南部、小林、益川3氏がノーベル物理学賞を受賞

2008年のノーベル物理学賞を、素粒子理論研究の南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授、小林誠・高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)名誉教授。益川敏英・京都大学名誉教授が受賞。

益川さんと小林さんは、名古屋大学の坂田昌一門下。坂田氏は、エンゲルス『自然弁証法』やレーニン『唯物論と経験批判論』などに学んで、物質の階層性という考えにたって、素粒子といえども究極の物質ではなく、さらにその中に下位のレベルの物質があると考えました[1]

ノーベル物理学賞:益川教授ら日本人3氏に授与(毎日新聞)
「受賞あるなら今年だと」=「理論屋」に笑顔も?益川教授(時事通信)
熱血漢の益川、クールな小林=性格の「対照性」、独創理論生む?ノーベル賞(時事通信)
【ノーベル物理学賞】素粒子物理学の世界に金字塔「小林・益川理論」(MSN産経ニュース)

夜9時からのニュースで、NHKは、小林、益川両氏にインタビューしていましたが、このインタビューはなかなか笑えました。

NHKのアナウンサーは、小林氏や益川氏が、当然に「ノーベル賞がもらえれてうれしい」と言ってくれると思っていろいろ質問しているのですが、小林・益川理論の提唱は今から35年前、70年代の終わりにはほぼ確実とみなされるようになっていたので、小林氏は「過去の仕事で賞をもらって面食らっている」と率直なコメント。益川氏にいたっては「物理屋としては2002年、2003年に最終的に実証されたことはうれしかったが、それから後の話は世俗の出来事」と、切り捨てておられました。(^_^;)

しかし、これはNHKの側の不勉強。そもそもノーベル物理学賞は、理論を提唱しただけでは与えられません。その理論が実験で裏づけられて、初めて与えられます。だから、今回の受賞は、小林・益川理論が、実験的に裏づけられ、すでにゆるぎない事実となったことにたいして与えられた、というべきものです。それを「ノーベル賞の受賞で、初めて理論が認められた」みたいに思い込んで質問するものだから、話がかみ合わないのです。

さらに「今後、どんなことを研究したいですか?」とか「またお2人で研究してみたいと思いませんか?」とか、質問していましたが、小林さんも、益川さんも、小林・益川理論の提唱以後は、それぞれ別々に新しいテーマで研究をやってこられているのですから、これは、文字どおり“いまさら”な質問。

もちろん、益川さんだってうれしくない訳はなく、「78年のコンファレンスで南部先生が“だいたいこれでいける”と言ってくれたが、その南部先生といっしょに受賞できて光栄です」と笑って語っておられました。

ノーベル物理学賞:益川教授ら日本人3氏に授与

[毎日新聞 2008年10月7日 19時29分(最終更新 10月7日 21時41分)]

