食糧高騰が途上国を襲う

2008年4月8日、ハイチ・ポルトープランスで起こった物価高騰に対する抗議デモ(AFP BBNews)

今日の「毎日新聞」と「日経新聞」が、穀物価格の急騰を大きく特集で取り上げていた。

投機資金の流入などで、国際的な穀物相場が高騰。その結果、発展途上国では食糧が買えないと、暴動まで起こっている。IMFも「このまま続けば、戦争の危険もある」と警告しているし、アジア開発銀行の黒田総裁も、アジア諸国への影響はサブプライムローン以上だと指摘。日経記事によれば、タイ米の価格が1トン1000ドル(約10万2000円)を突破するのは確実だとされている。

日本も、“食糧は輸入すればよい”などとは言っていられない。もっと農業に社会的資本を使って、食糧自給率を本格的に引き上げる取り組みを始めるべき時期に来ているといえる。

クローズアップ2008:穀物急騰、途上国を直撃(毎日新聞)
“穀物高騰 途上国に打撃”(NHKニュース)
インド:FAO代表「食糧不足は非常事態」(JanJanNews)
洞爺湖サミット/食料安保を共通認識に(日本農業新聞)

クローズアップ2008:穀物急騰、途上国を直撃
[毎日新聞 2008年4月19日 東京朝刊]

 コメや小麦など、穀物価格の急騰が途上国に深刻な打撃を与え始めた。主食を輸入に頼る国々では暴動が相次ぎ、中米の最貧国ハイチでは政府崩壊の危機を招いている。一方、輸出国側では自国消費分確保のため輸出禁止の動きも広がり、「食糧ナショナリズム」の様相も呈する。背景には新興国の需要拡大のほか、低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題で投機資金が穀物市場へ流れたことなどがある。7月の北海道洞爺湖サミットでも主要議題になりそうだ。

◇暴動で死傷者多発

 「空腹が耐えられない」「大統領、辞めろ」――。今月8日、ハイチの首都ポルトープランス。食糧価格高騰に抗議し大統領府へ突入しようとする市民を、駐留する国連平和維持軍が催涙弾で阻止する様子をAP通信が伝えた。国民の8割が1日2ドル以下で暮らす最貧国ではコメなどの値段が昨年の1.5?2倍に跳ね上がった。
 責任を問われたアレクシス首相の解任が上院で決議された12日、プレバル大統領はコメ50ポンド(約23キロ)を51ドルから43ドルに引き下げると発表。だが、豆や牛乳も値上がりし、市民の不満は強い。略奪への発砲などで死者は今月に入り5人に上る。
 南米ベネズエラのチャベス大統領は12日、ハイチへ肉や穀物計364トンの緊急支援を決めた。「ブッシュ(米大統領)がバイオエタノール増産を表明後、貧しい人々の餓死が深刻になった」と、食糧価格高騰の責任は米国にあると非難した。
 国民の2割が貧困層のエジプト。公営のパン屋が1枚5ピアストル(約90銭)の安価なパンを販売する。だが、パンの大きさは3年前の約半分。民間のパン屋の値段は公営店の5倍以上にもなる。パンの売買が原因のけんかなどで先月以降、十数人が死亡した。
 穀物に加え、燃料高騰が重なるアフリカでも暴動が相次ぐ。カメルーンでは2月、物価高騰を一因とする暴動で約40人が死亡。3月のコメ価格が1年前の2倍に上がったコートジボワールやモーリタニアでも暴徒と警察の衝突で死者が出た。世界第4位のコメ生産国バングラデシュも、1万5000人以上の工場労働者が賃上げを求めてストに突入した。【メキシコ市・庭田学、カイロ高橋宗男、ヨハネスブルク高尾具成】

◇広がる「自国分確保」

 国連食糧農業機関(FAO)は最貧国の07?08年の穀物輸入代金が前期比56%増加すると予測する。国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は「このまま高騰が続けば、戦争の危険を含めたひどい結果に世界は直面する」と警告。潘基文(バンギムン)国連事務総長は各国首脳を集め「食糧サミット」を6月に開く方向で検討を始めた。
 事態を重くみた先進国も動き出した。サルコジ仏大統領は18日、「直ちに食糧安全保障を強化しなくてはならない」と述べ、仏が今年度の緊急食糧援助に昨年度比2倍の6000万ユーロ(約98億円)を計上すると表明。米政府もすでに最貧国に2億ドルの拠出を打ち出している。
 食糧価格高騰が途上国を直撃するのは「先進国では食費が家庭の支出に占める割合は1?2割であるのに対し、途上国では6?8割にも達する」(FAO)ためだ。国連の専門家グループは途上国で教育費など「未来への投資」のカットに直結し、長期的な悪影響を与えると指摘する。
 一方、世界有数の小麦生産国カザフスタンは15日、自国での物価上昇に対応するため9月まで小麦の輸出禁止を決定。ベトナムはコメの輸出禁止措置を6月まで延長することを決めた。
 世界食糧計画(WFP)によると、援助用の食糧価格が約1年で5割も上昇。確保が困難になっている。欧州委員会のマンデルソン委員は17日、「世界が食糧安全保障の幻を追うなら、保護貿易主義の連鎖を引き起こしかねない」と生産国を批判した。【西尾英之、パリ福井聡】

