女性差別撤廃委員会のコメントを読んでみた

女性差別撤廃条約[1]にもとづいて、批准国は、実施状況についての報告書を提出しなければならない。そして、国連女性差別撤廃委員会は、それにたいするコメントを公表する。

そこで、日本政府が提出した第4回、第5回報告(2002年9月提出)にたいする女性差別撤廃委員会の最終コメント(2003年8月)を読んでみました。

女子差別撤廃条約第4回及び第5回報告書に対する委員会最終コメント(外務省仮訳)←PDFファイルが開きます。

「委員会の最終コメント」は、序論のあと、まず「肯定的側面」について記述し、そのあと、「主要関心事項及び勧告」として、「懸念」や「勧告」を列挙しています。

357項と358項は、女性差別の定義にかんする問題。憲法の規定にもかかわらず、日本の国内法に、「これは女性差別である」という女性差別の定義を定めた法律がないことを批判しています。358項では、とくに「間接差別」(直接、女性を差別はしていないが、その他の理由によって結果として女性が差別的な扱いをうけること)について、もっと日本国内の意識を変えるためのキャンペーンが必要だと指摘しています。

359項と360項は、「家庭や社会における男女の役割と責任」についの「根深く、硬直的な固定観念」の問題を指摘しています。そうした「固定観念」が残っているために、労働市場で女性が差別的な地位に置かれたり、「教育の選択」、政治・公的分野への女性の参画が低くなっていると批判。政府が、人権教育や男女平等について教育のなかでもっと取り上げるべきだと指摘している。また、「子育てを母親と父親双方の社会的責任とする考え方を促進することを目指す取組」の拡大も求めています。

361項と362項は、女性に対する暴力の問題。ドメスティック・バイオレンスだけでなく、近親姦の問題、不安定な立場にある外国人女性にたいする暴力の問題なども指摘されています。「従軍慰安婦」問題についても、「最終的な解決」のための努力を求めています。

364項、365項は、女性・女児のトラフィッキングの問題。

366項、367項は、日本のマイノリティの女性にかんする問題。

368項、369項は、ハイレベルの政策決定に女性が十分参加していない問題。

369項、370項は、労働・雇用・賃金などの分野での男女の格差、差別の問題。「コース別雇用管理制度」による男女差別が厳しく批判されています。また、男女雇用機会均等法が実施されてはいるものの、「間接差別の慣行と影響」についての政府の「認識の不足」が問題にされています。「パートタイム労働者や派遣労働者に占める女性の割合が高く」、結果として女性の賃金が一般労働者よりも低くなっている問題は、「間接差別」の典型でしょう。それから、女性が「個人・家庭生活」と「職業・公的な責任」とを両立させる上で大きな困難に直面していることに「深い懸念」が表明されています。「水平的・垂直的な職務分離」というのは、たとえば、窓口業務は女性だけなどというのが「水平的」な職務分離、女性は課長にはなれないなどというのが「垂直的」な分離、だと思います。

371項、372項は、日本の民法の明文規定に存在する女性差別の問題。他が「勧告する」であるのにたいして、ここだけ「要請する」となっていることに注意。それだけ、民法上の差別規定は、国際的にみると“時代遅れ”ということです。