 スウェーデン王立科学アカデミーは7日、08年のノーベル物理学賞を、米シカゴ大の南部陽一郎名誉教授(87)=米国籍▽高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)の小林誠名誉教授(64)▽京都産業大理学部の益川敏英教授(68)の日本人3人に授与すると発表した。素粒子の理論で先駆的な役割を果たしたことが評価された。南部氏の受賞理由は、物質の最小単位である素粒子の「自発的対称性の破れの発見」。小林、益川両氏は「CP対称性の破れの起源発見」で、CP対称性の破れを説明するために、物質を形づくる素粒子クォークが少なくとも3世代存在することを予言し、後に実証された。素粒子の世界に存在する「破れ」と呼ばれる非対称性の理論化に取り組んだ3氏の業績は、理論物理学の発展に大きく貢献、初めての日本人3人同時受賞につながった。
 日本人のノーベル賞受賞は、02年の小柴昌俊・東京大特別栄誉教授(物理学賞)、田中耕一・島津製作所フェロー(化学賞)以来6年ぶりで、3氏を含め受賞者は計15人、物理学賞に限ると小柴氏に続き計7人となった。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれ、賞金1000万スウェーデン・クローナ(約1億4000万円)は南部氏に半分、残りの半分を小林、益川両氏に贈る。
 左右対称の図形は、左右を入れ替えても形が同じ。物理法則でも、一つの状態をほかの状態に変えても不変であるとされる。
 しかし、南部氏は60年代、素粒子の世界でこのような対称性が破れる「自発的対称性の破れ」という素粒子に関する基本概念を発表した。これは、極低温で電気抵抗がゼロになる超電導現象を素粒子分野に応用し、素粒子の対称性は失われることがあるとした理論だ。現在の素粒子研究の多くは、この概念を出発点に理論を展開しており、物質の質量の存在を説明する基礎になっている。
 一方、小林、益川両氏は粒子と反粒子(質量が粒子と同じで電荷が反対)の数が異なる時に起きる「CP対称性の破れ」を理論的に説明するため、当時3種類しか存在が確認されていなかった素粒子クォークが3世代6種類あることが必要だとする「6元クォーク模型」を考案。両氏の名字をアルファベット順に並べて「小林・益川理論」と呼ばれた。
 小林・益川理論は当時の理論物理学の常識を覆す理論だったが、その予言通り、77年までに4、5番目のクォークの存在が実証され、95年には6番目のトップクォークの存在が確定、理論の正しさが証明された。
 南部氏は戦後まもなく渡米した頭脳流出組で、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎の両氏(いずれも故人)に続く日本の素粒子論研究者の第2世代。益川、小林両氏は名古屋大理学部の先輩、後輩で、湯川博士の協力研究者だった故坂田昌一博士門下で素粒子論を学んだ。この受賞は、日本のお家芸とも言える素粒子論の世界で、第2、第3の世代が世界にその実力を改めて証明したともいえる。

「受賞あるなら今年だと」=「理論屋」に笑顔も?益川教授

[時事通信 2008/10/07-22:27]

 「(ノーベル賞は)科学とは関係ない。研究者仲間から『正解だったよ』と言ってもらうのがうれしい」?。益川敏英さん(68)は京都産業大で、「(受賞の)可能性があるとしたら今年だろうと思っていた」と話した。小難しい顔で会見に臨んだ「理論屋」からは、時折笑顔ものぞいた。
 研究室で受賞決定を知らせる電話を受けたのは午後7時前。直後の会見では「南部先生が取っていただいたことが一番うれしい」と共同受賞者の南部陽一郎さん(87)の名を繰り返した。
 論文発表から実に36年越しの吉報。「人ごと。何か益川という人がやったらしいぞと」と話し、クールな表情を崩さない。ただ、同じく共同受賞者の小林誠さん(64)と会見中に電話した時は笑みがこぼれた。「また会う機会があるだろうから、その時にじっくりお話ししましょう」など短く言葉を交わした。
 益川さんは最近の学生について、「はちゃめちゃのエネルギーを感じない」。理由を問われ、受験戦争を挙げる。「科学にロマンを持つことが非常に重要。あこがれを持っていれば勉強しやすいが、受験勉強で弱くなっている」と憂慮する。「われわれの仕事が多少なり役に立てば光栄なこと」と力を込めた。

熱血漢の益川、クールな小林=性格の「対照性」、独創理論生む?ノーベル賞

[時事通信 2008/10/07-19:42]

