“法人税減税は究極のバラマキだ”

『日経ヴェリタス』6月27日号に、京都大学の中野剛志氏が、「法人税減税は究極のバラマキ」という論評記事を書かれています。

中野氏は、法人税減税はデフレ不況下では「むしろ有害」「法人部門の貯蓄を殖やすだけで、経済全体の需要を縮小させる」と厳しく批判しています。

中野氏の指摘は多岐にわたっています。主な点だけでも、以下の通り。

  • 国際競争力への影響は、法人税だけでなく、社会保険料を含めた「公的負担」で比べる必要がある。
  • 「公的負担」で比べると、日本企業の負担は欧米より重いとは言えない。
  • 「公的負担」の軽さと国際競争力とが一致するとは言えない。
  • グローバル経済のもとでは、企業の国際競争力の強さと一国の豊かさ、経済力とは一致しない(つまり、企業の国際競争力を強化したからと言って、国の経済は豊かにならない、ということ)。
  • 経済全体を引き上げるには、輸出(外需)より、GDPの8割以上を占める内需を重視した方がよい。
  • 法人税減税は、この内需拡大に逆行する。
  • 企業は「カネ余り」状態にあって、法人税減税をやっても、企業の「貯蓄」を増やすだけで、国内投資を促進しない。
  • 中長期的にみて、国際競争力を強化することは大事だが、そのためには法人税減税より、本格的な研究開発促進をおこなうべきだ。
  • 法人税減税による国際競争力強化の効果は、その結果、輸出が拡大して、為替レートが円高に動けばすぐに打ち消されてしまう。

等々、一つ一つごもっともな指摘です。結論として、氏は、「法人税減税による国際競争力強化」論は「ほとんど系統的に間違っている」と指摘されていますが、ホントにその通りです。

法人税減税は究極のバラマキ

[日経ヴェリタス 2010年6月27日号]

中野剛志(京都大学助教)

 グローバル化する世界で経済成長を実現するには、割高な法人税を引き下げて、国際競争力を強化すべきだという主張がある。この議論は本当に正しいのだろうか。
 日本の法人税の実効税率は、米国と同程度だが、英独仏や中韓よりは高い。ただ国際競争力への影響は、法人税に社会保険料を加味した「公的負担」でみるべきだ。財務省の資料によれば、公的負担は自動車、電機、情報サービスいずれの産業でも日本より独仏の方が重い。英米の自動車、電機産業の公的負担は日本より軽いが、国際競争力は弱い。米国の情報サービス業は競争力は強いが、その公的負担は日本より重い。また、税務会計学の権威である富岡幸雄氏によれば、法人税は課税ベースの侵食化(徴税漏れ)が著しく、特に大企業の実際の負担率は法定税率よりはるかに低い。
 つまり、日本企業の公的負担は欧米より重いとは言えず、公的負担の軽さと競争力が一致しているとも言えない。国際競争力は人件費、労働力の質、インフラ、為替レートなどの要員から総合的に決まる。法人税はその要因の一つにすぎない。
 仮に、法人税減税が国際競争力を強めたとしても、不況からの脱出につながるのかは、極めて怪しい。経済のグローバル化によって、企業の国際競争力の強さと一国の豊かさが一致しなくなってきたからだ。

   ——-

 2000年代、先進各国で労働分配率が低下した。ドイツと日本では、その傾向が特に顕著だ。先進国の輸出企業は新興国の安価な労働力と競争しなければならない。リストラや実質賃金の抑制を徹底せざるを得ず、雇用者報酬は上がらなくなる。実際、02〜06年の日本経済は輸出主導で景気が回復したが、雇用者報酬は上がらず、デフレを脱却できなかった。国際競争力を強化しても国民は豊かにならないのだ。だが、デフレは物価を加味した実質為替レートを押し下げ、国際競争力を強化しさえする。グローバル化した世界では、企業の競争力と国の経済力とは一致しない。
 しかも、世界的大不況に陥り、国際競争力によるデフレ圧力はより高まっている。アジアの需要に期待する向きもあるが、欧米の不況で、世界中の企業がアジア市場を目指し殺到する中で、日本にどれだけ取り分があるのだろうか。そもそも日本の輸出は国内総生産(GDP)の2割にも満たない。輸出の拡大で経済全体を引っ張ろうとするより、8割以上を占める内需の拡大を重視した方が合理的だ。
 法人税減税はその内需を逆に縮小させる公算が大きい。なぜならいまの日本経済は、需要不足でマネーが投資に向かわない貯蓄超過(カネ余り)だからだ。しかもその過剰な貯蓄は、もっぱら法人部門にある。法人部門にカネはあっても投資先がないというのが、デフレ不況の問題の本質だ。需要のない中での法人税減税は、この法人部門の貯蓄を増やすだけで国内投資を促進しない。むしろ、減税分だけ政府支出(公需)は減らざるを得ないから、経済全体の需要はより縮小する。

   ——-

 政策効果のある使途に限定せず、予算を一律に配分する政策を「バラマキ」という。例えば、定額給付金や子ども手当は、消費ではなく貯蓄に回るだけで効果がないバラマキと批判されてきた。それなら法人税減税こそ究極のバラマキだ。
 資金需要のない中での減税は法人部門の貯蓄をさらに過剰にするだけで需要を創出しない。貯蓄率が低下した家計部門へのバラマキよりさらにたちが悪い。同じ予算なら、貯蓄を増やすだけの法人税減税より、需要を作る公共投資の方がはるかに効果的だ。もし税制を使うなら投資減税を選択すべきだろう。法人税減税はデフレ不況下では効果に極めて乏しく、有害ですらある。
 では、中長期的な経済成長の観点から見たらどうだろうか。中長期的にみて、国際競争力を強化すること自体は重要だが、問題はその手段だ。競争力の強化による輸出の拡大は、変動相場制の下では円を強くする。円高は法人税減税がもたらした一時的な競争力強化の効果をあっさり相殺するだろう。中長期的に競争力を強化していくには、安易な公的負担の軽減でなく、研究開発の促進など、持続的な効果のある本質的な対策が必要だ。
 法人税減税に意義があるとすれば、それは企業の競争力ではなく、自己資本の強化にある。特に自己資本比率の低い中小企業の体質を強化し、日本経済全体を安定的で強じんなものにするだろう。ただし、デフレ下での法人税減税は望ましくないので、デフレ脱却後の中長期的な課題とすべきだ。
 結局、「競争力強化による経済成長のための法人税減税」という政策論は、さまざまな角度から検証すると、ほとんど系統的に間違っていると言わざるを得ない。

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  1. わたしも見た。まったくその通りだと思う。

  2. 座標軸 - trackback on 2010/06/30 at 23:04:37

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