373項、374項は、人権擁護法案と人権委員会の問題。

375項以降は、選択議定書の批准の問題や、今後の報告の内容にかんする問題。

ということで、「主要関心事項及び勧告」は以下のとおりです。

主要関心事項及び勧告

  1. 委員会は、憲法が両性の平等を規定してはいるが、国内法に差別の明確な定義が含まれていないことに懸念を表明する。
  2. 委員会は、条約の第1条[2]に沿った、直接及び間接差別を含む、女性に対する差別の定義が国内法にとりこまれることを勧告する。委員会は、また、条約についての、とりわけ間接差別の意味と範囲についての、特に国会議員、司法関係者、法曹一般を対象とした、意識啓発のためのキャンペーンを行うことを勧告する。
  3. 委員会は、締約国が、長年の固定的役割分担意識が男女間の平等を達成するための大きな障害と認識していることを評価し、この点についての定期的な世論調査に基づく取組に留意する一方、日本において、家庭や社会における男女の役割と責任に関し、根深く、硬直的な固定観念が持続し、労働市場における女性の状況、教育の選択、政治・公的分野への参画の低さに反映されていることに引き続き懸念を有する。
  4. 委員会は、女性と男性の役割についての従来の役割分担意識に基づく態度を変えるために、締約国が人権教育、男女平等についての教育等の教育システムにおける包括的なプログラムを策定、実施すること、また、条約についての情報や男女共同参画に対する政府の姿勢を広めることを勧告する。委員会は、締約国が調査や世論調査を性別のみならず、年齢別にも行い、その結果に基づき、子育てを母親と父親双方の社会的責任とする考え方を促進することを目指す取組を拡大することを勧告する。委員会は、意識啓発キャンペーンが強化されること、メディアが女性のポジティブなイメージや私的、公的領域における男女の平等な地位と責任を伝えるよう奨励されることを勧告する。
  5. 委員会は、締約国による、女性に対する暴力を扱う法律やその他の施策を認識する一方で、女性や女児に対する暴力の横行及び既存の公的機関に援助を求めることに女性にためらいがあることについて懸念を有する。委員会は、「配偶者暴力防止法」が、現在のところ、身体的暴力以外の形態の暴力を対象としていないことに懸念を有する。委員会は、また、強姦に対する罰則が比較的寛大であること、近親姦が刑法において明確に犯罪と定義されておらず、様々な処罰規定の下で間接的に扱われていることに懸念を有する。委員会は、更に、ドメスティック・バイオレンスを受けており、かつ入国管理上の地位が配偶者との同居に依存している外国人女性の特有な状況に懸念を有する。委員会は、強制退去への恐れが、そうした女性が援助を求めたり、別居や離婚といった措置を講じる妨げとなり得ることに懸念を有する。いわゆる「従軍慰安婦」の問題に関しては、第2回・3回報告の審議以前、以後にとられた措置について、締約国が提供した包括的な情報を評価しつつ、委員会は、この問題についての懸念が継続していることに留意する。
  6. 委員会は、ドメスティック・バイオレンスを含む女性に対する暴力の問題に、女性に対する人権の侵害として取り組む努力を強化することを締約国に要請する。特に、委員会は、配偶者暴力防止法を拡大し、様々な形態の暴力を含めること、強姦罪の罰則を強化すること、近親姦を個別の犯罪として刑罰法令に含めること、委員会の一般勧告19に基づき、暴力を防止し、被害者に保護、支援、その他のサービスを提供し、犯罪者を処罰するための政策を実施することを、締約国に要請する。委員会は、ドメスティック・バイオレンスを受けて別居している外国人妻の在留許可の取り消しは、その措置が当該女性に与える影響について十分に評価した後でのみなされることを勧告する。委員会は、締約国がいわゆる「従軍慰安婦」問題を最終的に解決するための方策を見出す努力を行うことを勧告する。
  7. 女性・女児のトラフィッキングに関して、アジア・太平洋地域における、送出国や中継国の捜査当局や出入国管理局との防止、捜査面での協力など、締約国が行っている取組を認識しつつ、委員会は、この問題の広がりについての情報が不十分であること、現行法下では加害者の処罰が寛大すぎることに懸念を有する。
  8. 委員会は、締約国が女性・女児のトラフィッキングと戦うための取組を強化することを勧告する。委員会は、締約国がこの問題に対処し、加害者への適切な処罰を確保するための包括的な戦略を策定することを目的として、体系的にこの事象を監視し、被害者の年齢、出身国を示す詳細なデータを収集することを要請する。委員会は、締約国が次回の報告に女性・女児のトラフィッキング及びそれに関連してとられた措置についての包括的な情報、データを提供することを要請する。
  9. 委員会は、報告に日本のマイノリティ女性の状況についての情報が欠如していることに懸念を表明する。委員会は、これらの女性グループが教育、雇用、健康、社会福祉、暴力被害の面で、彼らの共同体内も含め、直面している複合的な形態の差別や周縁化に懸念を表明する。
  10. 委員会は、締約国に、次回の報告に、日本のマイノリティ女性の状況に関するデータを含む包括的な情報、特に彼らの教育、雇用、健康状況や暴力被害についての情報を提供することを要請する。
  11. 委員会は、国の審議会等における女性の登用拡大のための指針及び社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にするという数値目標が設定されたことを歓迎する一方、国会、地方議会、司法、外交官などのハイレベルの、選挙で選ばれる機関において、また市長、検察官、警察官としての女性の参加が低いことについて懸念を有する。
  12. 委員会は、締約国が、公的活動のあらゆる分野、特にハイレベルの政策決定過程に女性が参画する権利を実現するため、なかでも条約の第4条1[3]に基づく暫定的特別措置の実施を通じ、政治的・公的活動における女性の参加を拡大するための更なる取組を行うことを勧告する。委員会は、締約国が、将来の女性指導者への訓練プログラムを支援すること、男女共同参画実現のためには意志決定過程への女性の参画が重要であることを啓発するキャンペーンを実施することを要請する。
  13. 委員会は、主に職種の違いやコース別雇用管理制度に表われるような水平的・垂直的な雇用分離から生じている男女間の賃金格差の存在、及び雇用機会均等法に関連する政府のガイドラインに示されている間接差別の慣行と影響についての認識の不足に懸念を有する。委員会は、更に、パートタイム労働者や派遣労働者に占める女性の割合が高く、彼らの賃金が一般労働者より低いことに懸念を有する。委員会は、主に女性が直面している個人・家庭生活と職業・公的な責任との調和における困難に深い懸念を有する。
  14. 委員会は、締約国が雇用機会均等法に関連するガイドラインを改正すること、労働市場における男女の事実上の機会均等の実現を促進する努力を特に条約第4条1に沿った暫定的特別措置を用いて増すことを要請する。委員会は、特に教育、訓練、効果的な強制メカニズム、進捗状況の体系的な監視を通じて、水平的・垂直的な職務分離を撤廃するための取組がなされることを勧告する。委員会は、家族的責任と職業上の責任の両立を可能にする施策が強化されること、家庭内の仕事の男女間での平等な分担が促進されること、家庭や労働市場における女性の役割についての固定観念に基づく期待が変わることが奨励されることを勧告する。
  15. 委員会は、民法が、婚姻最低年齢[4]、離婚後の女性の再婚禁止期間[5]、夫婦の氏の選択[6]などに関する、差別的な規定を依然として含んでいることに懸念を表明する。委員会は、また、戸籍、相続権に関する法や行政措置における嫡出でない子に対する差別及びその結果としての女性への重大な影響に懸念を有する。
  16. 委員会は、民法に依然として存在する差別的な法規定を廃止し、法や行政上の措置を条約に沿ったものとすることを要請する。
  17. 政府が2002年3月に人権擁護法案を国会に提出したことに満足をもって留意しつつ、委員会は、法務省の下に設置されるとされている人権委員会の独立性について懸念を有する。
  18. 委員会は、人権擁護法案で提案されている人権委員会が、独立機関として、女性の人権に適切に対処することが確保されるよう、国内人権機構の地位に関する原則(国連総会決議1993年12月20日48/134附属文書、いわゆる「パリ原則」)に基づいて設置されることを勧告する。
  19. 第5 回報告で締約国が表明している懸念に留意しつつ、委員会は、締約国が条約の選択議定書の批准の検討を継続することを推奨する。委員会は、選択議定書の提供するメカニズムが司法の独立を強化し、司法が女性に対する差別を理解する上での助けとなると確信している。
  20. 委員会は、締約国が、2006年が期限の次回定期報告において、この最終コメントで提起された個々の問題に対応することを要請する。委員会は、また、締約国が、性別、年齢別の包括的なデータを収集、分析し、次回報告に含めることを要請する。委員会は、また、同報告で、条約の実施においてとられた法制度、政策、プログラムの成果や影響についての情報を明らかに示すことを要請する。
  21. 委員会は、一般の人々や、特に行政官、公務員、政治家に、法律上及び事実上の男女平等を保障するためにとられる措置とその分野でとられるべき追加措置について知らしめるため、この最終コメントの内容が日本において広く周知されるよう要請する。委員会は、また、締約国が、条約、選択議定書、委員会の一般勧告、北京宣言及び行動綱領、第23回国連特別総会「女性2000年会議:21世紀に向けての男女平等・開発・平和」の成果を、特に女性団体や人権機関に対し、引き続き広く広報することを要請する。
  22. 関連の国連会議、サミット、特別総会(例えば、国連人口開発特別総会、国連こども特別総会、人種主義、人種差別、外国人排斥およびそれに関連する世界会議、第2 回高齢者問題世界会議など)により採択された宣言、計画、行動綱領のジェンダーの側面を考慮にいれつつ、委員会は、締約国が、次回の報告に、条約の関連条項に関するそれらの文書の実施についての情報を含めることを要請する。