◇資金、一斉に市場へ
◇新興国での需要増/バイオ燃料ブーム/サブプライム危機

 「食糧インフレの時代が来た」――。シカゴ商品取引所(CBOT)の動きに詳しい米エコノミスト、ビル・ラップ氏は、穀物価格の急騰を表現する。中国やインドなど経済成長著しい新興国の食糧需要増が主な背景と言われているが、複合的な原因が指摘できる。
 昨年1月、ブッシュ米大統領が一般教書演説の中でバイオエタノール増産計画を打ち出すと、直後からシカゴ市場のトウモロコシ価格が急騰、1年前の2倍の値をつけた。さらに昨夏、サブプライムローンの焦げ付きが世界的な金融危機に発展。それまで欧米金融市場で、住宅ローン関連の証券化商品に投資してきた世界中の投機資金が一斉に金融市場を離れた。
 行き場を失った資金は投資先を求めてさまよい、値下がりしにくい市場、確実に需要を見込める市場に流れ込んだ。一つがエネルギー市場で、もう一つが穀物市場だった。原油は新興国の需要増が価格を支えた。穀物はバイオ燃料ブームで、既に上昇基調に入っていた。目をつけた投機資金が穀物市場に流れ込んだ形で、シカゴ市場では今年に入ってからも連日のように小麦やトウモロコシの取引価格が史上最高値を更新している。【ワシントン斉藤信宏】

◇サブプライムよりアジアへの影響大

 【マニラ矢野純一】アジア開発銀行(ADB、本部・マニラ首都圏)の黒田東彦総裁は18日、記者会見で「コメなど食糧価格の世界的高騰がアジア経済に与える影響は、サブプライムローン問題より大きい」との見方を示した。
 黒田総裁は価格高騰の要因について、▽発展途上国での、穀類を多く消費する肉の需要の増加▽オーストラリアの干ばつによる生産の減少――などを挙げた。総裁は「かんがい設備や農道など生産増加につながるインフラ整備の支援を強化したい」と話し、来月スペインで開かれるADBの年次総会でも主要テーマになるとした。

コメ国際価格が急上昇・指標のタイ産、1トン1000ドル突破も
[日経新聞 2008/04/19朝刊]

 【バンコク=三河正久】コメの国際価格の高騰に拍車がかかってきた。取引指標となるタイ産米の輸出価格は最近1カ月で約1.5倍に上昇、月内に1トン1000ドル(約10万2000円)を突破するとの観測が強まっている。需要が急拡大する一方、ベトナムやインドなどが輸出制限に乗り出したため。コメ価格の高騰でアジア域内でインフレ懸念が強まっているほか、一部地域で暴動が発生するなど社会不安も高まりつつある。
 タイ貿易取引委員会によると、国際価格の基準となるタイ米長粒種1級(精米、100%)の輸出価格は9日時点で1トン886ドル。年初の2倍強、ここ1年で約2.5倍に上昇した。
 コメ不足が深刻なフィリピンは18日までに、タイ産より品質が劣るベトナム産米を1トン1220ドルで購入する契約を結んだ。これを受けタイ産米の輸出価格が「月内に1000ドルを突破する公算が大きい」(タイ米輸出業者協会のチョーキアット・オパスウォン会長)との見方が強まった。
 ベトナムは国内向け出荷を優先するため、今年6月末まで輸出を停止している。7月以降もコメの国際価格が高止まりするとみて、輸出価格の大幅引き上げに動いた。中国やエジプトなどの主要輸出国も輸出制限に動いている。コメは投機資金が流れ込む余地は少ないが、需給逼迫(ひっぱく)で各国産の輸出価格がそろって高騰している。
 大豆、小麦、トウモロコシなどの国際相場もこの1年で2倍前後に上昇、主要農産物は軒並み値上がりしている。

“穀物高騰 途上国に打撃”
[NHKニュース 4月18日 20時14分]

アジア開発銀行の黒田総裁は、小麦やコメなど穀物価格の世界的な高騰はアジアの途上国の貧困層の生活を直撃し、深刻な問題を引き起こしているという懸念を示し、各国政府に対して穀物の生産性を向上するインフラ整備を急ぐなどの対策を求めました。
 フィリピンに本部を置くアジア開発銀行の黒田東彦総裁は、18日、記者団に対し、小麦やコメなどの価格高騰はアジアの途上国でインフレを引き起こしており、収入の半分以上を食品の購入に充てている貧困層の生活を直撃していると指摘しました。そのうえで「アジアの途上国の最大の問題はインフレであり、経済成長の鈍化ではない」と述べて、アジア各国にとってインフレの問題はサブプライムローン問題に端を発する世界経済の減速よりもはるかに大きな影響があるとして強い懸念を示しました。そのうえで、アジア各国の政府が、貧困層への所得補助などセイフティー・ネットの強化や、穀物の生産性を上げるためのかんがい用水のインフラ整備など、有効な対策を打ち出すことが必要だと述べました。食糧の価格高騰については、来月、スペインのマドリードで開かれるアジア開発銀行の総会でも主要なテーマとして取り上げられる予定です。