 数学にめっぽう強い熱血漢、実験に精通したクールな秀才タイプ。ノーベル物理学賞に決まった益川敏英さんと小林誠さんは、名古屋大理学部からの先輩と後輩だが、正反対の性格。この「対照性」が、物質の究極の世界を説明した「小林・益川理論」を生み出す原動力になった。宇宙誕生時には、同じ量だけ存在したと考えられる物質と反物質。電気のプラスとマイナス(C)、空間の左右(P)を変えただけなのに、どうして反物質だけが消えたのか。2人は京大助手時代の1972年5月、この「CP対称性の破れ」を理論的に説明する難問に挑み始めた。
 当時、クオークは3種類しか見つかっていなかったが、3種類ではCP対称性の破れが説明できない。益川さんは4種類で説明するモデルを無理やり作って主張したが、小林さんは冷静に実験データを持ち出し、「それは無理がある。駄目です」と否定した。
 熱い議論を戦わせた夜、益川さんは風呂に入りながらも考え続けた。「4個ではうまくいかない。6個という形しかないのではないか」と思い付き、「風呂からぱっと立ち上がったら、呪縛(じゅばく)が解けた」。その後2人は、2、3カ月で論文を書き上げた。小林さんは当時の益川さんについて、「体は小さいが、やたらと声が大きかった。数学にめっぽう強く、ユニークな論理を展開する人だった」と評する。一方、益川さんは「小林君は紳士で秀才タイプ。僕と対照的だったのが、かえって良かったのかもしれない」と振り返る。益川さんは父親に「モーターはなぜ動くの」「日食はどうして起きるの」と質問する科学少年だった。一方、小林さんは高校生のころ、新聞でよく目にした素粒子研究に「何となくあこがれていた」。ともに、日本の素粒子物理学の最先端だった名大理学部の坂田昌一教授(故人)の研究室に進み、才能を花開かせた。

【ノーベル物理学賞】素粒子物理学の世界に金字塔「小林・益川理論」

[MSN産経ニュース 2008.10.7 20:28]

京都大助手時代の小林誠氏(左端)と益川敏英氏(前列左)=京大理学部の研究室で ノーベル物理学賞に輝いた高エネルギー加速器研究機構の小林誠名誉教授(64)と京都大の益川敏英名誉教授(68)は、物質の究極の姿を理論的に解明し、宇宙の成り立ちに明確な根拠を与えた。6種類のクオークを予言した先見性と独創性は国際的に高く評価され、素粒子物理学の世界に金字塔を築いた。(長内洋介)

 物質は原子が集まってできている。原子は中心部に原子核、その周囲に電子がある。原子核は陽子と中性子に分けられ、これらはさらに小さい「クオーク」という複数の粒子でできている。
 クオークのように、これ以上細かくできない物質の最小粒子を「素粒子」という。素粒子にはクオークのほか、電子やニュートリノなどの「レプトン」と呼ばれるグループなどがある。
 こうした物質の基本構造は、1960年代に次第に明らかになった。しかし、当時はクオークが全部で何種類あるか分からず、さまざまな理論が提唱されては消えていく混沌の時代だった。

■消えた「反粒子」

 当時の素粒子物理学は、もうひとつ未解決の難題を抱えていた。それは「反粒子」と呼ばれる奇妙な粒子が、宇宙からなぜ消えたのかという大問題だった。
 宇宙は約137億年前、ビッグバンと呼ばれる大爆発で誕生し、物質はその直後、大爆発のエネルギーが転化して生まれた。現在の宇宙の物質はクオークなどの粒子でできているが、宇宙誕生時には、粒子と質量が同じで、電荷が反対の「反粒子」も同じ数だけ生まれたとされる。
 粒子と反粒子が出合うと光(エネルギー)に変化し、どちらも消滅してしまう関係にある。もし宇宙に今も反粒子がたくさんあれば、粒子でできている銀河や地球は消滅してしまう。ところが幸いなことに現在の宇宙に反粒子は見当たらない。
 その理由は、粒子と反粒子のわずかな性質の違いにある。反粒子は粒子よりも生き残る確率が低いため、次第に姿を消し、宇宙は粒子だけが生き残るように進化したのだ。この両者の性質の違いを「CP対称性の破れ」という。
 1964年、米国の物理学者らが中性K中間子の崩壊過程で、CP対称性の破れが実際に起きることを初めて発見した。しかし当時の世界の物理学者たちは、この現象がなぜ起きるのかを説明できなかった。

