ユゴ 大統領有故

ユゴ 大統領有故

正月恒例?で、映画を見てきました。今年は、韓国・朴正熙大統領暗殺事件をとりあげた「ユゴ 大統領有故」。今年1本目。

1979年10月26日、韓国の朴正熙大統領が、宴席でKCIA長官(中央情報部長)に射殺される事件が起きました。この映画は、その事件を中心に前後24時間を描いています。事件は事実ですが、宴席の場などは監督の思いを含めた演出になっています[1]

で、ストーリーは、まず暗殺実行犯である中央情報部のキム部長(ペク・ユンシク)と、大統領の身辺警護に責任を持つチャ警護室長、それに大統領秘書室のヤン室長の3人の確執を中心に展開します。ただ、しかし、側近内部での確執が原因だとしたら、なぜキム部長がチャ警護室長といっしょに大統領を殺害したのか、その理由がよく分かりません。

また、後半は事件後の動きが描かれているのですが、キム部長は、事件のすべてを目撃したヤン秘書室長を拘束も殺害もせず、そのためキム部長の犯行であることは直ちに明らかとなって、さっさと陸軍に逮捕されてしまいます。まあ、事実がそうだったのだから、それ以外のストーリーの描きようはないのですが、なぜキム部長が、あれほど大統領殺害にこだわったのに、殺害した後のことを考えてなかったのか、それが分からないまま。だいたい、キム部長が大統領暗殺を腹心であるチュ課長(ハン・ソッキュ)とミン大佐(キム・ウンス)に明かしたのは、すでに宴会が始まった後のことで、本当に事件の直前。しかし、じゃあ何も準備がなかったのかというと、陸軍参謀長を宴席会場の別棟に呼び出していたりするし、事件後、陸軍参謀長を同情させて陸軍参謀本部に乗り込むあたりも、いちおう軍を押さえる必要があると考えていたようなのです。

こう書いたからといって、映画がつまらなかったというわけではありません。1時間45分ほどの上映時間が長くは感じられなかったし、パク大統領をはじめ、キム部長ら側近たちが、ことあるごとに日本語で会話するとか、宴席に歌手(キム・ユナ)を呼んで、「北の宿」など日本の演歌を歌わせるあたり、パク大統領の“日本びいき”ぶりを皮肉っていて、なかなか面白いのです。

しかしやっぱり、一番残念なのは、朴正熙大統領の独裁体制が、当時、韓国社会にどんな矛盾をまねいていたのか――それがほとんど描かれていないことです。各地で反政府デモが起こっていたこと、それに激しい弾圧を加えておさえこんだことなどは、冒頭で説明はされていますが、それではやっぱり、なぜ政権中枢部で、政権の中心であるパク大統領を暗殺するところまで矛盾が深まっていたのか、その一番大事な背景がよく分かりませんでした。

もう1つは、バク大統領が暗殺されたということは確かに大事件ですが、それと同じくらいかそれ以上に重大な事態は、その2カ月後に全斗煥・保安司令官が軍の実権をにぎり、翌年5月の光州事件を流血の弾圧を加えて、9月に大統領に就任したことです。しかし、この作品では、全斗煥はまったく登場しません(これも当たり前ですが)。次は、ぜひこのプロセスを作品にしてほしいと思います。

なお、映画の中では、暗殺される大統領は「大統領閣下」と呼ばれるだけで、朴正熙だとはされていません。また、秘書室長や中央情報部長の部下たち、宴席に呼ばれた女性たちは、実際の人物とは別の名前になっています。

それから映画の本筋とはまったく関係ないことですが、酒席で、大統領が「世界にまともな民主国家がどれほどあるか」と、アメリカ(当時は民主党のカーター政権)の「民主化」要求に毒づくくだりで、戒厳令下にある台湾などと並べて、パキスタンのブット首相(先日、暗殺されたブット元首相の父親)を「独裁者」と呼んでいたのが、偶然ですが、いまのパキスタン情勢ともからんで、印象に残りました。

公式サイト→ユゴ 大統領有故 | オフィシャルサイト

【作品情報】
タイトル:ユゴ 大統領有故/監督・脚本:イム・サンス/出演:ペク・ユンシク(キム部長)、ハン・ソッキュ(チュ課長)、キム・ウンス(ミン大佐)、 ソン・ジェホ(パク大統領)、チョン・ウォンジュン(チャ警護室長)、クォン・ビョンギル(ヤン秘書室長)、キム・ユナ(歌手シム)、チョ・ウンジ(女子大生?チョ)/韓国2005 104分

  1. イム監督は、インタビューのなかで「供述記録と違うからといって、フィクションとはいえない。私の書いたシナリオのほうが真実に近い」と語っています(映画オフィシャルサイトの監督インタビュー参照)。 []

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