公的資金投入 2.8兆円儲かったというが焦げつきは10.4兆円

今日の「日本経済新聞」に載っていたカコミ記事。

記事の主旨は、「なぜ公的資金投入が必要か」というものだけれども、90年代のバブル崩壊で、政府が投入した公的資金のうち、預金保護などとために投じられた18.6兆円のうち、10.4兆円が国民負担となったことを明らかにしている。

政府は、なにかといえば、資本注入に使った12.4兆円のうち、すでに9.2兆円(70%)が回収され、株価の値上がりなどで1.3兆円の利益が発生したと言って、公的資本注入がイコール税金による補填にはならないと強調している。しかし、整理回収機構による資産買い取りでの利益1.5兆円を含めても、儲かったのは2.8兆円しかない。未回収分が合わせて5.8兆円残っていて、差し引きしても現在はまだ3兆円の赤字。

そして、もしこれらの資金が全部回収されたとしても、預金保護で焦げついた分の国民負担の方が圧倒的に多いのだ。それを忘れないように。

日本の公的資金の回収状況(「日経新聞」2008年10月15日付)
日本の公的資金の回収状況(「日経新聞」2008年10月15日付)

なぜ公的資金投入が必要か 不良資産の処理加速

[日本経済新聞 2008年10月15日付朝刊]

◆日本のケース 利益2.8兆円

 米国が大手金融機関に公的資金を使って資本注入することを決めるなど欧米各国が一斉に公的資金の活用に動き出した。なぜ公的資金が不可欠なのか。1990年代からの金融危機時に積極投入した日本のケースでみると、公的資金で拡充した資本を生かして不良債権処理を加速させた。資本注入や不良資産買い取りに使った公的資金は、その後の経営改善や景気回復で約2.8兆円の利益を国にもたらしている。
 日本はバブル崩壊後の金融危機を封じる過程で、総額46.6兆円の公的資金を投入した。
 最も多かったのが預金者保護への投入。金融機関の破綻時に預金などを全額保護するため約18.6兆円を使った。金融界が預金保険料として8.1兆円を負担し、残りの10.4兆円が国民負担になった。この分は国の損失になるが、資本注入や不良資産買い取りに使った公的資金の方は国の利益につながった。
 破綻を防ぐため金融機関の資本を予防的に厚くする資本注入策には、日本は計12.4兆円を使った。98年3月と99年3月に相次いで大規模注入を実施した。
 98年3月には、21の大手銀行や有力地方銀行に合計約1.8兆円を注入。この時は各行への注入額が1,000億円前後と少なく、抜本的な資本増強にはならなかった。そのため公的資金注入後に旧日本長期信用銀行と旧日本債券信用銀行が破綻し国有化された。
 新法ができた99年3月からは32の大手や地方銀行に、優先株引き受けなどで合計約8.6兆円を資本注入した。2003年には、りそなホールディングスに約2兆円を注入。一連の注入で不良債権処理は加速し、05年3月期に大手銀の不良債権比率は02年3月期比で半減した。
 金融危機終結後、資本注入を受けた金融機関は相次いで公的資金を国に返した。優先株の価値が上がったため、どの銘柄も国に利益をもたらした。資本注入に使った計12.4兆円の公的資金のうち9.2兆円、70%分を回収したが、回収分をみると1.3兆円の利益が生じた。残りの30%分は銘柄によって含み益だったり、含み損だったりしている。
 国は整理回収機構を通じて金融機関から保有株式や貸出債権も九・七兆円分買い取った。このうち08年3月までに7.1兆円分を回収した。ここでも株式が値上がりし、買い取り時の想定以上に債権の回収が進んだことで約1.5兆円分の利益が発生している。
 公的資金の回収はまだ途中段階。株式などが値上がりすれば今後利益が膨らむ可能性もある。
 欧米が動き出した公的資金による資本注入や不良資産買い取りも長い目で見れば国民のプラスに働く可能性が大きい。

この問題では、経済評論家の奥村宏氏が「東京新聞」の「こちら特報部」(10/15付)で、注目すべき発言をしている。

 経済評論家の奥村宏氏は、〔預金〕全額保護は「国民の不安をなくすために言いだしたんだろう。銀行にとって一番怖いのは行列。健全な銀行でも預金者が窓口に並ぶとつぶれてしまう」と“全額保護発言”そのものには理解を示したうえで「金持ち優遇策になってしまう」と反対する。
 「全額保護は最終的に国が責任を持ち、税金を使うから、銀行がつぶれたら最終的に国民が損をする。1,000万円程度の限度を設けてやるのが合理的だろう。全額保護より国有化の方が筋が通る。国が大株主になれば銀行はつぶれず預金者保護になる。その代わりに経営陣の責任は厳しく追及するのです」

「日経新聞」記事のように、預金保護のために投入された資金は、銀行がつぶれたときは、基本的に全部焦げついてゆく。だから、「預金全額保護」よりも資本増強のための公的資金投入の方が筋が通るというのが、奥村氏の主張。ただし、かりに国が大株主になって国有化したとしても、いまの政府や役人に、経営陣の責任を厳しく追及できるかどうかは不明けれども。

ところで、預金全額保護が「金持ち優遇になる」というのは、こういうこと↓。

たとえばあるお金持ちが、1億円の手持ち資金があって運用先を探していたとする。株で運用すれば、リターンも高いかもしれないけど、元本割れする危険もある。国債なら、株ほどは儲からないけど、リスクも少ない、などなど、リスクとリターンを比較して、自分でどう運用するか考えるというのが、資産運用(=投資)の当然のルール。

ところが、ある銀行が、大口預金を集めるために、たとえば10%の高金利をうたって定期預金を集めていたとしよう。で、このお金持ちがこの1億円の預金をこの銀行に定期預金に預けたとする。しかし、そのあとで、この銀行が実は怪しげな会社に貸し込んでいて、それが焦げついて倒産してしまったとしよう。高金利の定期預金は、不良債権を穴埋めするための資金集めだったという訳だ。

このとき、預金全額保護だということで、このお金持ちの1億円も10%の利子も、全部税金で支払われるとしたら、どうだろうか? 
1億円を年10%で運用できて、元本割れの危険がないとしたら、投資する側からすれば、これほど美味しい話はない。また、銀行の側からいっても、預金集めのために資産体質に不釣り合いに高い利率を掲げることもできる、ということで、いわゆるモラル・ハザード問題が発生する。

だから、いくら高額の預金でも全額保護するというのは、投資としてのルールを曖昧にする。ということで、無制限の全額保護はおこなわれていない訳だ。

他方、いまのご時世、どんなに生活に余裕のない家庭であっても、給料や年金も銀行振込だし、公共料金などは全部口座引き落としが当たり前。だから、ともかく銀行に口座をつくってそこになけなしの生活費を預金して、必要なとき必要な分だけを下ろして使う、という訳だ。

預金保護など一切なし、ということで、こんな庶民の生活費まで銀行倒産で消えてしまったのでは、銀行信用そのものが成り立たなくなる。だから、生活に必要な預金については、ちゃんと全額保護すべきだと言うことになる。

だから、たとえば1,000万円を限度として、それ以内の預金は全額保護する、それ以上は保護しない、というのが、現在の預金保護のルールになっているのだ。

全額保護は、一見すると安心で、聞こえがいいが、実際には金持ち優遇になる、というのは、こういう理由から。

なお企業が運転資金などを預ける当座預金は、利子は付かない代わりに、いまでもちゃんと全額保護されている。ご安心あれ。

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