■大胆に予言

 小林、益川両氏が1973年に発表した新理論は、素粒子物理学が直面していたこれらのパラドックスを解決に導く画期的なものだった。
 クオークは当時、「アップ」「ダウン」「ストレンジ」の3種類が発見されていたが、これだけではCP対称性の破れを説明できない。小林・益川理論は、6種類あれば対称性の破れが起きるとする「6元モデル」を初めて提唱。3種類しか見つかっていない時代に、大胆な予言だった。
 クオークは質量によって、「世代」と呼ばれる1対のペアに分類される。ペア同士は、ある条件下で相互に入れ替わる性質があり、例えば第1世代はアップとダウンが入れ替わる。この“変身”は異なる世代間でも可能だ。小林・益川理論は、変身が3世代にまたがって起きるとき、対称性が破れることを理論的に証明した。つまり、この世には3世代=6種類のクオークが存在すると結論付けたのだ。

■標準理論の骨格

 小林・益川理論の予言は次々に的中した。発表翌年の74年に4番目のクオーク「チャーム」、77年に3世代目にあたる5番目の「ボトム」、95年には最後の「トップ」が発見され、6元モデルの正しさが実証された。その後の研究から、7番目のクオークは存在しないとみられている。
 一方、CP対称性の破れについて、小林・益川理論は中性K中間子の実験結果を矛盾なく説明することに成功。さらにB中間子でも破れが起きることが予言され、高エネ研と米スタンフォード線形加速器センターが検証実験を行った。2001年の分析結果では、B中間子の崩壊過程でも破れが起き、その測定結果は理論値とピタリと一致。理論の正しさは揺るぎないものとなった。
 小林・益川理論はクオークなどに働く「弱い力」と電磁気力を統一したワインバーグ・サラム理論、クオークの相互作用を支配する「量子色力学」とともに、素粒子論の基礎となる「標準理論」の骨格となった。

■独創の系譜

 近年の素粒子研究は、標準理論の枠組みを超える未知の現象や、新粒子の発見を目指す次のステージへ移行しつつある。しかし、小林・益川理論は、現在でも素粒子分野の論文の被引用件数で世界の歴代2位を誇るなど、その学術的な価値は色あせていない。
 ワインバーグ・サラム理論は79年、中性K中間子での対称性の破れの発見は80年に、それぞれノーベル物理学賞を受賞。小林・益川理論は実証に約30年を要したが、近い将来の受賞が確実視されていた。
 小林、益川両氏が名古屋大時代に師事したのは、「坂田モデル」で知られる故坂田昌一博士。坂田氏は、故湯川秀樹博士の「中間子論」を支えた人物だ。小林、益川両氏の受賞からは、湯川博士以来、脈々と続いた日本の独創的な素粒子研究の系譜が読み取れる。

  1. 益川氏は、たとえば「赤旗」1984年7月14日付で、次のように語っておられます。
    「素粒子が、さまざまな性質、特徴、法則性を持っているのは、その背後にそれらの担い手の物質が必ず存在するに違いないと考えていたからです。この考え方は名古屋大学の坂田昌一博士が、以前から提起されていたものです。坂田博士は素粒子を『天体、物体、分子、原子、原子核、素粒子……と続く物質の無限の階層の1つに過ぎない』『現象の背後に必ず物質の裏づけがある』ととらえていました。この考え方の背景には『電子といえどもくみつくせない』という物質の無限の階層性と認識の相対性を指摘したエンゲルスやレーニンと同様の唯物弁証法の物の見方がつらぬかれています」、「唯物弁証法と自然科学の研究方法との関係は非常に奥深いもので、今後もさらに追求する必要があると思います」 []

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  1. 益川先生も、唯物弁証法の立場で研究を進めてこられたことを、何度か語っておられますね。商業メディアでは、このことには全く触れないでしょうけど、非常に大事なことだと思います。

  2. かわうそ実記 - trackback on 2008/10/08 at 02:48:07
  3. 自分なりの判断のご紹介 - trackback on 2008/10/09 at 01:53:00

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