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中期目標策定の責任は先進国に

2008年7月17日 at 23:22:49

続けて、またまた今日の「日経新聞」ですが、「経済教室」で、東北大学の明日香壽川教授が、「洞爺湖サミット後の温暖化対策 中期目標策定を早期に」と題する論文を書かれています。そのなかで、明日香氏は、「中期目標こそ次期枠組みの骨格」であり、それを決める「ボールは先進国側に」あると指摘されています。

洞爺湖サミットの排出国会議で、中期目標が合意できなかったことについて、私もこのブログで先進国側に責任があると指摘しましたが、環境経済の専門研究者の目から見ても、責任は先進国側にあるということになるようです。

明日香氏は、まず次のように指摘されています。

今後、京都議定書の第1約束期間が終わる2013年以降の枠組みの交渉期限となる09年12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)までの国際交渉を成功させるためには、先進国の中期目標、途上国への技術・資金移転という2つが重要になる。なぜなら中期目標こそ次期枠組みの骨格であり、この2つがはっきりしなければ、1人当たりの排出量やエネルギー消費量が先進国の数分の一にすぎない途上国は、公平性という理由から数値目標には合意できないからだ。
 ボールは先進国側にあり、日本でも中期目標をめぐる動きが活発になるだろう。

で、日本政府が、この中期目標策定のために持ち出している「セクター別アプローチ」について、明日香氏は、「背後にあるメッセージは単純」として、次の3つを指摘する。

  1. 途上国の特定セクターだけでも排出削減(抑制)義務を課したい
  2. 効率が良いことを強調して日本の削減量を小さくしたい
  3. 国別総量目標を持ちたくない

まあ、なとワガママな要求だろう。3の国別総量目標は持たざるを得なくなるが、「政府は残りの2つにはこだわり続けるだろう」というのが氏の予測。しかし、「セクター別アプローチで積み上げれば日本の削減量は小さくなる」という認識は「正しくない」という。たとえば、国立環境研究所は、各分野の削減可能量を積み上げて、2050年に、1990年比70%の削減が可能だとしている。また「日本のすべての企業や分野の高率が他の先進国に比較して優れいてるわけでもない」と。

氏はまた、日本政府がセクター別アプローチに固執する理由は「結局、企業の国際競争力喪失への懸念」だと指摘。しかし、いちばん国際競争力喪失を心配している鉄工業の場合、日本の鉄鋼会社の主力商品である「高級鋼」の場合、競合しているのは韓国や台湾、それに中国の大手鉄鋼会社。この場合、粗鋼1トン当たりの必要エネルギー量にはあまり差がない(日本100に対して、韓国105、中国大手鉄鋼会社110、EUが110、米国120)。だとすると、日本だけが競争力を失うということも考えにくい。また、現在、高級鋼については、日本の鉄鋼会社は国内製品の差別化に成功しており、価格差だけでは需要は海外にシフトしにくい。中国の場合は、政府がエネルギー多消費産品の輸出関税を引き上げているが、これは、事実上、排出枠の買い取り義務を中国製品に課したのと同じ効果がある(結果、中国の鉄鋼製品の輸出比率は低下しているそうだ)。

さらに、中国の温暖化対策について、氏は、こんなふうに指摘されている。これも興味深い視点だろう。

 エネルギー資源や環境が絡む話の多くは、中国への批判や責任転化論に行き着く。批判するのは簡単で、的を射たものも多い。しかし、状況を正確に認識あるいは理解していない場合もある。
 例えば、中国が温暖化対策に消極的であるという議論は必ずしも正しくない。なぜなら、京都議定書かでの削減数値目標を持つか否かと、実際に排出削減を行っているかどうかは別だからだ。米国の「クリーンな大気のための政策研究センター(CCAP)」は、「中国における05-10年の二酸化炭素(CO2)排出量削減量(約15億トン)は、EUの排出削減目標(20年)および米国議会に法案として提出されているすべての排出削減目標(15年)による削減量のいずれよりも大きい」と計算している。
 実際に、中国政府の省エネや新エネの導入策は野心的であり、現在、様々な新税創設、既存税引き上げ、価格引き上げ、そして失業問題が伴う大規模な設備リストラが実施されている。例えば中国政府によると、08年1-5月に閉鎖された火力発電所は868基で3万9000人が失業あるいは配置転換となった。
 新エネ導入目標値も「1次エネルギー比率20年16%(現在約7%)」であり、日本の需給見通し「20年8.2%」の約2倍である。

さらに、中国の場合、「CO2排出の約2割は輸出製品製造に伴うもの」。つまり、日本やアメリカは消費を謳歌しながら、CO2の排出は中国に押しつけた、という格好になる。

もちろん、氏も指摘されているとおり、中国でも温暖化の被害は顕在化しているし、2050年にCO2排出量を半減させるためには、中国自身も、CDP当たりで排出量を減らすだけでなく、絶対的にも減らす必要がある。しかし他方で、なお3000万人の農民が電気のない生活を送っている。こうした人たちが、電化された、より快適な生活をおくる権利を、われわれが否定することはできない。

