吉田万三氏、ハイシャの弁

都知事選が終わって10日あまり。それなのに、なぜか紙面にでかでかと吉田万三さんが…。都知事選では敗れたが、歯医者の万三さんがハイシャの弁とは、おつなタイトルですなぁ。(^_^;)

記事の中身もそうですが、面白いのは、都知事選が終わって、石原知事に届かなかったのはもちろん、浅野候補にだって追いつかなかった吉田万三さんを、新聞記者が取材してみようと思ったという事実。

実際、知事選の争点を決めたのは万三さんだったし、街頭で演説すれば、通りかかった人が足を止める。こんな論戦の上手い候補者は珍しいと、僕も思っていたのですが、どうも「毎日」の鈴木記者も、そんな万三さんの弁に興味を持たれたようです。

特集ワイド:都知事選に敗れて 吉田万三さん、ハイシャの弁(毎日新聞)

特集ワイド:都知事選に敗れて 吉田万三さん、ハイシャの弁
[毎日新聞 2007年4月17日 東京夕刊]

 思えば、先の東京都知事選はなかなかチャーミングな候補者がいた。筆頭は建築家の黒川紀章さんだろうけど、共産党推薦の元足立区長、吉田万三さん(59)もそうだった。おカタい党のイメージからはほど遠い、カラッと陽気な下町おやじっぽくて。本業の歯医者に戻った万三さんに、とくとハイシャの弁を聞いた。【鈴木琢磨】