ちなみに、「肯定的側面」は、たった6項目。それにたいして「主要関心事項及び勧告」は22項目。1つのテーマが「懸念」と「勧告」という2項目で取り上げられていることを考慮したとしても、全部で13項目になる。要するに、「懸念」「勧告」の項目の方が多いのだ。しかも、「肯定的側面」のほとんどが、法律や政府の委員会など、とりあえず制度・機構的な面が整備されたことを評価するというもので、内実ということになると、「主要関心事項及び勧告」が指摘するように、大きく立ち遅れているというのが委員会の最終コメントだろう。

女性差別撤廃委員会最終コメントは、こちら↓で読めます。「第4回及び第5回報告に対する女子差別撤廃委員会最終コメント」の「日本語」をクリックして下さい。PDFファイルが開きます。
内閣府男女共同参画局:国際的動向

女性差別撤廃条約、女性差別撤廃委員会にかんする情報は、外務省のホームページでも見ることができます。
外務省: 女子差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)

それから、今年、第6回実施状況報告が日本政府により提出されました。

  1. 外務省は「女子差別撤廃条約」と訳されていますが、以下、引用を除いて女性差別撤廃条約とします。 []
  2. 女性差別撤廃条約第1条は以下のとおり。
    「この条約の適用上、『女子に対する差別』とは、性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。」 []
  3. 女性差別撤廃条約の第4条1は以下のとおり。
    「締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなつてはならず、これらの措置は、機会及び待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。」 []
  4. 民法第731条「男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない。」 []
  5. 民法第733条1「女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」 []
  6. 民法第750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」 []

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  1. ドメスティックバイオレンスというのは本来はジェンダーバイオレンスと呼ぶのが正しいです。デートDVに至っては家庭内とは何の関係もありません。
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