そうだとすれば、中国への批判と責任転嫁をしているだけでは問題は解決しない。氏は、中国の「前向き」姿勢を後押しすべきだと主張されている。

 先進国に求められるのは、こうした状況を理解しながら中国の動きを後押しすることではないだろうか。それには、日本がまず自らの言動に道義的説得力を持たせることが不可欠であり、中期目標の早期策定や排出量取引制度の本格導入など、日本の温暖化対策の規範や内容を早急に具体化すべきだ。さらに、中国を関与させながら温暖化問題と深くかかわるエネルギー資源や水、食料などの問題も含めたより大きな次元での議論を積極的にリードし、世界全体が温暖化問題を克服しながら貧困を抜け出す道筋を示すことが望まれる。

なかなか説得力のあるご意見だと思います。

ちなみに、同じ日経新聞の今日の夕刊には、温暖化ガス排出半減という長期目標達成に必要な国・地域ごとの排出削減率が出ています。まずはその表を転載します。

長期目標達成に必要な国・地域ごとの排出削減率
国・地域 削減率(%)
ロシア 94
米国 89
オーストラリア 89
ニュージーランド 89
カナダ 87
東欧 87
日本 85
韓国 75
西欧 74
メキシコ 52
ブラジル 37
中国 34

(注)1990年比、京都大学の松岡譲教授の資料をもとに作成

この表のポイントは、「世界各国の1人あたり排出量が等しくなると仮定し、人口予測などを考慮して」2050年までに削減すべき排出量が計算されていること。

このばあい、日本の削減率は85%で、福田首相がかかげた「60-80%削減」という目標では足らない、ということになります。増加が認められるのはインドやアフリカ諸国だけだそうです。

日経新聞は、この目標削減率について、「長期目標は、石油や石炭をエネルギー源として経済成長を進めてきた各国に『化石燃料との決別』を求めているのにも等しい」と指摘しています。まさに、資本主義のままでこうした目標が達成できるのかどうか、体制的な限界が問われる課題だということではないでしょうか。

温暖化ガス排出半減目標 革新的な抑制技術必要
[日経新聞 2008年7月17日付夕刊]

 今月上旬に開いた主要国首脳会議(洞爺湖サミット)は、2050年までに世界の温暖化ガス排出量を少なくとも「50%削減」する長期目標の共有で合意。中国やインドを含む主要排出国会合の宣言にも長期目標の支持を盛り込んだ。世界の排出量を半減するには、日本や主要国がどれだけ減らせばよいのか。
   ■  ■
 京都大学の松岡譲教授は、世界各国の1人あたり排出量が等しくなると仮定し、人口予測などを考慮して50年までに日本が削減すべき排出量を計算すると、1990年比で85%となった。福田康夫首相が表明した日本の長期目標「60?80%削減」を上回る。
 米国やロシアなども90%前後の削減を求められる。増加が許されるのはインドやアフリカ諸国のみ。長期目標は、石油や石炭をエネルギー源として経済成長を進めてきた各国に「化石燃料との決別」を求めているのにも等しい。だからこそ、米国は半減目標を嫌った。議長国として合意をまとめた日本は、大変な責務を自らに課したことになる。
 目標達成には「従来の延長線上にはない新しい削減策を考える必要がある」と慶応大学の浜中裕徳教授は指摘する。早くから二酸化炭素(CO2)による温暖化を研究してきた気象学の第一人者、米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙科学研究所のハンセン所長は「まず石炭火力発電所からの排出削減が急務」と訴える。
 同所長によると、現在の化石燃料由来のCO2のうち石炭由来は4割。大気中に既にあるCO2でみると5割となり、石炭は温暖化の主犯といえる。埋蔵量を全部燃やした場合の排出量も、石炭が石油や天然ガスを上回るという。石油燃料を燃やして走る車の排ガスからCO2を取り除くのは難しいが、石炭火力発電所では捕捉して地中に貯留する技術も使える。
 革新的な電力供給システムにも注目が集まる。
 例えば三洋電機の桑野幸徳元社長が80年代終わりから提唱した「ジェネシス計画」。世界の砂漠地帯などに太陽電池パネルを設置し、電力損失のほとんどない超電導ケーブルでネットワーク化しようという壮大な構想が見直され始めた。
 背景には当時に比べ太陽電池の性能や製造法が大きく改善し、超電導材料の性能も向上したことなどがある。「やってみる価値はある」と、日本の超電導研究をリードしてきた北沢宏一東京大学名誉教授は指摘する。
 削減目標に慎重な米国も、温暖化対策技術の開発投資には一貫して積極姿勢を見せてきた。欧州連合(EU)も「原油価格が高騰するなかで、排出を減らす経済合理性はかつてなく高い」(バローゾ欧州委員長)として域内の技術開発強化や連携に力を入れる。
   ■  ■
 新興国や中東の産油国も例外ではない。「脱化石燃料」が進むのを見越し、サウジアラビアなどは環境関連技術にたけた若手人材の育成を急ぐ。日米欧との大学間交流にも積極的だ。
 「50%削減」の目標は、世界を制することができる削減技術開発へ向けた世界競争の本格化も意味する。(編集委員 安藤淳)

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