最近読んだ本

戸谷由麻『東京裁判』(みすず書房)坪井善明『ヴェトナム新時代』(岩波新書)荒井信一『空爆の歴史』(岩波新書)

左から、戸谷由麻『東京裁判』(みすず書房)、坪井善明『ヴェトナム新時代』(岩波新書)、荒井信一『空爆の歴史』(岩波新書)。しばらく読み終わった本の感想を書き込むのをサボっていたので、3冊まとめて投稿します。(^_^;)

1冊目は、アメリカで教鞭をとる若手の研究者がアメリカで出版した著書の、著者自身による邦訳。日本での東京裁判研究の成果なども踏まえて書かれた良書。特徴は、以下の3点。

  1. 東京裁判を、今日にいたる国際人道法の発展の流れのなかに置いて、その意義を検討していること。
  2. 東京裁判では、日本軍による性暴力の問題やアジア人に対する戦争犯罪は無視ないし軽視されたという見方が史実に即していないことを、訴追資料から具体的に明らかにしたこと。
  3. 天皇不起訴の経緯について、連合国は、占領軍が撤退した1952年4月まで天皇訴追の可能性を保ち続けたとしていること。

第1点は、これまでの日本人による研究では必ずしも十分に追及されてこなかった問題で、たとえば南京事件の責任にかんする松井石根の判決は、国際的には、ハーグ国際法廷などで指揮官責任にかんする有用な判例としてしばしば具体的に言及されているらしい。

第2の点は、日本でも最近いろいろな形で指摘されている。もちろん、すべての被害が取り上げられた訳ではなく、さまざまな限界を持っていることも事実だが、しかし、決して、欧米戦勝国だけによる一方的な裁判ではなかったというのは重要な指摘だろう。

議論になるのは、第3の点。著者は、アメリカが早くに不起訴を決定していたとする議論にいろいろと反証しているが、僕が読んだ印象では、反論は成功していないように思う。なるほどアメリカは、占領終了まで、天皇不起訴を明言しなかったかも知れないが、それは、オーストラリアや中華民国政府の強硬な姿勢に配慮したからにすぎないのではないだろうか。

このほかにも、本書では、東京裁判そのものの検討だけでなく、戦後すぐの時期からの「東京裁判論」の検討もおこなわれているのも特徴。とくに、パル反対意見書が、東京裁判否定論者たちに支持され、日本でひろまっていく様子を取り上げているのが面白かった。そのなかでは、中島岳志『パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義』(2007年)について、従来のパル研究を前進させた成果を認めつつ、「パル反対意見書そのものの分析については、裁判当時及び現行の国際法の基本原則を中島がじゅうぶん把握していないためか、パルの法理論をそっくりそのまま正論として受け入れる傾向がいちじるしい」(318ページ)と指摘している点は重要だろう[1]

2冊目は、旧著『ヴェトナム 「豊かさ」への夜明け』(岩波新書、1994年)以後、2008年までのヴェトナムの「現況とあるべき体制」(iiiページ)について書かれたもの。国内的なドイモイとともに、カンボジア紛争[2]を解決して、国際社会への復帰をはたしたことが、その後のベトナム経済の発展にとって大きな意義を持ったことが強調されている。

著者は、「民主化への提言」(94?96ページ)として複数政党制の導入をあげている。この点については、最近、来日したベトナム国家政治行政学院代表団が「政権党のあり方」を主題に日本共産党の不破哲三氏と会談したというニュースがあった。会談のなかでは、「社会主義段階での複数政党の問題」についても「突っ込んだ意見交換」がおこなわれたらしい[3]

ほかにも、ベトナムの赤ちゃんがまるまると太っているようになったなど、身近な話を折りまぜながら、ベトナムの「現況」が紹介されていて、面白く読めた。

3冊目は、『原爆投下への道』『戦争責任論』『ゲルニカ』などの著作のある西洋史の泰斗、荒井信一先生の最新著。第1次世界大戦直後から、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン・イラク戦争と今日までの戦争を、「空爆」という視点で貫通史的にみていったもの。第2次世界大戦では、米軍は日本の都市にたいして無差別的な空襲をくり返したが、他方で、日本も中国・重慶その他に無差別空爆をおこなっている。ヨーロッパでも、米英によって、ドイツ各都市への無差別空爆がおこなわれ、その被害を発掘し、歴史的に検証する取り組みが始まっている。単純な「どっちが悪い」論をこえて、非戦闘員である住民にたいする無差別的な爆撃の犯罪性が明らかにされている。

その点で、第2次世界大戦後、無差別爆撃の違法化はさらにすすんだ[4]。他方で、米軍は、現在でも「一般住民の戦意」を攻撃目標としたり、「間接的であっても的の戦闘能力の支援および保持に役立つ経済目標」への攻撃を認めていて、国際法との鋭い対立を示している(214ページ)。その矛盾の1つが、クラスター爆弾禁止の問題だった。クラスター爆弾は、今年5月のダブリン会議で、一部の例外を認めるものの、原則として、使用・開発・製造・調達・備蓄・移転を禁止する条約案が合意された。一部の例外について、「抜け道をつくった」とする立場もあるが、著者は、「これまでのオスロ・プロセスの成果を足場として、『抜け道』を事実上、無効化し、さらに劣化ウラン弾などの全面禁止や非人道的な空爆の禁止を日程にのせるまでに世界の世論を強めていく方策を考えるほうが、重要ではないか」(243ページ)と指摘されている[5]

ということで、いずれも読み応えのある本でした。(^_^)v

【書誌情報】

  1. 著者:戸谷由麻(とたに・ゆま)/書名:東京裁判――第二次大戦後のほうと正義の追求/出版社:みすず書房/発行:2008年8月/定価:本体5,200円+税/ISBN978-4-622-07406-9
  2. 著者:坪井善明(つぼい・よしはる)/書名:ヴェトナム新時代――「豊かさ」への模索/出版社:岩波書店(岩波新書新赤版1145)/発行:2008年8月/定価:本体780円+税/ISBN978-4-00-431145-4
  3. 著者:荒井信一(あらい・しんいち)/書名:空爆の歴史――終わらない大量虐殺/出版社;岩波書店(岩波新書新赤版1144)/発行:2008年8月/定価:本体780円+税/ISBN978-4-00-431144-7
  1. 同時に著者は、「中島がパル反対意見書を積極的に――そして一見無批判に――受け入れる姿勢をみせる背景には、同意見書の『ご都合主義的な利用』をする『日本無罪論』者を論駁しようという、歴史家としてのより大きな目的が作用しており注目される」(319ページ)とも指摘している。 []
  2. これについて著者は、「米国と中国を中心とした『国際社会』は、『侵攻』と断定した」(70ページ)との立場をとっている。 []
  3. 詳しくは、「不破社研所長がベトナム国家政治行政学院代表団と会談」(「しんぶん赤旗」2008年9月5日付を参照。 []
  4. 1977年のジュネーヴ追加議定書「国際武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書」では、「文民たる住民を攻撃の対象にすること」などが禁止された。 []
  5. 日本政府は、この条約案の受け入れを表明した。それによって、自衛隊の保有するクラスター爆弾の廃棄が必要となるが、他方で、在日米軍が保有するクラスター爆弾はそのまま残る。この問題に日本政府と国民がどう向き合ってゆくかが問われる。 []

Similar Articles:

Leave a Comment

NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">