サマータイム制導入なんてやってないで

福田首相が、地球温暖化対策として、サマータイム制の導入をはかるらしい。

しかし、サマータイム制が省エネ、しいてはCO2削減に効果がある、という説は、どう考えても根拠薄弱。そんな見せかけだけのパフォーマンスよりも、政府にはもっとほかにやるべきことがあるはずだろう。

サマータイム10年にも、排出量取引も導入…首相表明へ(読売新聞)
サマータイム、眠りに悪影響 睡眠学会が反対声明(中日新聞)

世界的に見ても、サマータイム制を導入しているのは、日本よりもっと高緯度の地域。日本のように、午後の暑さが厳しいところでは、サマータイム制を実施しても空調の使用が増えるだけではないだろうか。いま夕方4時や4時半に仕事が終わって社外に出たとして、いったいどうなるか想像してほしい。日が暮れて涼しくなるまで、まだたっぷり3時間はかかる。いったいその間、あなたは耐えられるか?

サマータイム10年にも、排出量取引も導入…首相表明へ
[2008年6月8日03時08分 読売新聞]

 福田首相が9日に日本記者クラブで発表する地球温暖化対策に関する新たな指針の全容が7日、明らかになった。
 7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に向けて検討してきたもので、焦点となっている、温室効果ガスの排出枠を、企業間で取引する排出量取引制度について、国内で導入する方針を初めて明確に表明する。導入に向け、今年秋から産業・金融界に呼びかけ、大規模な試行実験を行う計画を打ち出す。
 また、夏季に時間を1時間早めるサマータイム制度を、2010年にも導入することを目指す考えを表明する。
 新たな指針は、サミット議長国を務める日本の首相として、「低炭素社会」実現に向けた包括的な提案をするもので、国内外の議論を主導するのが狙いだ。
 首相は9日、排出量取引について、「制度の問題点の列挙に時間を費やすのでなく、日本自ら積極的に国際ルールの設定に参画する考えから、『日本型の取引制度』導入に向け、今年秋から大規模実験を行う」と表明する。
 また、2050年までのガス排出量を、「現状より60?80%削減する」との長期目標を明示する。一方、20?30年ごろまでのガス削減の中期目標については、05年を新たな基準とし、日本がどこまで削減が可能かを示す「試算値」を紹介する予定だ。
 温室効果ガス排出量に関する20?30年ごろまでの国別の中期目標設定は、13年からの「ポスト京都議定書」の国際的枠組み作りで最大の焦点となっている。首相は日本独自の「試算値」を初めて公表し、議論に弾みをつけたい考えだ。
 サマータイムは職場や学校で始業・終業時間が早まる分、省エネにつながるとされる。

サマータイム、眠りに悪影響 睡眠学会が反対声明
[中日新聞 2008年6月6日 朝刊]

 政府が導入を検討しているサマータイム制度について、日本睡眠学会は5日、「睡眠障害が発生し、不登校や交通事故が増大。省エネどころか1兆2000億円の経済的損失を招く」として反対する声明を発表した。同制度は、夏季に時刻を1時間早めることで、日照時間の有効活用を目指す。地球温暖化対策として福田康夫首相も導入に前向きな姿勢を示している。
 同学会によると、導入されれば夏時間への移行期の約1週間で国民の約4割に睡眠障害が発生。特に夜型の生活を送る子どもたちは通常より早く起きることに順応できず、不登校につながる可能性が高い。
 さらに睡眠の質の低下により、うつ病患者や自殺者が増えて医療費が増大。注意が散漫になり、交通事故や工場内の事故も増えるという。
 同学会事務局長の大井田隆・日本大医学部教授は「サマータイムの経済効率ばかりが注目され、人間が受けるダメージへの視点が今の政府には欠けている。慎重に検討すべきだ」としている。
 主要8カ国の中でサマータイムを導入していないのは日本だけだが、ロシアでは「心筋梗塞(こうそく)や自殺が増加」として国会に廃止案が提出された。

ただし、損失額については次のような訂正が出ている。

夏時間での経済損失は1200億円、睡眠学会が試算額訂正(読売新聞)

夏時間での経済損失は1200億円、睡眠学会が試算額訂正
[2008年6月6日19時37分 読売新聞]

 夏季に時計を1時間進めるサマータイムの健康への影響を検討している日本睡眠学会の特別委員会(委員長=本間研一・北海道大教授)は6日、夏時間への移行による睡眠障害などが引き起こす経済損失は1200億円になると発表した。
 睡眠障害による現在の年間経済損失を約3兆円と推定。サマータイムとの切り替えを行う春と秋に1週間ずつ睡眠障害が起きると仮定して、損失額1200億円を算出した。
 同学会は前日の記者会見で、損失は1兆2000億円にのぼるという試算を示していた。

今朝の「毎日新聞」に、次のような論評が載っていた。サマータイムの導入がコンピュータ・システムにどんな影響を及ぼすか、という問題もかなり大きな問題だろう(たとえば、0時を挟んで運行している電車のダイヤ管理はどうなるのだろうか? 0時を挟んで株の売買指示を出したときは?)
しかしそれより重要なのは、サマータイム制を導入すると省エネになるというデータそのものが疑わしいという話。

【時代の風】サマータイム反対論 試験的廃止提案を/坂村 健・東京大教授
[毎日新聞 2008年6月8日付朝刊]

