マルクス自身の手によるかどうかはともかく、分かりやすい『資本論入門』

大谷禎之介訳『マルクス自身の手による資本論入門』(大月書店)

大谷禎之介氏の翻訳で、ヨハン・モスト著『資本と労働』(第2版)の新訳が出ました。同書を大谷氏は196年に岩波書店から翻訳・出版されていますが、今回はその再刊ではなく、新しい翻訳、編集による新訳となっています。

本書は、ヨハン・モストという人が執筆した、『資本論』第1部のダイジェスト本『資本と労働』(第1版、1874年刊)に、マルクスが手を入れた改訂第2版(1876年)の翻訳です。「マルクス自身の手による資本論入門」というのは、大谷禎之介氏がつけたタイトルで、マルクス自身は、改訂第2版の出版にあたって、自分の名前を一切出さないように求めていました。

しかし、読んでみると、確かになかなかよくできた「資本論入門」になっていると思いました。

マルクス自身がここだけは絶対に正確に理解してほしいというところを補筆したり、書き改めたりしているだけでなく、さらに、そのマルクスの文章だけでは足りないと思ったところには大谷氏が補足をするということまでしていますが、ともかく「資本論入門」としてよくできていると思いました。

同時に、本書には工夫がされていて、モストの元の文章をマルクスが改訂した部分が一目で分かるように薄緑色のアミカケがされており、さらに、モストが『資本論』の文章をほとんどそのまま引用している部分は、ゴチック体で印刷されていて、モストが自分で書いた文章と区別できるようになっています。

その結果、ここはマルクス自身が『資本論』の中味を要約・解説しているんだと確認しながら読むことができるうえ、『資本論』をほとんどそのまま引用した部分であっても、さらにマルクスが手を入れている箇所もあって、そこからは、マルクスが『資本論』での表現をどういう意味で使っていたかを知ることも出来ます。

ただし、最初にも書いたように、マルクス自身は、改訂第2版の出版にあたって、自分の名前を出さないように求めました。また、いくつかの部分では、モストの元の文章を大きく書き替えている一方で、全体の章立てはモストの立てたもののままだし、大幅な書き換えをした以外のところでは、モストの元の文章に若干手を入れて、表現を改善しているだけです。

ですから、はたしてこれを「マルクス自身の手による資本論入門」と呼んでいいのかどうかは、判断が分かれると思います。

しかし(繰り返しになりますが)、それでも、全体を通して読んでみると、『資本論』の入門書としてよくできていると思います。「商品と貨幣」では、『資本論』第1章の価値形態論と第2章の交換過程論をうまい具合にブレンドして、こむつかしい議論はちょっと棚上げして、分かりやすく説明されています。

また、『資本論』全体を均一に要約するのではなくて、搾取の仕組みにかかわるところが詳しく紹介されているのも、なるほど労働者向けの解説本だなあと納得がいきます。搾取の仕組みといっても、剰余価値生産の説明だけでなく、労働日とか大工業とか労賃、相対的過剰人口などなど。だから、『資本論』の核心的な内容をつかみたいと思っている人には、どこをつかめばいいか、参考になると思います。(もちろん、基本の組み立てはモストによるものなので、マルクスがここだけを大事なところだと考えていたと理解したら不正確になりますが)

本書の特徴を、あと1つ。大谷氏は、本書を「です、ます」調で翻訳されています。脚注なども、全部「です、ます」になっていて、これが、不思議とソフトタッチで、読みやすいのです。(^^;)

【誤植】
37ページ5行目 《誤》労働力の生産力が… → 《正》労働の生産力が…

【書籍情報】
書名:マルクス自身の手による資本論入門/原著者:ヨハン・モスト/加筆・改訂:カール・マルクス/訳:大谷禎之介/出版社:大月書店/刊行年:2009年10月/定価:本体2,200円+税/ISBN978-4-272-11114-5

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