◇虚像?巨像?タブー、ちょっと消せた

 世の中、なにが苦手といって歯医者が一番である。共産党も苦手である。だから足立区東和にある「蒲原(かばら)歯科診療所」の敷居は高かった。ここの所長が万三さん。選挙中は笑顔でも、終わればどうだか。恐る恐る2階の診療コーナーをのぞくと、待合室に「しんぶん赤旗」と「アエラ」。うーん、なるほど。白衣の万三さんにぶつけた。もっと肩の凝らない週刊誌、置いてないんですか?「ハハハ」
 土曜の午後、患者の姿はまばらだった。「私じゃないとっていう患者さんが多くて、選挙の間、迷惑かけちゃってね」。どうやら指名ナンバーワンの名医らしい。と、軽音楽の流れている診療室にキーン、キーン、虫歯を削るあのドリルの音が響いた。いや、ごく小さな音だったはずだが、トラウマのある身にはそれすら恐怖である。つばを飲み込んで、いざインタビュー。石原慎太郎知事を「虚像」だとおっしゃっていましたね。
 「ええ、キョゾー対マンゾーの戦いだと。かっこいい石原さんばかり目に飛び込んでくるでしょ。暴言ですら強さに見えてしまう。でも、それは演出された石原さん。その虚像が巨像になっていくときほど危険なときはない、と語りかけたんですがね……。私は選挙でハイシャになりましたが、状況は変わったな、と感じてるんです。勝ったとたんに『ゴーマン復活、本性現す』みたいな記事がどっと出た。これまでの石原タブー、ちょっとは消えたんじゃないですかね」
 ただ踏みつぶされたんじゃない、との総括である。なら、逆風をはね返し、280万を超える票を集めた現職圧勝の解説はいかがで。「民主党足す共産党みたいな計算をしているようじゃダメでね。気迫とかパワーがないと。石原さんは東京オリンピック招致で、でっかい夢見ようじゃないかって訴えた。うまいですよね、文学者的で。実は、そこ苦労したんです。対抗するにも夢を語らなきゃならない。大型開発にブレーキをかけ、普段の暮らし、医療や福祉の充実を、と訴えたんですが」
 なんだか奥歯にものがはさまっている感じ。万三節がさえない。「私は歯医者だから、掘ったり、埋めたりは得意なんだけどね、ハハハ。われわれの世界のメーンは虫歯の修復から、日常の管理に移ってきてるんですよ。歯周病予防なんかそうでしょ。そろそろ政治の世界も、穴が開いたら埋めるみたいなスタイルをやめないといけないんじゃないかって思いが強くて。でも、石原さんに比べりゃ、地味だったですな。ハハハ」。とにかくよく笑う。東京の下町じゃ珍しい阪神ファンでもある。
 そんな万三さんの父は堅物だった。戦時中、治安維持法にひっかかって獄中にいた。町工場で労働運動にいそしみ、赤旗を振った。戦争反対を唱えもした。「酒も飲まないし、冗談ひとつ言わない。戦後は衆院選に立ちましたが、万年落選候補でした。そもそも、もう少し戦争が長引いていたら、私は生まれていなかった。父43歳、母40歳のときの息子ですからね、滑り込みセーフでこの世に出てきたんです」。団塊の世代にあたる。
 あこがれて進学した北海道大学も政治の季節のまっただ中だった。「探検部に入ろうと思ってたんだけど、別の探検をするようになっちゃった。マルクス系の本を読んで。あの時代はそんなものでした。デモに行くのも当たり前みたいな。私なんて筋金入りじゃなく、針金入りくらいですよ」。ホームページの「何でもベスト3」懐かしのカラオケ編にSMAPの歌う「夜空ノムコウ」が。どうして?
 「♪あれから僕たちは何かを信じてこれたかな……って、あれね。われわれ世代、ソ連崩壊って、心の奥底でショック受けてるんですよ。私もね。次の時代をどうするか、なんとなくもやもやっとしてて。あの歌を聞くと、信じていたものが崩れたあとの、なんていうのかなあ、さみしさとかいろんなものがね」
 SMAPは団塊おやじの心をもつかんでいたとは。団塊、団塊と繰り返したためか、さすがの万三さんもむっとした。「定年間近になって、日本を悪くしたのはお前らのせいだなんて言われちゃったりしてるしね。率直なところ、戸惑いはありますよ。おれたちはおれたちで頑張ったんだけどって」。ちなみに4人おられる万三ジュニア「ほぼノンポリなのよねえ」と、ぽつん。
 ここで攻守交代――。せっかくだからと、診療のイスに横になり、あーん、ライトに照らされた。「こりゃ、すごく悪いぞ!大変だ!奥歯が根っこだけになってる」。ミラーを持って、にやっとしたその顔、般若に見えた。「いくら歯磨きが大事だって言っても、ちゃんとしない頑固者がいる。ハハハ。医者は気長に付き合うしかないんですよ。やれそうな範囲でやりましょうって言うんです。毎食後の歯磨きはできなくても、1回でいいから、丁寧に磨きなさいって。わかってますか!」
 返す言葉がない。でも、万三さん、虫歯にかこつけて、どうやら共産党にモノ申したいようで。「私が言うのもおかしいんですが、共産党の人って、ある種の温室育ちなんですよ。狭い世界で生きてるからボキャブラリーが不足している。たまにはテレビのドラマやお笑いでも見りゃいいのに。平板でなく、もっと人間をつき動かすものを持たなくちゃいけない。いくら正しいことを言ってたってね」
 そういえば、共産主義にも人類のユートピア、つまりはでっかい夢があったはず。「そう思ってますよ。自由な人間社会の実現ね。そうそう、共産党も党名を変えたらってよく言われるけど、昔、秩父困民党ってあったでしょ、あれコミュニティー主義のコンミューン党からきてるんじゃないかってのが私の説でね。困民党にしたらどうかなんて、冗談で言うんですがね」
 都知事選がすんですぐ、国民投票法案が衆院で可決された。「早まりましたね。安倍晋三首相は、選挙結果を見て、大丈夫だ、と判断したのかなあ。憲法改悪への流れを止めるためにも大いに発言していきますよ。共産党にも意見を言いますよ。本気で第3極をつくっていかないと相当厳しいんじゃないかって」
 戦い敗れても万三さん、夜空ノムコウの明日を信じている。

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