古荘純一『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』

古荘純一『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(光文社新書)

「自尊感情」というのは、self-esteemの訳語。「自分の外見・性格・特技・長所短所・自分のもっている病気やハンディキャップなどすべての要素を包括した意味での『自分』を、自分自身で考える」(32ページ)という意味です。プラスの面で言えば、「自信、積極的、有能感、できるという気持ち、幸せな気持ち、自分を大切に思う気持ち」など。マイナスの面で言えば、「劣等感、消極的、無力感、できないという気持ち、不幸でつまらないと思う気持ち、自分をみじめに思う気持ち」を表わします(同前)。

「自尊心」「自己評価」「自己価値」「自己肯定感」などさまざまな訳語があるそうですが、著者は、このポジティブな意味もネガティブな意味を包括的に表わす中立的な言葉として「自尊感情」という言葉を使っています(30ページ)。

子どもが「自己肯定感」を持てなくなっている問題は、以前からも指摘されていますが、本書のポイントは、この子どもの自尊感情の高さ・低さについて、一連の調査にしたがって数量化して比較・検討しているところにあります。

その結果、次のような傾向が分かってきたといいます。

  • 「身体的健康度」「情動的ウェルビーイング(気持ち)」「家族との関係」「友だちとの関係」「学校生活」に比べて、「自尊感情」の得点が低い。
  • 学年がすすむにつれて「自尊感情」が低くなっていく。
  • ドイツ、オランダと比べてみても、日本の児童の「自尊感情」は低い。
  • 親から見た子どもの「自尊感情」の評価に比べて、子ども自身が感じる「自尊感情」の得点が低い(つまり、親は子どもの「自尊感情」の低さに気づいていない)。

興味深いのは、同じ日本人の児童でも、オランダの日本人学校の児童の「自尊感情」は、日本国内の児童ほど低くなかったという事実。要するに、「自尊感情」の低さは、日本人の遺伝でも文化でもなく、日本の学校教育システムのなかでつくりだされている可能性が大きい、ということです(第3章)。そのなかでは、子どもの「自尊感情」が小学校4年ごろを境にして低下していくことも明らかにされています。

第4章では、「なぜ子どもたちの自尊感情が低いのか」という問題にたいして、著者は、4つの理由を挙げています。

  1. 親自身の自尊感情が低いこと。
  2. 周囲が期待するような子どもに育たなければ親の責任であるという風に親を責めたてる傾向。子育てをめぐるピリピリとした雰囲気の中で、大人の言動にたいする子どもの受け止め方自体が変化している。実際には虐待がおこなわれていないにもかかわらず、子ども自身が大人の言葉を被虐的に受け止め、強い被害者意識を持つ。
  3. 学校で、多くの子どもたちがストレスを感じている。学校の中で自尊感情を持ち、伸ばすことが難しくなっている。一斉授業という授業形態の限界。家庭でもスキンシップが減っている。教育方針が迷走しており、子どもがそれに振り回されている。
  4. 「KY(空気が読めない)」という言葉にしめされるゆとりのなさ。自分らしさを表現することに大きな制限が加えられ、多数に押し切られて自由に意見が言いにくい雰囲気。「空気が読めない」と言って、強力・巧みに一人ひとりを追い込んでいく不気味さ。子どもたちは、息が詰まりそうな閉塞感の強い社会の中で、自分自身を守るので精一杯という状況の中で生きているのではないか。

とくに2で、子どもにとっても大きなストレスがかかっている状況のもとで、大人の言動にたいする子どもの受け止め方自体が変化し、実際には虐待がおこなわれていないにもかかわらず、子ども自身が大人の言葉を被虐的に受け止め、強い被害者意識を持つ傾向が現われているという指摘は、ちょっと考えさせられました。

で、どうしたらいいか。第8章では、こんな点が提起されています。

  1. 子どもの話に耳を傾ける。否定するわけでも肯定するわけでもなく、ともかく話を聞くことに徹する。
  2. 子どもの自尊感情・発達という視点をもつ。大人の尺度で批判したり、他の子どもと比較することは、子どもが自信をなくすことにつながる。
  3. まずお母さんが、そしてお父さんも自己を肯定する。まずお母さんが自尊感情を持つことが重要。そのためにも、お父さんがお母さんを肯定的に見ること。夫婦がお互いを肯定的に見るためには、社会でも肯定的に見られることが必要である。
  4. 親の期待を押しつけず、子どもを肯定的に受け止める。まず子どもがやった成果を評価する。すぐにハードルを上げない。比較しない。子どもを信頼しているというメッセージを送る。「もう○歳になったのに」などといった考え方をしない。子どもを追い込まない。子どもの身体的なメッセージに注意する。
  5. 子ども自身が目標、希望を持てるようにする。子どもたちが求めていないことを押しつけない。
  6. 規則正しい生活習慣を身につける。
  7. 大人がみんなで子どもをはぐくむ社会をめざす。

その中には、子育ての問題として当たり前のように言われていることもありますが、最終的に「大人がみんなで子どもをはぐくむ社会をめざす」ことが提起されていて、著者が、決して個々の家庭の子どもの育て方だけを問題にしているわけでないことがよく分かります。また、あまり露骨な書き方はしておられませんが、「30人学級を現実に」、「子どもたちが欲している教育を」と述べて、現在の教育行政のあり方に根本的な疑義も提起しておられます。

いま本気で「大人がみんなで子どもをはぐくむ社会」をめざさないと、本当に日本は将来いったいどうなってしまうのだろうか。子どもの自尊感情という点でも、日本社会の根本的な転換が求められている、とあらためて強く考えさせられました。

【書誌情報】
著者:古荘純一(ふるしょう・じゅんいち、青山学院大学教育人間科学部教授)/書名:日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか――児童精神科医の現場報告/出版社:光文社(光文社新書404)/発行:2009年5月/定価:本体800円+税/ISBN978-4-334-03506-8

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