『資本論』第1巻を読む?!

リミニ・プロトコル「カール・マルクス:資本論、第1巻」

マルクス『資本論』を読む劇が上演されるというので、見に行ってきました。

登場人物は、ドイツ+日本の12人。みなさん、演劇のプロではなく、言ってみれば素人さん。その人たちが、自分と『資本論』の係わり合いについて、舞台に登場して「語る」という、実験的というか現代的というか…、そもそも演劇ともいえないような「劇」です。そして、お客さん全員にも『資本論』が配られ、「語り」の合間、合間に、ページを指定して、そこを開いて『資本論』が読み上げられます。

で、どうだったかと言われると、僕は演劇的方面には弱いので、よく分かりません。(^^;)

ただ、やっぱりドイツでは『資本論』やマルクスについて「語る」となると、東ドイツ、ソ連の旧体制でのそれぞれの人の「体験」に、何らかの意味で“決着”をつけざるをえない、ということはよく分かりました。もちろん「劇」はそれだけでなく、ギャンブル依存症になってしまった人や詐欺師の話なども登場して、資本主義の問題点も示しています。その両方をないまぜにしながら、そこに『資本論』をからめるというのが、基本コンセプトになっているようです。

ですから、内容的には、『資本論』を読むという部分はありつつも、基本的には、『資本論』にかかわる話によって組み立てられているもの、と言えます。

しかし、『資本論』という素材が選ばれたのは、別に、リーマン・ブラザース破綻でということではなく、もともとこのリミニ・プロトコルという劇団は、シラーの『ヴァレンシュタイン』などの朗読劇もやっていて、今回は、多くの人が知っているけれども、実際には読んだことのないテキストとして『資本論』が選ばれたとのことです。準備に1年をかけたというので、いまの金融危機とは直接は関係ないことが分かります。

で、もともとドイツで公演されたドイツ・バージョンがあって、それを日本でやるにあたって、日本人の登場人物4人が追加され、独自の東京バージョンがつくられたということです。

そのために、面白いなと思ったのは、『資本論』にたいする受け止め方が、日本とドイツで違うということ。ドイツでは、上に書いたとおり、やっぱり東ドイツ、ソ連の旧体制にたいする「こだわり」が基本モチーフ(というより「通奏低音」か)としてあって、だから、こういうと乱暴だとは思いますが、やっぱり後ろ向きだなぁと思いました。

それにたいして、日本の場合は、とくに大谷禎之介先生からは、マルクスが『資本論』で残したものを、本当に大切にして、それをこれからにどう生かしてゆくのか、というもっと前向きな印象を受けました。

今日は、終演後、ポスト・パフォーマンストークがおこなわれました。僕は『資本論』という素材に惹かれて見に来た方ですが、リミニ・プロトコルの演出手法などに興味、関心を抱いて来ていた人もたくさんいらっしゃったようです(というか、そういう人の方がたぶん多かったんでしょうね)。

僕も1つだけ質問させていただきました。マルクスのテキストは、ドイツ人にはどんな文章に読めるのか? 日本語では、なかなか難解、晦渋、よく言えば重々しい翻訳で、とてもすらすらとは読めません。はたしてドイツ人は、どんなふうに読めるんでしょうか。だいたい、演出家の2人が、「自分もこれをやるまでは読んだことがなかった」と言っているほどで、そういう人が初めて『資本論』を読むと、どんなふうに感じるのか、率直に質問させていただきました。

答えは、26ページまでは読んだが28ページ以降は読もうとは思わないという発言もありましたが、とくにクリスティアン・シュプレンベルクさんが、この劇のために初めて読んだ、読んでみると面白いところもいろいろある、でも何時間もかけて全部読もうとは思わない、というのが一番率直なところかなと思いました。

ところで、話が横道にそれますが、回答の中で、ウルフ・マイレンダーさん?が「現代的な問題が非常にコンパクトに書かれている」と言って、『資本論』冒頭の「資本主義的生産様式が支配的となっている社会の富は、『巨大な商品の固まり』となって現われる」という部分を紹介。これを通訳の先生が「社会の豊かさ」と訳して説明されたのですが、それが僕には非常に新鮮に聞こえました。

「富」も「豊かさ」も、ドイツ語は同じ。違うのは日本語だけです。しかし、「社会の富」と言えば、物、財貨の山など、物質的なモノしか思い浮かびませんが、「社会の豊かさ」と言われると、とたんに、そうした物質的なモノの豊かさだけでなく、精神的なもの、生活の質みたいなものを含んだ「豊かさ」をマルクスは問題にしていたのだ、というふうに読めるからです。そういう生活の「豊かさ」を物質的な「富」の問題にしてしまうあたりが、資本主義の一番の問題なのかも知れません。

ということで、何十年ぶりかに演劇を見てきた感想です。

ちなみに、この公演は、3月1日まで。僕は当日券で見ましたが、当日券はかぶりつきの桟敷席。字幕が高いところにあるので、はっきりいって疲れます…。(^^;)

公式サイト↓
カール・マルクス:資本論、第一巻 – プログラム | フェスティバル/トーキョー FESTIVAL/TOKYO

こちら↓は、昨日(26日)の初日の公演の様子を伝えたNHKのニュース
NHKニュース 国際的舞台芸術の祭典 開幕

【演劇情報】
コンセプト・演出:ヘルガルド・ハウグ、ダニエル・ヴェツェル/出演:大谷禎之介(元大学教授、MEGA編集者)、トーマス・クチンスキー(統計学者、経済史家)、クリスティアン・シュプレンベルク(コールセンター・エージェント)、佐々木隆治(大学院生)、フランツィスカ・ツヴェルク(翻訳家、通訳)、ヨヘン・ノート(経営コンサルタント、講師、中国・アジア専門)、萩原ファレントヴィッツ健(大学講師)、ウルフ・マイレンダー(作家、施設コンサルタント)、タリヴァルディス・マルゲーヴィッチ(歴史家、映画作家)、脇水哲郎(会社員)、サシャ・ワルネッケ(革命家、メディア業界のセールスマン)、ラルフ・ワルンホルツ(公共電気技師、元ギャンブラー)

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