若い男女の収入格差はなくなった、というが…

30歳未満の若年勤労世帯の可処分所得(月額)(「日本経済新聞」2010年10月14日)

「日本経済新聞」の本日1面トップのニュース。総務省の調査で、30歳未満の単身者世帯の可処分所得で、女性の平均額が男性の平均額を上回ったという。「日経」は、手回しよく「日本の男女の賃金格差も転換点を迎えつつある」とコメントしているが、それはいささか気が早すぎるというものだ。

男女逆転の背景に、女性の可処分所得が伸び続けているという重要な趨勢があることはもちろんだ。しかし、昨年逆転した一番の理由が男性の可処分所得の減少にあることは、グラフを一見すれば明らか。5年ごとの調査なので、この5年間の若年男性の賃金水準がいかに大きく下落したか、ということの方が問題ではないだろうか。

若い女性の収入、男性抜く 介護分野などで賃金上向き:日本経済新聞

正規雇用を非正規雇用に切り替え、さらに大量の「派遣切り」――これらは男性だけでなく女性も襲ったが、全体としてみれば女性の職場進出は引き続き進んでいるのだから、可処分所得の男女格差が縮小していくのは当然だといえる。若年男性の収入も伸びるが、女性の収入も伸びて、男女逆転したというのなら、まことに喜ぶべきことだったのだが、男性の収入が落ち込んだ結果としての男女逆転では、手離しで喜んで入られない。

さらに、同じ「日経」3面のカコミ記事にあるように、単身世帯に限ってみても、男女可処分所得は20歳代で逆転しただけで、他の世代では依然として格差は大きい。また、結婚して出産・育児を経て仕事に復帰した女性の格差がどうなっているかをみなければ、「日経」のいうように「男女の賃金格差も転換点を迎えつつある」とはとても言えないはずである。

若い女性の収入、男性抜く 介護分野などで賃金上向き

[日本経済新聞 2010/10/14 2:02]

09年調査 製造業と明暗、産業構造の変化映す

 単身世帯を対象にした総務省の2009年の調査によると、30歳未満の女性の可処分所得は月21万8100円と男性を2600円上回り、初めて逆転した。男性比率の高い製造業で雇用や賃金に調整圧力がかかる一方、女性が多く働く医療・介護などの分野は就業機会も給与水準も上向きという産業構造の変化が背景にある。諸外国に比べ大きいとされてきた日本の男女の賃金格差も転換点を迎えつつある。
 総務省がまとめた09年の全国消費実態調査によると、勤労者世帯の収入から税金などを支払った後の手取り収入である可処分所得は、30歳未満の単身世帯の女性が21万8156円となった。この調査は5年ごとに実施しており、前回の04年に比べて11.4%増加した。同じ単身世帯の若年男性は21万5515円で、04年と比べ7.0%減少。調査を開始した1969年以降、初めて男女の可処分所得が逆転した。
 背景にあるのは産業構造の変化だ。円高や中国をはじめとする新興国の経済成長に伴い、製造業では生産拠点などの海外移転が加速。就業者数は09年までの5年間で77万人減少した。
 仕事を持つ男性の20%超は製造業で働いており、女性の10%と比べて比率が高い。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「ボーナスの削減や雇用形態の非正規化の影響を製造業で働く男性が大きく受けた」と分析する。男性の雇用者に占める非正規労働者の比率は07年時点で3割を超えた。女性は4割以上を占めるが、増加率は男性の方が大きくなっている。
 リーマン・ショックで製造業が打撃を受ける一方、女性の比率が高い医療・介護などは高齢化の進展で労働力需要が高まり、医療・福祉分野は09年までの5年間で就業者数が90万人増加した。完全失業率もこのところ女性が男性を下回っている。
 税金などを支払う前の名目給与で見ても、民間企業を対象とした国税庁の調査で20代後半の男女の年間の平均給与の差は09年に66万円となり、04年と比べて17万円縮まった。厚生労働省の調べでは、大卒の初任給の男女差もこの5年間で縮小している。
 女性は30歳以上になると結婚や出産などに伴って仕事を辞めて収入が大きく落ち込むケースも多い。収入水準が高まることで女性が働き続ける意欲も高まれば、少子高齢化で減少する労働力人口を補い、世帯全体の消費を下支えする可能性もある。慶応大の樋口美雄教授は「結婚後も女性が仕事を続けられるような環境整備を企業や政府は進める必要がある」と指摘している。

ところで、この記事、実は「日経」だけが取り上げていて、ほかの新聞には出ていない。なんでかなぁと思ったら、記事のもとになった総務省の調査というのが、9月30日に発表された「2009年全国消費実態調査 単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果の概要」という、2週間も前のソースだった。

2009年全国消費実態調査 単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果の概要:総務省統計局

しかも、この資料を見ると、平均実収入では若年男性253,952円、女性が251,290円で、男女格差が縮まったとはいえ逆転はしていない。そのことには一言も触れずに、わざわざ男女逆転したところだけを引っ張り出してトップ記事にしているのだ。2週間前の資料でもていねいに掘り起こすのはけっこうなことだが、やはりある種の作為を感じざるを得ない。

2009年全国消費実態調査 単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果←PDFファイルが開きます(1.7MB)

ところで、実収入ではわずか2,700円程度とはいえ男性の方が多いにもかかわらず、可処分所得では女性の方が2,600円程度多いということは、男性の方が女性よりも5,000円程度「非消費支出」(所得税、住民税などの直接税、社会保険料など)が大きいということである。なぜ、ほとんど実収入が同じなのに「非消費支出」が5,000円も違うのか? 可処分所得の男女逆転を論じるのであれば、この「非消費支出」の格差がなんなのかを明らかにしておく必要があったのではないだろうか。

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