インド:FAO代表「食糧不足は非常事態」
[JanJanNews IPSJapan2008/04/17 ]

 国連食糧農業機関(FAO)のジャック・ディウフ(Jacques Diouf)事務局長が、4月9日、ニューデリーにおいて、高騰する食糧価格は「非常事態」であり世界的な対処を必要とすると記者会見で述べた。

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ、4月9日】

 国連食糧農業機関(FAO)のジャック・ディウフ( Jacques Diouf )事務局長が、4月9日、ニューデリーにおいて、高騰する食糧価格は「非常事態」であり世界的な対処を必要とすると記者会見で述べた。会見には、国際農業開発基金(IFAD)のレナート・ベイジ代表と国連工業開発機関(UNIDO)のカンデ・ユムケラー事務局長も参加した。
 世界の食料価格は2002年から少しずつ上がり始め、今年1月以降では65%も高騰した。ディウフ事務局長によれば、世界の穀物備蓄はわずか8?12週間分にあたる4.05億トンしかないという。
 この結果、エジプト・カメルーン・ハイチ・ブルキナファソなどで食糧暴動が起き、インドネシア・コートジボワール・モーリタニア・モザンビーク・セネガルでも過去数週間に社会不安が広がっている。「収入の50?60%を食料に費やすような国では社会不安が広がる可能性がある」とディウフ氏は話す。
 ディウフ氏は、食糧価格高騰の原因として、都市への人口流出、農地のバイオ燃料生産用への転換、先物市場における投機、異常気象などを挙げた。
 また、世界の人口の3分の1を占める中国とインドにおいて牛乳と食肉の需要が高まり、飼料にするための穀物増産が必要になっていることも問題視した。
 他方で、インドが自らのコメを囲い込んでタイへの輸出を制限し、タイで食糧価格の高騰を引き起こしていることについては、国益を守るのは当然のことだとディウフ氏は述べた。
 食糧価格の高騰やそれを原因とした暴動に関するFAOのディウフ事務局長のコメントについて報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=山口響/武原真一(IPS Japan )

洞爺湖サミット/食料安保を共通認識に
[日本農業新聞 掲載日:2008-4-17 11:28:00 ]

 穀物高騰を背景とした世界的な食料危機が政治課題に浮上してきた。日本で7月に開かれる北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の議題にすべきだとの意見が、国の内外から上がっている。サミット議長国の日本は、世界最大の食料輸入国の立場から、危機の克服にリーダーシップを果たすべきだ。同時に、この機をとらえ、各国で食料を増産することの重要性がかつてなく高まっているとの認識を国際社会で共有したい。
 食料危機への対応では、英国のブラウン首相が福田康夫首相に親書で「国際社会の全面的な協調行動が必要だ」と提案。世界銀行のゼーリック総裁も緊急食料支援と農業生産性向上への支援を呼びかけている。世銀と国際通貨基金(IMF)は13日、途上国支援に取り組む声明を採択した。国内でも保利耕輔自民党総合農政調査会長が、サミットで食料問題を話し合うよう政府に働きかける考えをJAグループの集会で表明した。
 世銀の報告によれば、過去3年間で食料価格は、世界平均で83%上昇した。この結果、食料を輸入に頼る資金力のない途上国が、栄養失調や飢餓の危険に直面している。中米のハイチでは死者6人が出る暴動が発生、アジアではフィリピンで米騒動が起きている。価格高騰が庶民の暮らしを直撃し、政情不安をもたらしている。
 今回の食料危機は、天候不順や災害による一時的なものではない。穀物のバイオ燃料向け需要が増えたことや、人口が増え、経済が急成長している中国やインドなどの食料需要増という消費する側の変化で起こっている。この構造は長期化する可能性が高い。
 開発途上国を中心とする食料危機に対し、米国のブッシュ大統領は14日、2億ドル(約200億円)の緊急食料支援を実施すると発表した。世界食糧計画(WFP)の呼びかける5億ドル(約500億円)の緊急支援の4割に相当する。歓迎するべきことだが、食料支援だけでは本質的な課題解決にならない。
 食料を買えない貧しい国では、国民が日々の食料を求めて右往左往している。買える国では価格高騰が庶民の暮らしを揺さぶっている。輸出国は食料の供給を自国民に優先する「食料ナショナリズム」に走っている。空前の穀物高騰は、われわれの目の前にこんな光景を広げてみせた。
 食料危機の克服は、食料支援という短期的な取り組みだけでなく、長期的な視点での取り組みが必要である。各国が、まず主要穀物の生産拡大に地道に努め、自給することであり、その努力を「自由貿易」という名の下で、他の国が阻害しないことだ。サミットで食料危機を取り上げるのをきっかけに、各国の「食料主権」を認め合い、それぞれの国内生産を柱とした食料安全保障体制を固めていくことを、国際社会の共通認識としたい。

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  1. とても参考になりました。ありがとうございます。

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