日中歴史共同研究 北岡伸一座長の奇妙なコメント

日中歴史共同研究について、日本側座長の北岡伸一氏の談話が「読売新聞」に載っていた。

それによれば、日本の侵略戦争や南京虐殺事件について日本側が認めたとする中国側の言い分にたいして、北岡氏が次のように反論している。

 中国側は今回の研究で、日本が中国を侵略したことや南京虐殺を認めたことが成果だと言っているが、議論した結果そうなったのではなく、そもそも日本では多くの歴史家や政府も侵略と南京虐殺を認めている。

しかし、もし日本側が最初から日本の侵略や南京虐殺を認めていたのであれば、日中歴史共同研究ということ自体が提起されなかったのでは? そもそも、日中歴史共同研究は、小泉元首相が靖国神社参拝を強行し、さらに日本の侵略を否定する安倍晋三氏が首相になる、という事態の中で、日本側が提起して始まったもののはず。それをいまさら「日本の侵略や南京虐殺は日本は元々否定していなかった」などと言うのは、あまりに不誠実ではないだろうか。

ということで、北岡氏の談話はインターネットに載ってないので、貼り付けておく。

日中戦争 計画的な侵略でない

[読売新聞 2010年2月1日付]

日本側座長・北岡伸一氏(東大教授)

 日中両国で歴史を政治的い利用する動きがあったので、政治は現在と未来の課題に取り組み、歴史は学者で議論しようということになった。共通の歴史認識を持つことはても無理だから、論文は「パラレルヒストリー」という形で、日本と中国から見た日中関係のあり方を双方の立場から書いていった。
 議論しても残った意見の違いは「討議要旨」として発表することで一度は合意したが、中国側が「国民に無用の誤解が広がり、日中関係に影響がある」と言い出したので論文だけを公表することになった。
 その後、中国側は論文もすべて発表しないでほしいと言ってきたが、日本側が拒絶し、長い交渉の結果、戦後の部分以外は公表することで一致した。いろいろあったが、結果を発表できたことは大きな意義だ。
 中国側は今回の研究で、日本が中国を侵略したことや南京虐殺を認めたことが成果だと言っているが、議論した結果そうなったのではなく、そもそも日本では多くの歴史家や政府も侵略と南京虐殺を認めている
 日中戦争については、中国側は侵略と断定して、だんだんと細部に入っていったが、我々は個々の事実を見ていって、侵略性を判断するというアプローチの違いがあった。中国側は日中戦争は全体として計画的な侵略だったと主張したが、戦争の拡大を止めようと努力した人もいるから、我々はその意見を取らない。
 戦後の部分は、「日本側の表現で問題があれば言ってほしい。学問的な信条に反しない程度で考える」と中国側に配慮した。しかし、例えば、1990年代に日中関係の悪化を取り上げると、愛国心教育など現政権と関係することを書かざるをえない。彼らはそういうテーマに触れたくなかったのだろう。(談)

北岡氏はまた、「共通の歴史認識を持つことはても無理」として、「日本と中国から見た日中関係のあり方を双方の立場から書いていった」と言っているが、これも、そもそも日中両政府が歴史共同研究をおこなうことで合意した精神に違背しているのではないか。

日中歴史共同研究をおこなうことになったときの麻生前首相のコメントはこれ↓。

外務省: 日中歴史共同研究について

ここでは、「共同研究を通じて、歴史に対する客観的認識を深めることによって相互理解の増進を図る」と明記されている。そういうふうに言って共同研究を始めながら、実際の共同研究では「共通の歴史認識を持つことはても無理」という態度をとったとしたら、そもそも共同研究で合意した日本政府の態度の不誠実さが問われても仕方ないのではないだろうか。

北岡氏のコメントに比べると、「毎日新聞」に載った加藤陽子氏(東大教授)のコメントは、大部な報告書の中身にも触れながら、見るべきところをきっちり押さえたコメントだといえる。

交互に執筆 読み応え

[毎日新聞 2010年2月1日付]

東大大学院教授(日本近現代史) 加藤陽子氏

 日本側から提起した研究だけあって、特定テーマではなく、時間軸に沿った叙述方式が採られている点をまずは評価したい。
 アヘン戦争から太平洋戦争終結までの100年余を2つの時期に分け、後半部分を満州事変、廬溝橋事件、日米開戦の3つの画期から描いた今回の枠組みは、革命史観をとってきた従来の中国のスタンスとは異なるものだった。それが可能だったのは、臧運祜(北京大)など若手エース級を中国側が多数起用して臨んだゆえだろう。
 日中が交互に執筆する内容も読み応えがあった。日清修好条規について日本側が古典的な解釈を記せば、中国側は台湾の研究成果をも含めた新解釈で補完する。義和団事件時の日本軍の略奪について中国側が記せば、日本側は日本兵が総理衛門史料を守った事例で補完する。史料をベースとした学問的掛け合いの呼吸がよい。
 注文もある。日中関係について経済史的な把握が弱いのではないか。グラフが1つもないのはいただけない。さらに、400字詰め換算で1,000枚近い分量は、国民感情の疎遠への処方せんというより、その前段階の環境整備のためというべきか。そのような意味でも、日中の認識のギャップが一目でわかる討議要旨の公開が望まれる。

Similar Articles:

Leave a Comment

NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">