インドとの安全保障連携 本当にそれでいいのか?

安倍首相がインドを訪問し、日米豪印の連携強化をはかっています。しかし、中国を意識したこの戦略、ほんとうにそれでいいのか考えてみる必要がありそうです。

社説:安倍外交 「価値観」もほどほどに(中日新聞)
社説=日印首脳会談 核問題で腰が引けては(信濃毎日新聞)
インド首相、米印協定「日本も支持を」 核開発は継続(朝日新聞)
必要ならば核実験の権利ある…インド首相、下院議会で明言(読売新聞)

とくに問題は、インドが、隣国パキスタンと、最近はさまざまな対話・交流がはじまっているといえ不安定な関係をかかえたまま、両国ともに核拡散防止条約に加入せず、核兵器開発を進めていること。それにもかかわらずアメリカはインドとの間で核技術の提供を決めましたが、査察はあくまで民生用に限られ、軍事用核施設は含まれていません。こうした動きにパキスタンは警戒を強めており、今後のなりゆきでは、とりあえず現在一時停止されている核兵器開発を再開することもありえます。

そういうときに、日本政府が対中国の思惑からインドとの安全保障上の連携に踏み込めば、インドとパキスタンとの対立を助長しかねず、またそれによってインドがいっそうの核兵器開発をすすめれば、日本政府がそれを是認することにもなりかねません。また、インドについてはNTP未加盟でも核開発を容認し、北朝鮮に対しては非核化を求めるということでは、外交的には「二重基準」ということになり、北朝鮮に「非核化」を求める正当性がゆらぐことにもなりかねません。

別にインドと事を構えよと言っているわけではありませんが、インドの核兵器開発を容認するような対応は大いに問題だといわざるをえません。

【社説】安倍外交 「価値観」もほどほどに
[中日新聞 2007年8月23日]

 安倍晋三首相がインド国会での演説で、日米豪印四カ国の連携強化を訴えた。価値観を共有する各国との結束は重要だ。ただ、度が過ぎると、他国に誤ったメッセージを送ることになりはしないか。
 首相は十九日からインドネシア、インド、マレーシア三カ国外遊の旅に出掛けている。参院選惨敗で政権の混乱が続く折から、与党内には「外国に行っている場合か」との不満もあった。
 首相としては「主張する外交」の柱と位置づける「価値観外交」の推進によって、一定の成果を挙げたいとの切実な思いがあったようだ。
 基本戦略は、自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共にする国々と、安全保障、経済、人的交流などでの連携強化を目指す。軍事、経済面で台頭著しい中国をけん制する意味合いもある。
 今回、最重視した訪問国は、急速な経済成長を続ける大国インド。首相は演説でまず「世界最大の民主主義国において国権の最高機関で演説する栄誉に浴した」と語った。その上で、両国のパートナーシップの強化が米国や豪州を巻き込み、太平洋からインド洋にかけた「拡大アジア」の発展につながると提唱した。
 自著「美しい国へ」の中でも、首相は日米豪印の連携に向け、日本のリーダーシップの必要性を強調している。今年三月には日豪首脳会談で「安全保障協力に関する共同宣言」に署名した。まさに自らの手で、四カ国の枠組みをがっちり固めているつもりなのだろう。
 しかし、考えておかなくてはいけないのは、その副作用だ。日本が米豪印と結束すればするほど、例えば中国は「包囲網」を築かれていると警戒感を強めることになる。アジア諸国への慎重な配慮は欠かせない。
 米豪印も同様の理由から、四カ国の連携が突出することには慎重だ。ライス米国務長官は先に訪米した小池百合子防衛相に「中国に思いがけないシグナルを送る可能性がある」と、ブレーキをかけたほどだ。
 首相が独り相撲を取っているようにも見える。安全保障、経済にとどまらず、温暖化対策など地球レベルの危機を考えれば、必要なのはきな臭い包囲網ではなく、共通のテーブルだろう。
 インド訪問で首相が力点を置くべきは、唯一の被爆国としての日本の立場である。インドが核拡散防止条約(NPT)に加盟しないまま、核開発競争につながりかねない米国との原子力協力協定に合意し、隣国パキスタンを刺激している。首脳会談で苦言を呈することこそ「主張する外交」にふさわしい。

社説:日印首脳会談 核問題で腰が引けては
[信濃毎日新聞 8月24日(金)]