 サマータイム導入への追い風がここに来て急に吹いている。私の専門のコンピューターシステムにとって、与える影響が非常に大きい風だ。現代は多くのコンピューターがネットワーク接続され、さまざまな形で社会を支えている。その重要な共通基盤が「時間」。サマータイムはその基盤に大きな影響を与える。
 今はもう覚えている人も少ないかも知れないが、「Y2K問題」というのがあった。1999年の後半、高名な評論家までテレビで「2000年になるとコンピューターの時計が来るって飛行機が落ち、原子力発電所が爆発する」だの真顔で言う騒ぎだった。
 幸いそのようなことはなかったが、それは多くの技術者がその4年ほど前から(さらには直前には不眠不休)、対策をしたからだ。その時の現場の大変な努力を知っているからこそ、いわば「意図的Y2K問題」ともいえるサマータイムについては見過ごせない。
    ◆◆
 さまざまな資料や意見を調べた結論は、思ったより省エネ効果に確たる証拠はないということだ。「サマータイムは世界の常識」も眉唾で、各国に廃止論者がおり廃止が真剣に議論されている。
 マスコミなどで流されるCO2換算150万トン減といった試算も、根拠も調べていくと役所でよくやる「何とか技術の市場効果は何億円」のたぐい。統計数字を「?たら」「?れば」式の仮定の上に積み上げたもので、とても確たる数字とはいえない。
 さらにいえば150万トンといえば多いようだが省エネ効果としては0.2%に満たない。そのため賛成派も最近は「地球環境問題は起動だから少しでも効果があるならやるべきだ」とか、「省エネ効果より生活習慣見直しのきっかけに」という論調だ。
 この程度のメリットなら「意図的Y2K」のリスクを考えると、もう少し待った方がよいという、消極派が最近までの私のスタンスだった。ちなみにリスクでなくコスト面は、推進派が10年ほど前にまとめた試算ですら1000億円という。その後のコンピューター化の進展を考えると数千億、下手をすると1兆円を超えるかもしれない。
 ところが、これを特需とする考え方もあり、かならずしも反対の理由にならないのが資本主義の世の不思議だ。経済界が積極的に推進しているのも、「製品コストに響く炭素税などを飲まされるよりは、一時的な間接経費で処理できるサマータイム対応の方が実害が少ない」という冷徹な計算が裏にあるともいわれる。
 しかし、いわば消極派だった筆者をはっきり反対派にシフトさせるニュースが最近あった。インディアナ州で06年から開始されたサマータイムの影響の実証研究で、カリフォルニア大のコチェン教授らが「省エネでなく1?4%の増エネ」と発表したのだ。
 従来サマータイムの省エネ効果については、賛成・反対両派ともあやふやな論拠で議論してきた。それはエネルギー需要のメーンが照明から空調に移行した現代社会において、サマータイムのあるなしをきちんと同一環境で比較したデータがきわめて少なかったからだ。シドニー・オリンピックの際にサマータイムが2カ月前倒しで行われたことを利用した研究があるぐらいで、それも省エネ効果は見いだせないという結論だった。
 コチェン教授の研究は家庭に限ってはいるが、省エネのはずが実は増エネでは導入の目的にまったく反する(ちなみに仕事場は昼も照明しているので、省エネ効果があるなら家庭が中心といわれる)。国が違うとはいえ、700万戸の家庭に対する電気代請求書から求めた先進国での生活条件にもとづく貴重な研究結果であり、これを無視するのは誠実な態度とはいえない。
 増エネになった主な理由は照明におけるサマータイムの省エネ効果を、空調における増エネ効果が上回るからだ。今後、確実に白熱電球は全廃され、高効率の照明器具に転換する。一方、空調に関しては照明ほどの効果のある省エネ技術革新のメドはない。
 Y2Kの時の経験からして、制度の導入決定から4年程度はシステム改修にかけるべきだ。その時すでに世はLED(発光ダイオード)照明や有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)照明への転換ブームになっているだろう。現在ですら数%の増エネになるなら、実施時のサマータイムはさらなる増エネ要因となる。さらに、貴重な技術者をはりつける4年はIT分野において日本に決定的な後れを取らせるかもしれない。
    ◆◆
 北海道洞爺湖サミットにおいて、日本が真剣に地球環境保護でリーダーシップを見せたいというなら、いっそのこと発想を転換して、各国にサマータイムを試験的にやめることを提案してはどうだろうか。システム的にはサマータイムをやっている国がやめるのは、その逆よりはるかに簡単だ。それで「サマータイムに確たる省エネ効果あり」というデータが出るようなら、日本が身銭を切ってサマータイムを導入することに何の異論もなくなるはずだ。
 そして、もし結果が「やめた方が省エネ」なら、日本一国より、大多数の先進国での省エネになり、効果は絶大になるはずである。

睡眠障害ということでいえば、いまの「24時間いつでも開いてます」、「深夜勤務、長時間残業当たり前」という営業スタイルや仕事環境が大きな問題。それをそのままにして、サマータイム制を導入して、強制的に1時間早く起こされるようになれば、睡眠障害がますます深刻化するのも当然だろう。むしろ省エネのためには、「深夜勤務、長時間残業当たり前」「24時間やってて当たり前」というシステムを変えることが大事ではないのか。

都会のサラリーマンが、残業なしに6時に帰宅できるようになれば、みんな11時ぐらいには寝るようになるんじゃないだろうか。サマータイム制を導入しなくても、十分、効果が上がると思うのだが…。

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  1. biac の それさえもおそらくは幸せな日々@nifty - trackback on 2008/06/17 at 00:50:22

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