法人税率引き下げは景気回復に効果なし

日本経団連が、現在40%の法人税率を30%に引き下げるよう要求。

「法人税30%に」経団連が税制改正提言:読売新聞

財界・大企業は、口を開けば「日本の法人税は高い」といっているが、トヨタやキヤノンのような大企業が実際に払っている法人税の負担率は30%程度である(「大企業は40%の法人税を払っているわけではない」)。これをさらに10%引き下げよというのだから、身勝手も甚だしい。

ところで、富士通総研の米山秀隆・上席主任研究員は、「本当に引き下げに見合う効果が発揮されるのかについて、より冷静な議論が必要と思われる」と述べて、法人税率の引き下げをしないといまにも日本企業が海外に出て行ってしまうかのような議論が横行していることに警鐘を鳴らしておられる。

法人実効税率引き下げの意味はどこにあるか : 富士通総研

米山氏は、まず「企業の立地選択に影響を与える要因のうち、法人課税の負担は主要な要因ではない」事実をあげ、「日本企業が海外移転を考える際の主たる要因が、国内の法人課税負担の重さとは考えられない」と指摘されている。

また、法人税率を引き下げれば「設備投資の増加につながる」という議論にたいしても、「日本企業は現状では全体として、企業の貯蓄が投資を上回る貯蓄超過の状態が続いており、投資のためのキャッシュフローが不足している状態ではない」ので、法人税率を引き下げても「設備投資を増やす要因になるとは考えにくい」と指摘されている。

さらに、「日本における法人所得課税と社会保険料を含めた法人の負担」は「社会保障の手厚い一部欧米諸国との比較ではなお低い」事実を指摘して、そもそも日本は法人税負担が重いという主張そのものに疑問を提起されている。

米山氏は、ほかに、法人税率を引き下げる代わりに、研究開発減税などを見直して課税ベースを引き上げるという議論について、「設備投資を多く行う製造業については実質的に増税となり、税率引き下げの意味がなくなってしまいかねない」と疑問を呈しておられる。さらに、内需を主たる市場とする企業の場合には単純に法人税率が高いから海外へ移転するわけにいかない「内需型企業のために実効税率引き下げを行うという議論は、全く盛り上がっていない」とも指摘されている。つまり、法人減税というのは、自動車産業や家電メーカーのように簡単に海外移転のできる一部大企業のための議論ではないのか、というわけだ。

米山氏の議論は、「企業の段階で課税する度合いを下げ、付加価値が消費者に分配された段階で課税する度合いを上げていく方が合理的」「消費者に対する課税は、所得段階か消費段階のいずれかということになるが、この点については、今後は消費段階での課税がメインになっていく」という立場のもの。したがって、法人税率の引き下げについて懐疑的なのであって、明確に否定されているわけではない。しかし、そんな立場からいっても、法人税率引き下げ論には説得力がない、ということは明らかだろう。

米山氏が論文中で取り上げておられる東京都のアンケート調査はこちら↓。

都税制調査会中間報告(2009.11.17) 参考資料3(PDF:140KB)

これを見ると、生産拠点を海外に移した企業332のうち、「法人所得課税負担の軽減」をあげているのは9件のみ。また、「法人税率が30%になった場合に日本に戻ってくるか?」の質問に、「戻る」と答えたのは22.6%のみで、4分の3以上が「戻らない」と答えているのだ。要するに、「法人税を引き下げないと企業が外へ出て行ってしまう」という言説は、企業自身が否定している、ということだ。

「法人税30%に」経団連が税制改正提言

[2010年9月4日14時34分 読売新聞]

 日本経団連がまとめる2011年度税制改正に対する提言が4日、明らかになった。
 産業界の国際競争力を高めるため、法人税率を5%以上引き下げるよう求めたほか、政府が検討している地球温暖化対策税(環境税)についても、企業負担が重く技術開発への投資が難しくなるとして「安易な導入には反対」と明記した。14日の理事会で正式決定する見通しだ。
 提言では、法人税の引き下げについて、「日本の実効税率は約40%と世界最高水準で、外資系企業は日本から撤退し、日本企業も本社機能を海外に移さざるを得なくなっている」とし、「早期に30%まで下げるべきだ」と指摘した。
 二酸化炭素の排出量削減に向けた環境税について「他国への生産移転を助長し、国内産業の空洞化につながる」とし、「新税導入は行うべきではない」と断じた。環境税を巡っては、石油や石炭などのすべての化石燃料に課税する新税導入を主張する環境省と、現行の石油石炭税の税率引き上げを主張する経済産業省とで意見が異なっている。
 また、税率の引き上げを求めてきた消費税については、社会保障費用の増加分を賄うため、「例えば毎年2%ずつ、少なくとも10%まで早期に引き上げるべきだ。20年代半ばまでに欧州並みの10%台後半まで上げざるを得ない」と強調した。

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