 安倍晋三首相がインドを訪問し、シン首相と会談した。議題の一つが、インドが米国と進めている原子力協力の問題である。安倍首相は唯一の被爆国のリーダーとして、核廃絶に向けた強いメッセージを送ることができなかった。
 「主張する外交」を掲げる安倍首相である。その割に、踏み込み不足の感が否めない。
 両首脳の行き来は、昨年12月にシン首相が来日して以来になる。トップ同士の交流を通じ、アジアのパートナーとして両国が連携を深めることは重要としても、肝心の場面で日本が姿勢を明らかにできないようでは心もとない。
 インドは、国際社会の核不拡散の取り組みに冷淡だ。核拡散防止条約(NPT)に加盟しようとしない。包括的核実験禁止条約(CTBT)にも背を向けている。
 これにお墨付きを与えようとしているのが米国である。以前はインドを激しく非難したものの、2005年に核協力を進める方針に転じた。エネルギー需要が高まるインドの原子力市場を狙ってのことだ。
 インドに対する米国の譲歩の姿勢は際立つ。核兵器開発に転用できる技術移転の可能性にも道を開いた。
 平和利用を隠れみのに、インドの核開発計画を支援しようとしている。専門家はそう批判する。
 インドへの核燃料輸出が始まれば、核兵器にも使える余剰ウランが増大するおそれが高い。インドの核開発がここで例外扱いされれば、NPTは骨抜きになる。
 インドは1974年に初の核実験に踏み切り、核開発を進めてきた。地理的に核保有国のロシアや中国に近い。核開発を進める隣国パキスタンとは敵対関係にある。アジアの核問題は深刻さを増す。
 インドは米国との原子力協力について、日本に明確な支持を求めていた。安倍首相は支持表明を見送るのがやっとだった。インドの核開発を既成事実として容認したのでは、核廃絶の目標はさらに遠ざかる。日本政府は今後、インドの核をめぐって難しい対応を迫られる。
 両首脳は会談の中で、京都議定書に代わる地球温暖化対策について、新たな国際的枠組みに参加することで一致した。インドは温室効果ガスの排出量で世界5位ながら、いまは削減義務を負っていない。十分ではないにしろ、インドの参加表明は一定の成果である。
 インドは経済などの各面で存在感を高めるだろう。2国間協力を進めつつ、核開発をどう抑制していくか、日本外交の構想力が試される。

インド首相、米印協定「日本も支持を」 核開発は継続
[asahi.com 2007年08月18日01時00分]

 インドのシン首相は17日、首相公邸で朝日新聞との単独会見に応じた。米国との間で民生用の原子力協力協定が先月まとまったことを受け、協力実施に必要な国際ルールの改正を「日本も支持してほしい」と求めた。21日から訪印する安倍首相との会談でも、このテーマを主要な話題にする考えを明らかにした。
 米国との協定は軍事用施設について、国際原子力機関(IAEA)の査察の対象外としている。シン首相は会見で「現在、核実験は自発的に停止している。しかし、安全保障上で必要な場合、主権国家として核実験する権利は損なわれない」と話し、核兵器開発を続ける姿勢を明確にした。
 日本など45カ国による原子力供給国グループ(NSG)の指針では、核不拡散条約(NPT)非加盟でIAEAの査察を受けていない国に対し、核関連の輸出を制限するとしている。これに当てはまるインドが米国との協定を実施するためには、NSGが全会一致でこのルールの変更を認める必要がある。安倍首相がこれを支持すれば、核廃絶を訴える立場との説明に苦しむことにもなりかねない。
 シン首相は会見で、NSGの主要メンバーである日本について「唯一の被爆国である事情や国民感情は十分に承知している」としながらも、「協定は平和利用をめざすものであり、日本も支持すべきだ」と求めた。
 一方、日本との経済関係の強化に期待を表明。デリー―ムンバイ間に鉄道や道路を整備する約900億ドルのインフラ整備計画では「日本からの参加を歓迎する」と述べた。両国間で交渉が進む経済連携協定については「インドの人材を受け入れて欲しい」と求めた。

     ◇

 〈米印原子力協力協定〉 ブッシュ米大統領とシン首相が昨年3月、インドが民生用の原子力施設についてIAEAの査察を受け入れるとの条件で、米国が核燃料や原子炉などを輸出することで合意し、今年7月に協定の内容がまとまった。
 協定を実施に移すには(1)インドがIAEAと査察協定を結ぶ(2)NSGがインドへの核関連輸出を認める(3)米議会が協定を承認する ――という手続きが必要。NSG内では米国と同様にインドへの核関連輸出を狙うロシア、仏、豪州などが容認に前向きで、北欧諸国は慎重な姿勢。中国は明確な態度を示していない。

必要ならば核実験の権利ある…インド首相、下院議会で明言
[読売新聞 2007年8月14日(火)10:32]

 【ニューデリー=永田和男】インドのシン首相は13日の議会下院本会議で、米国と7月に合意した原子力協力協定に関し演説を行い、「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、協定によってインドの核戦略や外交政策の独自性が制約を受けるとの批判に反論して支持を訴えた。
 首相は、米印協定の「画期的な点」の1つとして、米国が何らかの理由でインドへの核燃料供給を停止した場合も、「修正的手段」の適用で他の国々から燃料が得られることになっていると指摘。核実験実施の場合も燃料供給が打ち切られる心配はなく、協定がインドに有利な内容であることを力説した。

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  1. ペガサス・ブログ版 - trackback on 2008/09/07 at 20:13:19

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