない。与党は強硬方針をあらため、野党側と冷静に議論できる環境の回復に努めるべきだ。
 それに併せて、法案の再修正も検討してしかるべきだろう。

投票法案可決 時期も運びもむちゃだ
[東京新聞 2007年4月13日]

 数にものをいわせて与党が動く。改憲を視野に入れる国民投票法案が衆院の委員会で可決、きょうの本会議採決をへて、与党は大型連休前の成立を目指す。強引な運びは憲法論議をややこしくする。
 自民、公明の多数与党は、次の舞台となる参院でこの法案を「連日のように審議する」構えをとる。十分な議論を尽くすよう求める声や拙速批判をかわす算段だろう。
 とはいえ与党が狙う四月中の成立には、よほどの無理を重ねるしかない。五月の中下旬へのずれ込みも想定されるが、七月改選期へ浮足立つ参院で冷静な法案審議ができるか、甚だ怪しい。
 第一の問題は、憲法改正手続きを定めるという、慎重配慮が求められる法案の採決を、こうした慌ただしい時期に設定したことにある。
 各種の世論調査でも「急ぐ必要はない」とする穏当な意見が多数だというのに、安倍晋三首相が今国会絶対成立の方針を掲げ、改憲を参院選で国民に訴えると力んだことで、政局の材料へ一気に浮上した。
 戦後の枠組み脱却を唱え、在任中の改憲実現を公言する首相が、こんなところで前面に出れば、法案に賛同する勢力も抱える民主党を含め、野党が身構えるのは当たり前だ。
 法案可決にあたって自民党国対幹部らは審議に長時間を費やしてきたことを挙げている。ところが国会の外からは、投票率の下限を定めないと少数の意思で改憲がなされかねない危険性や、テレビ広告などでの資金の潤沢な勢力とそうでない勢力との不公平が指摘されている。
 与党原案に民主の修正要求を相当程度取り入れた法案というが、その中身が国民にどれほど周知されているか、心もとない。そもそも、なぜ慌てるのか、の疑問に、納得のいく答えは示されていないのである。
 公聴会をこなしたといっても、言いっ放し聞きっ放しでは理解が広まるはずもない。そんな段階での数にものをいわせる国会の運びが、多くの国民に受け入れられるとは思えない。問題の第二はここにある。
 安倍政権の強攻策を可能にしたのは衆院の三分の二を超える与党の議席数だ。しかし誤解しないでもらいたい。議席は一昨年の郵政選挙で得られたものだ。総選挙に打って出た当時の小泉純一郎首相は、この手続き法に興味も示していなかった。
 参院の半数も改選を待つ。首相は自前の勢力でやり直してはどうか。
 いたずらな摩擦は慎重・丁寧であるべき憲法論議を粗雑にする。国民の関心を遠ざけ、議論に嫌気させるのが、首相の本意ではなかろう。

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